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自由集会報告
・音声データによる鳥類のモニタリング=ADAM (石田 健)
・実践 “R” 統計学:Dos & Don’ts と一般化線形混合モデル (森本 元) ・高山の鳥は面白い・・かも??日本における高山鳥研究の可能性と展望? (白木彩子) ・鳥類モニタリングの可能性を探る (藤田 剛) ・カワウを通して野生生物と人との共存を考える (その10) ?? あたらしい風♪ (高木憲太郎) ・日本における海鳥の現状と課題Ⅴ ?? 特に西日本での現状と対策 (中村 豊) 2007年度大会実行委員会から
訃報
中村登流氏 (享年 76歳)
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音声データによる鳥類のモニタリング=ADAM世話人:石田 健 (東京大学)・植田睦之 (NPOバードリサーチ)
文:石田 健 この集会は、鳥類のモニタリングに音声情報を活用していく可能性や考え方と、適切な技術の共有について、情報を交換し、提案を行っていくきっかけをつくることを目的に、企画されている。2004、2005年大会に次いで、3回目の開催となった。 鳥類を記録する目的はさまざまであるが、生息密度が低く、あるいは人が観察する上で不利な条件があって確認が困難な種の存在を、録音のための手軽な装置を利用することで補助できる可能性がある。いくつかの種群では、音声だけで最終確認とすることが可能で、鳥学会編纂の日本産鳥類目録に掲載する記録においても、音声のみの記録が一定条件のもとに採用されている。また、客観的で、再現性や再分析が直接可能な記録を残せる利点もある。環境指標としての鳥類群集の記録の一部分とすることが可能であるともいえる。録音機器と分析技術が進歩して、手軽に大量の音声情報を獲得することが容易になってきた。一方で、大量に取得した音声試料を分析することは、労力と時間(コスト)とのかねあいが難しい問題として生じる。得られる利得に見合った最小限のコストで分析することが、不可欠の課題である。今回は、その部分の技術革新の可能性と現状について、大会の開催地熊本大学と NPO バードリサーチが共同で取り組んでいる夜行性鳥類の研究プロジェクトについて、以下の3つの講演が行われた。 植田睦之氏(NPOバードリサーチ)「夜行性鳥類を楽にモニタリングするには?」、牧野洋平氏(熊本大学)「長時間音声からの野鳥の鳴き声の自動抜出方法の検討」、高橋幸司氏(熊本大学)「音声による野鳥の種識別における情報圧縮が識別結果に及ぼす影響の検討」。講演に関連する質疑応答の後、録音機器についての新しい情報の交換、録音と関連する書籍の紹介などが行われた。昼間の講演終了後の遅い時間の開催にもかかわらず、50人余りの参加者があった。姿のみえづらい夜間のモニタリングが2回続けて話題になるのは、ADAM の必然かもしれない。 植田さんは、モニタリングサイト1000調査など環境省等によって実施されている鳥類モニタリングの現状を概観した上、夜間の鳥類について情報を補足する必要があることをまず紹介された。録音データが直接観察と比べてどのていど有効なのかを、Hi-MD 録音機とウィンドジャマーを装着したマイクによって長時間の録音をした記録を後から人の耳によって聴き取った結果と、録音と同時に現地において18時から4時まで二人の調査員が交代して夜通し記録した結果とによって検証した。その結果、ジュウイチ、ホトトギス、コノハズク、ヨタカ、トラツグミなどの代表的な夜鳴く鳥の鳴く頻度は、日没後と明け方に高く、夜中には低くなるといった傾向があった。フクロウの場合には、録音よりも人の耳で直接確認した率が高かったほかには、大部分の種で録音により記録率は人が直接確認した率とほぼ同じだった。ただし、夜中過ぎから明け方にかけては録音のほうが記録率が高い時間帯もあり、人が直接記録する場合には、交代しても集中力が低下する場合が多いことなども示された。記録率には、車の音やカエルの声など、鳥以外の音の有無も影響した。 牧野さんは、現時点の音声分析システムの実用的上の制約によって、長時間の録音を5分に区切って抽出していること、分析の第1段階として録音全体の中から鳥の鳴き声の有無を判断するには、毎秒300サンプルでよいと決定したこと、などを紹介された。その上で、録音の一部を切り出し、その大部分を雑音がしめ、大部分の平均的な音声情報からはずれた(分散が大きいという基準と、自己相関が大きいという基準の両方を試した)音、および有意に大きな音を鳥の声と判断するような手順によって、録音の中から鳥の声だけをもっとも効率よく取り出す方法を見つけるべく実施した試行錯誤の結果、8割を超える識別率を達成できた経過をかいつまんで説明してくださった。今後は、雑音の識別力や計算速度の向上に取り組むとのことだった。 高橋さんは、音声によるモニタリングにおいては宿命である大量の録音データを得るための圧縮を最適に行うための基礎研究について、ニューラルネットワークで識別をし、非可逆圧縮(今回は MP3 と ATRAC3)をかけた場合とかけなかった場合の録音からの鳥の音声の識別力の差を調べた結果を紹介された。まず、両方の圧縮方式のしくみや特徴(人の可聴域のみの情報や、一定以上の音圧の情報を残すなど)を、公開された情報の範囲で理解し、夜行性鳥類では低音で鳴く種が多いことを考慮して低音域の情報をより細かく確認するといった手順をさまざまに加えたニューラルネットワークの利用結果から、現在の技術による圧縮録音から鳥の種を識別する上で、不可避の難点はないとのことであった。波動計算の数式やニューラルネットワークになじみのない世話人には、お二人の講演の詳細の部分は理解するのにつらい部分が多かったものの、ゆっくりと説明していただき、要点は上記のようなことと理解され、また実用的なシステムが普及することに期待が持たれた(この原稿は、三田先生にもチェックしていただいた)。三田長久さんから、より多様な鳥の声に対して、より識別力の高い計算手順についてさらに検討を進めていることも紹介された。 講演についての質問は、研究に用いた機材の性能や実用性についての具体的な内容や、実際にこれらの技術が使えるのかというものが多かった。ある意味で、参加者の期待を表していたのだろう。 講演と質疑応答の後、会場からいくつかの話題提供をしていただいた。紹介されたプロジェクトに関連した夜に鳴く鳥を手始めに、「教師データ」が準備されつつあることが三田さんからまず紹介された。高品質のデータといろいろな条件の調査データの比較結果についての情報も欲しいとの声があった。黒田さんは、オリンパスの IC レコーダ、DS-40/50/60 の紹介してくださった。鳥の種の識別に限れば、鳥類のモニタリングに適したより使い勝手のよい機器が出て来ている。今後さらに、実用例について情報交換をしたい。鳥は移動が早い動物なので、ドップラー効果は分析上の障害にならないかとの質問があり、知見はないが、今のところ障害になった事例は知られていないことが紹介された。 今回は、現場で環境モニタリング調査に従事されている方から、具体的な作業への応用可能性についての質問が多く出された。近い将来、従来の直接観察によるセンサス方法(定点、ライン等)と同様に、録音による鳥類のモニタリングも標準化されていく可能性が出て来ていると思われた。結論を急ぐことなく、汎用性と継続性の高い研究手法として定着していくよう、今後もこの集会を続けて活用されていくことが期待される。 関連する URL 実践 “R” 統計学:Dos & Don’ts と一般化線形混合モデル企画:田中啓太 (学術振興会 PD・理研 BSI)・森本 元 (立教大院・理)・山口典之 (東京大院・農)
文:森本 元
3年目を迎えた本自由集会では、これまでと趣向を少し変え、より実践的な問題に対処する方法を紹介させていただきました。一昨年の第一回目と昨年の第二回目では、古典的な検定手法に対比させ、近年急速に普及しつつある一般化線形モデル (Generalized Linear Models; GLM)、それにモデル選択という統計的仮説検定とは異なる手法を紹介し、それらの利点としくみの説明に重点をおいていました。今回は、GLM を実際に使用する際に気をつけるべき点を説明した上で、鳥屋がよく遭遇するであろう状況をうまく解決できる手法として、GLM の発展的な手法である一般化線形混合モデル (Generalized Linear Mixed Models; GLMM) の説明と使用方法を紹介しました。 ・線形モテ?ルにおける Dos & Don’ts (森本元・山口典之) (1) のp値については、変数変換によって確率分布の"すそ野"でのフィットが悪くなり、有意ではないものを誤って有意と判断してしまう第1種の過誤を犯す危険性があることを紹介しました。 期待値については、一昨年の本自由集会(第一回目)における斎藤大地さんによるプレゼンテーションの繰り返しとなりますが、変数変換をするとフィットが悪くなる例を再度お話するとともに、今回は新たに、傾きの値のばらつきが変数変換時と GLM では違ってしまうことを示しました。ここでは、GLM の方が真の値をうまく推定できます。 交互作用についても、変数変換をすることにより"存在しない交互作用"を誤って検出してしまう危険性があります。これも、GLM を用いることによって対応可能です。 (2) の分布選びについては、GLM を使い始めた方が必ずといってよいほど突き当たる壁の一つだと思います。各調査者が自分のデータを解析するに当たり、どこから解析すればよいのかについて、分布選びのフローチャートを作成しました。このフローチャートはやや強引な部分もありますので、選択される分布はあくまで目安ですが、自分のデータはどの分布から始めればよいかの手がかりになれば幸いです。 (3) の分母の効果については、統計解析環境である R にて、ポアソン分布を用いた GLM 解析で使える offset オプションの使用方法をご紹介しました。カウントデータを解析する際に多用されるポアソン分布ですが、ここでは暗にそれぞれのカウントデータの分母(箱の大きさ)が一定であるという仮定が含まれています。例えば田圃で鳥の数を数えるときは、各田圃の大きさはどれも同じという仮定があるわけです。しかし、調査者が現実に野外にて観察をする際には、田圃の大きさは同じでないことがほとんどです。この田圃の大きさの違いの影響に対処できる方法が offset です。具体的に offset オプションを使用することで何をしているかというと、offset で指定した変数(ここでは「田圃の大きさ」)の回帰係数を1に固定しています。今回の発表では、この offset が具体的に何をしているのか、どのような仕組みなのか、その効果の大きさがどのように違うのかを詳しく紹介しました。 (4) の縦断データの取り扱いに関する話題は、データのブロックについてです。これは、次に紹介する GLMM への理解を深めていただくことにつながります。調査者が野外でデータを収集する作業である"サンプリング"は、母集団から標本を抽出する行為です。ここでは、通常、ランダムサンプリングが実行され、その結果、データ同士が独立となることが仮定されています。データ点同士の独立性が確保されているからこそ、解析者は検定などの解析を行うことが出来ます。しかし、解析者がこの独立性の問題に気が付かないことがあります。データ同士が独立でなければ、もうそれはデータの独立性を前提とした解析手法の前提条件を満たしておらず、解析に持ち込むことが出来ません。例えば同一個体から複数回サンプリングした場合は、データ点同士は独立ではありません。ここでは疑似反復(pseudo-replication)が発生しており、このデータは各個体が"ブロック"を構成しています。このような独立ではないデータ点同士の関連性を考慮してあげることにより、疑似反復のあるデータも解析できようになります。このように、縦断データをうまく扱いつつ、(GLM のように)様々な誤差分布をあてはめてパラメータ推定を行う GLMM は、とても強力な解析手法です。 ・一般化線形混合モテ?ル(GLMM)概説 (田中啓太) 田中さんによる今回の発表では、疑似的に発生させた反復測定データを用いながら、GLMM の効果と、その仕組みについての説明がなされました。この例では、同一個体から複数回の反復測定を行った疑似反復を含んだデータを解析することを想定しています。同一個体から重複してデータを取得しているため、各データ点は独立ではありません。ここで独立なのは、各個体です。つまり、各個体毎にブロックを形成しています。 この独立ではないデータ同士の関係性を考慮してその影響を考慮すれば、真の値を推定できるだろうという考えが成り立ちます。GLMM はこのような考えに基づいています。 個体差が存在するとき、各個体から得られたデータが描き出す回帰直線は、それぞれ切片が異なっている状態と考えることができます。この個体ごとの切片パラメータは、定数で表さずに、ある確率分布に従っている確率変数と考えることもできます。GLMM では、(個体差のような)ある効果が確率分布(普通は正規分布)に従うものとして扱っています。このように、解析者が興味の対象ではないが影響を考慮しなければならない"個体差"という変数を、確率分布で扱いモデル式に組み込むことによって、個体差の影響を考慮した上で、真の値を推定する線形モデルが一般線形混合モデル(誤差は正規分布)であり、一般化線形混合モデル(様々な誤差分布と取ることができる)です。 GLMM においては、解析者が解析対象として興味をもっている説明変数を固定効果(fixed effects)として扱います。一方、興味はないが影響を考慮しなくてはならない説明変数をランダム効果(random effects)として扱います。今回の例では"個体差"を興味がない説明変数、つまりランダム効果として扱いました。実際の解析では、個体差に限らず、様々な要素をランダム効果として用いることが可能です。また、複数のランダム効果を扱うこともできます。GLMM を実践する際には、解析者が興味を持っている説明変数(固定効果)は何であるのかをはっきりさせるだけでなく、興味がない説明変数(ランダム効果)は何であるのか、それらがどのような構造(階層性など)を持っているのかを認識することが重要となります。 本発表においては、GLM と GLMM の両方を用いて解析を行い、その推定力の違いを示しています。どちらの方法でも推定値は真の値の周りにばらつきます。しかし、その推定力には大きな差があり、GLMM の方が強力に真の値を推定できます。ランダム効果(ここでは個体差)を考慮しない解析である GLM を行った場合では、ときおり真の値から大きくはずれた値を返すことも多く、推定値のばらつきが非常に大きくなりました。一方、GLMM による推定値は、真の値の近くにばらつき、GLM よりも"うまく"真の値を推定出来ることが分かります。 ・R て? GLMM 実践報告 ?ツハ?メ雛への餌の分配を例に? (北村亘 [東京大院・農]) 先の2つの発表とは異なり、本発表は、北村さんの研究紹介および、そのなかでどのように GLMM を用いているのかという話題でした。ツバメは巣内に複数の雛がおり、両親によって育てられます。この巣内の子が、親に対してベギング(餌乞いで鳴く行動)を行います。ここには、ベギング時の音量・餌乞い回数など、親への餌乞いの信号になりうるであろう行動の強さによって、親は運んできた餌を、子の間でどのように配分するのかという行動生態学的な問題が存在します。 この問題を解決するために、解析に GLMM を用いています。ここでは、以下のような形で GLMM を行いました。 本発表資料では、この解析について、具体的な手順を事細かに示しています。解析にはフリーウェアであるソフトウェア・統計言語環境である R を用います。R には GLMM を行える複数のパッケージ・関数が存在しますが、今回は lme4 パッケージに含まれている lmer という関数を用いて解析を行いました。この lmer 関数において、ポアソン分布やランダム効果・説明変数を指定する方法を、実際に解析したときのパソコンの画面のキャプチャ画像を用いて、分かりやすく紹介してあります。 以上、今回の自由集会では、既存の方法の問題点にはじまり、GLM の利点と offset といった実践的な小技をお話しました。さらにその発展版である GLMM の特徴と仕組みを説明し、実際に鳥を材料にした研究での使用方法までをご紹介しました。駆け足ながら、モダンな解析手法の利点を掴んでいただけたたのであれば、主催者・話題提供者一同、幸いです。 本発表当日の資料については、本統計自由集会サイト「鳥屋にやさしい統計のお勉強」から、ダウンロード可能ですので、ご活用いただければと思います。最後になりましたが、ご参加・ご協力くださった皆様に感謝いたします。 高山の鳥は面白い・・かも??日本における高山鳥研究の可能性と展望?呼びかけ人:白木彩子 (東京農大・生物産業)・上田恵介 (立教大・理)
文:白木彩子
高山の鳥の研究と言えば、すぐにライチョウを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。確かに、日本だけでなく世界的にみても、ライチョウは高山鳥としては最も研究されてきている。しかし、高山には独自の生態を持って厳しい環境に適応して生活しているスズメ目鳥類も多数生息する。にもかかわらず、乗鞍岳でのイワヒバリ研究など一部の例外を除いて、日本では高山のスズメ目の鳥をテーマにした研究は少ないし、高山帯や亜高山帯に生息する鳥に関する私たちの知識も乏しい。たとえば、ホシガラスやキクイタダキは、近年まで巣も見つかっていなかった。コガラやヒガラも、同じカラ類のエナガ・ヤマガラ・シジュウカラと比較すると、まったく研究されていない。行動生態学のモデル研究とも言われる Davies のヨーロッパカヤクグリの研究は、ケンブリッジの植物園の個体群で行われたが、同じ属の日本のカヤクグリも、同様にしろ面白い配偶システム・社会関係を持っていると思われる。ヒバリやノゴマ、ビンズイなど、平地と高地に分断または連続した個体群を持って生息している鳥類の個体群特性の比較も、生態学的に重要なテーマである。一方、地球温暖化が議論される中、高所で島的に存続している高山の鳥は絶滅の危機にあるのかもしれない。カラスの高山域への進出はこれらの鳥へ現実の脅威である。高山鳥の研究は、保全生態学の観点からも現代的な意味をもっているのである。このように、高山帯鳥類は多岐にわたる重要な研究テーマを秘めている。 しかし、現実的にはアプローチや登山技術の問題などもあってか、高山の鳥はあまり目を向けられていないのが現状である。あるいは、高山にしばしば行かれる方は多くはないであろうから、高山鳥について見聞きする機会はあまりないかもしれない。この自由集会は、高山鳥研究の魅力についてもっと多くの方々に知っていただき、その発展の可能性について語り合いたいという呼びかけ人の希望のもとに開催された。話題として提供された、高山の鳥の研究に関わる3人による発表の要旨を下記に掲載する。 1. カヤクグリの繁殖行動 (中村雅彦 [上越教育大学・生物]・松崎善幸 [長野県駒ヶ根市立東伊那小学校])
2. 高山ヒバリはどこから来たのか? (上田恵介 [立教大・理・生命理学])
3. 大雪山における高山帯耐性鳥類研究の試み (白木彩子 [東京農業大学・生物産業・生物生産])
4. 高山帯に進出してきたカラス (中村雅彦 [上越教育大学・生物]・小林真知 [埼玉県川越市立川越第一小学校])
なお、今回発表した内容は、山階鳥類学雑誌(2006) 第38巻、47-55頁に掲載されている。 鳥類モニタリングの可能性を探る企画・文:藤田 剛 (東大・農)・植田睦之 (バードリサーチ)・天野一葉 (WWF ジャパン)
生物のモニタリングは、生物や生息地の現状監視、あるいは保全活動などがうまく機能しているかを評価する調査活動で、自然再生や生態系管理にあたって、重要な役割を担うものです。日本でも、環境省のモニタリングサイト1000に象徴されるような新しい取り組みが増えつつありますが、生態系管理などに積極的な貢献をした例は、まだ限られているのが現状です。
学会最終日の午後ということであまり参加人数は多くないと思っていたのですが,予想していたよりもずいぶんと多い75人もの人に参加していただきました。また,コメンテーターの天野達也さん,阪口法明さん,須川 恒さん,福井晶子さんには議論をリードしていただきました。 どうやって楽に調べるか? どうやって精度を高めるか? その結果、調査区画の広さは、(1) 注目する景観要素(ひと続きの森や草地など)と同サイズまでは精度が落ちないが、それより粗くなると極端に精度が悪くなること、(2) 鳥を全域調べられない場合、景観要素の調査範囲も鳥の調査範囲に合わせて小さくするとで精度を維持できることなどが明らかになりました。 どうやって普及するか? カワウを通して野生生物と人との共存を考える (その10) ?? あたらしい風♪企画代表・文:高木憲太郎 (NPO 法人バードリサーチ)
ひとつは DNA による研究です。日本のカワウは減少期にその遺伝的多様性を消失したのかどうか、海外の動向と合わせて話をしていただきました。2つめは,2歳以上のカワウの年齢査定の方法の研究。最後は、餌環境の異なるコロニー間で孵化時期やクラッチサイズなどを比較した研究の話です。 ・カワウの遺伝的多様性 ?日本とヨーロッパのカワウ事情? (石垣麻美子 [北海道大学 大学院環境科学院])
解析したところ対立遺伝子数とヘテロ接合度をもとに評価したところ,遺伝的多様性が極端に低いということはなかったという結果でした。また,1970年代にコロニーが残っていた東京・愛知・大分と、それ以外の地域の間では対立遺伝子数とヘテロ接合度に明確な差は見られなかったそうです。このことから,石垣さんはボトルネック効果の影響の可能性は少ないのではないかと話されました。ただ、大きくはないものの地域差が見られていたので,遺伝的多様性の維持と回復には地域的な偏りがありそうだともまとめていました。 石垣さんの発表では,ヨーロッパに生息する2亜種の個体数変化の経緯や,遺伝的多様性の先行研究の結果についても話をしていただきました。とてもわかりやすくまとめていただいていたので,海外の状況について勉強になりました。 ボトルネック効果の影響は見られなかったという発表でしたが,1970年代の残存コロニーのうち,周辺へのねぐらの分散や個体数の増加の程度が小さかった青森と大分の遺伝的多様性がやや少なかったことは,とても興味深く感じました。これまでの分布の変化や,コロニーの成立年代,繁殖生態,季節的な個体数の変動,撹乱の大きさなんかも加味して考えてみると面白いのではないかと思いました。 また、石垣さんの発表に関連して長谷川 理さんにもカワウの遺伝的構造についてアサインメントテストによる分析を行なったポスター発表の内容を紹介していただきました。こちらも盛り上がったのですが,メインの発表ではなかったので内容の紹介はせずにおきます。 ・カワウの効果的な被害対策のための齢査定法の開発 (熊田那央・藤田剛・樋口広芳 [東京大院・農・生物多様])
年齢の指標としてカワウで利用できそうなものには,DNA の末端のテロメアと呼ばれる部位の長さ,皮膚内のペントシド値,季節的な栄養状態の変化によってできる骨断面の層の数,羽の先端の形状の4つがあるそうです。テロメアは染色体の複製の際に短くなっていくと言われていて,アジサシではテロメア長と年齢の間に負の相関がみられているそうです。また,ペントシドは糖の分解過程で生成される最終産物だそうで,皮膚のコラーゲン中の濃度と年齢の間に正の相関がみられているという研究例を紹介していただきました。 テロメアの短縮については学生時代に分子生物学の授業で聞き,その時に鳥の年齢査定に使えないかと考えたこともあったので,とても興味を持っています。骨の話は以前から聞いていたのですが,ペントシドの話は初めてちゃんと聞いたので,比較的きれいな相関が得られていることに驚きました。熊田さんは個体群動態の把握に役立てることを考えているようでしたが,年齢がわかるようになると繁殖成功や行動の研究でも色々面白いことができるようになってくると思うのでとても期待しています。 ・育雛期の雛への餌がカワウに与える影響 (井上裕紀子 [北大水産科学院・海洋生態学]・藤井英紀・新妻靖章・綿貫豊)
調査地として,沿岸と内陸のそれぞれについて2か所ずつのコロニーを選び,まず,コロニー内での吐き戻し魚の種構成を調べてみました。すると、内陸のコロニーではほとんどが河川の魚であったのに対して,沿岸では汽水や沿岸の魚が多く見られました。また,内陸の魚が周年安定して生息しているのに対して,沿岸の魚では季節的に生息数が変化するものが含まれていました。 そして、カワウの繁殖成功を調査してみると、クラッチサイズやブルードサイズ、ヒナのボディーコンディションには差が見られなかったのですが、内陸のコロニーの方が巣立ち率が低く、それは放棄してしまう巣の割合が高いことによる、ということがわかったという話でした。また,興味深かったのは、沿岸のコロニーでは魚の量が多くなると思われる5月に孵化することが多くその時期に集中しているのに対し、内陸のコロニーでは4月から7月までだらだらと孵化が見られ,はっきりとしたピークがないという結果がクリアに出ていたことです。 1年分の調査結果でしたが、いくつか面白い傾向がみられていると思いました。井上さんはこの結果が生まれた原因として,沿岸と内陸のコロニーでは餌資源量やその質,親鳥の能力に違いがあるからではないかと考察していました。来年はこれらの要因について調査してみるとともに、それぞれのコロニーのカワウの採食場所を調査したいと考えているようでした。餌の資源量の季節的な変化は影響がありそうなので,ぜひ調べてみてほしいと思いました。今後の展開に期待です。 最後に カワウの保護管理について研究者が鳥学会の場で議論するようになって10年。その間に進んだこともあれば,糸口の見えていない問題も残されています。若手の研究者の新しい視点が加わることで,カワウの生態の解明や保護管理が進むことを期待しています。 日本における海鳥の現状と課題Ⅴ ?? 特に西日本での現状と対策企画:中村 豊・藤田泰宏・新妻靖章・綿貫 豊 (日本海鳥グループ)
文:中村 豊
・目的 ・概要 以下に各講演の内容を要約して紹介する(要約文は講演内容を中村がまとめたもので、内容に誤りがあればその文責は中村にあります。) ・講演内容の要約
次に洋上調査によって非繁殖期の分布域を探す調査は、漁師などの情報をもとに宮崎沖の日向灘を、クルーザーを借り上げ調査している。2005年6月枇榔島沖で2羽の幼鳥を連れた親子が確認された。今のところ1例だけなので洋上調査を継続している。 釣人に対する保護啓発活動は、門川町や門川高校生の協力を得て行っている。また、漁師に対するそれは、高校生に協力してもらってアンケート調査による聞取りで、情報収集と意識向上をはかることを計画している。 Ⅰ-2. 鹿児島県甑島列島におけるカンムリウミスズメの生息状況 2007年、沖ノ島の周辺にある岩礁で、カンムリウミスズメ成鳥のものと思われる死体6個体を確認し、そのうち4個体を計測のために回収した。また、2箇所の岩の隙間に本種のものと思われる割れた卵殻を確認した。成鳥の死体を確認したこと、卵殻が見られたことから、本種はこの岩礁で繁殖していると思われ、これは鹿児島県で初めての繁殖記録となる可能性が高い。この岩礁は花晦岩でできており、植物があまり‘生えておらず、大きな岩の割れ目が各所にみられる。この割れ目で営巣していると思われ、今後、繁殖期に詳しい調査をすすめる必要がある。 Ⅰ-3. 長崎県のカンムリウミスズメ 男女群島の繁殖地調査は、1977年以降未実施で、全島の上陸調査や繁殖期の調査も未実施で、繁殖個体数は不明である。なお、繁殖地付近は釣りの上磯ポイントになっており、影響が危惧される。 佐世保と上五島の友住の間を就航するフェリーでの2001?2004年の調査では、11月上旬から6月上旬に生息し、1月、2月に多く、日最大55羽だった。群れは2羽前後が多く、群れ数の季節変化は無い。冬は本土側に多く、春は沖合に多い。 今回の自由集会を契機に、繁殖地の調査を実施したい。 Ⅰ-4. 福岡県のカンムリウミスズメ
福岡県糸島郡志摩町烏帽子島で、野鳥の会福岡支部の調査に1994年、1995年に参加し、カンムリウミスズメ13羽、3羽を放鳥した。小屋島では高い部分の斜面、ヒゲスゲの群落の岩の透き間に営巣するが、ここでは植生は認められず、灯台へのルート脇の石垣の透き間にアマツバメと共用して営巣している。以降地元での調査は実施されておらず、動向が懸念される。 Ⅰ-5. カンムリウミスズメの非繁殖期の生息域と幼鳥の成育域の発見 個体は成鳥羽になる途中の幼鳥から成鳥まで確認され,幼鳥ではさまざまな成長段階の個体が確認された.これまで調査で確認されなかった日はなく,相当数の生息が予測される. 今回の生息確認で特に重要と思われる点は,幼鳥の成育域が確認されたことである.カンムリウミスズメの世界一の繁殖地である宮崎県の枇榔島と共に,幼鳥の成育域それに非繁殖期の成鳥の生息域として,瀬戸内海西部のこの海域は,繁殖地である枇榔島と共に,同種の世界一の生息海域であるといえる。 Ⅰ-6. 福岡県三池島のベニアジサシの現状と課題 その結果、三池島はベニアジサシとコアジサシの集団繁殖地として利用されていて、国内でも重要な地であることが明らかになってきた。本日は、ベニアジサシの繁殖状況について1994年から2007年までの14年間の調査から分かってきたことを簡単に報告する。
標識調査からは、6500 km も離れた繁殖地の三池島と越冬地のオーストラリアの間を行き来していることが明らかになってきた。また、野外で16年間も生息した個体を再捕獲するなど、少しづつその生態が明らかになっている。 そのような中、2006年と2007年の今年は、150羽のヒナが巣立ち、繁殖成功率が安定傾向にあった。それに比べて、南西諸島のベニアジサシはそのほとんどが岩礁での営巣であり、少し大きめの波が発生しただけで洗い流されて壊滅状態となる。その意味に置いても、三池島は絶滅危惧Ⅱ類であるベニアジサシの重要な国内繁殖地といえる。 しかし、人工島である島の老朽化に伴い、地盤沈下やコンクリート亀裂等が繁殖環境の悪化につながるのではないかと危惧される昨今である。
繁殖地ごとの観察者相互の情報の共有や、非繁殖期の観察情報の収集などを目的にネット上でリアルタイムに情報交換ができるような組織を設立したい旨の説明をした。 Ⅲ-2. 航路調査実習報告 Ⅲ-3. P S G 函館大会の進行状況について |
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日本鳥学会2007年度大会のポスター賞大会会長 三田長久
会員の部: 高校生の部: スマートな大会参加者を目指すあなたへ大会実行委員長 関 伸一 熊本大学で行われた2007年度大会は、九州では2回目、熊本では初めての開催でした。9月末の大会期間中は例年にない猛烈な残暑の中でしたが、400人を超す方々にご参加いただき、また大きなトラブルもなく、無事に大会を終えることが出来ました。遠くからも参加してくださった皆さんと、大会会長はじめ実行委員ならびにボランティアの方々のお力によるものです。この場をお借りして感謝いたします。 今回、「実行委員長ブログ」の続編として、鳥学通信にスペースをいただけることになりました。そこで、大会運営に携わってみて気付いた、参加者にお薦めの「マナー」をいくつかご紹介したいと思います。この記事が、スマートな大会参加者を目指す皆さんの、そして、何よりこれから大会を運営してくださる皆さんの一助となれば幸いです。 大会案内はスミズミまで読みましょう 講演要旨には愛情を持って:差し替えはやめましょう もしも、不幸にして、研究者生命にも関わるような大間違いをしでかし「差し替えてもらわないと夜も眠れない」状態に陥った方は、丁寧な手紙と、できれば美味しい差し入れを添えて事務局に郵送してみましょう。熊本大会でも礼儀正しい申し入れは拍手とともに受理されました。 講演タイトルにはなるべく学名を入れないでね 振り込み用紙は一人一枚、金額は正確に 大会受付に持ち込まれる非常識な要望 さて、アットホームな運営が鳥学会大会の良さではあるのですが、学会が発展するにつれて、最近の大会では参加者のマナー改善だけでは補い切れない課題も生じつつあります。大きな大会を運営する上での金銭的リスク負担、代々の大会事務局間の運営ノウハウの継承、大会ウェブサイトの運営方法とウェブ申し込みの導入検討、保育室の設置検討、各種委員会からの要望等で肥大化する大会事務局の業務内容、などです。多くのスタッフ(学会員)を確保できる都市部はさておき、地方開催の小さな実行委員会でこれらの問題は顕在化します。学会をリードする役員の方々、あるいは今後の大会に関わる方々が心にとめ、じっくり検討していただくべき時期に来ている様です。 |
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当学会の名誉会員でした中村登流氏が2007年11月19日に他界されました。享年76歳。 中村登流先生は鳥学会への功績が大きく、鳥学通信では追悼特集を企画しています。 つきましては、中村先生にまつわる思い出・エピソードに関する原稿を広く募集いたします。 (鳥学通信編集長 永田尚志)
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早いもので今年も師走となり、会員の皆様も忙しい年末を迎えていることと存知ます。本号も、9月の熊本大会で開催された自由集会報告第2弾となっています。大会では、ひとつか、ふたつの自由集会にしか参加できないので、各集会の報告を読んで全部の参加した気分に浸れます。大会に参加できなかった皆さんも報告を読んで自由集会に参加したつもりになってください。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集長の永田宛 (mailto: ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。 |
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鳥学通信 No.17 (2007年12月7日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 永田尚志(編集長)・山口典之(副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・時田賢一・百瀬 浩・和田 岳
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