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タイの熱帯林から日本の里山へ北村俊平 (兵庫県立人と自然の博物館・研究員)
さて、わたしがこれまで取り組んできた研究テーマは、タイの熱帯林における果実と散布者の相互作用、特に大型の果実食鳥類であるサイチョウ類による種子散布の研究です。日本・タイの共同研究者らとともにタイの東北部に位置するカオヤイ国立公園の熱帯林を訪れたのは、京都大学生態学研究センターの大学院課程に進学して間もない 1998 年 6 月のことでした。2003 年に学位を取得後は、タイの共同研究者であるピライ・プーンスワット博士が所属するタイ国マヒドン大学、2006 年からは、立教大学の動物生態学研究室(鳥学通信 22 号を参照)に異動し、研究を続けてきました。調査地であるタイの熱帯林で過ごした日数は、実に66か月に及びます。さすがに現在の職場では、これまでの研究スタイルを維持するのは、ちょっと無理そうです。まずは職場での仕事に慣れながら、ポスドク以降のデータの公表をスムーズに進めていくことが課題です。また、「ひとはく」には、多くの鳥類標本(約 17,000 点)が収蔵されています。国内では、山階鳥類研究所につぐ標本点数で、これらの標本を活用した研究に取り組みたいと考えています。フィリピン産のサイチョウ類の標本と出会うとは思いもよりませんでした。また、兵庫県の里山をターゲットとした動物による種子散布に関連した研究を進めたいと考えています。 受付日 2009.04.25 |
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独立行政法人 森林総合研究所 鳥獣生態研究室東條一史
森林総合研究所はその名のとおり、森林の仕組み、森林管理、木材の有効利用、林木の優良品種の開発など、森林に関する諸々の研究を行っています。その歴史は古く、農務省山林局の目黒試験苗園が 1905 年(明治 38 年)に同局の林業試験場と改称された日を創立日としており、2005 年には創立 100 年を迎えました。研究学園都市構想により、1978 年に目黒から茨城県のつくば学園都市へ移転し、1988 年秋には林業試験場から森林総合研究所へ名称を改変しました。行政改革の一環で、2001 年には国立研究所から独立行政法人になっています。 森林総合研究所にはおよそ 500 名の研究者が働いています。管理職を含めた常勤の鳥獣研究者は現在全国に 26 名ほどおり、つくばの本所の他に、北海道(札幌)、東北(盛岡)、関西(京都)、四国(高知)、九州(熊本)の支所と、多摩森林科学園(八王子)に在籍しています。そのうち鳥の研究を主に行っている研究者は 10 名ほどです。 つくば本所の鳥獣研究者は野生動物研究領域に所属しており、鳥獣生態研究室はこの領域の唯一の研究室ということになります。以前は鳥獣生態研究室と鳥獣管理研究室という 2 研究室が置かれていたのですが、組織改変にともなう研究室の大部屋化の方針によって生態研究室にまとめられました。現在 7 名いる野生動物研究領域の研究者のうち、私を含めて3名が鳥の研究者です。つくばではこの他、ポスドクの非常勤研究員が 2 名、学生 1 名が鳥獣の研究を行っています。
農林省による鳥獣関係の研究は、古くは明治時代から有益鳥の繁殖保護、有害鳥の駆除に関する調査などが行われ、前身の林業試験場はこれらの仕事に携わってきました。大戦後の拡大造林時代からは野鼠や野兎による林業被害の研究が行われ、1970 年代以降は環境問題への関心の高まりと共に、希少動物の保全の研究等も行われるようになりました。鳥獣研究の近年の傾向としては、哺乳類はシカ、カモシカ、クマなどの大型獣類による農林業被害関係、鳥類については持続的森林管理の基準である生物多様性の保全に関する課題が多くなってきています。また、獣と鳥に共通する課題としては希少種の保全や外来生物問題があり、それらの問題が顕著に現れている小笠原や南西諸島などの島嶼では、何人かの鳥獣研究者が熱心に研究を行っています。 現在本支所を合わせた森林総研の鳥獣研究者が関わっている主な研究課題群(課題のまとまり)は、
などがあります。 私個人が近年行ってきた研究は、外来鳥類の生態と生態系への影響の研究や森林管理と鳥類の種多様性の関係などが主です。このうち外来鳥類については、主に筑波山でソウシチョウの個体群動態と繁殖生態の研究を行っています。まとまった森林があまりないつくば周辺にあって、筑波山は研究所から車で1時間以内で到達できる数少ない調査地です。古くから観光地として開発されている筑波山ですが、山頂付近には茨城県南限のブナ林が残されており、周辺の平地から見ると大変ユニークな自然環境を保持しています。ソウシチョウはここのブナ林で最優占種になってしまっていて、貴重な生態系に困ったユニークさをもたらしているわけですが、研究対象として見た場合、その数の多さや、扱いやすさ、個体群としてのまとまりなどは魅力的でもあります。
つくば本所には居室となる研究室のほか、鳥獣研究の施設として、遺伝解析室、生理実験室、鳥獣標本室、実験用室内ガラス室等を含む共用作業別棟、飼育網室、実験用野外ケージなどがあります。
http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/389-7.pdf http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/385-5.pdf 研究のためにこれらの剥製の測定などを行いたいときは、研究室に連絡して下さい。ただし標本から羽毛や組織を採集することはお断りしております。 鳥獣標本室にはこれら仮剥製のほかに、鳥獣の本剥製、毛皮、骨格標本、巣や卵の標本等が保存されています。トキ、コウノトリ、キタタキ等の希少種の本剥製は研究所の一般公開などの際の展示に使われたり、博物館の企画展等の展示に貸し出したりして利用されています。 受付日 2009.04.24 |
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アマノノニッキ in ケンブリッジ (2)
天野達也 (農業環境技術研究所)
幸い、受け入れ教官であるビルは国内外を問わず非常に幅広いコネクションをもっていたため、この 8 か月間は多くの研究者との出会いの連続でした。その中で強く感じているのは、研究者層の厚さとネットワークの影響力です。
そういった層の厚い環境で研究を行うことは多くのチャンスに恵まれることにもなります。面白い研究、影響力の大きい研究を行うためには、アイデア・データ・スキルの全てが必要になると思いますが、こちらでも多くの研究者はそれを自分で全ては持ち合わせていないように感じます。豊富なデータを持っていてもテーマ設定に迷う学生は指導教官のアイデアに助けられ、一方で一見実現困難に思えるようなアイデアをもつ学生は、共同研究者から提供されるデータやスキルによってそれを現実のものとしていきます。
ヨーロッパから来ている多くの学生と比較すれば、日本からイギリスへの留学は距離や言葉の面から壁が大きいかもしれません。ただこちらでの研究環境はキラキラとした可能性があちこちに転がっていて、距離や言葉を理由にこのネットワークに加わらないのはあまりにもったいないように思います。ケンブリッジで見かける東アジアからの留学生はほとんどが中国系で、日本人も今後増えていくといいなと思っています。 受付日 2009.4.27 |
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鳥類研究者のための野外録音ガイド
百瀬 浩 ((独) 農研機構・中央農研・鳥獣害研究サブチーム) momoseaffrc.go.jp はじめに 録音に必要な機材
まず(テープ)レコーダーですが、音声をデジタル記録できて、後でファイルとしてパソコンに転送できるものが便利です。今はテープをあまり使わないので IC レコーダー、MP3 レコーダーなどと呼ばれています。私は鳥学通信の以前の記事(この稿の終わりに一覧が載せてあります)を参考にローランド社の R-09 を使っています。これ以外にも色々あると思いますが、以下の条件に合うものをお薦めします。
カード式のものは、野外録音中にカードが一杯になっても、別のカードと交換して録音を続けられるので便利です。
鳥が自分の行動圏の中でさえずったりする場所は大体決まっていて、ソングポストなどと呼ばれています。ソングポストが予めわかっていれば、そこにマイクやレコーダーを設置して無人で録音し、後で回収する方法で、非常にクリヤーな録音をすることが可能です。
録音の方法
まず雑音ですが、通常の録音で問題になるのは風による雑音、風以外の環境音(背景雑音)、手持ち録音の場合のグリップノイズ(マイクと手がこすれる音)位でしょうか。風雑音には、風で樹の枝などがザワザワと立てる音のほか、マイク自体が風に吹かれてしまって「ボコボコ」という雑音を拾ってしまう場合があり、後者の「吹かれ雑音または風切り音」はクリヤーな録音にとってかなり致命的です。単にクリヤーな録音をすることが目的なら、風の吹いていない時をねらって録音するのが一番です。が、そうも行かない場合は、マイクにウィンドスクリーン、ウィンドシールドなどと呼ばれる風防を取り付けることで風切り音を軽減する方法があります。 私が以前使っていたガンマイクの場合細長い円筒形のウィンドスクリーン(カゴ)にマイクを入れ、その周りをライコート社製のウィンドジャマーというモコモコした毛皮のようなもので包むことで、かなりの強風下でも録音が可能でした。サッカーのテレビ中継などでフィールド脇に置いてあって、選手が誤って蹴飛ばしたりしているのをご覧になったことがあるかも知れません。 風防がなくて、それでも録音をする必要がある場合、自分の体を風よけにして風下側にマイクを持つ、というローテク技もあります。また、風は一日中同じように吹いているわけではなく、夜明け頃と日没頃の 2 回、空気の対流が弱まって風が弱くなる時間帯がありますので、この時間帯をねらうのがお薦めです。 背景音とグリップノイズ 手持ち録音の場合のグリップノイズは、録音中あまり気付かず、後ですごく気になることがよくあります。慣れてくるとあまりノイズを出さずに録音できるようになりますが、軍手などをしてマイクを持つか、マイクの握り部分に、バドミントンなどのラケット用に売られているテープ(タオル地のようなソフトタイプのもの)を巻いておくと軽減できます。また、録音する人が着ている服の素材によっては、ゴワゴワといった音が出てしまうことがあるため、木綿などのソフトな素材の服を着た方が良いでしょう。 鳴き声を大きく録音するには ただ、手持ち録音の場合、人が鳥に近づくと鳥が警戒して行動を変えたり逃げてしまったりする場合が当然あります。ここは経験でカバーしていただくほかありません。私は、日本野鳥の会で買った、迷彩色のブラインド(大きな風呂敷のような形の布)を頭からかぶって録音したりすることがあります。これはかなり効果的ですが、この状態で他の人にあったりすると、かなりびっくりされますので注意が必要です。録音機材のところで述べた、マイクとレコーダーを据え置きして無人で録音する方法は、鳥に警戒されずに近づけるという点で大変優れていると思います。 録音レベルについて 今のは、録音レベルを手動で設定する時の話しですが、機種によってはレベルがほぼ適切な範囲に収まるように自動的に調節してくれる機能(AGC などと呼ばれます)に切り替えられるものがあります。私は好みの問題であまり使いませんが、これを使った方が案外失敗なく録音できるのかも知れません。無人録音の場合などは、むしろ AGC を使った方が結果が良いような気がします。 また、特にパラボラマイクを使っている場合、鳥に近づき過ぎてしまうと、レベルが過大になって歪んでしまうことがあります。レコーダーのレベルを調節しても、マイクに内蔵されているプリアンプという部分で歪んでしまうことが多いため、回避できません。私は、鳥に近づき過ぎてしまった場合は、パラボラを鳥にまっすぐ向けるのを止め(普通はこうするのが正しいのですが)、真上に向けるようにします。こうするとパラボラ(放物面)の焦点が音源である鳥からずれるため、録音レベルを下げることができます。 その他のコツなど レコーダーによっては記録するデータ形式を設定できます。できれば、サンプル周波数 44 または 48kHz、ビット幅は 16 または 24bit で、WAV の様な無圧縮形式で記録されることをお薦めします。この方式で録音しておいても、後で必要なら MP3 とかには簡単に変換できますが、逆の変換はできないというか、しても音質が全く上がらないため無意味です。44kHz、16bit、WAV または AIFF にしておくと、無変換でオーディオ CD に記録、保存できるので便利かもしれません。 データの記録方法 研究的には、録音する個体を事前に捕獲して、色足輪などで識別するのが理想ですが、それが無理な場合、目視で同じ個体であることを確認しながら、一羽の鳥を連続的に追跡して録音した方が良いと思います。私の経験(例えば Kroodsma & Momose 1991)でも、ほぼ 90 分から 120 分の連続した録音データがあれば、ソングタイプ数、バウト数などの基本的な項目を明らかにできましたので、多くの鳥で必要最小限な記録数はこれ位ではないかと思います。 というわけで、小鳥のさえずりを録音する場合、繁殖期(できれば初期)に、晴天の日を選んで夜明けから、同じ個体を 60 ~ 120 分程度連続して追跡し、録音することをお勧めします。夜行性の鳥であれば、同じことを日没直後から行うと良いでしょう。この時間帯(夜明けと日没前後)は、前にも述べましたが、風も少なく、鮮明な録音を得やすい利点があります。鳥自身もそのことを知ってか、この時間帯に集中的にさえずりを行うため、記録もしやすいのです。鳥によっては、早朝には、自分のさえずりレパートリーを順に一つずつ歌ってくれる場合すらあります。また、季節が進むにつれてあまりさえずらなくなる種でも、早朝だけは良くさえずることが多く、この点でも好都合です。 記録をつける
録音したデータの取り扱いとしては、レコーダーをパソコンに接続(USB 接続であることが多いと思います)してファイル化する。それをモニター(再生)しながら、記録の細かい部分を文書化する、といった手順になるかと思います。私が行っているデータの整理方法は、表計算ソフトのシート 1 枚を 1 回の録音(テープ 1 本とか)の整理に使い、鳥が一声鳴く毎に以下の項目を表の一行に記録していく、というものです(写真 5)。
最後に 参考文献(および以前の鳥学通信に掲載された音声関係の記事一覧) 受付日 2009.4.28 |
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新年度が始まりました。二年ぶりの「飛び立つ!」には、立教大学で三年間ポスドクをされて、この春めでたく就職を決められた北村俊平さんに原稿をお寄せ頂きました。北村さんは鳥類だけでなく、植物ほか様々な分類群の生物に興味をおもちの方です。また、野外調査で得たデータをためこまずに、すぐに論文として出版されるすぐれた研究者です。これからも博物館に足場をおいて、精力的な研究活動をされると期待しています。 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。 |
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鳥学通信 No.24 (2009年5月1日) 編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会 百瀬 浩 (編集長)・山口典之 (副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・東條一史・時田賢一・和田 岳
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