日本鳥学会

和文誌

和文誌発行11年目を迎えて

日本鳥学会誌編集委員会委員長  日野輝明

 前任の濱尾章二委員長と交代して,日本鳥学会誌の委員長を務めさせていただくことになりました.英文誌の編集委員長を退任してから,わずか 4 年で和文誌の編集委員長の依頼が来るとは思いもよらなかったというのが正直なところです.しかし,10 年前に和英混交の学会誌を和文誌と英文誌に分けて発行することを提案した 1 人として,これも課せられた役割かもしれないと思いお引き受けしました.和英分離の数年前に,当時の編集委員会の任命で「学会誌改革検討グループ」が立ち上げられました.そのときの最初のメンバーが,綿貫豊氏,浦野栄一郎氏と私でした.まだ 40 歳前後という若さもあって,「改革」という二文字に奮い立たされたこともあるのでしょう.学会誌のあるべき姿について毎日のようにメール上で議論したことが思い出されます(とくに,早世された浦野氏による詳細な資料と冷徹な判断は議論に欠かせませんでした).和英両誌の分離発行から 11 年目となる新たな節目の年に,この 10 年間を簡単に総括してみるのも悪くないかもしれません.

 このグループによる検討結果が最初にまとめられたのが「日本鳥学会誌改革について(案)」です(鳥学ニュース 71 号,1999 年 5 月発行).そこには,和文誌と英文誌を分けて発行する理由について次のように書かれています.“学会誌のこれまでの英文・和文混交のスタイルは,徐々に時代の流れに合わなくなり,会員の要望や期待に応えられなくなってきている.…論文を英語で書く者にとっても日本語で書く者にとっても,現在の和洋混交の日本鳥学会誌は中途半端で魅力がなくなってきている.”そして,和文誌は「日本鳥学の発展の基盤となる雑誌」を,英文誌では「アジアを代表する鳥学の国際誌」をそれぞれ目指すべきだとも書かれています.この案がたたき台となって,さらに数名のメンバーを加えて検討が重ねられ,2002 年に両誌の分離発行が実現されることになりました.

 こうして日本鳥学会誌は新しく生まれ変わることになったのですが,はたして,この 10 年の歩みの中で,論文を日本語で書く者と英語で書く者の双方にとって魅力ある雑誌へと変わってきたといえるでしょうか.英文誌については,2010年からアジアの鳥学誌として初めて,引用文献データベース Web of Scienceに収録されることになりました.Impact Factor(雑誌の影響度を測る指標で,掲載した論文の引用率で示される)が付くことになる今年からが本当の勝負になるわけですが,目標として掲げた「アジアを代表する鳥学の国際誌」にむけて一歩踏み出すことができたと言ってもよいでしょう.

 和文誌も大きく変わりました.表紙は毎号会員による鳥のすばらしい写真で飾られ,紙質もレイアウトも向上しました.電子投稿・査読システムによって編集作業の効率化が図られ,掲載論文の J-STAGE 搭載によってその電子版が会員外の多くの人にも利用されるようになりました.最近では,懸案事項であった定期刊行も 4 月と 10 月にスケジュール通りに行われるようなりました.いずれも歴代の編集委員の努力のたまものであり,和文誌の編集体制はこの 10 年の間にしっかりと整えられたと言って良いでしょう.

 「日本鳥学の発展の基盤となる雑誌」という目標についてはどうでしょうか.英文誌の目標に比べると,具体的な目標設定は容易ではありませんが,自身の研究成果を日本語で発表できる会員の数を増やしていくことは,日本鳥学の発展において重要です.そこで,和英分離前の 10 年間(41 巻から 50 巻)と分離後の 10 年間(51 巻から 60 巻)との間で,日本語論文の掲載数を比較してみたところ,81 編から 185 編と2.3 倍に増加していました.分離発行の検討の際に最も心配されたのが,年に 2 回発行できるだけの論文が集まるだろうかということだったのですが,杞憂だったようです.英文誌を発行する他学会の和文誌では,論文数不足を補うために読み物的な記事や大会での集会報告などが主体となっているところが増えてきています.しかしながら,鳥学会の和文誌は査読論文を主体とした学術雑誌の本流を貫き続けています.これは学会としての誇りであり,今後もそうあり続けるべきです.

 次に,論文の中身についてみてみましょう.この 10 年間の大きな変化として,特集や総説が増えたことが挙げられます.これらの多くは編集委員会からの依頼によって執筆されるものです(もちろん投稿論文と同様に査読は行われます).論文数では全体の 2 割,ページ数にするともっと多くの割合を占めることから,これらの依頼論文によって和文誌の分量が支えられているとも言えるかもしれません.しかし,最新の研究の総説や個人研究のモノグラフが日本語で読めることは,多くの会員にとって大きな刺激が与えられるでしょう.また関連したいくつかの研究や総説を特集として日本語で読める意義も大きいと思われます.学会誌として依頼論文に頼りすぎるのはよくありませんが,それらがバランスよく含まれることは,鳥学研究の発展の基盤作りへの貢献が期待できます.

 また,日本鳥学会の和文誌を特徴づける論文に「観察記録」があります.種の分布の初記録の多くは,アマチュア研究者の熱心な観察のたまものです.しかしながら,分離前には「短報」として報告されていたため,論文を書きなれていないアマチュア研究者には敷居が高かったのかもしれません.未報告のために「日本鳥類目録」に記載できないという支障をきたしていました.そこで,先述の学会誌改革検討の過程で,記載すべき内容を箇条書きにした書式を作成して報告しやすいようにしました(和英分離に先行させて,50 巻 4 号で仕掛け人の 1 人浦野氏が報告したのが最初です).その結果,分離前に比べて分布情報が倍増しています.このような記録は日本語で載せることにこそ価値があると同時に,アマチュア研究者の投稿を促進したという点で,日本鳥類学の発展の基盤となることでしょう.

その一方で,憂慮すべき点もあります.それは雑誌内に占める割合の短報の増加と原著論文の減少です.短報の数は分離前(観察報告に相当するものは除外)に比べて 4.6 倍に増えた結果,雑誌内に占める割合は 12%から 25%にまで大きく増加しています.その一方で,原著論文の数は分離前に比べ 1.4 倍と増えてはいるものの,雑誌内に占める割合は 43%から 26%と大きく減少しています.この変化はプロの研究者と学生によって書かれた短報と原著論文の数の変化に対応しています.研究職に携わる者およびそれを目指す者にとっては,日本語論文よりも英語論文が評価される現状においてはいたしかたないことなのかもしれません.とはいえ,学会誌の健全性は原著論文の質と量ではかられるべきです.とするならば,いかにして原著論文の数を増やして,その相対的割合を高めることができるかが,和文誌の今後の最重要課題といえるかもしれません.会員の皆さん,眠っているデータをぜひ日本語による原著論文にしてご投稿ください.アマチュア研究者の方は論文作成相談室を積極的に御利用下さい.大学の研究室には,卒業後または修士課程終了後に研究職以外の職業に就いてしまった学生の研究がどれだけ公表されずにうずもれてしまっていることでしょう.学生には大学を出て行く前に投稿させましょう.それが無理ならば,大学の先生の手で,そのような研究を日本語論文にして日の目を見させてあげてください.

日本鳥学会は,今年創立 100 周年という大きな節目を迎えます.日本鳥学会誌としては,1915 年に前身の「鳥」が創刊されてから,今年 61 巻目を発行します.すなわち,学会誌の歴史としては,人間でいう還暦を経て一巡したことになります.その歴史に比べれば,和文誌が英文誌と分かれてからの 10 年というのは短いものです.今は何か新しいことを始めるのではなく,和文誌としての基礎を固める時期だと言ってよいでしょう.鳥学会誌の過去の歴史を基礎に,「日本鳥学の発展の基盤」となる雑誌とは何か,「日本語で論文を書くこと」の意義は何かを考えながら,ひと羽ばたきひと羽ばたき,前に向かって飛翔し続けることこそが大切なのでないかと考えています.会員の皆さまには,論文の投稿はもちろんですが,和文誌へのご意見やご希望を遠慮なくお寄せいただければ幸いです.

日本鳥学会誌 61(1):1-2 掲載記事より

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