学会賞
日本鳥学会 黒田賞
2023年度日本鳥学会黒田賞選考報告
基金運営委員会委員長
川上和人
基金運営委員会で規定・運営指針に則して研究内容のオリジナリティ,鳥類学における重要性,将来性などについて検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り決定された.
受賞者:澤田 明(国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域)
澤田明氏は,南西諸島の鳥類,とくに南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を主な研究対象とし,地道な野外調査と緻密なデータ解析により配偶者選択を中心に生活史進化について明らかにしてきた.研究テーマは,個体群内の遺伝構造解析,近親交配回避や同類交配メカニズムの解明,個体群動態解析,さらには分散距離に関する新たな解析手法の提案など多岐にわたる.南大東島では対象種の個体標識データが長期蓄積されているが,澤田氏はこれらの既存データを解析するだけでなく,自ら個体標識や繁殖モニタリング調査を精力的に実施することで当地の長期個体群研究を大きく発展させてきた.博士学位取得後わずか2年であるにもかかわらず,鳥学に関する研究成果は合計14編の論文として国内外の査読付き学術誌に掲載されている.そのうち11編は筆頭著者として英文で発表されており,国際的な成果の発信に大きく寄与している.書籍や一般向け雑誌において研究成果を広く発信しているほか,調査地においては観察会や講演会の実施,多数の地域行事参加など地元社会への貢献に対して非常に積極的である.澤田氏のこれらの業績が高く評価され,黒田賞受賞者として選定された.今後は学会運営にも参画し,日本の鳥学をさらに発展させる原動力となることが期待される.
なお,受賞内容は総説として日本鳥学会の学会誌に掲載予定である.
過去の受賞者一覧
2010年度 天野達也 (日本鳥学会誌 60巻2号, 2011)
2011年度 相馬雅代 (Ornithological Science 10巻2号, 2011)
2012年度 山浦悠一 (Ornithological Science 12巻2号, 2013)
2013年度 三上修 (日本鳥学会誌 68巻1号, 2019)
2014年度 (該当者無し)
2015年度 江田真毅 (日本鳥学会誌 68巻2号, 2019)
2016年度 風間健太郎(Ornithological Science 18巻2号, 2019)
2017年度 長谷川克 (Ornithological Science 17巻2号, 2018)
2018年度 鈴木俊貴
2019年度 吉川徹朗
2020年度 山本誉士
2021年度 片山直樹
2022年度 安藤温子
日本鳥学会 中村司奨励賞
2023年度日本鳥学会中村司奨励賞選考報告
基金運営委員会
今年度は本賞の応募がなかったため,該当者がなかった.
過去の受賞者一覧
2018年度 加藤貴大
2019年度 太田菜央
2020年度 西田有佑
2021年度 澤田明・夏川遼生
2022年度 (該当なし)
日本鳥学会 内田奨学賞
2023年度日本鳥学会内田奨学賞選考報告
基金運営委員会委員長
川上和人
基金運営委員会で規定・運営指針に則して検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り2名に決定された.
受賞者:溝田浩美(兵庫県立人と自然の博物館 ひとはく地域研究員)
推薦根拠論文:
溝田浩美氏はひとはく地域研究員として猛禽類に関する地道な調査と普及啓発活動を行っている.溝田ら(2020)では夜行性のアオバズクを対象として,雛の成長に伴い給餌内容を変化させていることを1,400個体以上の内容物を含む多数の食痕の分析と食物となる昆虫の捕獲調査を組み合わせることで明らかにした.観察の難しい夜行性鳥類の生態を明らかにしただけでなく,保全への貢献からも重要な内容である.溝田氏はこれまで多くのアウトリーチ活動を続けてきており,本賞の受賞により基礎的で地道な活動が評価されることは本人の大きな励みとなり,今後の次世代育成や市民科学活動へのより大きな貢献へとつながることが期待される.
受賞者:伊関文隆(NPO希少生物研究会)
推薦根拠論文:
伊関文隆氏は長年猛禽類の渡りや繁殖の調査を行い,Iseki et al. (2021) ではこれまで10年以上にわたり蓄積した写真や剥製等の200例を超える情報から,ツミの換羽様式についてその独特な特徴を示した.本研究で呈された換羽様式と生態の関連性を示唆する成果は基礎科学としての価値が高く今後の発展性が期待されるだけでなく,英語論文として発表していることから国外への波及効果も期待できる.アマチュアとして研究を行う中で長年蓄積した情報を英語論文として発表することは大きな成果であり,これが評価されることにより今後のさらなる研究活動の発展が期待される.
基金運営委員会委員長 川上和人
・本賞の対象は、アマチュアの研究者です。
・ここでのアマチュアとは、「鳥類の研究を本職としていない者」です。
・博士号を持つ者は原則対象外ですが、鳥学に関連しない学位であれば対象とします。
内田奨学賞はアマチュア研究を奨励するための賞と位置づけられています(日鳥誌59(1): 123)。日本鳥学会は多くのアマチュアの貢献に支えられており、鳥学の発展のために欠かせない存在となっています。しかし、これまで「アマチュア」の定義が整理されていませんでした。そこで、評議員会において、本賞で対象とするアマチュアの捉え方を検討した結果、「鳥類の研究を本職としていない者」と考える方針が確認されました。日本鳥学会では、個人的な時間や資産を投じて鳥学に貢献している方を顕彰したいと考えています。
また、日本鳥学会内田奨学賞規定第2条では、「博士の学位をもつ者や博士の学位取得を目指し大学院に在学している者は対象としない」としていました。鳥学の学位をもつ者等は、職業研究者と同等の立場と考えられるためです。ただしこの規定では、鳥学に関連しない学位であっても、博士号をもつ者等は応募できませんでした。この条件を緩和するため、2022年度総会にて規定を「・・・原則として対象としない」と改定することが承認されました。
ただし、「鳥類の研究が本職かどうか」、「学位が鳥学に関連するかどうか」について明確な規準を設けることは容易ではありません。たとえば、同じく博物館の職員であっても、業務として研究できる環境があれば職業的な研究者と考えられますし、小さな博物館で業務時間中に十分に研究の時間がとれない環境であれば本賞の対象と考えています。このため、これらの要件については基本的に自己申告とします。参考のため下記に例を挙げますが、迷う場合には気軽に基金運営委員会にお問い合わせ下さい。
鳥学の発展のため、多くの方にこの賞に応募いただけることを期待しています。
内田奨学賞の対象となる例
・博物館の職員だが、業務時間中に鳥の研究をする時間があまりとれない。
・職業的に鳥学研究をしていたが、すでに退職し、現在は仕事として研究をしていない。
・鳥の調査を仕事にしているが、研究は主に勤務時間外に実施している。
・鳥学と関連しない内容で学位を取得し、仕事と関係なく鳥を研究している。
過去の受賞者一覧
1999年以前は,日本鳥学会100周年記念特別号「日本鳥学会100年の歴史」120-122ページをご覧下さい.
奨学賞
2000年度 (該当者無し)
2001年度 遠藤菜緒子・清水義雄
2002年度 (該当者無し)
2003年度 小池重人
2004年度 小岩井彰
2005年度 吉田保晴
2006年度 (該当者無し)
2007年度 (該当者無し)
2008年度 堀江玲子
2009年度 (該当者無し)
内田奨学賞
2010年度 (該当者無し)
2011年度 (該当者無し)
2012年度 (該当者無し)
2013年度 渡辺朝一
2014年度 (該当者無し)
2015年度 (該当者無し)
2016年度 (該当者無し)
2017年度 (該当者無し)
2018年度 才木道雄
2019年度 (該当者無し)
2020年度 (該当者無し)
2021年度 (該当者無し)
2022年度 藤岡健人
助成
津戸基金によるシンポジウム開催の助成
津戸基金によるシンポジウムの報告(2023年度)
基金運営委員会
今年度は応募がなかったため、採択がなかった.
過去の助成一覧
1988年「カッコウと宿主の相互進化」(中村浩志)
1989年「セキレイ3種の社会構造の比較」(大迫義人)
1990年「ハシブトガラスの生息環境の違いによる生態の比較」(福田道夫)
1993年「鳥の学習と文化」(樋口広芳・中村浩志)
1994年「小笠原における最近の鳥類研究」(上田恵介)
1994年「ツルの現状と保護・研究への展望」(古賀公也)
1995年「北海道における希少鳥類研究の現状と鳥類生態学研究」(高木昌興・林英子)
1997年「アジア・太平洋地域における鳥類進化・生態学とDNA多型利用の可能性」(上田恵介・石田健)
2007年「世界と日本の水田における鳥類保全の課題」(藤岡正博)
2009年「オオヒシクイと人の共存を目指して」(布野隆之)
2017年「チュウヒサミット2017」(近藤義孝)
2019年「新技術をもちいた鳥類モニタリングと生態系管理」(嶋田哲郎)
2021年(応募無し)
2022年「東アジアにおけるガン類の適正な保全と管理へ向けた国際シンポジウム」(澤祐介)
・1998年までは毎年募集.1999~2006年は募集休止.2007年から隔年募集.
伊藤基金による国際鳥類学会議の参加補助
2022年度伊藤基金によるIOC参加補助金の申請募集報告
基金運営委員会
今年度は応募がなかったため、採択がなかった.
過去の助成者一覧
1990年 江崎保男,永田尚志,中村雅彦 (開催地:ニュージーランド,クライストチャーチ)
1994年 濱尾章二,堀田昌伸,成末雅恵,浦野栄一郎 (開催地:オーストリア,ウィーン)
1998年 山口恭弘 (開催地:南アフリカ,ダーバン)
2002年 遠藤菜緒子,水田 拓 (開催地:中国,北京)
2006年 齋藤武馬,染谷さやか (開催地:ドイツ,ハンブルグ)
2010年 松井 晋,森 さやか,森口紗千子 (開催地:ブラジル,カンポス・ド・ジョルダン)
2014年 長谷川 克,一方井祐子,石井絢子,風間健太郎,西田有佑 (開催地:日本,東京)
2018年 青木大輔,澤田 明 (開催地:カナダ,バンクーバー)
2022年 (応募無し)