日本鳥学会


2024年度日本鳥学会 黒田賞 決定報告

基金運営委員会で規定・運営指針に則して研究内容のオリジナリティ、鳥類学における重要性、将来性などについて検討、審査を行い、理事会に推薦した結果、森口紗千子さんが2024年度黒田賞の受賞者に決定されました。


受賞者

森口 紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室)


選定理由

森口紗千子氏は、鳥インフルエンザに代表される鳥類の感染症に関する研究の実績を着実に積み重ねてきた。日本における野生鳥類の鳥インフルエンザの感染リスクマップを作成し、そのリスクが鳥の分布や生態のあり方によって異なることを明らかにした。さらに野生鳥類における高病原性鳥インフルエンザの監視体制や、飼養鳥や家禽における防疫体制の構築に寄与し、行政への提言を行うなど、その社会的貢献も大きい。疫学や畜産学などの他分野とも深く関わりながら、鳥類学の枠に収まらない積極的な活動を行ない、なおかつ鳥類学の果たすべき社会的責任を担っている研究者である。人畜共通感染症のパンデミックの脅威が改めて認識された状況の中、鳥類の感染症とその対策に関わる分野において今後も中心的な役割を果たすことが期待される。学会においても企画委員や監事、代議員など複数の役職を務めており、その活動に大きく貢献している。森口氏のこれらの研究業績や社会的貢献が高く評価された。

基金運営委員会




2024年度日本鳥学会 黒田賞 募集要項

※2024年度の募集はすでに締め切りました。

日本鳥学会は,日本の鳥類学の発展に貢献した黒田長禮・長久両博士の功績を記念して,鳥類学で優れた業績を挙げ,これからの日本の鳥類学を担う本学会の若手・中堅会員を対象に,黒田賞を授与する.
 本賞の募集を下記のように行なうので,積極的に応募・推薦をされたい.

対象者:鳥類学で優れた業績を挙げた本学会の若手・中堅会員.過去に本賞を受賞した者は対象から除く.

募集人員:1名

表彰と副賞:2024度大会において賞状を授与し,副賞として賞金10万円を贈呈する.なお,副賞の財源は黒田長禮博士の形見分けとして寄付された,黒田基金(および,学会基金・小口基金)である.受賞者は,受賞の対象となった研究業績について,原則として授賞式が行われる大会において講演し,その内容を含めた総説を鳥学会の学会誌に投稿する.

応募の方法:自薦もしくは他薦による.日本鳥学会誌第72巻2号の応募用紙(日本鳥学会ウェブサイトからダウンロードも可能)に必要事項を記入し,締切日までに基金運営委員会(下記送付先)まで,電子メールか郵送のいずれかの方法で送付すること.

応募締め切り:2024年3月31日(必着)

審査:研究内容のオリジナリティ,鳥類学における重要性,将来性などから基金運営委員会が審査を行ない,評議員会に推薦し,決定する.2024年6月中旬に応募・推薦者に結果を通知する予定.

応募用紙送付先:基金運営委員会 副委員長 江田真毅

電子メール送信先:edamsk@museum.hokudai.ac.jp 受け取りのメールが届かない場合は連絡すること

郵送先:〒060-0810
北海道札幌市北区北10条西8丁目1
北海道大学 総合博物館 江田真毅
(郵送の場合、封筒表に日本鳥学黒田賞応募書類と朱書すること)

基金運営委員会




黒田賞 これまでの受賞者

受賞者一覧

 2023年度 澤田明
 2022年度 安藤温子
 2021年度 片山直樹
 2020年度 山本誉士
 2019年度 吉川徹朗
 2018年度 鈴木俊貴
 2017年度 長谷川克
 2016年度 風間健太郎
 2015年度 江田真毅
 2014年度 (該当者無し)
 2013年度 三上修
 2012年度 山浦悠一
 2011年度 相馬雅代
 2010年度 天野達也


2023年度 澤田 明

選定理由:澤田明氏は,南西諸島の鳥類,とくに南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を主な研究対象とし,地道な野外調査と緻密なデータ解析により配偶者選択を中心に生活史進化について明らかにしてきた.研究テーマは,個体群内の遺伝構造解析,近親交配回避や同類交配メカニズムの解明,個体群動態解析,さらには分散距離に関する新たな解析手法の提案など多岐にわたる.南大東島では対象種の個体標識データが長期蓄積されているが,澤田氏はこれらの既存データを解析するだけでなく,自ら個体標識や繁殖モニタリング調査を精力的に実施することで当地の長期個体群研究を大きく発展させてきた.博士学位取得後わずか2年であるにもかかわらず,鳥学に関する研究成果は合計14編の論文として国内外の査読付き学術誌に掲載されている.そのうち11編は筆頭著者として英文で発表されており,国際的な成果の発信に大きく寄与している.書籍や一般向け雑誌において研究成果を広く発信しているほか,調査地においては観察会や講演会の実施,多数の地域行事参加など地元社会への貢献に対して非常に積極的である.澤田氏のこれらの業績が高く評価され,黒田賞受賞者として選定された.今後は学会運営にも参画し,日本の鳥学をさらに発展させる原動力となることが期待される.


2022年度 安藤 温子

選定理由:安藤温子氏は,遺伝子解析を駆使することで,島嶼に生息する鳥類の個体群構造や食性を調べ,その移動能力の進化的背景や生態系機能について明らかにしてきた.DNAメタバーコーディング技術の開発と鳥類研究への適用により鳥類学を技術的に牽引すると同時に,地道な野外調査にもとづき島嶼に生息する鳥類の基礎的な生態を数多く明らかにすることで,島嶼生態系の成立過程における鳥類の貢献について明らかにしてきた.遺伝学的な技術と島嶼生物学の視点を組み合わせたこれらの研究は,単に分析技術に依拠した研究にとどまらず,島嶼の鳥類の適応進化を主題とした島国日本の特長を活かした独自性の高い研究である.鳥学に関連する研究成果は合計22編の査読付き論文として国内外の学術誌に掲載されている.国内一般向けに研究成果を数多く解説しているほか,国際学会において3回の招待講演を含む合計19回の発表を行い,また国際共同研究も積極的に推進している.これまで学会事務局や英文誌編集委員,大会実行委員を務めるなど日本鳥学会にも様々な形で貢献してきた


2021年度 片山 直樹

選定理由:片山直樹氏は,農地景観における鳥類を研究対象とし,主に農業の集約化や耕作放棄などが農地の生物多様性に与える危機の深刻さを明らかにしてきた.さらにその解決策とされる農地利用や農法の効果を文献レビューやメタ解析を駆使しながら長期・広域的な傾向をも含めて精緻に評価してきた.片山氏は農地生態系のなかでの鳥類の役割の解明や農地生態系の保全課題の解決に向けた研究テーマに一貫して取り組むことで,鳥類学,生態学,保全科学に関する多数の研究業績を着実に積み上げてきた.研究成果は多くの国際誌に掲載されている.鳥類研究を通じて社会的課題の理解や解決に貢献しようとする片山氏の研究姿勢は,鳥学会が果たすべき社会的責任の一つを明確に示していると言える.これまで複数の委員や事務局を務めるなど日本鳥学会にも様々な形で貢献してきた.片山氏のこれらの業績が高く評価された.


2020年度 山本 誉士

選定理由:山本誉士氏は,主にバイオロギング手法を用いて,これまで観察困難なために未解明であった海鳥の繁殖地外での行動や環境利用,渡り経路を明らかにしてきた.このような情報は将来の海鳥研究の基礎を成す高い価値を持っている.また多くのフィールド調査で得た膨大なバイオロギングデータに精緻な統計数理解析を加えることで,鳥類学のみならず行動学,海洋学,環境学等の分野横断的な研究業績を数多く積み上げてきた.こうしたデータ駆動型の研究スタイルは,鳥類学の新展開として今後益々の発展が期待できる.研究成果はOrnithological Scienceをはじめ多くの国際誌に掲載されている.日本鳥学会でも和文誌・英文誌の編集委員など様々な形で貢献してきたほか,一般に向けた研究成果の解説も数多く行ってきた.世界各地で精力的に国際共同研究を進めると共に,社会に向けた積極的な情報発信も行っており,今後も日本の鳥類学の発展に大きく寄与することが期待される.


2019年度 吉川 徹朗

選定理由:吉川徹朗氏は,生態学的な観点から鳥類と植物の生物間相互作用に着目し,多面的なアプローチを用いて秀でた研究成果をあげている.とりわけ,鳥類の種子散布や花粉媒介といったテーマで,優れた研究を着実に積み重ねてきた.鳥類と植物の関わりは,生態学において古典的なテーマであるが,吉川氏は,従来の理解が十分でないことを指摘し,より包括的な,あるいは進取に富んだ知見を呈する研究に取り組んできた.一連の研究は,鳥類の生態学的位置付けの理解に関し重要な貢献をなしているだけでなく,保全への貴重な示唆をも含んでいる.また,市民データの活用やモデリングなど,多岐にわたる手法をもちいた研究展開は,研究者としての高い資質を示している.さらに,自身の研究内容を体系的に分かりやすく記述した優れた内容の書籍を単著で刊行したことは高く評価される.


2018年度 鈴木 俊貴

選定理由:鈴木俊貴氏は,シジュウカラ科鳥類を主たる対象として,野鳥の音声コミュニケーションの研究を行ってきた.その知見は,シジュウカラ科鳥類が警戒声や集合声によって捕食者のタイプを伝えたり,仲間を集めたりするという機能を明らかにしただけではなく,異なる音声を発する順が意味を持つことや,音声によって伝えられた捕食者のタイプによって受信者が適切な行動をとることをも示す非常に新規性の高いものである.一連の研究は,ヒトの言語によるコミュニケーションに固有と考えられてきた要素が鳥類でも進化してきた可能性を探るという独創的な視点から,詳細かつユニークな行動実験を用いて仮説を検証するという説得力のあるものであり,オリジナリティが高く,また論文業績としてもいずれも卓越したものである.このような成果は,鳥類のみならず動物のコミュニケーションや社会行動の理解を進める重要なものである.今後もユニークな視点と精力的な活動によって鳥類学の発展に大きく寄与することが期待される.


2017年度 長谷川 克

Ornithological Science 17巻2号, 2018


2016年度 風間 健太郎

Ornithological Science 18巻2号, 2019


2015年度 江田 真毅

日本鳥学会誌 68巻2号, 2019


2014年度 該当者無し


2013年度 三上 修

日本鳥学会誌 68巻1号, 2019


2012年度 山浦 悠一

Ornithological Science 12巻2号, 2013


2011年度 相馬 雅代

Ornithological Science 10巻2号, 2011


2010年度 天野達也

日本鳥学会誌 60巻2号, 2011



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