日本鳥学会

日本鳥学会 中村司奨励賞

2025年度 日本鳥学会 中村司奨励賞 募集要項

日本鳥学会は,本学会員のなかで国際誌に優れた論文を発表した若手会員を対象に,中村司奨励賞を授与する.本賞は,まだ十分な実績を蓄積していないが将来の鳥学会を担うことが期待される若手会員を,国際誌での発表論文から評価するものである.副賞は,若手会員の奨励のためとして元会頭・中村司博士から寄付された中村基金から支出される.本賞の募集を下記のように行なうので,積極的に応募・推薦をされたい.

対象者: 国際誌に優れた論文(1編)を発表した30歳以下の会員.年齢は,当該年度の4月1日時点のものとする.

募集人員:1名

表彰と副賞: 2025年度大会において賞状を授与し,副賞として賞金5万円を贈呈する.なお,副賞の財源は中村基金である.

応募の方法: 自薦もしくは他薦による.日本鳥学会誌第73巻2号の応募用紙(ダウンロード)に必要事項を記入し,締切日までに基金運営委員会(下記送付先)まで,電子メールか郵送のいずれかの方法で送付すること.

応募締め切り:2025年3月31日(必着)

審査: 1編の優れた論文を基に研究内容のオリジナリティ,鳥類学における重要性,将来性などを評価して基金運営委員会が審査を行ない,理事会に推薦し,決定する.2025年6月中旬に応募・推薦者に結果を通知する予定.

応募用紙送付先:基金運営委員会 副委員長 江田真毅

電子メール送信先:edamsk@museum.hokudai.ac.jp
 受け取りのメールが届かない場合は連絡すること

郵送先:〒060-0810
北海道札幌市北区北10条西8丁目1
北海道大学 総合博物館 江田真毅
(郵送の場合、封筒表に日本鳥学会中村司奨励応募書類と朱書すること)

基金運営委員会



2024年度 日本鳥学会 中村司奨励賞 決定報告

 基金運営委員会で規定・運営指針に則して、研究内容のオリジナリティ、鳥類学における重要性、将来性などについて検討、審査を行い、理事会に推薦した結果、飯島大智さんが2024年度中村司奨励賞の受賞者に決定されました。


受賞者

飯島大智(東京都立大学大学院 都市環境科学研究科)


選定根拠論文

Iijima D, Kobayashi A, Morimoto G & Murakami M (2023)
Drivers of functional and phylogenetic structures of mountain bird assemblages along an altitudinal gradient from the montane to alpine zones. Global Ecology and Conservation 48: e02689.


選定理由

 生物多様性と標高勾配の関係を探ることは、生態学における重要なテーマである。一方で、標高勾配に着目して、生物群集の特性やパターンおよびその背後にあるメカニズムを解明しようとする研究は限られていた。
 飯島大智氏は、日本の乗鞍岳において、標高700mから3026mに生息する鳥類の群集を調査し、丁寧かつ徹底した分析を行った。この分析により、高山帯では鳥類群集の機能形質が集中傾向を示し、低標高帯ではその傾向が見られないことなどが明らかになった。これらの結果は、高山帯では厳しい環境によるフィルタリングが鳥類群集に強く働いていることを意味し、鳥類の群集集合プロセスが標高帯によって異なることを示唆するものである。
 また、高標高地の鳥類群集が気候変動に対して脆弱である可能性も指摘した。これらの結果は気候変動などの環境問題との関連からも重要であり、本論文は国際的な引用が期待される重要な研究と言える。
 以上の理由から、飯島氏の研究は中村司奨励賞が要件とする研究内容のオリジナリティ、鳥類学における重要性、研究者としての将来性のいずれについても高い水準で満たすものと評価された。

基金運営委員会



中村司奨励賞 これまでの受賞者

受賞者一覧

 2023年度 (該当なし)
 2022年度 (該当なし)
 2021年度 澤田明夏川遼生
 2020年度 西田有佑
 2019年度 太田菜央
 2018年度 加藤貴大


2021年度 澤田明

推薦根拠論文:Sawada, A., H. Ando, and M. Takagi. 2020. Evaluating the existence and benefit of major histocompatibility complex-based mate choice in an isolated owl population. Journal of Evolutionary Biology 33:762-772.

 澤田明氏の論文は,高い標識率を誇る長期研究個体群である南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を対象に,性淘汰におけるMHCの役割を世代間の利益を含めて検討し,MHCに基づく選択が生じ近親交配を避けて交配していることを明らかにしている.本研究では,野外の個体群を対象にMHC遺伝子に対する雌による選り好みが存在していることを示し,生涯繁殖成功にもとづいて実証している.長期間の観察データと網羅的なDNAサンプルに基づき,野生個体群を対象に実証的な結果を示しているという点でオリジナリティが高いと評価できる.得られた成果は,配偶者選択の問題に進展を与えるもので,進化生態学的,行動生態学的に高い価値があり,鳥類学的にも重要な成果といえる.長期調査に基づくデータの蓄積があっての研究成果なので,これまでに候補者の属する研究グループによる多くの協力があったと考えられるが,本研究をまとめるためには野外調査,分子実験の解釈と取扱い,統計的解析の全てを高い次元で統合する必要があり,澤田氏自身の研究能力の高さがうかがえ,将来性も高く評価された.


2021年度 夏川遼生

推薦根拠論文:Natsukawa, H. 2020. Raptor breeding sites as a surrogate for conserving high avian taxonomic richness and functional diversity in urban ecosystems. Ecological Indicators, 119, 106874.

 夏川遼生氏の論文は,都市域におけるオオタカの指標性を種の多様性と機能的多様性の側面から評価している.本研究では,鳥類の中でもしばしばアンブレラ種とみなされるオオタカを対象として,それが実際に「アンブレラ種」であり,オオタカが存在している環境はそうでないところよりも豊かな生態系であることを示している.近年生物多様性保全上の重要性が高まっている都市生態系に注目し,そうした都市にも生息する上位捕食者として注目度の高いオオタカを対象にして,一般論とされてきた事象を丁寧に実証しているという点でオリジナリティが高い研究である.また,得られた成果は,生態系モニタリングや環境影響評価の点で重要なもので,鳥類学的に価値が高い.本研究における調査と解析は丁寧かつ綿密に計画・実施されていて,単著論文として発表されたことからも研究者としての能力の高さがうかがえ,将来性も高く評価された.


2020年度 西田有佑

推薦根拠論文:Nishida Y & Takagi M (2019) Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success. Animal Behaviour 152: 29-37.

 貯食行動は哺乳類と鳥類に共通する行動として,これまでに多くの研究がある.モズのはやにえは古来より知られている現象で,餌不足のときの飢餓状態を回避して生存率を高める貯食行動として理解されることが一般的であったが,それ以外にも,なわばりを主張するマーキング行動,なわばりの餌の豊富さを誇示する行動,獲物を食べている途中で放置しただけの特に意味のない行動など,これまで様々な解釈がなされてきた.西田有佑氏は,野外でのはやにえの量を増減する巧妙な操作実験を行い,1月にはやにえを多く摂取したオスは繁殖期におけるさえずり速度が速くなること及びこのことが繁殖成功の増加をもたらすことを明確に示し,この行動を性選択の文脈から解釈する新しい観点を提示した.この観点はこれまでになかったもので,高いオリジナリティのある研究である.この研究は,単にモズの行動研究というだけでなく,貯食という広く見られる現象に対して性選択の文脈で解釈する観点を新たに加えることを意味し,鳥学のみならず行動生態学,進化生態学の分野で広く引用されるであろう重要な研究と言える.西田氏は特殊な機器や観測手法を用いずに,3年にわたる地道な野外調査に基づいて研究を進めている.鳥学の基本的な手法を用いながら成果を積みあげ,それを明快な論文としてまとめている高い研究能力から,今後の発展が大いに期待できる.以上のような理由から,西田氏の研究は中村司奨励賞が要件とする高い独創性,鳥類学における重要性,研究者としての将来性のいずれについても非常に高い水準で満たすものであると評価された.


2019年度 太田菜央

推薦根拠論文:Nao Ota, Manfred Gahr, and Masayo Soma (2018) Couples showing off: Audience promotes both male and female multimodal courtship display in a songbird. Science advances 4.10: eaat4779.

 求愛ディスプレイはつがい相手の獲得に重要な役割を果たす行動であり,多くの研究がなされてきた.しかしながら,さえずりに比べ求愛ダンスについては,その機能,意義は未解明な点が多い.太田菜央氏は,雌雄がともに求愛さえずりと求愛ダンスを行なうルリガシラセイキチョウを用い,雌雄がつがいでいる時よりも第三者に見られている時,特に異性の第三者に見られている時により頻繁にダンスを行なうことを発見した.求愛ディスプレイについて,つがい相手以外の他者の影響に注目した点,さえずりとダンスを同時に行なう複合的行動とさえずりだけの行動を分けて分析した点,同性と異性を分けて扱った点など,ユニークな着眼点からの丁寧な実験設定,分析による研究である.ダンスの進化的意義がつがい外交尾と関連付けて考察されていることも興味深い.今後,多くの行動学的研究に影響を与えることが予想される,インパクトのあるオリジナリティの高い研究ということができ,今後が期待される.


2018年度 加藤貴大

推薦根拠論文:Kato, T., Matsui, S., Terai, Y., Tanabe, H., Hashima, S., Kasahara, S., Morimoto, G., Mikami, O. K., Ueda, K. & Kutsukake, N. (2017) Male-specific mortality biases secondary sex ratio in Eurasian tree sparrows Passer montanus. Ecology and Evolution 7: 10675-10682.

 個体が子の性を雄と雌にどう配分するかという問題は,進化生物学・行動生態学にとって大きな問題のひとつである.鳥類でも性配分の偏りは報告されているが,どの時期にどのように性の偏りが生じるのかについての詳細は明らかになっていなかった.加藤貴大氏は,スズメを対象に,この性の偏りが産卵時から巣立ちまでのどの段階で生じているのか,その偏りはどのようなメカニズムで生じるのかという問題に取り組み,雌に偏る性比は産卵時には見られず,その後の胚発生の過程で雄胚が雌胚よりも高確率で死亡することによること,およびこの過程は両親の抱卵行動とは無関係に生じることを明らかにした.性比の制御過程を明らかにしたこの研究は他の動物種にも応用可能であり,鳥類学はもとより,生物学の広い分野で注目を集める重要な結果として高く評価できる.本研究で用いられた野外調査,細胞観察,孵化実験,分子実験などの手法の多様さと高い独創性,技術的・労力的困難さを乗り越えた実行力は,加藤氏の研究者としての高い能力を示している.共同研究者は多いものの,本研究の本質的な部分はほぼ全て加藤氏が主導して計画・実行しており,研究組織の運営能力も高いことが示唆され,今後の研究についても発展が期待できる.





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