日本鳥学会

日本鳥学会 内田奨学賞

2025年度 日本鳥学会 内田奨学賞 募集要項

日本鳥学会は,本学会員のなかで優れた鳥学の論文を発表し,奨励が当該個人の研究活動の発展に大いに寄与すると判断される者を対象に,長年,日本鳥学会奨学賞を設けていた.2010年度からは基金名を冠とした内田奨学賞と改名した.本賞の募集を下記のように行なう.本賞は,発展途上にある受賞者を励ます趣旨から設けられている.積極的に応募・推薦をされたい.

対象者: 単一または複数の優れた鳥学の論文を2022年から2024年の間に,国内外の学術誌に発表した者.ただし,博士の学位をもつ者や博士の学位取得を目指し大学院に在学している者は対象者としない.過去に本賞を受賞した者も対象から除く.

募集人員:1名

表彰と副賞: 2025年度大会において賞状を授与し,副賞として賞金5万円を贈呈する.なお,副賞の財源は内田清之助元会頭の形見分けとして寄付された内田基金(および学会基金・小口基金)である.

応募の方法: 自薦もしくは他薦による.日本鳥学会誌第73巻2号の応募用紙(ダウンロード)に必要事項を記入し,締切日までに基金運営委員会(下記送付先)まで,電子メールか郵送のいずれかの方法で送付すること.

応募締め切り:2025年3月31日(必着)

審査: 発展途上にある受賞者を励ます趣旨に鑑み,優れた論文を発表した者を選考する.基金運営委員会が審査を行ない,理事会に推薦し,決定する.2025年6月中旬に応募・推薦者に結果を通知する予定.

応募用紙送付先:基金運営委員会 副委員長 江田真毅

電子メール送信先:edamsk@museum.hokudai.ac.jp
 受け取りのメールが届かない場合は連絡すること

郵送先:〒060-0810
北海道札幌市北区北10条西8丁目1
北海道大学 総合博物館 江田真毅
(郵送の場合、封筒表に日本鳥学会内田奨学賞応募書類と朱書すること)

基金運営委員会



2024年度 日本鳥学会 内田奨学賞 決定報告

今年度は応募がなかったため,受賞者はなかった.



内田奨学賞の対象について

 ・本賞の対象は、アマチュアの研究者です。
 ・ここでのアマチュアとは、「鳥類の研究を本職としていない者」です。
 ・博士号を持つ者は原則対象外ですが、鳥学に関連しない学位であれば対象とします。

 内田奨学賞はアマチュア研究を奨励するための賞と位置づけられています(日鳥誌59(1): 123)。日本鳥学会は多くのアマチュアの貢献に支えられており、鳥学の発展のために欠かせない存在となっています。しかし、これまで「アマチュア」の定義が整理されていませんでした。そこで、評議員会において、本賞で対象とするアマチュアの捉え方を検討した結果、「鳥類の研究を本職としていない者」と考える方針が確認されました。日本鳥学会では、個人的な時間や資産を投じて鳥学に貢献している方を顕彰したいと考えています。
 また、日本鳥学会内田奨学賞規定第2条では、「博士の学位をもつ者や博士の学位取得を目指し大学院に在学している者は対象としない」としていました。鳥学の学位をもつ者等は、職業研究者と同等の立場と考えられるためです。ただしこの規定では、鳥学に関連しない学位であっても、博士号をもつ者等は応募できませんでした。この条件を緩和するため、2022年度総会にて規定を「・・・原則として対象としない」と改定することが承認されました。
 ただし、「鳥類の研究が本職かどうか」、「学位が鳥学に関連するかどうか」について明確な規準を設けることは容易ではありません。たとえば、同じく博物館の職員であっても、業務として研究できる環境があれば職業的な研究者と考えられますし、小さな博物館で業務時間中に十分に研究の時間がとれない環境であれば本賞の対象と考えています。このため、これらの要件については基本的に自己申告とします。参考のため下記に例を挙げますが、迷う場合には気軽に基金運営委員会にお問い合わせ下さい。
 鳥学の発展のため、多くの方にこの賞に応募いただけることを期待しています。

内田奨学賞の対象となる例
 ・博物館の職員だが、業務時間中に鳥の研究をする時間があまりとれない。
 ・職業的に鳥学研究をしていたが、すでに退職し、現在は仕事として研究をしていない。
 ・鳥の調査を仕事にしているが、研究は主に勤務時間外に実施している。
 ・鳥学と関連しない内容で学位を取得し、仕事と関係なく鳥を研究している。

2023.2.16 基金運営委員会委員長 川上和人



内田奨学賞 これまでの受賞者

受賞者一覧

  ※2009年度までは「奨学賞」、2010年度から「内田奨学賞」

 2023年度 溝田浩美伊関文隆
 2022年度 藤岡健人
 2021年度 (該当者無し)
 2020年度 (該当者無し)
 2019年度 (該当者無し)
 2018年度 才木道雄
 2017年度 (該当者無し)
 2016年度 (該当者無し)
 2015年度 (該当者無し)
 2014年度 (該当者無し)
 2013年度 渡辺朝一
 2012年度 (該当者無し)
 2011年度 (該当者無し)
 2010年度 (該当者無し)
 2009年度 (該当者無し)
 2008年度 堀江玲子
 2007年度 (該当者無し)
 2006年度 (該当者無し)
 2005年度 吉田保晴
 2004年度 小岩井彰
 2003年度 小池重人
 2002年度 (該当者無し)
 2001年度 遠藤菜緒子・清水義雄
 2000年度 (該当者無し)

1999年以前は,日本鳥学会100周年記念特別号「日本鳥学会100年の歴史」120-122ページをご覧下さい.


2023年度 溝田浩美

推薦根拠論文: 溝田浩美・布野隆之・大谷剛 (2020) 育雛期間の進行に伴うアオバズクNinox scutulata japonicaの給餌内容の変化.日本鳥学会誌 69: 223-234.

 溝田浩美氏はひとはく地域研究員として猛禽類に関する地道な調査と普及啓発活動を行っている.溝田ら(2020)では夜行性のアオバズクを対象として,雛の成長に伴い給餌内容を変化させていることを1,400個体以上の内容物を含む多数の食痕の分析と食物となる昆虫の捕獲調査を組み合わせることで明らかにした.観察の難しい夜行性鳥類の生態を明らかにしただけでなく,保全への貢献からも重要な内容である.溝田氏はこれまで多くのアウトリーチ活動を続けてきており,本賞の受賞により基礎的で地道な活動が評価されることは本人の大きな励みとなり,今後の次世代育成や市民科学活動へのより大きな貢献へとつながることが期待される.


2023年度 伊関文隆

推薦根拠論文: Iseki F, Mikami K, Sato T (2021) Unique and complicated wing molt of the Japanese Sparrowhawk Accipiter gularis.山階鳥類学雑誌 53: 3-23.

 伊関文隆氏は長年猛禽類の渡りや繁殖の調査を行い,Iseki et al. (2021) ではこれまで10年以上にわたり蓄積した写真や剥製等の200例を超える情報から,ツミの換羽様式についてその独特な特徴を示した.本研究で呈された換羽様式と生態の関連性を示唆する成果は基礎科学としての価値が高く今後の発展性が期待されるだけでなく,英語論文として発表していることから国外への波及効果も期待できる.アマチュアとして研究を行う中で長年蓄積した情報を英語論文として発表することは大きな成果であり,これが評価されることにより今後のさらなる研究活動の発展が期待される.


2022年度 藤岡健人

推薦根拠論文:
1. 藤岡健人・森本 元・三上 修 (2021) 北海道におけるカラス類の電柱への営巣:撤去にかかるコストの算出と営巣数の多い地域の環境要素の解析.日本鳥学会誌 70: 125-130.
2. 藤岡健人・森本 元・三上かつら・三上 修 (2021) カラス類は都市緑地から遠い電柱に営巣する傾向があるのか.日本鳥学会誌 70: 153-159.
3. 廣部博之・藤岡健人・三上 修 (2021) カラス2種の生息環境,利用空間の高さ,および行動個体数の違い.Bird Research 17: A21-A29.

 藤岡健人氏は、都市部で問題となっているカラス類と人間生活との軋轢解消を目的とした研究を行ってきた(根拠論文1, 2, 3).根拠論文1では電柱へのカラス類の営巣記録から営巣リスクの高い環境要素の抽出と撤去費用の推定を行い、北海道全体で撤去にかかる人件費は年間約4,000万円であるなど、具体的な数値を示した.また、根拠論文2では、都市緑地ではカラスの巣を撤去すると周辺の電柱への営巣リスクが高まる可能性があるため、巣を残すことが望ましい場合があることを示し、撤去方針への具体策を提言した.どちらも都市部におけるカラスと人との軋轢の把握と解決策の提案に貢献するものとして社会的意義も大きく、日本の鳥学が果たすべき社会的責任の一端を担う研究と言える.藤岡氏は中学校の理科教員として働くかたわら、今後も野外調査を続けていく意志を持っており、本賞の受賞は本人への強い励みになると考えられる.また、教員として生徒へ鳥類学を普及していくことにも大いに意欲的であり、今後の鳥類学の発展にも寄与すると考えられる.


2018年度 才木道雄

推薦根拠論文:
1. 才木道雄 (2016) 秩父山地におけるヨタカのさえずり頻度の季節変化. 日鳥学誌 65(1): 31-35.
2. 才木道雄・後藤晋 (2017) さえずり頻度の時間的変異を考慮したヨタカの効率的な生息調査法. 日鳥学誌 66(1): 19-28.

 才木道雄氏は,準絶滅危惧種であるヨタカを対象に,さえずり頻度の季節変化を定量的に記載した上で(根拠論文1),録音音声に基づいた利用しやすく簡便なモニタリング手法のデザインを探っている(根拠論文2).根拠論文1の成果は,不明な点の多かったヨタカのさえずり頻度の日周変化や季節変化を詳細に記載したものである.夜行性鳥類の音声研究上,たとえば音響学的特性の解析などのきっかけともなる基礎的成果である.さらに注目すべきは,そのヨタカの音声研究を本種のモニタリング手法の開発へと発展させた点にある.夜行性であり直接観察も難しいヨタカは,情報がないままに個体数を減らしている可能性も大きい.根拠論文2は,経験の浅い人による本種の生息状況調査を可能にする手法開発の第一歩として,鳥類モニタリングや保全生態学の観点から貴重な成果である.この研究がきっかけとなり,ヨタカ生息数の過大評価や過少評価が生じる可能性の検討など,より実用性の高いモニタリング手法確立を目指す研究が進むことが期待される.




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