ポスター賞を受賞して

澤田明(国環研・学振PD)

 こんにちは、国立環境研究所・学振PDの澤田明です。このたびは日本鳥学会2021年度大会において「繁殖・生活史・個体群・群集」部門のポスター賞をいただき誠にありがとうございます。この研究は私の所属する研究グループが長期的に蓄積してきた南大東島のリュウキュウコノハズクの基礎データを用いたものでした。長期調査を立ち上げ維持してきた先生や先輩たち、一緒に野外調査をしてきた学生たち、いつも島で私たちを受けいれ応援してくださる島民の皆さま、研究費を助成いただいた複数の財団や企業さまにお礼申し上げます。また、鳥学会の運営の皆様、記念品をご提供いただいたモンベル様、サントリー様、日本野鳥の会様にもこの場を借りてお礼申し上げます。毎年私たちの調査研究に付き合ってもらっているリュウキュウコノハズクたちにも感謝いたします。

ポスターの概略
 高次捕食者はしばしば保全の対象とされてきました。なぜなら高次捕食者はその生息地の生物多様性の指標として機能する可能性があったり、知名度の高さから保全活動の象徴的存在となったりするからです。フクロウ科は全世界に広く分布している主要な高次捕食者です。しかし、調査研究の進んでいる種はほとんどが、温帯から亜寒帯に生息する大陸の種で、科の大半を占める熱帯や亜熱帯の種は、保全対象としてあまり注目されていません。生息域のアクセスの悪さと,夜行性であることで調査がしにくいことが大きな理由です。しかし、特定地域や島の固有種である種も多く、それらは人知れず絶滅の危機に瀕している可能性があります。

 保全の目的は個体数を把握し絶滅をしないように維持することなので、個体群動態解析は保全研究の中心的な仕事です。近年用いられている個体群動態解析にIntegrated population model (IPM)という手法があります。IPMは個体群動態に関わる様々なデータ(生存履歴、巣立ち雛数、性別、センサスで数えた個体数など)をひとまとめに用いて、個体群動態の様々なパラメータ(生存率,産仔数、個体数,個体群成長率など)を同時推定する手法です。複数のデータを用いてパラメータを一度に推定することにより,各データに含まれる情報が効率よくパラメータ推定に利用され、各パラメータをそれぞれの別のデータで個別に推定する場合よりも,優れた推定ができるとされています。

 私は熱帯・亜熱帯・島嶼域のフクロウの個体群動態研究のモデルケースとして、南大東島のリュウキュウコノハズク(亜種ダイトウコノハズク)の個体群動態解析を行いました。ダイトウコノハズクは2002年から現在に至るまで繁殖モニタリングが継続され、特に2012年以降は島内の全個体を対象にした詳細な調査が毎年実施されています。今回の解析では2012年から2018年の間にのべ2526個体から得られた生存履歴、繁殖成績、性別、縄張り情報のデータを利用しました。

図_澤田.png
実際の捕食事例

A:捕食に会い、片方の翼をもがれてしまった雛。
B:巣立ち目前の雛が捕食されたあと。巣立ちが近づくと巣の入り口に立って餌をねだるため捕食に会いやすいのかもしれない
 解析の結果、個体数はオスが297個体、メスが273個体と推定されました。個体群成長率(ある年の個体数/前年の個体数)は0.98と推定され、個体数の減少傾向が確認されました。Life-stage simulation analysisという解析により、メスの年間生存率の低下が個体群成長率の低下をもたらすことも示され、メスの死亡が個体数変動に影響することが示されました。南大東島では人為移入されたネコやイタチによる繁殖中のメスや雛の捕食がしばしば確認されています(上図)。これらの捕食が個体群に悪影響を与えている可能性があります。本研究は熱帯・亜熱帯・島嶼域のフクロウ研究としては最も詳しい個体群動態の基礎データを提示しており、世界のフクロウ保護に貢献するものです。
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