11月11日は電柱の日?

広報委員 三上修

1年ほど前になりますが、電柱鳥類学という本を出しました。

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その本を、なぜ今頃になって紹介するかと言えば、理由は大きく2つあります。

1つは、鳥学通信は「ひと月に二報」を目指しているのですが、今月は今のところ記事が無いため、広報委員である私が自作自演(!?)をするためです。

もう1つは、今日はこの本を紹介するのにふさわしい日だからです。そう、タイトルにもあるように本日11月11日は電柱の日なのです(※厳密には、そのように一部界隈で言われているだけで、誰かが制定したわけではないようです)。

11月11日は、1が並ぶため、他にもたくさんの「〇〇の日」があります。ポッキーの日だったり、チンアナゴの日だったり、きりたんぽの日だったり。まあでも、一番ふさわしいのは電柱の日でしょう。

さて、電柱鳥類学とは聞きなれない言葉ですが、何かといえば、当然ながら電柱と鳥の関係を解明する学問分野として、私が勝手につけたものです。そんなの勝手につけていいのかと怒られそうですが、道路とそれにかかわる生物との関係を研究する道路生態学(Road ecology)なども、ある研究者が勝手につけて、いつの間にか定着してしまっています。

電柱およびそれに架かっている電線と、鳥との関わりだって、割と深いのです。森林に生息する鳥にとって、木々は、止まり木であり、営巣場所であり、索餌場所になります。一方、都市に進出した鳥たちにとっては、電柱電線が同じ役割をします。都市にいる鳥は、電柱電線に止まり、巣を作り、餌を探す場所として利用するのです。森林において、木と鳥の関係を研究する意味があるのであれば、電柱と鳥の関係だって研究したって良いではないですか。

確かに、誰かに「こんなものを研究として扱ってよいのか!?」と問われれば、正直、私も「こんな研究でいいのでしょうか?」と伏し目がちに問い返さなければならないくらいの自信しかありません。まあでも基礎研究は、究極的には面白いかどうか(知的好奇心を満たすかどうか)なので、自分が面白いと思ったらやればいいのだと思います。

それに、この研究は今しかできません。おそらく将来的に電柱電線は地中化されます。となると、我々は、電線に止まっている鳥を観察できる貴重な時代を生きていることになります。

というわけで、お散歩ついでに電線に止まっている鳥を目に焼き付けてみていはいかがでしょうか?

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新刊紹介:「知って楽しいカモ学講座」嶋田哲郎 著 森本元 監修

嶋田 哲郎

 このたび、山階鳥類研究所の森本元さん監修のもと、緑書房さんより「知って楽しいカモ学講座」を上梓しました。冬になると水辺を賑わすガンカモ類。識別のための図鑑は世にたくさんあります。一方で、何をしているのだろう、何を食べているのだろう、といった暮らしぶり、すなわち生態を記した書籍はほとんどありません。この本は、宮城県北部の伊豆沼・内沼を中心とした水域をモデルとして、これまでの研究によって私が明らかにした、カモ、ガン、ハクチョウといったガンカモ類の暮らしを主体とし、日本国内外の多くの研究結果なども活用させていただきながら、カモ学として体系的にまとめ、解説したものです。

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 ガンカモ類のほとんどは日本で冬を過ごす渡り鳥です。本書の前半では、水辺での暮らしに適応したガンカモ類の特徴的な生態や体の作りを記した後、繁殖、渡り、越冬と、彼らの一年の大きなイベントごとにその様子を紹介しています。特に読者がガンカモ類を目にする冬、彼らがこの時期を乗り切るために重要なことは、いかに食べるか、いかに安全に休むか、といった食住です。越冬期の暮らしでは、この点にしぼって種ごとの越冬戦略を紹介しています。

 こうしたガンカモ類の食住は気象条件の影響を強く受けます。気温や積雪の変化に応じて、冬の間であっても越冬地の間を移動します。また、その変化が長期化することでもたらされる気候変動によって、もともと中継地であったところが越冬地へ変化することが起きたりします。

 ガンカモ類は、林やヨシ原をすばやく移動しながら生活する小鳥と違って、水面に浮かんでのんびり過ごしたり、農地に集団でいたり、その姿は見やすく、鳥のなかでも観察しやすいグループです。また、農地に残った籾や大豆、畦の草本類を食べ、河川やハス田、休耕田などを利用する種もいれば、潜水して水生植物や魚類、甲殻類などを食べる種もいます。

 このように、人の身近で生活するガンカモ類は観察しやすい上、地域の生態系の基盤を構成する多様な食物を採っています。このことは生息地の環境変化を受けやすく、生態系の変化を指標しやすい種群であることを意味します。生態系の指標としてのガンカモ類、そしてそれに基づく保全も紹介しています。さらにガンカモ類の調査のもっとも基本となるモニタリングについて、どなたでも明日から始めることができる調査方法から新技術を活用したモニタリングの最前線まで紹介しています。

 この本は一般読者から研究初心者、熟練の研究者まで幅広い読者層を念頭に置いて書いています。一番難しい一般読者への伝え方を考える時、普及啓発も職場での仕事のひとつで、その経験を活かせるという利点が私にはありました。普段の自然観察会や講話などで必ず出てくる質問に答える形をとったのです。その説明によって一般読者の知りたいことを伝えられると考えました。本書のカギカッコで出てくる質問はそれに当たります。

 本書ではすべての種は扱っていないものの、この一冊でガンカモ類の基本から専門的かつ最先端の幅広い知識を得ることができると思います。一般読者にはガンカモ類がどういうものかわかっていただき、興味の裾野が広がると思いますし、研究者には研究の到達点をおわかりいただけると思います。そのことは、ガンカモ研究の底上げにつながると私は考えています。ガンカモ類を研究しようと思ったとき、ゼロから論文を探さなくても、この本でその生態の概要を理解しながら、当たりをつけて深く掘り下げていくことができるはずです。ガンカモ研究へアクセスしやすくなることで、効率的に研究をすすめることができるでしょう。

 この本をきっかけにガンカモ類への社会的関心が高まり、ガンカモ研究、ひいては鳥学がより発展していくことを願って止みません。
 
 最後に蛇足ながら、表紙右下のイラストのモデルは私だそうです。

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「ツバメのせかい」発売中!

石川県立大学・客員研究員
長谷川 克(理学博士)

こんにちは!ツバメ研究家の長谷川克と申します。この度、森本元博士に監修いただき、「ツバメのせかい」という本を執筆いたしましたので紹介させていただきます。

本書は前著「ツバメのひみつ」の姉妹書です。前著では客観的に見たツバメの進化や生態について—例えば、ツバメの長い尾羽がどのように他個体に作用して進化してきたか、ヒトのそばで繁殖する意味など—幅広く扱わせていただきました。こうした客観的なツバメ観は個人の印象や思い込みに左右されずにツバメという生物を正確に捉えるのに必要不可欠な物の見方です。

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書影

でも、客観視することで相手を完全に理解できるかといえば、もちろんそんなことはありません。ツバメがどのように生き、どうやって進化してきたのか理解するには、ツバメ自身の物の見方、いわばツバメ主観的な世界を知る必要があります。例えば前述した燕尾についても、ツバメたちが物差しで客観的に長さを測定できるなどと考えるのはナンセンスです。むしろ、彼らにとっては「長く見える」燕尾をもつことが大事で、ヒトが二重や涙袋で目を大きく見せるように、ツバメも積極的に錯視を利用して尾羽を長く演出して、進化の仕方を変えていると考えられています。おまけに鳥類はヒトと違って紫外線や偏光まで見えるため、こうした視覚情報も日々の暮らしと進化に絡んできます。もちろん視覚以外の感覚、あるいは感覚器で受容された刺激がその後どうやって脳で処理されるかによっても、世の中の捉え方(と生き様)が変わります。

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飛翔中のツバメ

「ツバメのせかい」では、そうしたツバメから見た世界にクローズアップし、客観的な世界観だけでは扱いきれなかったツバメの生き様を扱うことを目的としています。今風に言えば、「推し」の世界観を紹介する本、といえるかもしれません。もちろんツバメの世界はツバメ1羽だけで成り立っているわけではなく、近隣個体や、同種他個体が織りなす社会、あるいは他種生物との様々な関わり合いによって構成されますので、本書ではツバメたちから見た物理環境と生物環境の両面から彼らの世界に迫ります(普段の観察では見落としがちな寄生虫や腸内フローラ等との相互作用も扱っています)。

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ツバメに関わる生物の例(下段右から2番目(C)佐藤雪太)

なお、私たちのように定住生活する生物では周りの環境もそうそう変わりませんが、「渡り鳥」として繁殖地と越冬地を毎年行き来するツバメでは、晒される環境も大幅に増え、目まぐるしく変わることになります。前著「ツバメのひみつ」では、ツバメの生活を繁殖地と越冬地で分けて別々に扱っていますが、「ツバメのせかい」では渡り自体に着目し、ルートの問題だったり、タイミングの問題だったり、ツバメにとっての(動的)環境を扱いました。

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ツバメの渡り

結果として、「ツバメのせかい」は前著とは違った切り口でツバメを扱った書籍になっています。あくまで続巻ではなく姉妹書なので、「ツバメのひみつ」を読んでいなくとも本書を楽しんでいただけますし、両方読んでいただければ切り口の違いも感じとっていただけると思います(どちらも共通して著者のダジャレが頻出しますが、これについては鼻で笑って受け流してください)。

本書「ツバメのせかい」はツバメに興味のある幅広い読者(ファン)層を対象としていますので、前著同様にわかりやすい表現で基本的なところから解説しています(監修の森本元博士や編集者の方々には大いに助けていただきました・・・というより偏屈な私に辛抱強くご対応いただいて感謝しかありません)。鳥学通信をお読みいただいている皆様には耳タコな話題もあるかもしれませんが、エピジェネティクスやソーシャルネットワーク等を扱った最近の知見も盛り込んでいますので新しい発見も必ずあると思います。ぜひこの機会にお手に取っていただき、ツバメの世界を覗いてみていただけますと嬉しいです。

図はいずれも「ツバメのせかい」より

【書籍情報】
長谷川 克(著)・森本 元(監修). 2020. ツバメのひみつ. 緑書房
長谷川 克(著)・森本 元(監修). 2021. ツバメのせかい. 緑書房

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鳥の研究を始めたい人によい本が出ました

国立科学博物館動物研究部 濱尾章二

「鳥の研究をしてみたいけど、どうすればいいの?」という若い方は多いことと思います。また、「そもそも鳥の『研究』ってなに?」という疑問を感じている方もあるのではないでしょうか。そんな方によい本が出たので、紹介したいと思います。
『はじめてのフィールドワーク③日本の鳥類編』(武田・風間・森口・高橋・加藤・長谷川・安藤・山本・小林・岡久・武田・黒田・松井・堀江著、東海大学出版会)です。

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この本の著者は14人の若手研究者です。全員ほぼ30歳台、多くが博士号をとったばかりの人です。スズメ、ツバメといった普通種からコウノトリや海鳥までいろいろな鳥について、市街地・高山・離島などさまざまな場所で調査をした人たちが1章ずつを担当し、自分の調査経験と研究を紹介しています。

頭が切れる人、体力・ど根性の人、ふつうの人、いずれが書いた章も引き込まれるおもしろさですが、暗中模索の学生さんがフィールドに出、自分の観察から学問的テーマを見つけ出し、研究を発展させていく過程が手にとるようにわかる風間さんの章と堀江さんの章が、私には特におもしろく、読みごたえがありました。研究には、最初から課題を定めそれを解いていこうという仮説検証型のスタイルと、観察事実をつみあげて何がわかったかを考えるデータ先行型のスタイルがあります(前者は長谷川さんの章、後者は山本さんの章を読むとよくわかります)。この本の著者たちはどうやって自分の「研究」を作っていったのかが、私には最大の読みどころでした。「よい疑問(仮説)を立てよ」「データは料理次第」とは言われますが、それにはどうすればよいのか? その答えも、この本の中には複数含まれています。

アマチュア研究者であった私は、当時「個々の論文には書かれていない、ある人が博士号取得に至る研究の全貌」を思い描くことができずにいました(山岸哲さんの受け売りですが、私も本当にそう感じました)。この本は、そういう「全貌」を知りたい人にも歓迎されることと思います。

一方、この本の最大の特徴は、研究そのものにもまして、研究以前の段階から研究をなしとげるまでの若者の姿がたっぷりと描かれていることです。高校や学部学生時代の経験から研究を始めるに至る過程、そして本格的な調査から論文をまとめるまでが、飾らない生き生きとした文章で綴られています。進学先のさがし方、指導教員とのやり取り、フィールドでの苦労(トイレ、木登り、職務質問等々)、安全対策、研究上の悩みなど、笑ってしまうケッサクな話もなるほどと感心する話しも、正直に書かれているのがこの本の魅力であり、後に続く人の糧となることでしょう。

読んだ後には、「こうやれば自分もできるかも知れない」「いい研究をした人でも悩んだんだ」「やっぱり凄い人は最初からよく考えてるなー」といろいろな感想がありそうですが、これから研究を始めようとする人に役立ち、そういう人を励ます本であることは間違いありません。内容に比べて値段も安く、学会員ではない方を含め、広くお薦めします。

最後に、編者とはなっていませんがとりまとめの労をとられた北村亘さん、そして東海大学出版部に「グッジョブ!」の言葉を送ります。

(参考)鳥の研究をしてみようという方に、以下もお薦めします。
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154–159.
上田恵介(編) (2016) 野外鳥類学を楽しむ.海游舎.
佐藤宏明・村上貴弘(編) (2013) パワー・エコロジー.海游舎.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院.鳥学通信.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院 (Part-2).鳥学通信.
調査ボランティア紹介(日本鳥学会企画委員会)

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新刊紹介:「目立ちたがり屋の鳥たち」江口和洋著

2017年4月7日 江口和洋

 今は昔,「無名のものたちの世界」(1973年:思索社)という全3巻の本がありました.当時,興隆し始めた,ニコ・ティンバーゲンやコンラート・ローレンツなどに代表される行動学(エソロジー)の研究成果を基に,動物たちの面白い行動を紹介した一般書でした.鳥では,浦本昌紀さんによるニワシドリ類のあずまや建築行動の紹介が特に面白く,大学院に入ったばかりの私は,そのうちに自分もこんな面白い鳥の研究をやるぞと思いつつ読みふけったものでした.この本に限りませんが,振り返れば,若い頃にいろいろな本に出会い,そのことが自分の行く末を決定したのだということがよくわかります.改めて,読者の興味を引き出すような良書の効果は大であると感じます.

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 昔(もう大昔です)と比べると,現在は情報の収集は格段に便利に容易になりました.目的がはっきりしていたら,情報を探し出すことは数分で済みます.しかし,ネット上の情報はあちこちに散らばっています.目的を形成する以前では,体系的にまとまった情報を引き出す事は不可能です.本の重要な役割はここにあります.つまり,まず,読者にある主題への興味を引き起こすことで,それにより,読者に次へ進むための目的を与えることです.ただ情報を提供するだけであれば,本はネットに太刀打ちできませんが,情報を整理した状態で提供して読者の研究への興味を引き出すことは本にしかできません.この「目立ちたがり屋の鳥たち」は,一人でも多くの人に鳥の研究の面白さを知っていただきたいと言う目的で執筆されました.

 内容は,以下の通りです.

第1章 早起き鳥はセクシー  つがい外交尾と精子競争  
第2章 イケメンはイクメン  正直な信号  
第3章 オオカミがきた!   盗食と信号の操作  
第4章 愛の巣を飾ろう  つがい形成後投資  
第5章 イースターエッグを探せ   目立つ卵殻色の進化  
第6章 舞踏への勧誘  ニワシドリのあずまや建築  
第7章 親の手助け弟を世話し   協同繁殖  
第8章 デキる奴はモテる   認知行動と個性  
第9章 ライバルこそが頼り  他種の利用または搾取
  
 本のタイトルや章タイトルは,くだけた表現であることから察せられるように,この本は学術書ではありません.でも,いろいろな鳥の行動を主題毎に整理して紹介しています.ただ面白おかしいと言うのではなく,一つ一つの事実については,すべて研究成果に基づいています.また,単に事実の紹介だけではなく,それぞれの行動の意味についても,実証的研究の成果に立った解釈を紹介しています.動物の行動に関しては,事実そのものが面白いと感じるだけでなく,なぜかと言うことを知りたいという欲求が多くの人にあります.この時に,一般書やマスメディアでは,十分な根拠に基づかない「俗説」に基づいて面白おかしく説明されることがしばしばあります.これは科学研究にとっては不幸なことです.本書では,このような説明を極力排除して,十分な根拠に基づいた論理的な説明を心がけ,十分な証拠が得られていない主題については将来の研究に委ねると言う態度を貫いています.

 本書では,鳥の行動の説明原理の根本は個体間や雌雄の対立だという立場から解説を行っています.第1章のつがい外父性はその典型であり,つがい外父性という現象が次章以降のさまざまな行動と関連していることを述べています.一見,個体間の協同と見られる協同繁殖についても利益の対立とは無縁でなく,この繁殖様式の進化に関する説明も一筋縄ではいきません.
 
 信号の進化は鳥類行動学の重要な分野です.これまでは,さえずりなどの音声コミュニケーションや羽衣の装飾など鳥類自身の形態や行動に注目されて研究が進められて来ましたが,さらに,最近では形態の外部にある「延長された表現型」の研究が大きく進展してきました.巣の形態,卵の色,さらには,求愛場所の装飾なども配偶者獲得に重要な役割を演じていることを述べています.巣作りの巧妙さに見られるように鳥類は優れた建築家であることは良く知られています.そのような優れた建築物や道具を作る能力は知的能力(認知能力)と関係しています.最後の他種の利用は,同種間の個体間関係を取り扱った他の章と異なり,他種との共存を生じさせている理由に関する行動的側面と取り扱っています.
 
 先に述べたように,本書では多くの研究成果を紹介することで,鳥の行動の面白さとそれらの行動の進化を引き起こした理由についての仮説のいろいろを伝えようとしています.専門の研究者だけでなく多くの鳥学会員の方々に読んでほしいと思います.学術書ではないと書きましたが,行動の意味を説明する部分では少々専門的な知識が必要になる部分もあるかとは思います.そのような時は読み飛ばして,面白い行動の事実だけをまず知って,興味が湧いたら「なぜ」と言う疑問の解明へと進むことをお勧めします.

 最後に,鳥学会員の方々にお得な情報を提供します.本書は,著者割りで購入できます.購入を希望される方は,下記のとおり,東海大学出版部の担当者の稲英史さんまでメールで申し込んでください.

【書名】目立ちたがり屋の鳥たち-面白い鳥の行動生態
【著者】江口和洋
【体裁】A5変形,254頁,並製
【定価】3024円
【著者割引】2420円(税込)
・尚、送料は400円 3冊以上の場合,送料小会負担でお送りします
【発 行】東海大学出版部
【発売日】2017年4月20日
【ISBN】ISBN978-4-486-02140-7

 お支払方法 振込、MASTER・VISA CARDを但しカードの場合は、カード名義、カード番号、有効期限をご連絡ください。 ご購入の場合はメールにて稲(inaair@tsc.u-tokai.ac.jp)までご連絡ください

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新著紹介「鳥の行動生態学」(江口和洋編著.京都大学学術出版会)

2016年3月31日
江口和洋

鳥の研究というのは楽しいものです.その楽しいはずの研究がしんどいものと感じるようになるのが論文作成の時です.論文作成を前提とした研究を進めるためには,その研究の世界的な趨勢を知ることが必須な作業であるからです.インターネットを使って情報検索が格段に容易になった現代でも,各情報の内容を理解するには、その情報源の一つ一つに当たらなければならないのは,昔から何も変わってはいません.昔は情報取得の困難さのために参照する範囲が限られるという言い訳も通用しましたが,今では参照可能な情報が満ちあふれ,情報の取捨選択だけでも大変な作業です.

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このような時代にあってこそ望まれるのは,さまざまな研究テーマに関する総説です.総説を読んで,あらかじめ,研究テーマの意義や世界的趨勢を把握することにより,情報参照が格段に容易になり,しんどさも軽減されます.そのような総説を満載した本書ほど鳥類研究者にとって「おいしい」本はないと思います.本書の各章は,血縁認知,対称性のゆらぎ,配偶システムとつがい外父性,オスからメスへの給餌行動,条件的性比調節,子殺し,托卵鳥と宿主の軍拡競争,採餌行動における知能的行動,警戒声による情報伝達,さえずりにおける形質置換と種分化,ストレスホルモンという,行動生態学分野におけるホットな研究テーマをカバーしています.テーマにより内容に硬軟がありますが,11名の著者は,研究の世界的趨勢やこれらの行動の進化的意義などについて,いずれも,わかりやすく解説しています.それぞれのテーマに興味を持った読者は本書により方向付けをすることで,アルファベットに満ちあふれた,視界不良の情報の海に,怖れることなく入って行くことができるでしょう.

たった1冊で,鳥類といわず,脊椎動物の行動生態に関する主要なテーマのほとんどを網羅している,非常にお得な解説書であるといえます.各章の内容は高度ですが,学部学生のための生態学の教科書として,また,卒業研究や学位研究の研究テーマを考えるための手引きとして適当だと考えます.もちろん,鳥の行動についてもっと良く知りたいという鳥学会の会員にも,章ごとに多くの情報を提供します.

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骨を折って編集した「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」の紹介

2016年3月3日
環境省奄美野生生物保護センター 水田拓

私の職場である環境省奄美野生生物保護センターには多くの研究者が来訪します。さまざまな研究者にお会いし、そのお話を聞くにつけ、自然史研究の面白さ、奥深さを実感し、こんな話を内輪にとどめておくのはもったいない、広く一般の人々に、例えば本などにして紹介することができれば、と、以前から考えていました。

とはいえ、本など簡単にできるものではありません。気になりつつも、出版はなかば妄想のように頭の中にとどまっているだけでした。ところが。妄想が実現するきっかけとなる出来事が2年前に起こりました。2月のある雨の晩に、職場から自宅に歩いて帰る途中、水たまりで足を滑らせ転倒し、あろうことか左足を骨折してしまったのです。全治3か月。野外調査が始まろうという大切な時期に、山歩きはおろか日常生活もままならない事態に陥りました。

意に反して机の前から動けない時間が3か月できたとき、くだんの妄想が浮かび上がってきました。これを機に、出版に向けて動き始めよう。幸い東海大学出版部の編集者、稲英史氏を紹介してくださる方がいて、稲氏に出版を引き受けてもらえることになりました。またうれしいことに、原稿を依頼した全ての方から執筆承諾の返事をいただけました。こうして多くの方々の協力のもとにできあがったのが、この「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」です。骨折したのが2014年の2月19日、出版されたのが2016年2月20日ですから、まるまる2年をかけて、妄想が現実のものとなったことになります。

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まあそんな個人的な経験はさておき、この本では総勢23名におよぶ研究者が分担執筆して、奄美群島を舞台に自身が行っている自然史研究について紹介しています。研究対象や研究分野は幅広く、内容は単なる一地方の自然の紹介にとどまっていません。奄美群島という地方を軸としながらも「自然史研究とはなにか」を具体的に示した、教科書としても読める本になっているのではないかと自負しています。また、研究内容が面白いだけでなく、それぞれの著者の文章からは、野外調査の苦労や喜び、奄美群島の自然に対する熱い思いなども伝わってきます。そこはかとないユーモアさえ感じられる対象生物への愛情表現も見逃せません。生き物が好き、自然史研究が好きな人には、きっと面白く読んでいただけると思います。

ところで、著者は23名いるのに表紙に「水田拓編著」とだけ書かれているのは、なんとも面はゆい気がします。しかしこれは、内容に関する責任は全て水田が負う、ということの現れでもあります。誤りは、編集段階で何度見直しても次から次へと見つかりました。もしかしたらまだあるかもしれません。いやきっとあるでしょう。誤りの指摘は真摯に受け止め、批判は甘んじて受けたいと思っています。しかしそれ以上に、賞賛には手放しで喜びます。文字通り骨を折って編集したこの本、ぜひお読みいただき、感想などもらえればありがたく思います。

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本の紹介「身近な鳥の生活図鑑」

2015年12月7日
北海道教育大学 三上修

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本を新しく書きました。

これまで、2012年に「スズメの謎」(誠文堂新光社)を、2013年に「スズメ-つかずはなれず二千年」(岩波書店)に出しており、それにつづく本です。

今回は、新書です。新しく書いたのだから、新書で当たり前じゃないかと言われそうです。新書という言葉は、どうも紛らわしい言葉です。中古書の反対語としての新書という意味もあるし、版のサイズというかジャンルとしての新書という意味もあります。最近は、「新書=新書版」という気もしますが、広辞苑第六版によると、第一項目は、新しい本の意味で、新書版としての意味は第二項目でした。

それはさておき、今回のことを両方の意味で使えば、「新書を新書で出します」=「新しく書いた本を、新書版で出します」ということです。

肝心の内容は、町の中にいる鳥がテーマになっています。

町のなかで、ふと見る鳥を楽しんで欲しいという思いがあります。それから、町のなかの「奇妙さ」を知ってもらえればという思いがあります。普段、我々は町の中で生活しているので、これが日常だと思っていますが、町という環境は地球上の他の環境と比べて、とても「変てこ」なところです。「変てこ」なところで、どんな風に、鳥たちがうまく生活しているかということを知ってもらればと思います。

本書の紹介を「カラスの教科書」の松原始さんに書いてもらいました。残念ながら、その文章が読めるのは1月になってからです。

2012年に「スズメの謎」を出した時も、「カラスの教科書」とほぼ同時期でした。今回も「カラスの補習授業」と同時期ということになります。片利共生的に、私の本も売れると良いのですが。

前回は、松原さんと物々交換で、サイン入り「カラスの教科書」を入手したんですが、今回は書評のお礼で出版社から送っちゃったので、物々交換できそうにありません。自分で買って、サインしてもらうことにします。

そういえば、「カラスの教科書」は、雷鳥社でしたよね。私の今回の本にも「らいちょう」がでてきます。町のなかの鳥なのに、なぜ、「らいちょう」が出てくるかは、本書を読んでのお楽しみです。

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著書じまん「岩波科学ライブラリー ハトはなぜ首を振って歩くのか」

2015年10月19日
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人類学者を志しながらハトの首振りを研究テーマに選ぶのは、明らかにスタート地点からいろいろ間違っている。それくらい私だって気づいていたが、十数年も首振り研究にまい進してしまった。思い返すに、その責任の一端は、そんな研究を「面白い」と評価してくださった多くの鳥学会会員の皆様にある。みなさんの懐の広さが一人の若き研究者の人生をいかにたやすく狂わせ、その結果どこにたどりついたのか、ぜひ本書を一読していただきたい。

本書「岩波科学ライブラリー ハトはなぜ首を振って歩くのか」は、動くとは何か、歩くとは何かという基本的な問いかけを入口に、形態学、運動学、神経生理学、行動学などさまざまな視点から、鳥の歩行や首振りにまつわる数々の疑問に挑んでいる。挑んだ結果はねかえされているケースもあるが、首振り研究の歴史から今後の展望まで、平易な言葉を使いながら、しかし専門性を損ねることなく見事にまとめあげているあたり、さすがだ。岩波書店の方々の努力により、首振りの章の片隅にハトが首を振るパラパラがあり、秘蔵の首振り動画もネット閲覧できる念の入りよう。「21世紀科学における首振り研究の到達点」と呼ぶにふさわしい出来栄えになっている(誰が呼んでいるのかといえば、私が呼んでいる)。本書を読まずして、もはや首振りを語ることは許されないだろう。

ところで、ここしばらく首振り研究者としては目立たない灰色の人生を歩んでいた私だが、本書の出版が契機となり、デイリーポータルZさんの「ハトの目線を体験できるメガネ」開発に関わらせていただいた。本書では「鳥類ハト化計画」で首振りの章を終えたが、よもやその先に「人類ハト化計画」が待ち受けていようとは、人類学者として本懐を遂げたといっても過言ではない。(やっぱり道を間違えてないかというツッコミは、そっと胸にしまっておくといい)

…科学とは、1%のヒラメキと、あと99%は後先考えずにそれを実行しちゃう愚かさなのかもしれない。

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「人類ハト化計画」の打合せ風景(画像提供:デイリーポータルZ、加工:藤田)

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ココロに安らぎを、ポケットに首振りを。

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鳥類学者の思考および表象の連鎖と自身の適応度の関係について、もしくは著作の宣伝

2015年10月11日
東京大学総合研究博物館 松原始

ちょうど3年ほど前、『カラスの教科書』という本を雷鳥社より出版させて頂いた。最初の「カラスの写真集に解説を書く」という企画が何をどう間違ったのか、ゆるふわ気味にカラスを紹介する本になったが、幸いにして望外の好評を頂いた。上司には「二匹目のドジョウ、早く狙いなよ」と言われたのだが、絞り尽くしてスッカラカンな頭からこれ以上どうやってネタを取り出せばいいのか。

しかし。鳥の話をすれば、どうしたって内容が展開して行くのを止められない、という経験はないだろうか?

例えば、オープンカフェでデート中、アイスラテを手にした彼女が飛び交うツバメを見ながら、ふと「ツバメって冬はどうしてるの?」と聞いたとしよう。その時、鳥類学者の脳内には「渡り鳥と留鳥」「シベリアツバメの越冬個体群」「沖縄での情況」「捕獲によるマーキングの重要性」「渡りのコース」「アルゴスはいいけど重くて高い」「ジオロケーターとGPSデータロガー」「渡りの起源」「鳥のナビゲーション」「ツバメの集団ねぐら」「夏鳥の減少」「コシアカツバメの比率」「サイト・フィデリティとメイティングの過程」「雄の魅力とハンディキャップ仮説」「尾の長さに関するメラーの実験」「フラクチュアル・アシンメトリー」「ストレスと白斑」「放射線ストレス」「巣の乗っ取りと子殺し」「適応度」「利己的遺伝子」「営巣場所の変化」「環境変化がツバメに与える影響」「アシ原の保全」「ツバメと人間の関係」「ツバメの名を関したあれこれ」「燕尾服と結婚式」など様々な話題が連鎖的に展開されるはずだ。

これこそ鳥類学。生態学や分類学という分野に基づくカテゴライズがあるにも関わらず、「鳥」という対象動物を軸として各分野に展開される、互いに関連しあった世界である。思い付くままに「そういえばね」「〜と言えば」とネタは続く。どこまでも続く。ふと気づいたら目の前に彼女はおらず、伝票だけが残っているだろう(註1)。

『カラスの教科書』を書いた時にも、カラスにまつわるエトセトラは色々と盛り込んだ。だが、内容は手加減したし、最終的には多くを削った。小難しすぎて一般受けしなさそうだったり、説明しだすと長くなりすぎたりしたからである。「世間一般」は学者が考える以上に、理論とかグラフが嫌いだ。うっかり持ち出すと内容以前に拒絶されるか寝落ちされる。

だが、削った部分には鳥類学の面白さの要点が含まれており、それ自体がネタの数々であって、それこそ「自然科学的な旨味」なのだ。「カラスちょっとかわいいかも」の次は、やっぱり、カラスをちゃんと鳥として見てほしいし、きちんと「鳥類という生物」として理解してほしい。その面白さも理解してほしい。ならば、普段、自分がついつい話してしまうように、「〜といえば」を展開してやろう。今回の本はどう工夫しようとも多少説明っぽくなるだろうが、「その先にある面白さ」を求める人に伝わるならば。

ということで、『カラスの補習授業』が雷鳥社より刊行予定である(11月中に出るかどうかだが、ひょっとしたら遅れるかも)。多分、今度も400ページくらいになる。前著に引き続き、「カラスくん」も全編に登場する。より科学っぽくお楽しみ頂けるものになっているか、削りカスを集めた糠団子にすぎないか、それは読者の判断に委ねるとしよう。

註1)この場合は「ツバメ? ああ、冬の間は水の中で冬眠してるよ」とでも答えておくのが、適応的な戦略である。

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