英文誌「Ornithological Science」のペーパーレス化開始のご案内

>>下記お知らせのPDF版はこちら

日本鳥学会2023年度大会総会では、英文誌「Ornithological Science」のペーパーレス化についてご承認いただき、誠にありがとうございました。総会資料では検討中となっていた項目を含めて、改めて詳細な検討を行い、最終方針を決定いたしました。以下の通り、ご案内いたします。

・英文誌ペーパーレスの開始時期について
2024年1月以降に出版される23巻1号より開始いたします。

・今後の印刷部数について
総会でご提案した通り、今後は50部のみ冊子の印刷・郵送を継続いたします。これにより、現在の1400部を印刷・郵送した場合と比較して、約60万円の支出削減を見込んでおります。50部の内訳は、事務局等の保管用が5部、寄贈が5部、希望する団体会員への配布が20部、書店販売が5部、その他15部を想定しています。今後、実際の配布部数を見ながら、印刷部数を調整する可能性もございます。

・団体会員について
団体会員の皆様には、二つの選択肢がございます。どちらも追加費用はございません。
1.これまで通りの冊子の郵送(ご連絡が必要)
2.冊子を郵送しない代わりにJ-STAGEのID/パスワードの付与(ご連絡は不要)
1番(英文誌の冊子)を希望される場合、お手数ですが2023年12月31日(日)23:59までに必ず以下の宛先にご連絡ください。期限内にご連絡がない場合、2番の扱いとさせていただきます。2番を希望される方のご連絡は不要です。印刷部数には限りがありますので、想定部数を超える申し込みがあった場合は、先着順での対応とさせていただきます。

連絡先:katayama6@affrc.go.jp または 029-838-8253(事務局 片山)
件名「英文誌冊子希望(団体名)」、本文は空で構いません。できるだけメールでのご連絡をお願いいたします。

・一般会員について
J-STAGEではこれまで通り、学会員は各自のID・パスワードを使ってログインすることで、論文PDFを閲覧およびダウンロード可能です。なお非会員は公開二年後に論文PDFが閲覧およびダウンロード可能です。年内に、学会員一斉メール(メールアドレス未登録者には郵送)にてID・パスワードを再度ご連絡する予定です。この機会に、ぜひご自身の「マイページシステム」からメールアドレスの登録または更新をお願いいたします: https://mypage.sasj2.net/site/osj/login

一般会員の皆様には、できるだけペーパーレスへのご協力をお願いいたします。英文誌の冊子を強く希望される方は、2023年12月31日(日)23:59までに以下の宛先にご連絡ください。残部がある場合のみ、先着順で対応いたします。また年間3,000円の追加費用が別途必要となります(支払方法は別途ご案内いたします)。
※上記期限後に申込みをされる場合、印刷費用が別途かかるため、これまでの都度購入と同じ価格(1冊2500円・年間5000円)となりますので、くれぐれもご注意ください。

連絡先:katayama6@affrc.go.jp または 029-838-8253(事務局 片山)
件名「英文誌冊子希望(個人名)」、本文に「振込予定日」を書いてください。できるだけメールでのご連絡をお願いいたします。

・雑誌の寄贈および交換について
国外との交換については、図書管理委員らと協議を行った結果、英文誌・和文誌の国外郵送を停止いたします。その際、今後も鳥学会誌及びOSを閲覧していただけるよう、二年後にはJ-STAGEで全ての論文が無償公開されることを案内いたします。
※現在、国外の28団体と交換を行っていますが、学会誌を送付する団体は年々減少し、現在は9団体のみとなっています。これらの学会誌に入手困難なものは含まれず、会員へのメリットは少ないのが現状です。

国内への寄贈については、各団体へアンケートを行った結果、5団体へはこれまで通り冊子の郵送を継続いたします。この他の団体については、郵送を希望しなかったため、停止いたします。

なお、今回の雑誌交換の停止にともなう図書管理委員の規定改定は行いません。今後、何かしらの理由で雑誌を交換する必要性が生じた場合に対処するためです。

・カラー図の無償化について
これまで著者負担だった英文誌のカラー図ですが、今後は無償でご利用いただけます。カラーの図を希望される方は、論文を投稿される際にカラーの図をお使いください。なお、和文誌はこれまで通り著者負担となりますので、くれぐれもご注意ください。

・別刷りの扱いについて
著者への別刷り30部の無料配布は廃止とし、著者が直接印刷会社に依頼注文する形に変更させていただきます。依頼方法については、論文投稿システムを用いて著者らに直接案内いたします。

・査読協力者への御礼について
これまで、和文誌・英文誌ともに査読協力者の皆様には、お礼として別刷り無料権(50部)を進呈していました。今後は、査読協力者の皆様には「和文誌の別刷り無料権(50部)」を進呈いたします。英文誌の別刷り無料権は廃止といたします。申し訳ございませんが、ご理解いただけると幸いです。

・SNS等での新着論文の宣伝について
英文誌の新着論文については、多様な媒体(学会HP、一斉メール、鳥学通信、SNS等)を用いて積極的な情報発信に努めます。その際、タイトルと要旨の日本語訳も添えるよう努めます。ただし、これらの作業には各委員会委員(主に広報委員会)の作業負担が増えることが想定されるため、アルバイト等の負担軽減策の導入を前提とさせていただきます。できるだけ早期の導入を目指しますが、現時点では導入時期は確定していません。また必要な予算も計算中です(年2~3万程度を想定しています)。

・英文誌の表紙絵は今後もJ-STAGEに掲載される予定です。現時点での変更予定はありません。

・今回のペーパーレス化にともなう学会年会費の変更等はありませんが、今後も会員サービスの維持・向上に努めてまいります。何卒ご理解いただけますと幸いです。

(2023年12月7日 英文誌ペーパーレス検討グループ)
(2023年12月19日 エンバーゴ期間を修正)

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日本鳥類目録第8版出版予定の延期について

※本記事は鳥類目録委員会Webページからの転載記事です.<https://ornithology.jp/iinkai/mokuroku/index.html#20230810>
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目録編集委員長

 今春の第2回パブコメと今年9月の目録出版を目指して来ましたが、それらが予定通り実施できず、また見通しを今日までお示しできずにいたことをまずはお詫び申し上げます。

 国内の種・亜種についての分類と生息分布・記録について、それぞれ鳥類分類委員会と日本産鳥類記録委員会で各委員が情報収集、検討、整理を行うとともに、随時Web会合やメールで審議をおこなってきました。目録編集委員会ではWebでの会合を今年度は既に4回開催して検討を続けております。しかし、世界での分類成果とリストの精査、全国各地の協力員から寄せられた分布記録の整理、ともに情報量が膨大であり、委員各自がそれぞれの仕事を抱え、また研究・調査を行いながらの作業でもあるため、予想以上に時間がかかってきました。

 第2回パブコメの開始について、上記の理由によりこれまで見通しを立てられずにおり、会員と関係者の皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。しかし、作業の進展により、ようやくリスト化の目途が立ってきました。この9月の金沢大会での自由集会において、目録のリスト案を示すとともに編集の状況と第2回パブコメについて説明し、参加者との意見交換をおこないます。そして、9月中に日本産種・亜種の和名・学名リストを公表し、10月中には分布を含む暫定リストを公表して第2回パブコメを開始し、パブコメで寄せられたご意見と情報によって原稿を修正して2024年9月の出版をおこなうことを決定しましたのでお知らせさせていただきます。

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2023年度黒田賞、内田奨学賞の受賞者が決定しました

基金運営委員会の学会賞選考報告が発表されました。選考報告を、鳥学通信にも再掲します。今年度の黒田賞は澤田明氏(国環研)、内田奨学賞は溝田浩美氏(兵庫県立人と自然の博物館)と伊関文隆氏(NPO希少生物研究会)に決定致しました。この度の受賞、誠におめでとうございます。
https://ornithology.jp/iinkai/kikin/prizes.html
報告:基金運営委員会委員長 川上和人
2023年度日本鳥学会黒田賞選考報告

基金運営委員会で規定・運営指針に則して研究内容のオリジナリティ,鳥類学における重要性,将来性などについて検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り決定された.

受賞者:澤田 明
(国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域)

澤田明氏は,南西諸島の鳥類,とくに南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を主な研究対象とし,地道な野外調査と緻密なデータ解析により配偶者選択を中心に生活史進化について明らかにしてきた.研究テーマは,個体群内の遺伝構造解析,近親交配回避や同類交配メカニズムの解明,個体群動態解析,さらには分散距離に関する新たな解析手法の提案など多岐にわたる.南大東島では対象種の個体標識データが長期蓄積されているが,澤田氏はこれらの既存データを解析するだけでなく,自ら個体標識や繁殖モニタリング調査を精力的に実施することで当地の長期個体群研究を大きく発展させてきた.博士学位取得後わずか2年であるにもかかわらず,鳥学に関する研究成果は合計14編の論文として国内外の査読付き学術誌に掲載されている.そのうち11編は筆頭著者として英文で発表されており,国際的な成果の発信に大きく寄与している.書籍や一般向け雑誌において研究成果を広く発信しているほか,調査地においては観察会や講演会の実施,多数の地域行事参加など地元社会への貢献に対して非常に積極的である.澤田氏のこれらの業績が高く評価され,黒田賞受賞者として選定された.今後は学会運営にも参画し,日本の鳥学をさらに発展させる原動力となることが期待される.

なお,受賞内容は総説として日本鳥学会の学会誌に掲載予定である.


2023年度日本鳥学会内田奨学賞選考報告

基金運営委員会で規定・運営指針に則して検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り2名に決定された.

受賞者:溝田浩美
(兵庫県立人と自然の博物館 ひとはく地域研究員)

推薦根拠論文:
溝田浩美・布野隆之・大谷 剛 (2020) 育雛期間の進行に伴うアオバズクNinox scutulata japonicaの給餌内容の変化.日本鳥学会誌 69: 223−234.

溝田浩美氏はひとはく地域研究員として猛禽類に関する地道な調査と普及啓発活動を行っている.溝田ら(2020)では夜行性のアオバズクを対象として,雛の成長に伴い給餌内容を変化させていることを1,400個体以上の内容物を含む多数の食痕の分析と食物となる昆虫の捕獲調査を組み合わせることで明らかにした.観察の難しい夜行性鳥類の生態を明らかにしただけでなく,保全への貢献からも重要な内容である.溝田氏はこれまで多くのアウトリーチ活動を続けてきており,本賞の受賞により基礎的で地道な活動が評価されることは本人の大きな励みとなり,今後の次世代育成や市民科学活動へのより大きな貢献へとつながることが期待される.

受賞者:伊関文隆
(NPO希少生物研究会)

推薦根拠論文:
Iseki F, Mikami K, Sato T (2021) Unique and complicated wing molt of the Japanese Sparrowhawk Accipiter gularis.山階鳥類学雑誌 53: 3−23.

伊関文隆氏は長年猛禽類の渡りや繁殖の調査を行い,Iseki et al. (2021) ではこれまで10年以上にわたり蓄積した写真や剥製等の200例を超える情報から,ツミの換羽様式についてその独特な特徴を示した.本研究で呈された換羽様式と生態の関連性を示唆する成果は基礎科学としての価値が高く今後の発展性が期待されるだけでなく,英語論文として発表していることから国外への波及効果も期待できる.アマチュアとして研究を行う中で長年蓄積した情報を英語論文として発表することは大きな成果であり,これが評価されることにより今後のさらなる研究活動の発展が期待される.


2023年度日本鳥学会中村司奨励賞選考報告

今年度は本賞の応募がなかったため,該当者がなかった.

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英文誌ペーパーレス化の検討のための学会員へのアンケートのお願い

ウェブサイトに7月3日に掲載したお知らせを、鳥学通信にも再掲します。アンケートの回答数が少ない状況ですので、鳥学会員の皆様は7月31日までにご協力をお願い致します。アンケートの回答は下記のリンクから(Google formに移動します)。
https://forms.gle/AKSnXgqqJgZ2PZRS7

日本は紙の消費量が非常に多く、国民1人あたりの年間消費量は世界6位となっています。生物多様性の保全を含む、環境負荷の低減において「ペーパーレス化」は重要な取組のひとつです。しかしながら、鳥学会においても、その取り組みはまだ十分とは言えません。例えば学会誌等の印刷物は、和文誌・英文誌ともに年間2800部(合計5600部)に相当します。例えば英文誌は、1部あたりの平均ページ数が125ページのため、年間35万ページの紙が使用されています。学会誌をペーパーレス化することで、こうした紙資源の印刷製本および郵送に関わる環境負荷の低減が期待できます。

さらにペーパーレス化は、学会会計における支出の削減にも貢献します。現在、学会誌の印刷製本・郵送に関する支出額は年間約430万円(うち印刷製本が350万円、郵送が80万円)となっています。これは全支出額の1/3を上回る額です。近年の会員数の推移を踏まえると、今後も大幅な収入増は見込めない一方で、さらなる支出増の可能性も考えられます。学会誌のペーパーレス化によって支出を大きく抑えることで、今後も年会費をできるだけ維持するなど、学会員へのサービス維持・向上に努めることができます。

上記の理由から、鳥学会では英文誌「Ornithological Science」のペーパーレス化に向けた検討グループを立ち上げました(メンバー:事務局および英文誌・和文誌・広報委員会の各委員長)。なお、和文誌は今回はペーパーレス化の対象外です。英文誌のみを対象とした理由は、海外の他の雑誌同様、ペーパーレス化へのハードルが比較的低いためです。しかしながら、英文誌のペーパーレス化によって生じうる様々な問題を慎重に検討した結果、学会員に確認が必要な項目が複数あるという結論に達しました。

そこで学会員の皆様にアンケートを行い、その結果を踏まえ、鳥学会全体としての英文誌のペーパーレス化の方針を決定したいと考えております。回答期限は2023年7月31日(必着)とさせていただきます。お手数ですが、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

なおメールアドレス未登録の会員には、アンケート資料を郵送で配布いたします。回答方法はそちらの資料をご覧ください。

内容に関するお問い合わせ先:
日本鳥学会事務局 片山 直樹 (会計幹事)
メール: katayama6@affrc.go.jp
電話 : 029-838-8253

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(2023年7月3日 英文誌ペーパーレス検討グループ)

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津戸基金によるシンポジウムの公募が始まりました

日本鳥学会基金運営委員会

 学会では、2023年8月から2024年3月の間に国内で開催される鳥学に関するシンポジウムを対象に助成を行ないます。審査の結果、採択されると、会員津戸英守氏の寄付に基づく津戸基金より最大10万円の助成を受けることができます。ふるってご応募下さい。
 詳しくは、公募情報をご覧下さい。

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日本鳥類目録第8版の編集について

西海 功(目録編集委員長)

 日本鳥類目録は1922年の初版発行以来10年毎の改訂を目指してきた。第3版までは目標通り10年おきに改訂できたが、第4版以降は短い時でも12年、長い時には26年も改訂に年月を要した。最新の第7版は2012年に発行されたので、次の第8版は10年後の2022年、つまり今年の発行が目標であった。2018年に第8版編集のための目録編集委員会が組織され、今年の発行に向けて準備が進められてきた。第8版では新たな試みをいくつか取り入れたが、特に大きな試みとして次の2つを実施した。一つはパブリックコメント(以下、パブコメ)の実施、もう一つは海洋分布の追加である。不運なことに、この編集の後半の追い込み時期にコロナ禍に見舞われた。新たな試みが予想以上に時間を要したことにコロナ禍による作業の遅延が重なり、2022年中には発行ができなくなり、2023年9月まで発行を延期せざるを得なくなっている。会員はもちろん、出版関係者や行政など関係する諸機関にも多大なご迷惑をおかけすることをお詫びし、来年9月の発行をお約束したい。
 パブコメの実施もあり、今回の目録の編集にあたっては多くの方々から意見が寄せられている。第一回のパブコメは、採用種・亜種とその学名と和名に関して2021年2月から4月まで行われた。第二回のパブコメは分布も含めて全体のことについておこなうが、11月の網走大会までにリストを提示して、来年1月末まで意見を募りたい。これまでにいただいた意見のうち比較的大きなこととの関りで説明を要すると思われることを以下にご説明したい。

1.日本鳥類目録とは?
 鳥類目録(Checklist)とは、ある地域(または世界全体)の種・亜種の分類学的な包括的リストで、分布地やそのステータス(留鳥、越冬、通過、迷鳥など)が示されているが、通常、形態情報や写真、生態情報は示されていないものである。その日本地域版が日本鳥類目録であり、日本鳥学会が発行する日本鳥類目録は幸か不幸か現在では唯一の日本鳥類目録となっている。しかし歴史的には20世紀初頭まで複数の日本鳥類目録が存在した(森岡, 2012)。また世界の鳥類目録はIOC World Bird ListHoward and Moore Complete ChecklistBirds of the World, Cornell LaboratoryClements Checklistなど多数ある。日本鳥類目録が現在1つしかないことで、日本の鳥類フィールドガイドや行政が日本鳥学会の目録に沿って鳥の種の分類や呼び名(和名や学名)を使うことが通例となっている。
 しかしBrazil (2018) のように、IOC Listを基本にして著者の判断も加えながら独自の分類でフィールドガイドを作ることもできる。このような図鑑を良く思わない人もいるが、私はむしろ歓迎したい。鳥の正しい分類というものが自然界には存在していると私は考えているが、その正しい分類を人が完全に認識しつくせるとは思っていない。全ての目録は仮説であって、その時点での科学的知見から見て、最も妥当と思われる分類を編集者が組み立てて提唱しているのが目録ということになる。図鑑の編集者は分類を特定の目録に依拠して編集することもできるし、気に入った分類がどの目録にもないなら独自の分類をおこなって図鑑を編集することもできる。例えばオーストンヤマガラが日本鳥類目録では種ヤマガラの一亜種として扱われているのに、Brazil (2018)では独立種として扱われているというように、異なる分類が採用されることで、一般のバードウォッチャーもその種・亜種の分類が定まっていないことが理解できる。
 日本鳥類目録は日本産種の選定を文献主義に基づいておこなっているが、「目録は分類も含めて文献主義を取るべき」と考える人もいる。ある分類を示唆する結果が論文で示されたなら無条件でそれを全ての目録が採用すべきで、もしそれに異論があるなら反論を学術誌に投稿すべきという。これは無理難題というもので、理想としてはあり得ると思うが現実的ではない。もしそれが現実的であるなら世界の鳥類目録が多数存在することはなく、どの目録も同じ内容になるだろう。しかし、目録第8版の出版後には、できるかぎり分類の根拠についても説明していきたい。
 日本鳥学会の目録は、幸いにも現在では唯一の日本鳥類目録で、多くの図鑑や日本の行政がその分類を採用しており、その結果、鳥の分類や呼び名についての混乱は日本ではそれほど大きくないと思う。不幸な側面としては、利用者には選択の権利が用意されていないことであり、また上記のとおり、分類が定まっていない場合でも、それを知ることが少し難しい面があることだろう。

2.和名について
 鳥の標準和名を定着させることについては、歴史的にも日本鳥類目録が大きな役割を果たしてきたといえる(森岡, 2012)。その点からも日本鳥類目録は鳥類和名について大きな責任を負っている。鳥類和名の規則や慣習については別稿に譲るが(西海, 2018)、和名について日本鳥類目録は慎重な検討をおこなってきたし、第8版の編集でもいくつかの大きな検討が行われている。目録第6版「はじめに」で詳しく説明されているように、主要な亜種の和名は種和名と一致させるという原則を日本鳥類目録は採用してきた。ただ、第8版ではそうすることで不都合が生じる場合には例外を躊躇なく設けることとした。ニシセグロカモメの亜種をホイグリンカモメとし、メグロの基亜種をムコジマメグロとすることがその例外に該当する。
 オリイヤマガラやオガサワラカワラヒワなどこれまで亜種として扱われてきたものを種に格上げする場合には、オリイガラやオガサワラヒワと短い和名に変更することにした。このような和名の変更には、大きな危惧を表明される方も複数おられたが、短くする利点を優先させていただいた。ウチヤマセンニュウがかつてシマセンニュウの亜種とされていた時にはウチヤマシマセンニュウという亜種名で呼ばれていたが、種に格上げされた際に短い和名にしたことなど日本鳥類目録の伝統を継承したことになる。ただ、リュウキュウサンショウクイとホントウアカヒゲは同様に亜種から種に格上げされるが、適切な短縮ができず和名の変更はない。
 逆に種サンショウクイは、リュウキュウサンショウクイが独立種となることで、単形種(亜種がない種)になるが、その和名を変えてほしいという要望があり、検討することになった。IOC Listの英名は、Ashy Minivetと元々呼ばれており、Ryukyu Minivetが独立種となった後も変わっていないが、このように種の枠組みが変わる場合、IOC Listでの英名はより適切と思われるものに変わることがある。例えば、メジロの英名はJapanese White-eyeだったが、中国南部の亜種simplexhainanusが別種として独立し、フィリピンからインドネシアに分布するmontanusが加わることで、Warbling White-eyeという英名がIOC Listなどでは与えられている。対照的にこれまで日本鳥類目録は種の枠組みが変わることでは種和名を変えたことはないが、今回は例外的に狭義の種サンショウクイには新たな和名ウスサンショウクイを充てることが検討されている。
 第8版への改訂に向けた検討の中で、最も大きな検討が行われたのは、アホウドリの和名についてだった。この和名を蔑称と感じ、不快感を表明し、和名の変更を求める意見を複数いただいた。この件は目録委員会だけでなく、評議員会でも討議された。生物和名の蔑称に関する自然史系関連学会での扱いを調査したところ、差別的用語を理由に動物標準和名を改称したのは、関連学会の中で魚類学会の2007年の改称のみだった。メクラウナギをヌタウナギに、バカジャコをリュウキュウキビナゴに改称するなどした(松浦, 2007)。その際の目的として「人権に対する配慮」と「言い換えや言い控えによる混乱を収めること」の2点が挙げられた。現在までのところ「言い換えや言い控えによる混乱」が生じていない動物名については差別的用語を含むものでも改称せず、和名の安定性をより重視するというのがこの問題の扱いの標準となっていると判断された。アホウドリの和名については今回の指摘で人権の観点から不快に感じる人が少なからずいることははっきりしたと思うが、この呼称による「混乱」の例は今のところ知られていない。もしも鳥学会がアホウドリの和名を「人権配慮」を理由に改称すると、関連学会への影響も懸念され、事前の説明と議論が不可欠となる。少なくとも第8版の改訂に間に合わせることはできないし、改称の方向で学会が動くことも少なくとも当面は難しいという判断となった。

3.まとめ
 パブコメなどを通して諸方面からいただいたご意見は、当然ではあるが委員全員が理解するように努めた。どれも理解できる意見ばかりだったと私は感じている。しかし、「こちらを立てればあちらが立たず」ということが起きてどちらかを選択せざるを得ないことが多くあった。また現実と理想とのギャップや私個人も含む鳥学会の力量不足から第8版で取り入れられない意見も少なからずあったことは率直にお詫びしたい。ただ、労力を割いて意見を提出したことが無駄だったと無力感を感じる方がもしおられれば、それは違うと申し上げたい。すべての意見が少なからず当委員会や各委員の認識の向上に役立ったと思うし、今後の鳥類目録に多少なりとも影響していくことになるとご期待いただきたい。
 今年は日本鳥類目録初版が出版されてからちょうど100周年にあたる。この記念の年に改訂第8版が出版できず、来年に延期になるのは誠に残念で、かつ申し訳なく思うが、パブコメの意見を検討できた(第2回についてはこれから検討できる)ことと海洋分布情報が追加できることはこれまでの日本鳥類目録にない大きな進歩であり、来年9月の出版に大いにご期待いただきたい。

引用文献
Brazil, M., 2018. Birds of Japan. Christopher Helm, London.
松浦啓一, 2007. 差別的語を含む標準和名の改名とお願い.
森岡弘之, 2012. 日本鳥類目録の変遷. 日本鳥学会誌, 61 (Special Issue): 74-78.
西海 功,2018. 鳥の和名.海洋と生物, 40(2): 139-141.

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(仮称)苫東厚真風力発電事業計画への対応をめぐって(下)

武石全慈(鳥類保護委員会委員長)

4. 2021年度書面総会での要望書決議
 2021(令和3)年3月下旬には、本件事業の中止を求める要望書を鳥学会長名で事業者に対して提出して欲しい旨の打診が鳥学会員4名の連名で鳥類保護委員にあり、4月20日付けで決議採択依頼状と要望書案を鳥類保護委員会に提出していただきました。その際の要望理由は、本事業計画地とその周辺は、国内希少野生動植物種のタンチョウ、チュウヒ、オジロワシ、オオワシの繁殖地や生息地となっているとともに、天然記念物のマガン、ヒシクイの移動経路や餌場および塒が存在し、近年個体数減少が懸念されるオオジシギも多数繁殖し、その他の多くの野生動植物にとっても非常に重要な生息・生育地となっていること、また、これらの鳥類は風力発電施設等の人工物への衝突リスクが高いか、障壁影響の発生確率が高いと考えられ、風力発電施設の建設がこれらにもたらす影響は極めて大きいと予測され、事業計画の中止以外には影響を回避・低減することは困難と考えられるということでした。
 その後、要望書提案者と保護委員会との間での協議や保護委員会内部での検討を行ない、要望書の文面の修正を行なって行きました。
 その最中に、タンチョウについては、本事業計画地の風車設置区域の浜厚真地区の海岸湿地で、2017年の繁殖成功に引き続き、2021年にも1つがいの再度の繁殖が確認され、それに合わせて要望書の内容を適宜に変更しました。この2021年の繁殖活動については、4月7日に就巣個体を初確認、4月27日に2卵を確認、5月7日に1雛1卵を確認、5月12日に成鳥2羽と連れ立つ雛2羽を確認といった経緯をたどり、7月17日まで浜厚真海岸湿地に滞在した後、親子共々歩いて本事業計画地外へ移動したとのことでした(日本野鳥の会苫小牧支部報No.238)。また、7月12日には、このタンチョウの繁殖成功についての記事が朝日新聞からウェブニュースを含めて報道され、広く世間に知られることとなりました。
 また、現地との関係で触れれば、チュウヒについては、勇払原野は国内有数の繁殖地になっていますが、同地でのSenzaki et al. (2017) の研究によると、湿地パッチ内の繁殖つがい数やつがい当り巣立ち雛数は、湿地パッチ重心から周囲2km以内での人工的な土地利用(舗装道路、工業用地、住宅地、太陽光発電所等)の面積割合と負に関係することが示されていて、現地での風車建設による(バードストライクとは異なる)人工構造物のマイナス影響が懸念されるところです。
 最終的には、鳥類保護委員会として鳥類の保全上重要な案件であると判断して、「(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望書」を総会決議として採択することを提案して、8月14日に学会事務局に提出しました。その後、評議員会での審議を経て、日本鳥学会2021年度書面総会に議案として提出され、有効表決者の方々の圧倒的多数の賛成を得て、2021年10月22日付で可決されました。鳥学会会員の皆様には御礼申し上げます。その後、要望書は日本鳥学会長名で11月25日付で事業者のDaigasガスアンドパワーソリューション(株)に郵送され、その写しは親会社の大阪ガス(株)、環境大臣、経済産業大臣、北海道知事、苫小牧市長、厚真町長にも郵送されました。

5. 現地視察
 今回の総会決議要望書の提案者の4名の方々は、以前から本案件の現地で調査研究を行なって来られていますし、鳥類保護委員の中にも現地を訪れている方がおられますので、今回の要望書作成の際には現地の状況把握は基本的にはできていたわけです。ただ、私個人としては、本案件のスケール感が今ひとつわからなかったので、2021年6月14日〜19日にレンタカーで、12月14・15・17日に徒歩で、現地とその周囲を見て回りました。6月の浜厚真海岸では、延々と続く海浜植物群落のあちこちでノビタキがさえずり、砂浜にはオジロワシがたたずみ、湿地周囲でタンチョウがゆっくりと歩きながら餌を探し、オオジシギの誇示飛翔音が聞こえてきます。事業計画地内外の湿地や草地ではチュウヒが飛び交い、エゾシカがちょっと多すぎでしょうがどこにでも現れ、前日の昼にヒグマが通過していったことを示す看板を見かけ(私、前日の昼にはそのあたりにおりました)、なかなかすばらしい所だと実感しました。12月には事業計画地内外の河川沿いの林や鉄橋、防風林や上空などあちこちでオジロワシを見かけ、いくつかの河口域にオオハクチョウの姿や音声を認めました。勇払原野の一部ということですが、原野といっても湿地の占める面積は狭いようで、その大部分がハンノキ林と牧草地、農地からなっていて、さらに造成地跡の乾燥草地が加わっています。私の見て回った範囲では、浜厚真海岸・鵡川河口周辺・弁天沼・安平川河口周辺などの湿地は非常に貴重な存在になっていると思いました。

1. オジロワシ成鳥20211217むかわ町日高本線廃線部鵡川鉄橋.jpg

写真1. むかわ町日高本線廃線部鵡川鉄橋のオジロワシ成鳥 2021年12月17日 武石撮影

2. オオハクチョウ成5幼3羽20211215 厚真町厚真川河口域.jpg

写真2. 厚真町厚真川河口域のオオハクチョウ成鳥5羽幼鳥3羽 2021年12月15日 武石撮影

3. エゾシカ45頭20210616厚真町浜厚真海岸.jpg

写真3. 厚真町浜厚真海岸のエゾシカ45頭 2021年6月16日 武石撮影

4. ヒグマ注意看板20210618苫小牧市弁天.jpg

写真4. 苫小牧市弁天のヒグマ注意看板 2021年6月18日 武石撮影

6. 記者発表
 今回の要望書発出に際しては、2021年12月16日の午前11時から苫小牧市政記者クラブ(苫小牧市役所内)において(公財)日本野鳥の会、日本野鳥の会苫小牧支部、ネイチャー研究会inむかわの3団体と共同で記者発表を行ないました。この記者発表の設定と鳥学会側の参加につきましては、(公財)日本野鳥の会の浦達也さんに色々とご配慮いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。当日は、上記3団体共同による要望書と鳥学会による要望書の2件について発表が行なわれました。前者の発表は、「勇払原野の風力発電計画地内で特別天然記念物タンチョウの繁殖を確認」、「タンチョウの繁殖確認による(仮称)苫東厚真風力発電事業の撤回を求める要請書」(大阪ガス宛)、「国内希少野生動植物種タンチョウの繁殖に伴った(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する要望書」(環境大臣宛)、「国の特別天然記念物タンチョウの繁殖に伴った(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する要望書」(北海道知事・苫小牧市長・厚真町長宛)(https://www.wbsj.org/activity/press-releases/press-2021-12-16/)についてでした。出席者は鳥学会からは武石及びオンライン参加の先崎理之さんで、上記3団体では、(公財)日本野鳥の会から中村聡ウトナイ湖サンクチュアリチーフレンジャーとオンライン参加の浦達也主任研究員、日本野鳥の会苫小牧支部から鷲田善幸支部長と梅津譲一さん、そしてネイチャー研究会inむかわの小山内恵子会長でした。出席した報道会社は、NHK、毎日新聞、読売新聞、北海道新聞、苫小牧民報、ひらく(苫小牧の月刊ミニ新聞)の計6社で、1時間半ほど熱心に取材していただき、当日夜、翌日朝刊、翌月などに報道していただきました。特に「月刊ひらく」(2022年1月号No.47)では、5ページの特集記事として要望書の内容にも詳しくふれて報道していただきました(バックナンバーはhttp://www.shimbun-online.com/latest/hiraku.html)。

7. 留意点など
 今回の経緯全体を通してみて、関係する皆様方は何かと忙しいことと思われますが、やはり相互の報告・連絡・相談が大事なことであると思いました。それによって早めの判断が促されることになり、案件への対応に時間がかかりすぎるのを防いでくれることになるかと思われます。今回は風力発電に関しての対応に時間がかかったということもあり、また一般的に再生可能エネルギー施設の建設が急ピッチで進んでいる現状と鳥類保全との関係を考えて行くために、このたび鳥類保護委員会の中に、「風力発電等対応ワーキンググループ」を評議員会の了承のもとに設置しました。グループ長は風間健太郎さんです(グループメンバーについては各種委員会・役員ページを参照下さい)。
 なお、今回は記者発表の実施につきましては他団体のお世話になりました。鳥学会としての発表をアピールする上では、独自に記者発表の場を設定することが望ましく、こちらも早め早めの準備が必要となります。適切な発表者の参加がより可能になることも確かですので。
 また、記者発表時にはいつもそうなのでしょうが、こちらが記者発表要旨をお渡ししたとしても、記者はすぐに記事原稿をまとめ上げないといけないのでしょうから、口頭での説明の際に誤解なくわかりやすく一から説明することに努力する必要を痛感しました。記事になって初めて、思わぬ誤解があったことに気づいたりするものです。
 以上、ご報告まで。

文献
Senzaki, M., Yamaura, Y. & Nakamura, F. 2017. Predicting off-site impacts on breeding success of the marsh harrier. The Journal of Wildlife Management, 81(6), 973-981.

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(仮称)苫東厚真風力発電事業計画への対応をめぐって(上)

武石全慈(鳥類保護委員会委員長)

1. はじめに
 日本鳥学会2021年度書面総会に議案として提出された「(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望書」は、有効表決者の方々の圧倒的多数の賛成を得て、2021年10月22日付で可決されました。この案件につきまして、それまでの経緯や現地視察、その後の記者発表の様子などについて、広報委員会から鳥学通信への寄稿を依頼されました。この要望書は環境影響評価方法書(2021年2月発行)の提示後の段階で決議されたもので、今後もこの案件については関わっていくことになりますので、ご参考までに備忘録も兼ねて記してみます。
 日本鳥学会からの他の風力発電事業案件に対する要望書については、これまでに鳥類保護委員長名で3件が発出されています。それらは、北海道北部地域(2017年7月)、岩手県北上高地(2017年7月)、秋田県由利本荘市沖(2020年2・3月)での事業に対するもので、関係する官庁(経済産業省・環境省)と自治体(北海道・岩手県・秋田県)に向けて発出されました(鳥類保護委員会ウェブサイト参照)。内容は、バードストライク、障壁影響による飛行経路変更、生息地放棄に関して、複数事業による累積的影響の観点も含めて、適切かつ十分な調査と予防原則に基づく評価を行ない、立地選定や事業規模の見直しも含めた影響の回避・低減策を講ずることや定量的な事後調査を実施するよう、事業者への指導を要望するものでした。
 これに対して、今回決議された要望書は、日本鳥学会長名で事業者のDaigasガスアンドパワーソリューション(株)に事業の中止を要望したもので、2021年11月25日付で発出され(郵送)、その写しは親会社の大阪ガス(株)、環境大臣、経済産業大臣、北海道知事、苫小牧市長、厚真町長にも郵送しました。鳥類保護委員会ウェブサイトには、重要種の繁殖位置を示す図を削除した形の要望書を掲載しています。

浜厚真湿地:2021年6月17日、厚真町浜厚真地区、武石撮影.jpg

写真1 計画地内の厚真町浜厚真地区の海岸部に広がる湿地 2021年6月17日 武石撮影

2. 配慮書段階
 本事業については、その計画段階環境配慮書の縦覧が2020年5月26日から開始されましたが(縦覧期間1ヶ月、意見書提出締切6月26日)、6月上旬までに鳥学会員2名から別々に鳥類保護委員長あてに、意見書提出の要望が寄せられました。本事業計画地内の砂丘の湿地では2017年にタンチョウが繁殖し、道央地区では貴重なタンチョウ繁殖地が風車建設により失われる恐れがあること、計画地とその隣接地にある湿地や草地にはチュウヒや他の希少鳥類が数多く生息すること、また周辺の牧草地や遊休地はウトナイ湖等に集結するハクチョウ類・ガン類の餌場であり大きな影響の発生が懸念されるなどの理由からでした。
 本事業は、事業実施想定区域が北海道厚真町及び苫小牧市の海岸部に位置し、単機出力3,400〜4,300kW(最大高145〜191m、ローター直径120〜142m)の風車を10基程度設置する陸上風力発電施設の建設計画で、総発電出力が最大38,000kWとなっています。風車の全ては厚真川河口付近の両岸の厚真町内に設置され、苫小牧市域には送電・変電設備だけが設置されます。風車設置区域は約332.1ha、それ以外は約232.6haを占めるとのことでした。
 配慮書では、重要鳥類に対して、「生息環境の変化に伴う影響が生じる可能性」と「施設の稼働に伴うバードストライク等の重大な環境影響を受ける可能性があると予測した」が、「事業実施想定区域を可能な限り絞り込む時点で重要野鳥生息地(IBA)及び生物多様性の保全の鍵になる重要な地域(KBA)を除外したことにより、現段階では、重大な影響が、実行可能な範囲内でできる限り回避、又は低減されていると評価する」としていました。
 これに対して鳥類保護委員会で検討した結果、計画の中止や再考を求める上では、配慮書に対する意見としてではなく、計画そのものに対する意見書という形で事業者に提出する方が妥当であろうと判断し、委員を中心に意見書を作成しました。その後、提出までに時間を要し、2020年11月1日付の鳥類保護委員長名で、風車の建設計画を中止も含めて全面的に再考するよう要望する「(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する意見書」を事業者へ郵送にて提出しました。

タンチョウ20210615苫小牧市弁天.jpg

写真2 計画地周辺の苫小牧市弁天で観察されたタンチョウ 2021年6月15日 武石撮影

3. 事業者との意見交換会
 この意見書には回答を要請する一文も含めていたところ、事業者から意見書の趣旨を確認したく意見交換を行いたい旨の申し出があり、2021年3月12日に鳥類保護委員6名と事業者・親会社・調査委託会社の4名とで、Zoomによる意見交換会を行ないました。この時点では、本事業のアセスメント過程は方法書の段階に移っていて、その縦覧期間と意見書提出期間(2021年2月1日~3月26日)の時期にあたっていて、事業計画の内容はいくらか変更されていました。
 方法書では、風車設置区域については、厚真川西岸側での「植生自然度が高いヨシ群落及び湿地環境」が除かれていて、東岸側では住宅周辺と海浜汀線部が除かれ、その面積が約332.1haから約150.4haへと半減していました。しかし、上記の意見書で指摘していた2017年にタンチョウが繁殖した東岸側海浜砂丘内のヨシ等の湿地帯全域は風車設置区域内に含まれたままでした。後述するように、この湿地帯では2021年に再びタンチョウの1つがいが繁殖してひな2羽を育てる事に成功しました(日本野鳥の会苫小牧支部報No.238)。なお、変電所・送電線等の用地は、約232.6haから約301.8haに増加していましたが、風車の規模は変更ありませんでした。
 3月12日の事業者側との意見交換会では、保護委員会側からは、意見書内容の繰り返しになりますが、(1)本事業計画地は、ラムサール条約登録湿地、IBAs、KBAに隣接し、環境省センシティビティマップのA3メッシュに含まれ、一体として希少鳥類を中心とした野生動植物の重要な生息・生育地となっていること、(2)計画地及び隣接地は、重要種のタンチョウ、チュウヒ、オジロワシ・オオワシ、ガン類・ハクチョウ類やオオジシギなどの草原性の鳥類種群によって、繁殖、越冬、渡り時の通過の際に利用されていることから、風車の設置・稼働がこれらに対して、繁殖地放棄、繁殖成功率低下、生息地放棄、バードストライクなどの影響を与えることが懸念され、中止も含めて再考するよう主張しました。また調査方法についても、渡りのピーク時期、気象条件、レーダーの導入、大型鳥類の個体別飛翔追跡などを考慮するよう要望しました。事業者側からは、配慮書、方法書へとアセスメント過程を進めているが、予定通りに事業を実施することを現時点では必ずしも決めてはいないので、調査の結果を得てから、その時点での状況も踏まえて、事業の実施について判断したいとのことでした。
(注)計画地内の海岸砂丘部の浜厚真で確認された鳥類リストについては、「浜厚真の鳥類〜浜厚真Bioblitz2021報告〜」を参照下さい。

オオジシギ20210617厚真町浜厚真.jpg

写真3 計画地内の厚真町浜厚真で観察されたオオジシギ 2021年6月17日 武石撮影

(続く)

※訂正(2022年3月28日更新)※
1)「3. 事業者との意見交換会」の1段落目において意見交換会の行われた時期について「縦覧期間(2021年2月1日~3月4日)は既に終わり、意見書提出期間(2021年2月1日~3月19日)の時期にあたっていて」と説明しておりましたが,正しくは「縦覧期間と意見書提出期間(2021年2月1日~3月26日)の時期にあたっていて」でしたので訂正いたしました。新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の影響で、当初の公示期間が訂正した期間に変更になっていました。
2)「写真2」の説明で、撮影地が「計画地内の」となっておりましたが「計画地周辺の」に訂正いたしました。

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津戸基金によるシンポジウム助成の公募(締め切り迫る)

日本鳥学会基金運営委員会

 学会では、2019年8月から2020年3月の間に国内で開催される鳥学に関するシンポジウムを対象に助成を行ないます。
 審査の結果、採択されると、会員津戸英守氏の寄付に基づく津戸基金より最大10万円の助成を受けることができます。
 応募の締め切りは5月31日(必着)です。シンポジウム開催を考えている会員の皆様、どうぞふるってご応募下さい。

 詳しくは、公募情報をご覧下さい。

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津戸基金によるシンポジウムの公募が始まりました

日本鳥学会基金運営委員会

 学会では、2019年8月から2020年3月の間に国内で開催される鳥学に関するシンポジウムを対象に助成を行ないます。
 審査の結果、採択されると、会員津戸英守氏の寄付に基づく津戸基金より最大10万円の助成を受けることができます。ふるってご応募下さい。

 詳しくは、公募情報をご覧下さい。

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