日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室

餌付け場所に集まるオナガガモやユリカモメ

日本鳥学会2024年度大会の公開シンポジウムでは、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)をテーマとしました。日本で2003-2004年の冬、79年ぶりに発生したHPAI以降、日本鳥学会大会では、HPAIに関する口頭発表やポスター発表、自由集会、鳥の学校はあるものの、公開シンポジウムのような大きなイベントは初めてのことでした。

本シンポジウムを企画したきっかけは、北海道網走市で開催された2022年度大会の折に、本シンポジウムの講演者でもある外山雅大さん(根室市歴史と自然の資料館)から、根室市でHPAIによるカラス類の大量死が発生した際の対応について伺ったことです。HPAIによる大量死に初めて遭遇したにもかかわらず、地元の方たちで協力して監視体制を整備し、希少鳥類を守るための注意喚起まで実施した流れは、日本全国にあるカラスのねぐらを対象としたHPAIサーベイランスの見本となるだろう、と直感しました。その時一緒に話を聞いていた、本シンポジウムのコメンテーターでもある金井裕さん(日本野鳥の会)に、翌年(2023年)の金沢大会で自由集会でも企画しませんかと提案したところ、HPAIをテーマにするなら、ウイルスの専門家(獣医学者)も呼んだ方がいいからシンポジウムでないとね、と(いい意味で)一蹴されました。自由集会の講演者には、自腹で来てもらうしかありません。非会員の獣医学者をご招待するならば、交通費や謝金を支払えるシンポジウムを企画するしかない、ということです。

日本獣医学会野生動物医学会獣医疫学会などの獣医学系の学会では、毎年のようにHPAIに関するシンポジウムが開催されています。日本鳥学会でHPAIをテーマにする意義は、野生鳥類の観察や捕獲だけでなく、死体を拾い標本を作るような、野生鳥類に触れる機会の多い学会員の方々に、HPAIの問題や実際にHPAIサーベイランスに関わっている人たちの取り組みについて知ってもらうこと。そして、被害を受ける野生鳥類や、家きんや、動物園の鳥たちを少しでも減らすために、HPAI発生時の対応で大変な思いをする人を減らすために、力を貸してほしいという思いからです。幸い、その次の2024年度東京大会で大会実行委員となり、実行委員の皆さんにHPAIに関するシンポジウムの企画を受け入れてもらえたことで、実現に向けて始動することになりました。

本シンポジウムを開催することが決まり、もう一人のコーディネーターである牛根奈々さん(山口大学)に声をかけました。牛根さんは、私が所属する日本獣医生命科学大学出身の獣医学者です。彼女が博士課程の大学院生だった4年間、私が雇用されていた鳥インフルエンザと鉛汚染に関する環境研究総合推進費のプロジェクトで、野生鳥類専門の獣医師として支えてもらった仲です。大会実行委員に加わることも、二つ返事で承諾してくれました。そして、同プロジェクトでご一緒させていただいた、獣医学者の迫田義博先生(北海道大学)と山口剛士先生(鳥取大学)を講演者として招待しました。お二人は、環境省による野鳥HPAIサーベイランスで、ウイルスの病原性や亜型を確定する検査機関の責任者です。迫田先生からは、鳥インフルエンザの基礎について、ウイルスの特徴から北海道大学構内でのHPAIサーベイランス、HPAIに感染した希少鳥類の治療にいたるまで、様々な視点でやさしく解説していただきました。曝露されるウイルスが一定量に満たないと感染が成立しないため、感染防止にはウイルス量をいかに減らすかが大事であることを教えていただきました。山口先生からは、家きん農場に侵入するネコ、イタチ、スズメなど、養鶏場でHPAIを防ぐことが難しい現状について発表いただきました。HPAIウイルス(HPAIV)は、ニワトリに対して病原性が高いことで定義される、家きんの病気であることを強調されました。そして、野生鳥類の大規模なHPAI発生現場の声として、シンポジウム企画のきっかけとなった外山雅大さんに根室での取り組みを、そして以前より地域ぐるみでツル類をはじめとする野生鳥類のHPAIサーベイランスを続けている原口優子さん(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)より、鹿児島県出水市における取組みと、出水市で発生したツル類の大量死について報告していただきました。私は、獣医学者と野生鳥類関係者をつなぐ役割として、鳥類生態学による鳥インフルエンザ研究事例について講演しました。総合討論では、鳥類学者代表として樋口広芳先生(慶應義塾大学)、野生鳥類関係者として鳥インフルエンザに精通する金井裕さん(日本野鳥の会)、家きんの鳥インフルエンザを担当されている唯野剛史さん(農林水産省)、過去に出水市でツル類の大量死が発生したシーズンに現場の環境省職員として対応にあたり、現在は本省で野生鳥類の鳥インフルエンザを担当されている木富正裕さん(環境省)もコメンテーターとして加わり、活発な議論が繰り広げられました。しかし、総合討論は当初予定していた30分では収まり切らず、1時間に及びました。それでも伝えきれなかったことがたくさんありましたので、この場を借りて残しておきます。

オオワシ

総合討論では、出水市のツル類の餌付けが大量死の引き金となったのではないか、根室でもワシ類が観光目的で餌付けされているため、禁止できないのかということが話題の中心でした。出水市におけるツル類の大量死の前年に、イスラエルで発生したHPAIによる10,000羽ともいわれるクロヅルの大量死も、ツル類が餌付けされているフラ湖で発生しました(Lublin et al. 2023)。フラ湖で越冬するクロヅルの個体数は約50,000羽なので、越冬個体群の約20%が死亡したことになります(Pekarsky et al. 2021)。餌付けは過度に群れを集中させ、HPAIなどの感染症まん延のリスクを高めます。希少鳥類が大量に集まるほどの餌付けは避けるべきですが、出水市のツル類の餌付けは、観光目的だけでなく、周辺の農地における農業被害を防ぐ役割もあると考えられており、長年中止できなかった経緯もあります。一方で産・官・民・学の連携により、毎日ツル類を監視し、迅速に死亡鳥や衰弱鳥を回収し、ねぐら水の検査を定期的に実施するなど、ツル類の生息地を維持し、カラス類やトビをはじめとする腐肉食性の鳥類等への感染拡大を防止するとともに、多くのシーズンで周辺に散在する養鶏場でのHPAI発生を抑制してきたことも事実です。大量死が発生したシーズンに出水市のツル類から検出されたHPAIVの特徴として、ツルからツルへと感染が広がりやすかった可能性も指摘されています(Okuya 2023)。そして、同時期に出水市とその周辺地域の養鶏場で続発したHPAIのウイルス株は、当時出水市のツル類で大流行していたウイルス株とは異なっていました(高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム 2023)。

カモメ類

趣旨説明で紹介したとおり、近年世界中でHPAIによる野生鳥類の大量死が発生しています。被害を受けている種は、越冬期のガン類やツル類だけでなく、真夏の海鳥の集団繁殖地や海獣類にまで拡大しています。大きな被害が報告されているのは、海鳥類ではカツオドリ類、トウゾクカモメ類、ウ類、アジサシ類、ペンギン類、ペリカン類、ウミスズメ類、海獣類ではオタリアやゾウアザラシの仲間など、多様な種の数百~数万単位での大量死が発生しています(CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds 2023)。大量死が発生した海鳥には、カツオドリ類、ウ類、アジサシ類、ウミスズメ類など、日本に生息する分類群も含まれています。また、大量死の報告が少ないカモメ類は、カモ類と同様にHPAIに感染してもほとんど症状を示さず、遠くまでHPAIVを運び、他の海鳥類に感染を広げていると考えられています(Hill et al. 2022)。しかし、日本における海鳥類の鳥インフルエンザウイルス全般に関する研究事例は、ユリカモメなどごくわずかです(Ushine et al. 2023)。加えて、日本に生息する海鳥類の集団繁殖地の多くは無人島です。海鳥類を調査研究する鳥類学者が気づかなければ、HPAIによる被害があったのかどうかもわかりません。国内で繁殖する海鳥類の感染状況を明らかにするためには、海鳥類の調査に携わるみなさんに、対象種を注意深く観察し、調査していただくことが大切になります。また、カモメ類をはじめとする海鳥類の抗体検査を実施し、鳥インフルエンザウイルス全般がどの程度浸潤しているのか調査することも大切です。ご理解とご検討をお願い申し上げます。

人、動物、環境の健康を一つとみなす理念に基づくOne Healthアプローチでは、人獣共通感染症や薬剤耐性菌などの問題に取り組むため、関係各所が連携し、協力して対応にあたることが必要不可欠になっています。その第一歩として、関係者が同じ場所に集まり、顔を合わせて対等な立場で話をしていくことだと私は考えています。本シンポジウムも、獣医学者、鳥類学者、鳥類生息地の管理者、農林水産省、環境省という、HPAIの問題に実際に携わるそれぞれの現場の人たちが集まり、議論する場を作るべく、開催しました。登壇いただいた講演者やコメンテーターの方々はじめ、大会実行委員など多くの方々にご協力いただき実現できたことは、それだけでも一つの成果と思っています。

会場では229名、オンラインでは262名、合計491名にご参加いただきました。そのうち、234名(47.7%)よりアンケートの回答をいただきました。アンケート回答者の122名(52%)は非会員の方々です。そして223名(96.6%)の方から、本シンポジウムが有意義だったと回答いただきました。

総合討論では会場からの質問時間が十分にとれなかったため、大会ウェブサイトに、アンケートに記入いただいた参加者の質問に講演者らが回答したQ&Aを公開いたします。本シンポジウムが、野生鳥類にまつわるHPAI問題について理解を深め、得た知識をだれかに伝えたり、サーベイランスに協力するなど、HPAI問題の解決に向けた活動を始める一助となりましたら、これほど嬉しいことはありません。

本報告を執筆するにあたり、牛根奈々さんには多くの助言をいただきました。厚くお礼申し上げます。


引用文献

  1. CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds (2023) Scientific task force on avian influenza and wild birds statement on: H5N1 high pathogenicity avian influenza in wild birds - unprecedented conservation impacts and urgent needs.
  2. Hill, N. J., Bishop, M. A., Trovão, N. S., Ineson, K. M., Schaefer, A. L., Puryear, W. B., Zhou, K., Foss, A. D., Clark, D. E., MacKenzie, K. G., Gass, J. D., Jr., Borkenhagen, L. K., Hall, J. S., Runstadler, J. A. (2022) Ecological divergence of wild birds drives avian influenza spillover and global spread. PLOS Pathogens, 18: e1010062.
  3. 高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム (2023) 2022 年~2023 年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書.
  4. Lublin, A., Shkoda, I., Simanov, L., Hadas, R., Berkowitz, A., Lapin, K., Farnoushi, Y., Katz, R., Nagar, S., Kharboush, C., Perry Markovich, M., King, R. (2023) The history of highly-pathogenic avian influenza in Israel (H5-subtypes): From 2006 to 2023. Israel Journal of Veterinary Medicine, 78: 13-26.
  5. Okuya K. (2023) High Pathogenicity Avian Influenza Outbreak among Vulnerable Crane Species in the Izumi Plain, Kagoshima, Japan. The 8th meeting of East Asia Wildlife Health Network.
  6. Pekarsky, S., Schiffner, I., Markin, Y., Nathan, R. (2021) Using movement ecology to evaluate the effectiveness of multiple human-wildlife conflict management practices. Biological Conservation, 262: 109306.
  7. Ushine, N., Ozawa, M., Nakayama, S. M. M., Ishizuka, M., Kato, T., Hayama, S. (2023) Evaluation of the effect of Pb pollution on avian influenza virus-specific antibody production in black-headed gulls (Chroicocephalus ridibundus). Animals, 13: 2338.
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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 − W11 風力発電等WGが作成した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」

日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 − W11 風力発電等WGが作成した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」

佐藤重穂(森林総合研究所)
風間健太郎(早稲田大学)
浦 達也(日本野鳥の会)
會田義明(環境省)

はじめに

近年,大規模な洋上風力発電施設の建設が各地で進められつつあり,さらに多くの洋上風力発電施設が計画されるようになっている.洋上の風力発電施設は陸上の風力発電施設と共通する課題もあるが,洋上ならではの課題もあり,それにどのように対応するかは再生可能エネルギー促進と鳥類の保全の両立のための重要な問題である.
日本鳥学会では2022年に鳥類保護委員会の下に風力発電等対応ワーキンググループを立ち上げて,こうした課題について議論を進めて,その結果,2023年8月に「洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン」を公表した.本集会ではこのガイドラインの作成と公表の経緯とその背景,および洋上風力発電と鳥類に関わる課題について,学会会員に対して説明することを目的として開催した.以下に各講演の要旨を記す.


1.主旨説明
風間健太郎

地球温暖化の一要因である温室効果ガスの削減は,全世界が取り組んでいる課題であり,その削減のためには再生可能エネルギーの利用が有効と考えられている.我が国では風力発電の導入が進められており,なかでも洋上風力発電の導入は今後加速することが予測される.現在,秋田県や長崎県で洋上風力発電が導入され,また,北海道から山形県の日本海沿岸と千葉県などで再エネ海域利用法に基づく促進区域および有望区域が多数設置されている.
総出力5万kW以上の風力発電事業は環境影響評価法の対象事業だが,事業の実施が環境にどのような影響を及ぼすか,あらかじめ事業者自らが調査,予測,評価する環境影響評価に際しては,できるだけ科学的根拠にもとづいてデータを取得し,鳥類への影響を適切に評価した上で,影響の回避や低減策を講ずるべきである.その実現を目指すために,日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループでは「日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン」を作成,公開した*1.
このガイドラインでは,日本鳥学会員のほか,洋上風力発電導入に関わる電力事業者,環境コンサルタントやその調査者,あるいは自治体関係者等に向け,洋上風力発電が鳥類に及ぼす影響を適切に評価するために留意すべき点,導入すべき調査技術等について国内外の情報を収集,公開している.
本集会では,洋上風力発電が鳥類にどのような影響を与える可能性があるのかについて概説した上で,このガイドラインの内容について説明する.また,環境省で作成している「洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(案)」*2について環境省の担当職員から説明いただく.それらの講演を受けて,ワーキンググループで作成したガイドライン活用への期待や今後情報追加すべき点等について議論したい.


2.洋上風力発電が鳥類に与える影響
浦 達也

洋上風力発電所の建設適地と鳥類が好んで利用する場所は重なることが多く,立地選定によっては,そこを利用する鳥類にバードストライク(鳥衝突)や生息地放棄,障壁効果(風車が移動の妨げになることで,鳥が余計なエネルギーを消耗すること)などの影響を及ぼす可能性がある.日本では実験用のものを除けば洋上風車がほとんど建っておらず,鳥衝突等の発生に関する国内事例の蓄積は少ないため,ここでは海外事例を中心に,洋上風車における海鳥への影響事例を紹介する.
ベルギーのZeebrugge沿岸浅海域ではアジサシ類のコロニーと採餌海域の間の洋上に25 基の洋上風車が建っているが,2004 年から2014年の10年間調査を行った結果,のべでコアジサシ27羽,サンドイッチアジサシ100羽,アジサシ587羽が衝突死したと推測されている(Perrow 2019).バルト海で行われたBeoFINOプロジェクトでは,ヘリコプターで1年間に44回の死骸探索調査を行い,計442羽(風車1基あたり年間平均31.6羽)の死骸を回収した(Hüppop et al. 2006).イギリスのThanet洋上風力発電所では,ミツユビカモメ,オオカモメ,ニシセグロカモメなどが衝突していることが分かっている(Cook et al. 2014).日本でも政府の実証実験用の洋上風車および海岸に建つ風車において2023年1月時点で,アビ科15羽,ミズナギドリ科19羽,ウ科2羽,カモメ科68羽,ウミスズメ科26羽の海鳥の死骸が発見されている.
生息地放棄について,デンマークのHorns Rev洋上風力発電所では,発電所から半径2 -4km周辺海域で調査され,アビ科の鳥類とクロガモでは風車建設後3年間は風力発電施設周辺にはほとんど近寄らず,その後もアビ科は元の生息地に戻らなかった(Dong Energy 2006, Petersen & Fox 2007).同国のNysted洋上風力発電所では,発電所の建設予定海域内にあったコオリガモの生息分布が,建設後には建設海域から10–30km離れた4エリアに分散したと推測されている(Fox & Petersen 2019).
障壁効果について,Nysted洋上風力発電所ではホンケワタガモを中心とする渡り途中の水鳥が,天気の良い日には高い頻度で風車を避けて飛んでいた(Desholm & Kahlert 2005).イギリスのSheringham shoal洋上風力発電所がサンドイッチアジサシの繁殖コロニーと採餌海域の間に建設されたことで,建設海域での飛翔頻度が減少したことが報告されている(Perrow 2011).


3.「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」内容説明
風間健太郎

本講演ではワーキンググループが策定した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」(以下,ガイドライン)の内容を説明した.ガイドラインの趣旨は以下の3点である.①鳥類研究者,電力事業者,環境コンサルタントや環境アセスメント調査者,自治体関係者等向けに策定,②洋上風力発電が鳥類に及ぼす影響を適切に評価するために留意すべき点や導入すべき調査技術等について国内外の情報を収集,公開,③ガイドラインの活用による適切な環境アセスメントの実現や生物多様性保全と温室効果ガス排出削減の両立を期待.
ガイドラインの内容は以下の通りである.1)洋上風力発電と鳥に関する国内外の法制度および環境アセスメント体制,2)鳥類や生態系への影響低減に向けた立地選定に関する情報,3)環境アセスメントのデザインと影響軽減策の検討体制,4)推奨される事前(建設前)アセスメントの手法,5)事後(建設後)アセスメントの必要性,6)事前影響予測の不確実性への対応策の提案と実施について.
アセスメントにおいては,衝突リスクや分布変化などの洋上風力発電事業実施区域内における個別の影響の評価だけでなく,それらが長期間蓄積することで顕在化する個体群への累積的影響を適切に評価すべきである.その実現のためには建設前だけでなく事後(稼働後)の評価も不可欠である.また,海洋生態系の高い変動性に対応するために,長期,広域,高頻度の現地調査が推奨される.海外においては風力発電施設から最低20 km外側まで,あるいは事業実施面積の6倍を調査範囲とすることが推奨されており,鳥類の洋上分布調査は月1回以上の頻度,1回に数度繰り返し,2年以上実施されることが推奨されている.海外では事業者や政府から独立して環境アセスメントの各工程を審査する第三者機関が存在するが,日本においては環境アセスメントの各工程を中立かつ客観的に審査するための体制が確立されていないために今後制度の改善が望まれる.当面は現行アセスの中で中立かつ客観的に審査する場を設けることが必要である.


4.「洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(案)」の内容
會田義明

我が国の洋上風力発電は,平成31年4月に施行された「再エネ海域利用法」により,一般海域において大規模な風力発電事業を継続的に導入していくための枠組みが整備され,候補となる海域において関係者による協議会が開催されるなどの取組が進められている.また,これと並行して事業者による環境影響評価の手続が進められており,①同一海域において複数事業者が環境影響評価手続を行うことによる地域の混乱や社会的コストの増加,②洋上風力発電に関する環境影響評価の知見の不足といった課題が顕在化している.
これを踏まえ,洋上風力発電に係る新たな環境アセスメント制度の検討が進められており,本年8月に有識者検討会による取りまとめが公表されたところである.*3
風力発電は平成24年に環境影響評価法の対象となって以降,陸上の風力発電の環境アセスメントが数多く実施され,鳥類調査の技術手法やバードストライクに関する知見等が蓄積されてきたところである.一方で,洋上の風力発電は事例も少なく,海域の環境は陸域の環境と大きく特性が異なること,海域では調査の手法に制約があること等により,陸域における調査手法やアセスメントの考え方をそのまま海域に適用することは難しい.このため,現時点で,現行制度に基づいて行われる環境アセスメントに活用できるよう,技術ガイドを取りまとめた.*2
技術ガイドでは,洋上風力発電について30年にわたる実績がある諸外国の環境影響評価に関する考え方や取扱いを参考にしつつ,我が国特有の海域の特性や,これまでに行われた海域における環境影響評価の知見等を踏まえて,洋上風力発電所の環境アセスメントの考え方や技術手法を取りまとめた.また,参考資料として,国内外の調査結果やモニタリング結果等の情報も収録した.
今後,洋上風力発電の新たな環境アセスメント制度の導入に向けて,ひきつづき科学的知見の収集や技術開発等の取り組みを進めていく.


 

以上の講演の後に会場の参加者と意見交換を行った.50名余りの参加者が熱心に講演に耳を傾け,意見が交わされたことに,環境保全や鳥類の保全と再生可能エネルギーの促進の両立という課題に多くの関心が向けられていることを実感した.時間が不足して質疑の時間を十分に確保できなかったのは集会世話人の不手際であり,反省したい.この集会で示された課題の解決に向けた研究が進展し,持続可能な社会の構築に寄与することを切に願うものである.

 

*1 日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン (暫定版ver.01)(2023)
https://ornithology.jp/materials/Windfarm/gudeline_v1.pdf

*2 洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(環境省大臣官房環境影響評価課・経済産業省産業保安グループ電力安全課、2023年12月)
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1062_01/guide_1.pdf
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1062_02/sankou.pdf

*3 洋上風力発電に係る新たな環境アセスメント制度の在り方について(洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会、2023年8月)
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1055_03/report.pdf

 

図1.主旨説明の様子.

 

図2.自由集会の会場.

 

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日本鳥学会 2023年度大会自由集会報告 - W06 野鳥観察をとりまく現状と課題

板谷浩男1),早矢仕有子2),渡部良樹3),富岡辰先4) ,須藤明子5),守屋年史6),高橋満彦7)

1)パシフィックコンサルタンツ株式会社(当時),2)北海学園大学,3)日本野鳥の会東京,4)財団法人日本野鳥の会,5)株式会社イーグレット・オフィス,6)NPO法人バードリサーチ,7)富山大学

 

1.趣旨説明,観察者の有無がオオタカの繁殖成功率に与えた事例紹介 板谷浩男

近年,デジタルカメラが普及したことにより,野鳥観察者の大半がカメラを保持し,野鳥を観察するだけではなく,野鳥を撮影することを目的にしている観察者が大多数を占めるようになりました.そして,撮影した画像や動画はSNSに投稿することで認証要求を得るということが一般化しています.鳥の生態を熟知していなおらず自らの力で発見したり識別したりする力がなくてもSNSで情報を得ることで,簡単に野鳥がいる場所を知ることができ,撮影できるという時代になりました,また,撮影者の中には,野鳥を生物としてではなく風景などと同様にとらえ,生き物を相手に撮影をしているという認識がなく撮影をしている人が出てきており,観察者(撮影者)の存在が野鳥達に対して必要以上に影響を与えることになる例も見受けられます.

結果として,観察者の存在が希少種の保全に悪影響を与えたり,撮影に対する欲求が過剰になることで社会的なルールを無視する行動が見受けられるようになり,野鳥観察自体が社会的な問題となりつつあります.私がオオタカの調査をしている東京都の都市公園では,オオタカは人に慣れているから繁殖期にむやみにオオタカに近づいて撮影をしても,繁殖に影響を与えないという誤った認識をSNSで発信する人も存在しており,危惧しているところです.調査結果でも,観察者に対して何らかの対策が講じられているところと,対策が何もされず観察者が営巣地付近を自由に行き来できる場所とでは,繁殖成績に大きな差が生じていました.

今回主催した自由集会では,いくつかの事例を参考に,野鳥観察が,希少種保全に与えている影響や,社会的にも問題を生じさせている現状について議論しました.また,総合討論では,参加者から情報や対処方法を求めながら,この問題に対して研究者や鳥に係る仕事をしている者がそれぞれの立場でどのような対応をすべきかを探りました.

写真1 犬を連れてオオタカの営巣地に接近するカメラマン

2.野鳥観察に関するトラブルの事例の報告 渡部良樹

野鳥観察に関するトラブルを,カメラマンや観察者によって1)長期的に問題が生じた事例と2)一時的に問題が生じた事例に分け,さらにa)鳥類(や自然環境)への影響とb)人への影響に分けて紹介しました.1)長期的に問題が生じた例として,八王子城跡の事例を紹介しました.ここはサンコウチョウなどのヒタキ類夏鳥の撮影地として有名で,5,6月は夏鳥の営巣前からバードウォッチャーやカメラマンが集まり,サンコウチョウ等の巣が常時カメラマンに覗かれる事態が発生しています.1-a)カメラマンや観察者が鳥類に対して与えた影響の結果の可能性があることとして,サンコウチョウ生息数の減少,営巣場所の変化(人から見づらい場所に造られる)が挙げられます.また,カメラマンが悪影響を与えたと考えられる事例として,オオルリの囀りの音声が流された事例がありました.1-b)人に対して与えた影響と考えられるものは,通行路に居座る,撮影機材を置くなどによる通行妨害,ゴミの廃棄,路上駐車などがあります.2)一時的に問題が生じた例として,2019年-2020年にコノドジロムシクイが越冬した八王子市館町の住宅街の事例と,2013年にセアカモズとアカモズの交雑個体が越冬した平塚市の耕作地の事例を紹介しました.2-a) 鳥類に対して与えた影響としては,前者では対象の鳥を見ていないため不明で,後者では対象の鳥への人の接近により,鳥が遠くへ逃避したことが挙げられます.2-b)人に対して与えた影響としては,前者では民家にレンズを向けることによるプライバシーの侵害と,路上に人が集まったことによる通行妨害が挙げられます.後者では多くの人や車が路上に集まったことによる通行妨害や,私有地(耕作地)への不法侵入が挙げられます.

カメラマンや観察者によるトラブルの性質は,長期的なものと短期的なものではやや異なり,長期的なトラブルは,毎年渡来する渡り鳥や留鳥の生息地で生じ,放置すると解決せずに続くことが挙げられます.一方,一時的なトラブルは迷鳥や珍鳥の情報が流れた場合に生じ,鳥類への影響は,個体に対するものがあったとしても,種や個体群レベルにまで及ぶことは少なく,鳥類,人への影響はともに放置しても自然解消する可能性があります.しかしこのような自然との接し方や認識は,影響の大小にかかわらず他の場所や人へ伝播拡大する可能性があり,放置すべきではないと考えています.

 

3.絶滅危惧種シマフクロウの見方と見せ方 早矢仕有子

絶滅危惧種のシマフクロウは、夜行性の留鳥で家族単位で暮らしています。国はシマフクロウの保護事業を始めた1984年からずっと、人の接近による繁殖や採餌の妨害を防ぐため,生息場所を非公開にしてきました.しかし,インターネットの普及に伴い,採餌場所や営巣地で撮影された野生個体の写真と生息地情報がウェブ上に拡散し,カメラマンによる生息地への入り込みが急増しています.シマフクロウを餌付けし集客に利用する宿泊施設も複数存在し、写真撮影の便宜を図っています.また、中には,立入禁止の看板や柵を無視し、国がシマフクロウ保護のために設置している巣箱や補助給餌場所への侵入を繰り返す者も現れ,保護増殖事業の継続に大きな支障が生じています.シマフクロウ個体および営巣地への過度の接近や営利目的の餌付けに法的規制が無い現状を改める必要があります.

その上で、野生個体に悪影響を与えず、生息地情報を隠したままで生態や保護の現状を知ってもらう取り組みとして、筆者は、繁殖巣からのライブ配信を試み、シマフクロウの子育ての様子をインターネットで見守る活動への参加を呼びかけてきました。参加者には、シマフクロウへの知識・愛着・保護活動への共感の高まりが確認できました。この取り組みを定着・拡大することで、営巣地への侵入防止にも貢献できると考えています。

 

4.イヌワシの営巣をYouTubeでライブ公開〜その経緯と課題 須藤明子

滋賀県の伊吹山のイヌワシ生息地では,1990年代からイヌワシの撮影を目的としたカメラマンによる樹木伐採や餌付けなどの問題が続いています.環境省,滋賀県,伊吹山自然再生協議会による看板設置やパトロールなどが行なわれてきましたが,効果は限定的でした.さらに近年になって,一部のカメラマンが巣に接近し,卵や雛が死亡する恐れが高まったため,「見守りによる監視」と「生息地保全への理解」を目的として,巣内でのようすをYouTubeでライブ配信する取り組みを2023年4月1日に開始しました.

イヌワシなど希少種の生息場所は,保全の観点から非公開が原則です.また普通種であっても営巣の写真や映像の公開は控えるべきだとされています.そこで,一般公開に先立って,希少種の研究者や保全の専門家に限定公開して意見を聞きました.その結果,これまでの保全に関する取り組みの実績や他に良い保全策が見当たらないこと等から,公開に賛同する意見が多数を占めたため,一般公開に至りました.

ライブ配信終了までの3カ月間の視聴回数は146万回を越え,多くの視聴者がイヌワシの育雛を見守り続けたことにより,巣に接近するカメラマンは見られず,大きな監視効果が得られました.

また,雛が食物不足により巣立ちできず,親鳥が育雛を断念する結果となり,視聴者はニーナと名付けた雛が,健気に親鳥の帰りを待つ姿を目の当たりにすることで,イヌワシが置かれた深刻な食物不足を痛感しました。ニーナを助けるために何ができるのか,チャット機能を活用して海外を含め視聴者同士が真剣に議論した結果,健全な自然環境や生物多様性を保全するための取り組みに共感し,自らもできることをやろうと考える視聴者が増えました.イヌワシの生息地保全を目的としたクラウドファンディングが,数時間で目標額200万円に到達し,さらに700万円を超える資金が集まったことも,これを反映していると思われました.視聴者の多くは,もともと野生動物や自然に無関心であったことから,希少種や生物多様性保全について,広く知ってもらう教育効果も大きかったと考えられました.

一方,巣から落下した雛の救護について,人による自然界への介入行為への批判をはじめ多様な意見が寄せられました.親鳥の育雛放棄等の場合に備え,域内保全から域外保全(飼育個体群への参入)への切り替え等について,関係者による情報共有と協議の場が必要と思われました.

写真8 伊吹山ドライブウェイの立ち入り禁止区域(道路交通法)でイヌワシを撮影するカメラマン

5.日本野鳥の会のマナー問題への対応について 富岡辰先

これまでに,日本野鳥の会では,①ホームページ等での撮影等のマナーの普及,②テレビ番組・新聞・写真コンテスト等でマナー違反があった場合に再発防止の要望書を送る等の再発防止等の申し入れ,③会員や一般の方から,支部の探鳥会のマナー違反や支部報でのマナー違反の報告があった場合に一般市民や各支部等に申し入れ,等の対処を実施してきました.また,「野鳥観察・撮影の初心者に向けた,マナーのガイドライン」(2022)の作成や,マナーガイドラインのパンフレット(2023)を作成し,探鳥会等で配布を実施するなどの活動をしています.

6.野鳥撮影の法的規制 高橋満彦

日本国内では,野鳥撮影等の一般的規制(広く適用されるもの)はありません.絶滅危惧種への撮影等に対する規制もありませんし,保護区における規制についても,法律で一定程度導入され始めましたが,適用されるのはわずかな面積に過ぎません.一方,海外ではイギリスのWildlife & Countryside Actは,保護鳥の繁殖行動の妨害を禁止し,巣の撮影には撮影ライセンスを発行しています.アメリカのEndangered Species Actでは,絶滅危惧種のハラスメント“harass”は,捕獲と同義として処罰され,写真家の訴追も発生しています.また,その他の国でも,国立公園等では過剰接近,餌付け,コールバック,立入り等の規制が実施されている例があります.

海外の国立公園や保護区は原則として国有地であるため圡地所有権等に基づいて規制ができますが,日本の自然公園制度(国立公園)は,土地の権原に基づかない公法的規制で,私有地を指定できる反面,厳しい規制がしづらい状況です.また,環境保全当局の取締り権限,機動力・能力の差もあります.山野で取締りが困難なのは,どの国でも同じですが,海外ではレンジャーに警察権限があるなどの差もあります.

7.総合討論 守屋年史

規制・マナーの問題について,科学的な議論を行うためのエビデンスの収集などが鳥学会として貢献できるポイントという意見を頂いたほか、規制やマナー普及のために野鳥の観察者や撮影者の関係者に適切に届く効果的な情報発信が,実装のために必要という意見,また,撮影を主体としない野鳥観察の魅力を普及するといった昨今のスタイル自体を見直すことも重要な視点ではないかとの意見を頂きました.

写真8 自由集会の様子

<参加者との意見交換>

  • 自然観察ツアーを開催するにあたり,マナーを教えることは大切だが,あまりマナーを強調すると楽しむところが無くなってしまう可能性があるので,そこは難しい.
  • マナー問題は避けて通れない問題であるため,ツアー会社は,関係する団体や組織と協力し情報を発信していく必要がある.届けたい人への効果的な情報発信が必要.
  • 説得力を持たせる方法としてエシカルフォト(倫理的な写真撮影)などの議論が足りないような気がする.
  • 鳥学会員としては,このような問題が鳥にどういった影響を与えているかを定量的に示していく必要がある.
  • 一方的にこういうことは悪いから止めろと言っても相手が反発するだけで難しい.鳥学会に属する研究者は,鳥に影響を与える行為について,科学として何が,どう影響するかを明確に示すことが大事だと思う.
  • 鳥の野外調査の倫理規定がないため,学会がバンディングなどの野外調査(研究)に対しても倫理的な観点と必要性をしっかりと示していくべき.
  • マナー問題には教育が重要だと感じる.子供達から教育を進めていくのがよい.
  • カメラを捨てたバードウォッチングを復活させた方がよいと思う.カメラで撮影することはとても楽しいことだが,あえてカメラを持たないで観察にシフトした鳥見をすることで,鳥との接し方などについて見直すきっかけになるのではないか.
  • 環境アセス関連の調査者には,調査圧について理解していない方がいる.今後,一般の方への啓発含め,業務としている方々への注意喚起も必要ではないか.

また,会場では以下のようなアンケートも実施したところ,問題事例把握や配慮を行っているとの意見も多く寄せられ,関心の高い事柄であることが実感できました.アンケートの質問は、以下のとおりです.

(質問1)野鳥観察や撮影に関わる問題事例を知っていれば教えてください.
(質問2)野鳥観察や撮影についてご自身で気をつけていることがあれば教えてください.
(質問3)自由集会の感想

なお,アンケート継続して実施しているため,この記事を読んだ方の中からもアンケートに回答頂けると幸いです.

アンケートのURL
https://docs.google.com/forms/d/1k-xCtbwWDEUn00EQpVyzTW2EKjDFyfzwui5_6rOtCvY

2024年大会でも自由集会を開催予定です.
皆様、是非ご参加ください.

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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 - W02 草原性希少鳥類と種の保存法

浦 達也((公財)日本野鳥の会)

 日本では過去100年間に1,000 km2 以上の湿地や草原が失われ,湿地や草原の乾燥化や埋立て,植生遷移による疎林化や樹林化,工業地域や農地,宅地への転用,最近は太陽光発電施設の設置などにより草原性鳥類の個体数が著しく減少していると言われる.近年,研究者や自然保護団体が国に働きかけたことにより,シマアオジ,シマクイナ,アカモズ,チュウヒなどの草原性または半草原性の鳥類が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 (種の保存法)」の「国内希少野生動植物種」に指定された.

種の保存法は,個体の取引規制,希少種の生息地保護や保護増殖に関して重要な法律である.しかし,希少野生動植物種の指定種やその生息地が適切に保護されているかは不明な点が多い.

そこで本集会では,国内希少野生動植物種に指定された草原性希少鳥類について,最近の生息状況等に加え,その種が指定された背景と指定後の種を取り巻く状況の変化について報告した.また,日本で希少鳥類が国内希少野生動植物種に指定されることの意義と,指定された鳥類に関する保護上の課題を確認し,今後,種の保存法が真に希少鳥類の個体や生息地を保護に貢献する法律にすべく,米国の種の保存法 (ESA: Endangered Species Act)と比較しながら議論した.


1.シマアオジの現状と国内希少野生動植物種指定

葉山政治((公財)日本野鳥の会)

 シマアオジは旧北区北部の草原で普通にみられた種で,繁殖地もカムチャツカからフィンランドまで広がっていたが,1980年代以降は急激な繁殖地の縮小と約90%の個体数の減少が確認された.環境省レッドリストでは 2007年に CR (絶滅危惧IA類),2017 年には国際自然保護連合 (IUCN)のレッドリストでCRに選定された.また2017年には国内希少野生動植物種に指定された.しかし,国内での繁殖つがい数の減少は継続している.

減少要因としては,国外の渡りの中継地における違法な捕獲や越冬地となる農地環境の変化が指摘されている.シマアオジの回復のために種の保存法の下では国内でできることは少ない.

しかし,国内希少野生動植物種に指定されたことで,重要な繁殖地や中継地のあるロシアや中国との二カ国間渡り鳥保護協定等の場での情報交換や保護の必要性の共有が行われた.その結果,中国では保護対象種へ指定されたことで,日中両国でモニタリングが行われている.渡り性の種では多国間モニタリングの体制が必要であり,国内希少野生動植物種の指定がこの取り組みを促進することを期待する.


2.シマクイナの現状と保全状況

先崎理之(北海道大学大学院・環境科学院)

 シマクイナは極東に分布する全長約15 cmの世界最小のクイナ科鳥類である.世界の生息個体数は少なく,減少していると思われることからIUCNのレッドリストではVU (危急種)に,環境省レッドリストでは絶滅危惧種IB類に選定されている.本種は日本では稀な冬鳥とされていたが,北海道と青森県の湿地で繁殖しており,関東以南の低地で越冬していることが近年明らかになり,2020年2月に国内希少野生動植物種に指定された.一方,我が国における本種の保全は,国内希少野生動植物種への指定の前後で特に変化はなく,前進していない.例えば,北海道の主要繁殖地である勇払原野や釧路湿原では,本種の繁殖確認前から国指定鳥獣保護区等であり,その他の生息地は保護区ではない.越冬地も耕作放棄地等の開発の脅威にさらされた土地に集中しており,しばしば開発により消失している.個体数の少ないシマクイナの保全には,繁殖地や越冬地の双方で生息地の保全を進めていくことが重要である.


3.アカモズの現状と国内希少野生動植物種指定

北沢宗大(国立環境研究所)

 過去 100 年間で亜種アカモズの国内の繁殖分布面積は約90%減少し,現存する個体数は300個体未満である.このような危機的状況により,本亜種は2020年に国内希少野生動植物種に指定された.本亜種の保全活動の取り組みは,環境省の生物多様性保全推進交付金等により,市町村および動物園が主体となった生息域内外の保全事業が実施されているほか,関係者の献身的なモニタリングが各地で実施されている.これらの活動によって,アカモズの現状と直近の脅威となる要因が把握されており,また保全体制の確立が進みつつある.しかしながら,現行の活動体制が資金的にも,人手不足の観点からも持続可能ではないこと,また,種の保存法の効力が及ばない国外の越冬地および中継地の状況把握が進んでいないことが主要な課題となっている.関係者の尽力により,活動の輪は広まっているものの,依然として亜種アカモズが絶滅の脅威にさらされている状況が続いている.


4.オオセッカの現状と保全の問題

高橋雅雄(岩手県立博物館)

 オオセッカは日本国内の生息個体数が約3,000羽と推定され,種の保存法の施行当初から国内希少野生動植物種に指定されている.東北地方北部の岩木川河口,仏沼,大潟草原,関東北部の利根川下流域,渡良瀬遊水地の計 5か所の湿性草原で繁殖するが,繁殖個体数の大多数を占める仏沼と利根川下流域では近年は減少傾向が続いている.越冬地は東北地方から九州地方で,東北地方 (福島県浜通り),関東地方 (利根川下流域,房総半島,渡良瀬遊水地),中部地方 (紀伊半島東部),九州地方 (薩摩半島)に多い.保全の問題として①湿性草原の植生環境の維持と②耕作放棄地への依存が挙げられ,①は乾燥化や疎林化などの湿性草原環境の劣化を防止し環境を回復させるために,繁殖地での火入れ,刈り取り,水位調整等の人為的管理が試みられている.②は特に越冬期で著しく,管理放棄や太陽光発電所建設による湿性草原環境の劣化や消失が進行している.


5.チュウヒの現状と国内希少野生動植物種指定
サンカノゴイの国内繁殖個体数推定結果

浦 達也( (公財)日本野鳥の会)

 チュウヒは北海道の湿地を中心に,本州の一部の埋立地等で繁殖する,推定繁殖つがい数が140つがいとされる希少猛禽類である.環境省により2017年に国内希少野生動植物種に指定されたが,湿地の乾燥化や疎林や樹林化による営巣環境の劣化や減少,太陽光発電所の建設や圃場整備などの開発行為,作為または不作為による繁殖地への人の接近により,近年も繁殖個体数が減少していると考えられる.一方,国内希少野生動植物種に指定されて以降,開発行為時にチュウヒの繁殖の有無が気にされるようになった.チュウヒが繁殖している場合には,工事開始時期を繁殖期終盤に遅らせるなどの保全措置が講じられるようになり,繁殖阻害を受ける事例が減少してきている.

ヨシ原に生息するサンカノゴイもまた,近年は繁殖個体数の減少が危惧される種である.そこで日本野鳥の会が 2020–2022年に全国で繁殖するサンカノゴイの個体数を現地調査やアンケートおよび文献調査を経て数えた結果,17羽しかいないことが分かった.


6.草原性希少種と種の保存法

髙橋満彦(富山大学・教育学部)

 種の保存法の概要を解説し,草原性希少鳥類の保護への寄与について議論した.種の保存法には,捕獲や譲渡等の規制 (個体等の取扱規制),生息地等保護区,保護増殖事業計画などのメニューが用意されているが,国内希少野生動植物種に指定されないと保護されない.国会の附帯決議もあって,国内希少野生動植物種の指定は増加しているが,鳥類では生息地等保護区の指定はなく,保護増殖事業計画の策定も追いついていない.

そもそも,草原性鳥類の絶滅危機要因は乱獲ではなく,生息地の保全が重要なので,希少野生動植物種に指定されても,捕獲等の規制だけでは守れず,生息地等保護区の指定や,保護増殖事業の展開が必要である.それでも種の保存法だけでは限界があり,他の法律による保全の展開,農政や河川行政との連携も考えなければならない.さらに,野焼き規制の見直しや,草原バンクなどの新しい仕組みも模索しながら,草原の減少を食い止めなければならない.


7.コメント :「国内希少野生動植物種」指定に一喜一憂するなかれ

玉田克巳(北海道立総合研究機構)

 本集会で焦点のあてられた草原性希少鳥類の6種は全て渡り鳥で,うち 4種は国外で越冬するものであった.国内希少野生動植物種への指定は種の保存法によって捕獲や譲渡が規制されるが,捕獲は鳥獣保護管理法によってすでに規制されている.発表では各種の深刻な状況が報告されたが,6種のうち4種は IUCNのレッドリストでNT (準絶滅危惧種)もしくはLC (軽度懸念種)であり,国際的にみて保全が必要な種にはみえない.国際的にこれらの種を保全していくためには,渡り鳥等保護条約や生物多様性条約の枠組みを活用することが賢明であるが,各発表者からは,この辺の取り組みについての説明がほとんどなかった.減少している渡り鳥の保護対策を進めることは,越冬地や中継地の国々にとっても生物多様性を守ることにつながるはずであり,東アジアの国々にとっても WIN-WINの関係になるため,この視点を持つことが大事だと思う.

 

会場の様子。法律をテーマとした集会にもかかわらず、多くの方にご参加いただいた。
会場の様子。法律をテーマとした集会にもかかわらず、多くの方にご参加いただいた。
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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 W04 ヨタカの生態 −これまでの研究とこれからの課題−

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)
河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

ヨタカ
日没後に縄張り内のソングポストに現れたオス成鳥

ヨタカは童話「よだかの星」の題材になったように、昔から里山の夏鳥として馴染みのある鳥です。夜行性であり地上に営巣することなど、他の鳥とは少し違った生態が広く知られている一方で、夜行性のために直接の観察が難しいことや、親鳥の擬態により巣の発見が難しいことから、詳細な生態についてはこれまで研究報告が少ない状態でした。

ヨタカは2006年の環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されたことなどをきっかけに、研究対象としての注目度が上がりました。近年はICレコーダーやプレイバックなどの新しい調査方法の確立も後押しする形で、ヨタカに関する研究報告が増えつつあります。例えば、ヨタカは伐採された人工林や植生が疎らな二次林、二次草原などに営巣しますが、巣材を使わないなりに営巣場所に必要な条件があることが明らかになりつつあります。また、ヨタカの生息適地を確保する上で人工林の管理や草原の維持が重要な役割を果たすこと、広域的な分布には景観要因や気温、標高が影響することも示されています。

本集会では、全国各地のヨタカ研究者が集い、それぞれの研究とその成果について紹介しました。そしてヨタカに興味のある参加者も交えての情報共有と課題整理を行いました。


1.はじめ「ヨタカの概要」

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)

 ヨタカは4-5月に渡来してなわばりを形成し、6月頃に産卵のピークを迎えます。育雛期以降の生態はよく分かっておらず、渡去は12月頃まで続きます。生息環境は主に自然林、二次林、植林地などの森林環境で、渡りの時期には農地や都市公園などでも観察されます。1990年代の全国調査では分布の減少が見られましたが、現在は分布が回復しつつある一方で、草地、河川敷、人里などでは分布はあまり回復していない様子がみられます。鳴き声は状況に応じていくつかのバリエーションがあり、音声コミュニケーションも利用していると思われます。抱卵期間は17-19日で、ヒナは孵化後15日程度で飛べるようになり、17日以降は巣の周辺から姿を消し、独立ちするまではなわばりの周辺で過ごしていると思われます。夜行性のため目視観察が難しいこともあり、採食行動の詳細は明らかになっていません。


2.「ヨタカの営巣環境について」

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)

 ヨタカの営巣地といえば、近年は植林伐採跡のイメージが強いですが、実際には植林地以外での営巣も多く見られます。岡山県内ではヨタカの生息地の多くは植林地が占めていますが、個体数密度でいえば自然林と植林地とでは大きな違いは見られませんでした。また、営巣地としては伐採後間もない環境以外にも、植林地の急傾斜地、二次林地の小規模崩落地や稜線上の疎林、明るい林内など、幅広い森林環境が利用されていました。これらに共通する抱卵場所の環境は、傾斜地の一部にある平坦な場所で、地表は水捌けの良い裸地となっており、抱卵場所の近くにはヒナが身を隠せるような小規模な茂みがある場所でした。抱卵場所から林縁や高木までの距離は巣によってばらつきがあり、林内の抱卵場所では林冠にヨタカが出入りできる隙間がありました。


3.「溶岩草原で繁殖するヨタカの営巣環境」

水村春香(山梨県富士山科学研究所)

 富士山麓では二次草原(火入れ草原)でヨタカが営巣していますが、国内における二次草原での繁殖報告は少ない状態です。巣の近くに樹木のない二次草原に特化した営巣特性があるのかを調べるため、巣を中心とした植生や地表の状況と、非営巣地の状況を比較しました。その結果、ヨタカの巣は二次草地の中でも堆積地ではなく溶岩台地の上でのみで発見されました。また、営巣地は非営巣地と比べて裸地が広く、地表の石礫は大きく、地上から高さ0.5-1m程度の植生被覆が少なかった。さらに、ヨタカは溶岩台地の中でも営巣場所を厳選しているようで、溶岩台地の尾根地形や水はけの良さに加えて、溶岩台地にあるヨタカの体色に似た色の石礫の多さも営巣と関係しているのかもしれません。


4.「ヨタカの砂浴び、交尾、抱卵、育雛などの生態撮影」

吉村正則

 夜行性のため観察の難しいヨタカですが、トレイルカメラによる自動撮影を用いることで、生態の一端を撮影することができました。細かい砂粒が乾燥した場所では、スズメの砂浴び跡のような窪地がいくつか見られることがありますが、ヨタカはそのような場所に日没後に現れると、細かな砂を体に浴びていました。このような砂浴び場所は、年や季節によって変わっていました。巣の撮影では、抱卵中のメスがさえずる様子が観察されました。また、抱卵中の巣にヤスデが近づいた際には、親鳥が翼を広げて威嚇していました。育雛期の撮影では、帰巣した親鳥がヒナを安全な場所に誘導する様子や、夜明け後にヒナを直射日光の当たらない草陰に誘導する様子が撮影されました。交尾行動としては、オスが地上や柱上でメスの前で尾羽を広げて細かく振り、求愛を受け入れたメスがオスと地上で交尾する様子を撮影をしました。


5.「ヨタカのさえずり頻度の変異と効率的な生息調査法」

才木道雄(東京大学秩父演習林)

 ヨタカの広域スケールでの分布の把握や地域スケールでの生息地利用の確認には録音調査は有効な手段のひとつですが、音声の確認には録音時間と同等以上の時間が必要になります。そこで、データの一部をもちいてヨタカの在不在やさえずりの活発さを精度よく推定するため、さえずり頻度の季節的、時間的変異を考慮した効率的な生息調査法を検討しました。さえずり頻度の季節的変異は概ね二山型(つがい形成期、抱卵から育雛初期)となりましたが、さえずりの時間的変異には様々なパターンが見られ、薄明時のみの調査では在不在やさえずりの活発さを正確に把握できない可能性がありました。さえずり頻度の時間的変異を考慮した結果、さえずりが活発で時期を予測しやすいつがい形成期を調査対象時期とし、録音解析の努力時間を60分前後とした場合は、日没から日出までを1時間間隔に分割して5分ずつ確認するのが最も効率的で精度の高い調査法でした。


6.「人工林伐採による幼齢林の増加がヨタカの生息を促す」

河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

 ヨタカなどの遷移初期種は各地で減少していますが、伐採後の幼齢林は遷移初期種の代替的な生息地になりうるため、ヨタカが高密度で生息する場所では伐採による保全が期待されます。北海道中部でのプレイバック調査では、ヨタカの生息確率は伐採直後の人工林で高い傾向があり、周囲500 m圏内の幼齢林面積から正の影響を、標高から負の影響を受けていました。これらのことから、北海道中部の標高が低い場所では人工林伐採による幼齢林の創出が効果的なヨタカの保全策となることが明らかになりました。なお、標高の影響は本州で行われた既往研究では確認されなかったことから、気温の影響が反映されたものと思われます。人工林伐採で効果的にヨタカの生息地を創出するには、事前に対象地の気候や標高を考慮することが重要であり、このような各生物種の保全効果の場所差を考慮した森林管理は生物多様性の保全と木材生産の両立につながると考えられます。


7.まとめ「ヨタカ研究-世界での隆盛、日本での課題」

河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

 国内における近年のヨタカの研究は、調査手法の多様化、テーマの広がりと共に知見が増えつつあります。海外ではヨタカ研究のネットワークの形成や研究集会が行われています。未知の部分が多い上、特徴的な生態を有するヨタカは、様々な研究分野に展開できる魅力的な研究対象です。海外では既に、風と渡り経路の関係、月齢による渡り行動への影響、人工照明による夜間行動への影響、営巣場所の背景選択による隠蔽度の向上など、興味深い研究が進んでいます。一方、国内でのヨタカ研究の課題としては、捕獲、追跡調査の不足や、一般化できるだけの研究例がないことが挙げられます。これらの課題に対して、少しずつではありますが取り組みへの動きが出始めていることから、関係者の協力関係の構築も含めて、今後の研究の発展が期待されます。


 

本集会では上記の発表の後に、参加者も交えての質疑応答と情報交換を行ないました。営巣環境の条件や、生息調査の手法の確立、森林管理と生息状況の関係性など、近年明らかになってきたヨタカの基礎生態も多く、関係者が一同に会して情報共有することで、これまで不明な点が多かったヨタカの姿が明らかになりました。また、ヨタカの研究者でなくても、バンディングでヨタカを捕獲した際の個体情報や、カメラ等による撮影画像など、貴重な情報をもっている人がいることから、研究者と観察者が情報を共有することで、生態の更なる解明に繋がる可能性が見えてきました。一方で、海外のヨタカ類の研究と比較すると、国内ではGPSによる個体追跡や、暗視カメラ等による長時間撮影など、最新の調査機材を用いた研究が進んでいないという課題が見えてきました。また、国内外でのネットワーク作りも進んでいないことから、今後はこれらの基礎固めをすることで、ヨタカ研究の更なる発展が期待できると感じました。

お忙しい中、自身の研究内容を惜しげも無く共有してくださった発表者の皆様と、数々の魅力的な自由集会の中から本集会を選んでくださった参加者の皆様に、厚く御礼申し上げます。

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日本鳥学会2023年度大会参加報告

日本鳥学会2023年度大会参加報告

北海道大学 文学院 博物館学研究室 修士1年
池田圭吾

2023年9月15日から18日にかけて,金沢大学で開催された日本鳥学会2023年度大会に参加しました.今年で2回目の参加となり本大会で私は,「江戸時代の北海道におけるワシの分布」という題目でポスター発表を行いました.また,3日目に行われた懇親会にも初めて参加し,非常に有意義な時間を過ごすことができました.

江戸時代のワシの分布に関するポスター発表では,幸いなことに歴史資料を用いた鳥類の研究に興味を持っていただくことができ,様々な分野を専門とする方々からご意見やご質問をいただき大変実りのある時間となりました.特にご質問が多かったのは,江戸時代の北海道におけるオジロワシやオオワシの個体数に関するものでした.私自身もその点には大きな関心がありますが,歴史的な史料に残されたデータには限りがあり,個体数を算出することは容易ではありません.しかし,私が考えていたこととは異なる視点から,当時の個体数を算出する手法についてご助言をいただくこともでき,研究を進めていくうえでの視野が広がりました.

江戸時代の北海道におけるワシ猟の様子
(東京国立博物館所蔵『蝦夷島奇観』を加工、http://webarchives.tnm.jp/)

初めて参加した懇親会では,歴史的,文化的な観点から鳥類を研究している方々と意見を交わすこともできました.歴史資料に記載された鳥類に関する研究を専門としている方は少ないので,普段そのような方々とお話できることは多くありません.そのため,本大会のような貴重な機会を提供していただけることは非常にありがたいです.また,それと同時に歴史的な視点から鳥類を研究するにあたっては,現代の鳥類の生態に関する知識を学ぶことが欠かせません.ポスター発表や口頭発表ではもちろんのこと,懇親会でもイヌワシやオジロワシなど猛禽類の生態に関するお話をお聞きすることができました.ほかにも,ここには書き尽くすことができないほど様々な貴重な話をお聞きすることができました.本当にありがとうございました.

余談ではありますが,個人的にはちょっとしたトラブルもありました.3日目の朝には,会場行のバスに乗ることができず,会場から金沢駅に戻るときには数人で話しているうちに乗り過ごしてしまったのです.しかし,初対面の参加者の方からタクシーの乗り合わせを提案していただいたり,金沢駅まで電車に乗って談笑しながら帰ったりとなんとか無事に日程を終えることができました.昨年度初めてポスター発表を行ったときにも感じたことですが,このような参加者の皆様の和やかな雰囲気のおかげで,学会全体の議論が活発になると同時に,歴史的な鳥類の研究をも受け入れていただける懐の深い学会になっているのだと思います.

また,他の参加者の方々の発表で個人的に興味深かったのは,野鳥をまもる防鳥ネットの展示や販売ブースでした.地元に帰省した際に野鳥を観察しにいくと,ハス田の防鳥ネットに多くの野鳥が絡まっている様子を頻繁に目撃します.そのような姿を見るのは悲しく,水鳥によるレンコンの被害を減らすことと,防鳥ネットを野鳥にとって安全なものにすることの両立はできないのか疑問に思っていました.そんななか,羅網事故が発生しにくい防鳥ネットを開発している方による展示や販売ブースを本大会で見かけ,嬉しく思いました.本大会では,このような実践的な取り組みに関する展示とともに,レンコンの食痕から食害のもととなる加害種を推定する方法に関するポスター発表もあり,様々な視点から研究が行われていることを学びました.今後,これらの研究成果が生かされ,防鳥ネットによる野鳥の被害が減少することへの期待が膨らみました.

羅網事故の様子(筆者撮影)

話題を歴史的な鳥類の研究に戻すと,2日目の午後の自由集会では「第5回標本集会 江戸時代の鳥を知ろう」が開催されました.明治時代の標本コレクションに関する説明の後,茶の湯で使用される羽箒,江戸時代の出来事が記録された古文書,遺跡から出土した骨をそれぞれ用いて,標本に残らない江戸時代の鳥類を研究する方々の発表を聞くことができました.まさに私が学んでいる時代に関する発表ですが,手法や対象とする鳥類が異なれば知らないことばかりで,非常に勉強になりました.また,羽箒に使われた羽の種類を特定するために奔走したり,古文書からひたすら「鶴」の字を探したり,様々な分析手法を用いたりと研究に対する熱意が伝わってくる発表でした.私自身も研究を進めていくことはもちろんですが,今後このような熱意が広まり,鳥類研究の1つの分野として,古文書に限らず幅広い歴史資料から鳥類を研究する分野がさらに発展していくことを期待しています.

最後に,2023年度の大会を開催し,無事に4日間の日程を終えるためにご尽力いただいた大会実行委員やスタッフの皆様と,どんな分野でも暖かい雰囲気で受け入れていただける参加者の皆様に御礼申し上げます.そして,2024年度の大会に参加できることを心待ちにしております.

 

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日本鳥学会2023年度大会の感想

日本鳥学会2023年度大会の感想

都立国分寺高校 生物部
納谷莉子

私達都立国分寺高校生物部はカラスバトについて音声分析班とGPS班を編成し,グループでカラスバト研究を行っています.その中で私はGPS班に所属しています。私達国分寺高校生物部がカラスバトの研究を始めたのは約12年前です.はじめはカラスバトの生息する伊豆大島の林道を中心に観察を進めていましたが,カラスバトは警戒心が強く,人前にめったに姿を現さないため調査は困難でした.そこで目を付けたのが羽でした.大島公園の飼育個体の羽を拾い,いつ抜けたのかなどを調べてカラスバトの羽の生え替わりなども解明しようとしたり,安定同位体比の調査を進めたりしました.しかし,これらのことはカラスバトの生態解明にはあまり繋がらないのではないか,と考え,他の調査が始まりました.

それが,音声分析班が行っているフィードバック実験です.島の林道でスピーカーを用いてカラスバトの鳴き声を流し,それに対して野生のカラスバトはどのように反応するのか,また,その時の行動などとも照らし合わせることでカラスバトはどのようなときに,どう鳴くかを調査しました.その結果,島内でカラスバトがよく鳴く,つまりカラスバトが多くいる場所が分かり,その場所は今ではカラスバト調査の定番の場所となっています.黒田治男先生による音声分析方法の指導や,株式会社リバネスによる録音機の貸し出し等の支援もあって音声分析班は今も調査を続けています.ドローンによってカラスバトの生息地等の環境を調べることでカラスバトがどのような環境を好むか,という調査も行いました.

約2年前,大島公園でケガを負って保護していたカラスバトが回復し,放鳥されることになりました.この時,本校生物部顧問の市石博先生へ,「可能な範囲であれば研究にご協力できます」との連絡が入りました.そこで日本野鳥の会会長である上田恵介先生を通じて,国立環境研究所の安藤温子博士と連絡をとり,保護個体にGPS発信機を取り付けて放鳥しました.こうして安藤博士,大島公園との共同研究に発展し,私達GPS班の活動が始まりました.

そして,今回鳥学会大会に参加し,同じように鳥を研究する同年代の仲間たちと研究結果を共有することができ,とても充実した2日間を過ごしました.同年代の仲間のみならず,研究者の方々からも様々な方面からのアドバイスが寄せられ,これからの研究を進めるにあたり私たちが注意するべき点,よりよい研究にするためのポイント等をメンバーの皆と改めて考えるきっかけにもなりました.さらにGPS班は今回科学賞を受賞させていただきました。このような光栄な賞をいただくことができ、とても嬉しかったです。この研究を進めていく上で、GPS発信機による位置情報を取得できずデータ数が少ないこと、カラスバトの行動観察が困難なことに悩まされたこともありましたが、私たちの研究が発表を聞いてくださった方々に評価していただけたことはこれからの研究に対する意欲を高めるものとなりました。今回いただいた意見を基にこれからの研究活動に真摯に向き合い,私たちを支えてくださる皆様への感謝を忘れずにカラスバトの生態解明に励み続けたいと考えています.

最後に国分寺高校生物部は,中谷医工計測財団から助成を受けて研究活動を実施しています。この場を借りて,お礼申し上げます.

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活動探訪 「軽井沢のホントの自然 〜現在・過去・未来〜」に参加してきました!

広報委員 遠藤幸子

みなさん、こんにちは!鳥たちのさえずりが聞こえる今日この頃。今回は、寒いなかにも春の気配を感じる長野県軽井沢町よりお届けいたします。

軽井沢町は、観光地や探鳥地としてメディアで紹介されたりすることから、来たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。ここで昨年11月に「軽井沢のホントの自然〜現在・過去・未来〜」というイベントが開催されました。こちらのイベントでは、鳥類をはじめとする生物関連の著書を出版されている石塚徹さんが軽井沢町の自然の歴史や現在の状況などについてお話しされました*。

国設軽井沢野鳥の森からみた浅間山(2023年12月3日に遠藤が撮影)

軽井沢町は、浅間山という活火山の麓にあります。浅間山の噴火の影響により、昔は町の南部に湿原や草原が広がっていたそうです。そうした草原環境が開発により失われていった一方で、農地として開拓され、その後使われなくなった場所が草原になっていったのだそう。このようにしてできた草原では、以前は繁殖期にオオジシギもみられていたとのことでした**。残念ながらオオジシギは近年確認されていないとのことですが、こうした場所では草原を生息環境とするさまざまな生物が今もみられるのだそうです。石塚さんは、軽井沢に残る草原環境は、火山や人のかかわりの歴史を反映した「自然史遺産」であるとお話されていました。

当日の会場の様子。左が講師の石塚徹さん。

こちらのイベントでは他にも、軽井沢で近年増えた・減った生き物のこと、多様な環境が存在することの重要性などの色々なお話がありました。長年この地域で観察と調査をなさってきた石塚さんだから知っている、貴重な内容が盛りだくさんでした。

地域の自然の成り立ちを知ることは、自然環境の保全や再生を考えるうえでも大切なことです。このイベントの約3週間後、当日参加した人や後日動画をみた人が集まり、軽井沢の自然について一緒にお話するという「おしゃべり場」というイベントが開催されました。そこには、この地域の自然の歴史、科学的な知見、さまざまな立場の人々の想いとともに町の自然のこれからについて考える、人々の姿がありました。

*石塚さんは、軽井沢町の自然に迫る『軽井沢のホントの自然』(ほおずき書籍, 2012)、少年とともに自然を探検している気分になれる物語『昆虫少年ヨヒ』(郷土出版社,2011)、『歌う鳥のキモチ 鳥の社会を浮き彫りに』(山と渓谷社, 2017)などの鳥類関連の書籍など、さまざまな著書を出版されています。

**オオジシギは、環境省レッドリスト2020にて準絶滅危惧種に指定されています。

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鳥学通信が新しくなりました

(広報委員長 上沖正欣)

鳥学通信の前身は1975年12月から2001年12月(No. 81)まで発行されていた鳥学ニュースです(当初は「鳥学会ニュース」、1983年のNo. 11から「鳥学ニュース」に改名)。和文誌のフォーラムが開始されてからはしばらく休刊となっていましたが、2005年に広報委員会が新設されたのを機に日本鳥学会ウェブサイト上で「鳥学通信」として再開されました。2015年10月からは「さくらのブログ」で配信してきた鳥学通信ですが、利便性の向上を目的に、今後は再び学会ウェブサイト内で新たにWordPressを導入して配信することとなりました。

「さくらのブログ」旧記事については既に移行済みです。旧ページへリンクされている方がいらっしゃいましたら、更新をお願い致します。

現在では個々人がウェブサイトやSNSを使って自由に情報発信をおこなうのが当たり前の時代となっています。しかし、そうしたプラットフォームは検索されにくかったり古い情報が埋もれてしまうことが多々あります。鳥学通信は事務連絡だけでなく、鳥学会会員の皆様の情報発信や交流の場として、研究に関すること以外にもイベント告知や参加報告、便利道具の紹介など、鳥学に関する情報を幅広く扱う、有益なプラットフォームにしていきたいと考えています。何かネタをお持ちでしたら、気軽に広報委員会 koho[at]ornithology.jp まで記事を書いて送って下さい。

来年2025年には50周年を迎えます。引き続き、宜しくお願い申し上げます。

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国際生物音響学会に参加して

五藤花(北海道大学環境科学院)
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秋の北海道大学札幌キャンパス。銀杏並木が有名で毎年多くの観光客が訪れる。ちょうど学会期間の中日に紅葉がピークを迎え、主催者である相馬雅代先生の完璧なスケジュールに脱帽。

 

2023年の10月27日から31日にかけて、北海道札幌市の北海道大学にてInternational Bioacoustics Congress (通称IBAC、アイバックまたはイバック、呼び方に個人差あり)が開催された。世界の20以上の国々から、200人を超える学生や教員、専門家が参加した。

そもそもBioacousticsすなわち生物音響学とは何かというと、ざっくり言えば生き物の音をひろく扱う学問である。その懐の広さたるや、仏様もびっくりレベルである。分野で言えば、遺伝子から神経生理、解剖学、行動、生態系まであつかう生物学、音の物理的性質、機械学習、録音機材を扱うような工学寄りまで。音の周波数で言えば、ゾウのような低音から、コウモリやネズミ、イルカ等の超音波まで、ヒトの可聴域を優に超える範囲の音を扱う。ちなみにこれはIBACを運営しているInternational Bioacoustics Societyによる生物音響学の紹介文からかいつまんでご紹介している。ご興味のある方はこちらを読んでいただけると嬉しい。

私にとってこれが初めての国際学会だったのだが、いち参加者としても、そして北海道大学の運営側としても学会に携わらせてもらった。準備段階から皆が帰るまで、わくわくのとまらない非常にエキサイティングな学会だった。私がインコだったなら、終始瞳孔を収縮させながら頭を振っていたことだろう(※補足情報)。

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学会初日の朝。皆でポスターボードを用意中。

 

準備期間には、発表要旨を読んでプログラムを組んだり、ポスター賞の投票箱を段ボールから作ったりと、学会運営の苦労の一部を味わった(主催の先生方はもっと大変だったに違いないので”苦労の一部”としておく)。しかし何せコロナ禍で実地の学会経験も浅く、国際学会が初めての学生である。すべてが新しい挑戦だったが、先生方が適宜助言してくださったおかげで、なんとか仕事をこなしていたように思う。そしてその傍ら、自分のポスターも並行して行っていた。多忙を極めていたが、その分ポスターが刷り上がった時の達成感はひとしおであった。そんななか、夜にふらふらになって研究室のデスクに帰ったら、後輩からチョコの差し入れが。「ごとはなさん、おつかれさまです、チョコでーす」と書かれた付箋が添えられていた。実際こういうのが何より心温まる。素敵な研究室メンバーに恵まれているなとありがたく思った。

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左:前日の夜に撮った看板の写真。

 

そしてやってきた当日。北大のキャンパスは紅葉真っ盛りでゲストの皆様をお迎えするには絶好の季節だった。早朝からぞくぞくと集まってくる外国人の方々に若干の緊張を覚えたが、国際学会初心者にとってありがたかったのは、なんといってもそのフレンドリーな雰囲気だった。

口頭発表では、対象種の鳴き声を紹介するときに実演してみせる人が続出。初日から会場にサルやら鳥やらの鳴き真似が飛び交い会場は大盛り上がり。口頭発表のタイムキーパーを担っていた私は、盛り上がっている時ほど、楽しそうにお話されているところで発表を打ち切らなくてはならないのが非常に心苦しかった。私だってコーラスに加わりたい。

自分が参加したポスター発表では、論文で名前を拝見した研究者の方々と実際に議論することができ、とても刺激になった。論文には出てこないような日々のちょっとした気づきやアイデアまで含めて、国境や立場を超えて議論できるというのは大変貴重な機会だったと思う。ポスターセッションが終わってもまだまだ喋り足りないと思うくらい時間はあっという間に過ぎていった。

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ポスターは刷って貼っておしまいではない。刷ってからが勝負。 割り箸と画用紙で自作した小道具まで使ってプレゼンに挑んだ。その効果もあってか、ありがたいことに皆様からの投票でポスター賞をいただいた

 

毎朝の招待講演にも、鳥を扱っている研究者が数名登場した。ヨウムのアレックスで知られているペッパーバーグ博士の講演は、まるで彼女の本を読んでいるかのように興味深いエピソードでいっぱいだった。南アフリカでミツオシエの研究をされているスポティスウッド博士の講演は研究内容が面白過ぎて朝の眠気が全て吹っ飛んだ。どれもタイムキーパーの特権で最前列の席から聴けたことを非常にうれしく思う。

最終日の最後まで、参加者の皆さんが楽しそうに過ごしているのをみて運営側としては非常に嬉しかった。会場を閉じますよといっても、皆名残惜しそうに会話を続けていてなかなか出て行かない(こういうとき日本人だったら蛍の光でも流せば出ていってくれそうなのに、などと妄想した)。施錠を任されている運営側としては早く閉めてしまいたいが、それだけ参加者の皆さんにとって良い議論や交流の場になっていたと思えば頑張った甲斐があるというものだ。おかげで、初めての国際学会参加と運営をとても温かい気持ちで終えることができた。

次のIBACは2025年、開催場所はデンマーク。鳥を含めた生き物がつくりだす音に興味のある方は、ぜひ参加を検討してみてはいかがだろうか。

- 受賞されたポスター賞のインタビュー記事はこちら(英文。PeerJのサイトに移動します)
- 五藤さんの海外留学シリーズの記事はこちら
- 補足情報:ディスプレイの際に頭を振るインコ目の例(Youtube: キバタンワカケホンセイインコ
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