2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(森 真結子)

森 真結子(帯広畜産大学 保全生態学研究室) 

 この度は、日本鳥学会2023年度大会において、「生態系管理/評価・保全・その他」部門のポスター賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。今回発表させていた研究は、私自身の初めて行った研究であり、このような賞をいただくことができ、驚きと喜びの気持ちでいっぱいです。
 共に研究を作り上げて行く中で、いつも親身になって下さり、熱心にご指導いただきました保全生態学研究室の赤坂卓美先生には心よりお礼申し上げます。また、調査に同行して下さった研究室の皆様をはじめ、本研究に携わって下さった全ての皆様にもお礼申し上げます。
 本大会を通じて、多数の方々より貴重なご意見やアドバイスをいただきました。いただいた言葉ひとつひとつを整理し、さらに研究と向き合っていきたいと思います。また、大会を運営してくださった実行委員会の皆様および関係者の皆様にもお礼申し上げます。これまでにない貴重な経験をさせていただけたこと、感謝いたします。

研究の概要
 これまで鳥類による害虫抑制が、作物の収量増加に大きく貢献することが様々な研究で明らかになってきています。しかし、農業の集約化は鳥類の種数および個体数を著しく低下させています。世界の食料生産の需要が高まる中で、如何に生産量の増加と生態系サービスの享受を両立していくかが、今後の持続可能な社会の実現に欠かせない課題となっています。
近年、集約的農業において、土壌の質を改善するために緑肥作物が注目され始めています。休閑緑肥圃場は、農薬の散布や人の介入が少ないことから、鳥類にとって好適な生息場を提供し、周辺の農地への鳥類の害虫抑制機能をも増加させる可能性があります。そこで本研究では、持続可能な農業の実現を目的に、休閑緑肥圃場が有する鳥類の保全機能および周辺農地に対する鳥類の害虫捕食量を明らかにしました。
 北海道十勝平野において、休閑緑肥圃場と周囲に休閑緑肥圃場がない圃場を各11か所選定し、ラインセンサス法により鳥類相を調査しました。さらに、隣接する圃場内において鳥類による害虫捕食量を、疑似餌を用いて定量化しました。これにより得られたデータと休閑緑肥の有無、および周囲の土地被覆面積(森林面積と荒地面積)の関係をモデル化しました。

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調査圃場内において疑似餌を設置する様子
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設置した疑似餌についた鳥類による捕食痕

 結果は、鳥類の種数および個体数は休閑緑肥圃場内で増加しており、周囲の森林面積によっても増加していました。また、この鳥類の種数の増加を介して、休閑緑肥圃場に隣接する圃場内では疑似餌の捕食量が増加しました。本研究は、休閑緑肥圃場が有する新たな機能を明らかにし、休閑緑肥のさらなる導入が持続可能な集約的農業の実現に貢献することを示唆します。

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2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(飯島大智)

東京都立大学・学振PD
飯島大智

 東京都立大学・学振PDの飯島大智です。このたびは日本鳥学会2023年度大会において「繁殖・生活史・個体群・群集」部門のポスター賞を授与していただき誠にありがとうございます。貴重な発表の場を設けていただいた大会関係者の皆様、ポスター発表でご意見を下さった皆様に御礼申し上げます。また、記念品をご提供いただいたモンベル様にもこの場を借りて感謝申し上げます。

研究の概要
 山岳は、垂直方向に気温や植生などの環境が劇的に変化するため、生物多様性や生物群集の地理的な勾配を形作るプロセスを探究するための理想的なシステムです。生物群集を種数などの指標に加えて、構成種の系統や形質から特徴づけ、環境との対応を調べることで、群集を形成するプロセスを深く理解することができます。しかし、山地帯から高山帯にかけた広い標高範囲にかけた生物の群集構造の標高勾配に対する自然環境と人間による土地利用の改変が与える相対的な影響は完全には解明されていません。

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野外調査中の風景。乗鞍岳の山頂(3,026m)を望む

 そこで本研究では、長野県乗鞍岳(標高3,026m)の山地帯から高山帯にかけて野外調査を実施し、鳥類群集を種数と、系統・形質構造から調べ、鳥類群集に自然環境と人間による土地利用の改変が与える相対的な影響を解明することを目的としました。種数、系統・形質構造は標高100mごとに調べました。具体的には、種構成をランダムに決定した群集と実際の群集の形質・系統構造を比較し、ランダム群集よりも実際の群集の構成種間の形質や系統が似ている群集(クラスター)、または異なっている群集(過分散)を調べました。群集のクラスター構造は、環境フィルターにより特定の生態を持つ種が選択されたこと示し、過分散構造は、種間競争などによって似た生態をもつ種が群集から排除されたことを意味する指標です。そして、種数と系統・形質構造に自然環境と人間による土地利用の改変が及ぼす影響を、空間自己相関を考慮した重回帰分析によって調べました。

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高山帯に生息するライチョウは、氷河期の生き残りと呼ばれる生物の1種である

 解析の結果、乗鞍岳の鳥類群集の種数、系統・形質構造は、高山帯、亜高山帯の上部、亜高山帯の下部から山地帯において、異なる特徴をもつことがわかりました。高山帯では低温、樹木のない環境、乏しい餌資源が、亜高山帯上部では数種の樹種が優占する針葉樹林が鳥類群集の構造に強い影響を与えていることが示されました。また、自然環境が鳥類群集に与える影響は、人間による土地利用の改変が与える影響よりも強いこともわかりました。以上の発見は、高山帯の鳥類群集は気候変動に対して、亜高山帯上部の鳥類群集は亜高山帯針葉樹林の開発に対して脆弱であることを示唆し、山岳の生物多様性保全に貢献するものです。今後は、鳥類群集だけでなく、高山帯や亜高山帯の生態系全体が気候変動や人為的撹乱に対してどのような影響を受けるのかを理解し、将来引き起こされうる変化の予測に寄与できる研究を進めていきたいと考えています。

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2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (寺嶋太輝)

東京農工大学農学府共同獣医学専攻D2
寺嶋太輝

 この度は、日本鳥学会2023年度大会におきまして、「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞をいただき誠にありがとうございます。ポスター発表に足を運んでくださった皆様に御礼申し上げます。本研究は、日本野鳥の会の皆様や現地でサポートしてくださる神津島の皆様をはじめとする多くの方々のご協力の上で成り立っています。この場をお借りして感謝申し上げます。

ポスター発表の概要
 尾腺は鳥類に特有の分泌腺であり、その分泌物は羽づくろいの際に全身に塗り広げられます。近年、いくつかの鳥種において、分泌物組成に種差や性差、季節変化が報告されています。中でも、嗅覚の発達する海鳥では、尾腺分泌物の個体差を識別している可能性が示唆されています。本研究では予備的な研究として、国内に繁殖する海鳥2種について、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた尾腺分泌物の定性解析方法を確立した上で、種差および性差が存在するかを調べました。

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オーストンウミツバメ成鳥。捕獲は学術申請許可のもと実施した。

 その結果、対象としたオーストンウミツバメおよびオオミズナギドリについて、明確に異なるクロマトグラムを得ました。一方、この2種間で互いに共通して存在するいくつかの代謝物を同定しました。また、オーストンウミツバメでは雌雄で有意に異なる代謝物が6つ同定されました。2種で共通して存在する代謝物は、種の違いを超えた共通の尾腺分泌物の役割を担っている可能性があります。今後は、採取時期や個体数を増やすことで種差や性差を生む代謝物が繁殖期を通じて変化するのかを明らかにしていきたいと考えています。
 ウミツバメ科の海鳥は、謎多き海鳥の中でも、その体の小ささや専ら遠洋性の行動、繁殖地においての夜行性の活動がゆえに、その生理・生態系はほとんどわかっていません。私はオーストンウミツバメの尾腺分泌物組成に関する基礎研究に加え、尾腺分泌物を利用した環境汚染調査やジオロケータによる生態調査などの応用研究も行っています。これらの情報を有機的に繋ぎ合わせ、国内の他種ウミツバメ、特に絶滅の危機に瀕したウミツバメ、さらには世界中の小型海鳥の保全に役立たせることを夢見ています。

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第7回日本鳥学会ポスター賞 飯島さん・寺嶋さん・森さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 中原 亨

 日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。昨年に引き続き対面形式で開催された日本鳥学会2023年度大会では、第7回ポスター賞を実施いたしました。厳正なる審査の結果、本年度は、飯島大智さん(東京都立大学)、寺嶋太輝さん(東京農工大学)、森真結子さん(帯広畜産大学)が受賞しました。おめでとうございます。

 応募総数は、多かった昨年度をさらに上回り、57件と過去最高を更新しました。チャレンジする若手は着実に増えてきているようです。会場は熱気に包まれ、活発な議論が行われていました。ポスター賞は30歳まで、受賞するまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非来年再挑戦してください。

 最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

日本鳥学会2023年度大会ポスター賞
応募総数:57件
 繁殖・生活史・個体群・群集部門:14件
 行動・進化・形態・生理部門:21件
 生態系管理/評価・保全・その他部門:22件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「系統・形質アプローチから解明する山岳の鳥類群集の群集集合」
飯島大智・小林篤・森本元・村上正志

《行動・進化・形態・生理》部門
「オーストンウミツバメとオオミズナギドリにおける尾腺分泌物の定性分析」
寺嶋太輝・山本裕・田尻浩伸・手嶋洋子・永岡謙太郎

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「集約的農業景観における鳥類の保全と生態系サービスの享受に対する休閑緑肥圃場の貢献」
森真結子・赤坂卓美

【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「ヒクイナは巣立ち雛のために新たに“抱雛巣”をつくる」
大槻恒介

《行動・進化・形態・生理》部門(同点2件)
「鳥類の鳴き声行動の理解に対するロボット聴覚に基づく観測と生成進化モデル」
古山諒・鈴木麗璽・中臺一博・有田隆也

「亜種リュウキュウオオコノハズクにおける翼の性的二形と育雛行動の関連」
江指万里・宮城国太郎・熊谷隼・細江隼平・榛沢日菜子・武居風香・高木昌興

※9月17日の授賞式にて、スクリーンに表示していたにもかかわらず、読み上げそびれていました。この場を借りてお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「公立鳥取環境大学構内における鳥の窓ガラス衝突と紫外線カットフィルムを使った対策の効果」
市原晨太郎

【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「津軽平野で繁殖するゴイサギの繁殖期の行動パターンと渡り」
  柴野未悠・東信行

《行動・進化・形態・生理》部門
「種内の体色評価に画像利用は有効か?スペクトロメーターを利用した体色研究」
  榛沢日菜子・武居風香・髙木昌興

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「野生のウミネコのテロメア長は水銀暴露によって短縮する」
  大野夏実・水谷友一・細田晃文・新妻靖章

「DNAバーコーディングで明らかになった、絶滅危惧種カンムリワシの季節的な食性の差」
  戸部有紗・佐藤行人・伊澤雅子

「小笠原諸島で採集した海鳥巣材に含まれる種子の組成-海鳥による種子分散の観点から-」
  水越かのん・上條隆志・川上和人

「江戸時代の歴史資料から探る北海道におけるワシの分布」
  池田圭吾・久井貴世

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左から寺嶋さん、飯島さん、森さん、綿貫会長
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2023年度日本鳥学会内田奨学賞を受賞して(溝田浩美)

溝田浩美(人と自然の博物館地域研究員)

 この度は、2023年度内田奨学賞をいただけたことを大変うれしく光栄に思います。長い年月を要してしまいましたが、多くの方々のお力をお借りし論文にできたことを心より感謝いたしております。鳥学の世界に導いてくださった江崎保男先生、研究をご指導いただいた大谷剛先生や布野隆之先生、鳥の学校でお世話になった濱尾章二先生、査読や選考に携わっていただいた皆様に、この場をお借りしお礼申し上げます。

 アオバズクの調査は六甲山の北部で行いました。田畑が広がり、雑木林が残る自然豊かな地域です。2004年のことでした。同地域で動物病院を開業されている八百先生から、病院の裏にあるエノキの木に毎年アオバズクが来ていると聞き、その場所を見に行ったことが研究の始まりでした。アオバズクが止まるエノキの枝の下には餌となった昆虫の残骸が多数落ちており、この残し餌からどのような餌を食べているのかを調べることにしました。

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図1 エノキの枝に止まるアオバズクのオス

 翌年(2005年)の4月末にアオバズクの声が聞こえ、エノキの枝に止まるオスを確認した日から本格的に調査を始めました。はじめは、アオバズクの巣がどこにあるのかもわからず、日が落ち、上空をカラスの群れが塒に戻る姿を眺める日々が続きました。しかし、カラスが塒に入った後、アオバズクのオスが“ホウホウ”と鳴くと、どこからともなくメスが現れたので、私は納屋の陰に隠れ、息を殺しながらそっとアオバズクを観察しました。そして、八百先生の助言をもとに、樹洞ではなく民家の屋根裏の営巣地を見つけることができました。また、アオバズクの夜間観察から、ヒナへの給餌は両親で行い、甲虫や蛾などの頭胸部や翅などをむしり取って与えることも分かりました。

 残し餌の回収は、ヒナたちが巣立ち、この地を離れるまでの約2か月間、保育関係の仕事の合間にほぼ毎日行いました。藪蚊襲撃の中、上から見下ろすアオバズクの視線を感じながら黙々と残し餌を集めたことは、今でも忘れられません。回収した残し餌は種類別に分け、頭や胸、翅をカウントし、捕食された昆虫類などの頭数を調べました。翅だけで同定をすることが難しい昆虫類は、顕微鏡で拡大し、種による違いを一つ一つ見つけていきました。
 
 調査の結果は、「第1回 共生のひろば」で発表しました。「共生のひろば」はアマチュアの調査成果・活動内容の発表会であり、2004年以降、兵庫県立人と自然の博物館が毎年、2月11日に開催しています。博物館の研究員からの助言や他の参加者との交流はとても刺激になり、その中で新たな課題も見つかり、翌年の営巣環境での昆虫相の調査につながりました。

 調査2年目は営巣地周辺の昆虫相を調べるため、ライトトラップを用いて明りに集まる昆虫類を捕えました。昆虫類の採集は、白い布を向かい合わせて立て、ブラックライトを吊るし、虫まみれになりながら行いました。大谷家と溝田家が家族ぐるみでおこない、子どもたちは手に網を持ち、夜の遠足のようで、とても楽しい思い出となりました。

 捕えた昆虫類は、大谷先生に教わりながら、展足や展翅を行い、触角や足1本に至るまで形を整えていきました。乾燥させたのちラベルを付けるのですが、美しく整えられた昆虫はまるで芸術品でした。採集した昆虫類555個体を全て標本にした後、種名を調べました。作業をする中で大谷先生からお聞きする話は昆虫愛にあふれていて、昆虫に対する多くのことを学ばせていただきました。

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図2 種の同定のために作成した昆虫標本

 これらの調査から、コウチュウ目を主な餌としているアオバズクが、雛の孵化直後には体の柔らかいチョウ目をわざわざ選んで与えていることがわかってきました。しかし、それを学術論文に取りまとめるとなると、自然の中に身を置き、昆虫や鳥たちに囲まれた調査とは違い、私にとってはとても大変なことでした。自分の力のなさを痛感し、あきらめかけた時、鳥の学校の「論文を書こう」に誘われ、何とか頑張ることができました。論文投稿後は、査読者の方々が丁寧に助言してくださるのですが、それに応えられず、直せば直すほど混乱した時期もありましたが、大谷先生、布野先生に助けていただきながら、修正することができました。布野先生は最後まで手直ししてくださり、原著論文を完成させてくださいました。その論文で賞までいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 今後は、アオバズクが捕食した餌昆虫のカロリーや栄養成分に着目し、研究を発展させていきたいと思っています。2021年と2022年にライトトラップを徹夜で行い、分析に必要な昆虫類のサンプルは十分に集まりました。これらの昆虫類の同定と分析はとても大変ですが、楽しみながらコツコツと進めていくつもりです。

 あきらめずに続けてきたこと、一つ一つの地道な調査が楽しみだったこと、多くの人に支えられたこと、共に歩める素敵な人との出会いに恵まれたことが受賞へとつながったのかもしれません。投稿先がアマチュアに対し広く門戸を開いている日本鳥学会だったことも私にとっては幸運でした。
 
 これからも、鳥の世界に恩返しするため、小さな子どもたちやお母さんたちを虫好き、鳥好きにすべく、日々奮闘していきたいと思います。

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2023年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所・学振PD 澤田明

 この度は2023年度の日本鳥学会黒田賞を賜り、誠にありがとうございました。これまでのリュウキュウコノハズクに関する研究活動全体が評価対象となりました。私を研究者として育て上げていただいた研究指導者の方々、一人では行えない研究を共に形にしていただいた共同研究者の方々、離島での長期滞在を可能にすべくご尽力いただいた研究機関事務職員の方々、毎年半年におよぶ過酷な調査をともにやり遂げてきた学生の方々、調査生活を日々支えていただいた島の方々に深くお礼申し上げます。たくさんのデータをとらせていただいたリュウキュウコノハズクの方々にも感謝を申し上げます。この受賞報告では受賞記念講演では伝えきれなかった背景や思いを綴ることにいたします。

 約10年になるリュウキュウコノハズクとの付き合いは、2014年度に大阪市立大学の教員だった高木昌興氏に出会ったところから始まりました。当時学部3年の私は大学院から行う研究として高木先生の沖縄での野外研究に興味を持ちました。そこで学部4年の夏に、宮古島と南大東島の調査を見学しました。それぞれの調査地の特徴を実際に見ることで、自身により合っていると感じた南大東島のリュウキュウコノハズク研究を選択したのでした。
 
 島の標識個体群の長期研究は、進化学や生態学における古典であり最先端でもあります。進化の実験場としての強みを生かした島の長期研究が、何十年も前からトップジャーナルを飾る革新的知見を生み出し続けているからです。私が携わる南大東島のリュウキュウコノハズク研究も約20年研究が続く島の鳥類標識個体群の長期研究です。

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図1:南大東島のサトウキビ畑と防風林

 私は、配偶者選択を中心テーマに据えつつ、南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を様々な視点からとらえた基礎研究を行ってきました。その内容は、形態の記述のようなものから、個体数変化の解析のようなものまで多岐にわたります。その背景には個体から個体群の各過程は関係しており、配偶者選択を理解するには配偶者選択以外の要素にも目を向ける必要があるという考え方がありました。博士号取得後は波照間島を新たな調査地として加えました。複数の島で調査することで、島で行われてきた進化の実験の繰り返しデータを得るためです。こうした基礎研究を積み重ねることでより応用的な研究に取り組んでいく狙いもあります。しかし、検証する仮説の普遍性や掲載雑誌のインパクトファクターの高さが評価される世の中で、個々の基礎記述が評価を得ることには常々難しさを感じています。それゆえに、これまでの基礎の積み重ねが今回の黒田賞という形で評価を得たことを大変嬉しく思います。

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図2:波照間島のリュウキュウコノハズク

 受賞記念講演では具体的な研究成果の話に加えて、アウトリーチ活動についても話しました。調査地に長期滞在しながらの研究になるので、私の研究成果は地域の方々の支えのもと得られているものです。調査地への恩返しの気持ち、研究者としての責任感、さらには長期滞在型研究者だからこそできる何かがあるはずという使命感のもと、島でのアウトリーチ活動に力を入れてきました。

 アウトリーチの重要性を説いた受賞記念講演をお聞きになった方の中には、野外調査には高いレベルのコミュニケーション能力が要求され、私はその力を備えていると思われた方もいるかもしれません。しかし、実際の私はむしろそのような活動に苦手意識を持っています。南大東島の研究系の先輩方は地域交流を特に上手に行なっていました。それゆえに、そのようにできない自分は今後島で研究を続けていくのは無理かもしれないと思っていた時期もありました。頻繁に飲み会に参加すれば明らかに目先の調査時間は削られます。とはいえ、調査だけして地域と交流を全く持たないのがよくないことも分かります。おそらくちょうどいいバランスがあり、その最適なバランスはきっと研究者の性格や研究スタイルによって変わってくるはずです。調査の年数を重ねてこれに気付いたことで自分のペースで素直に調査地に向きあえるようになり、この先も調査を続けていけそうだと思えるようになりました。これから野外調査を行なう学生には地域交流に不安を覚える学生もいるかもしれません。私はそういう学生には「素直に向き合っていけば大丈夫」と伝えたいです。

 最後に、日本の島の長期研究についても思いを記します。豊富で多様な島を擁する日本で島の長期研究が盛んに行なわれないことは、非常にもったいないことだと思います。進化生態学の視点での長期研究は歴史的に欧米で盛んに行なわれてきました。時間がものを言う分野であり、新規参入した場合の数十年の時間差はどう頑張っても埋められないことは事実です。しかし、ではやる意味はないのか?というと、そうでもないはずです。たとえ研究期間が欧米より短くても研究者の工夫と着眼次第で、その時間差に負けないくらいの独自性や意義を見出すことが出来ると考えています。現在の我が国の研究環境は、地道な基礎研究を続けやすい環境とは決していえません。それでも、私は沖縄のリュウキュウコノハズク研究系の存続を諦めず、島の長期研究の価値を世に発信し続けていきたい所存です。

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2023年度日本鳥学会内田奨学賞選考報告(伊関文隆)

伊関文隆

 この度は、内田奨学賞を頂き大変光栄に思います。論文の共著者、協力者、査読者の方々、賞の選考者の方々のおかげであり、深く感謝申し上げます。

 私は猛禽類調査の仕事をしており、休日も春秋はタカの渡り、夏はサシバの繁殖モニタリング、冬は越冬ノスリなど、年中猛禽類の観察・調査をしています。今回は渡りの時にピンときたツミの換羽についての論文で受賞しましたので、その内容についてご紹介いたします。

 鳥類にとって換羽は、繁殖および渡りと並ぶ重要なイベントですが、それらに比べ研究が進んでおらず、基礎的な情報にも未解明な部分が多く残されています。タカ科とハヤブサ科は換羽様式が異なると図鑑等にも記載されていますが、今から18年前に撮影したタカ科のツミがハヤブサと同じく初列風切の中央が最初に換羽していたのを見つけ(通常タカ科は内側が最初に換羽する)、これは面白い!と、その換羽様式を解明すべく研究を始めました。

 換羽の順番を推定するにはいくつかの方法がありますが、1つ目の方法として個体の換羽状況を継続して記録していく方法があります。飼育されている個体の各羽根に印(今回は部位の番号)をつけて、毎日、抜けていく羽根をチェックしていきます。単純ですが非常に手間のかかる作業です。これは共著者の佐藤達夫さんと行徳野鳥観察舎友の会の方々のご尽力により、傷病鳥として保護されていた幼鳥の換羽を追跡することができました。幼鳥の前に成鳥にも同様の調査を行っていたのですが、上手く羽根が収集できず解析困難という失敗を乗り越えてのものでした。結果は期待に反して一般的なタカ科と同じ換羽をするというものでした(ツミが一般的な換羽をしている証明はされて無かったので、これはこれで重要な結果)。
 

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5月に渡るツミの若鳥。褐色の羽根はまだ換羽していない幼羽、青みのある羽根は成鳥羽へと換羽した羽根であり、この個体は初列風切の中央6枚(P3-8)が換羽している。一般的なタカ科は初列風切を赤矢印の1方向へ順番に換羽するが、一部のツミは越冬期に緑矢印のように中央から外側と内側の2方向へおおむね交互に換羽していく。

 2つ目の方法として、捕獲や撮影された個体等からその時点での換羽状況を記録し、集計していく方法があります。ただし、この方法は1個体から少しずつしか情報が得られないため、多数の個体から換羽状況を読み取る必要があります。捕獲は非常に困難であるため、今回は写真と標本からデータを収集しました。標本では十分なデータが得られず、協力者の方々に写真をお借りしたり、撮影数を増やすことでデータを収集していきました。しかし、撮影も比較的困難であり、データを収集するのに10年以上かかりました。得られたデータを全てごちゃ混ぜにして解析すると上手くいきませんでしたが、時期別に分けることで上手く解析できました。冬に(越冬地で)換羽を行った個体はハヤブサ科に似た換羽を(途中まで)行い、冬に換羽せず夏に(繁殖地で)換羽を行った個体はタカ科と同じ換羽をしていると推測されました。つまり、ツミは全ての個体が同じ換羽をするわけではなく、個体によって異なる2種類の換羽をしていたのです。種内で複数の換羽様式があるのは稀ですが、アカモズなどスズメ目でも見つかっています。なぜ複数あるのかはよくわかっていませんでしたが、ツミでは生態(換羽の時期や場所)が関係していることが示唆されました。ツミの換羽は更に複雑な可能性がありましたが、これは情報不足で本報では解明できませんでした。他にも面白い点があったのですが、長くなりますので論文を読んでいただけると幸いです。

 実は論文が受理されるまで非常に困難な道のりがありました。データが揃ってようやく論文が完成した矢先に、先行論文が出て内容の一部について先を越され、大ショックを受けました。その論文で解明されていない部分もあったので、急遽、この論文を引用して形を変えて提出しましたが即席だったこともありリジェクト(却下)されました。続いて、先行論文には問題点があったのでその部分をどう扱うべきか悩ましく、それを指摘せずに避けて引用して再提出するも却下。3度目は文章構成が悪く査読されるまでもない、と却下。4度目の提出では先行論文の問題点を指摘しながら引用するという形で、ようやく論文が受理されました。

 今回、世界的にも稀な例であるため共著者の三上かつらさんを頼りに英語論文にしました。しかし、私は国語が不得意で英語はなおさらなので①日本語で論文作成、②とりあえず英語化、③三上さんによる内容と英語の修正、④プロによる英語修正、という工程があったため、3度のリジェクトと相まって、論文作成に膨大な時間と手間がかかりました。もう英語論文はこりごりでしたが、今回、英語化が評価されたということでやって良かった、報われた感があります。いつか国外の方に引用してもらえたなら、なお嬉しく感じるでしょう。

 換羽は研究の穴場で、生態や分類などと組み合わせて研究されていくと面白い発見につながるように思います。また、ツミ自体も換羽だけでなく渡りのルートや遺伝子解析などが研究途上で、かなりの謎が残された題材だと思います。私もツミの換羽の研究を続けますが、興味を持たれた方によって研究されることも強く望んでいます。

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第13回日本学術振興会育志賞を受賞して

本学会推薦により育志賞を受賞された北沢さんに研究紹介の記事を寄稿していただきました。今年度の推薦受付は2023年4月28日(金)までとなっています。推薦を希望される方、候補者をご存じの方は事務局までご連絡ください。(広報委員 上沖)
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授賞式は東京都日本学士院にて秋篠宮皇嗣同妃両殿下御臨席のもと行われました。

 

この度は、日本鳥学会からのご推薦を経て、日本学術振興会育志賞という身に余る賞を戴き、畏れ多くもありながら大変嬉しく思っております。改めて、これまでに研究や野鳥観察の場でお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。

育志賞では、博士課程の一連の研究が審査されました。私は博士課程期間を通して「農地景観における鳥類多様性の広域・長期評価:農地の拡大と放棄に着目して」という課題に取り組みました。この場をお借りして、私の研究概要について軽く紹介いたします。

農地は陸地の3分の1以上の面積を占めるため、農地景観における生物多様性保全策を検討することは、陸上生態系の保全を進める上で必要不可欠です。特に私は、「湿原や森林を農地に転換したことで、鳥類の種数・個体数がどの程度減ったのか?」「人口減少によって拡大している耕作放棄地は、鳥類の生息地として機能しているのか?」「圃場整備されていない水田には、圃場整備された水田と比較して、どれほどの鳥類が生息しているのか?」といったテーマに着目して研究してきました。その結果、湿原や森林が広がっていた1850年頃の北海道石狩平野には、200万個体近くの鳥類が生息していたものの、農地への開拓によって、現在では50万個体近くまで減少してしまったことを明らかにしました。また、長崎県から北海道までの日本全国199地点の農地を調査して、耕作放棄地や圃場整備されていない水田が鳥類の重要な生息地として機能していることを明らかにしました(写真1)。

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写真1. 棚田での調査風景 繁殖期と越冬期に、2年間でのべ1000回以上の調査を実施しました。

 

さらに、これらの研究と並行して、アカモズ(写真2)やシマクイナなどの絶滅危惧種の保全研究・活動を行ったほか、日本野鳥の会茨城県支部の方々と一緒に草原性鳥類の保全に関する研究も実施しました。特にアカモズについては、繁殖地で行われている開発行為に対して、行為実施者に対して配慮のお願いに伺ったり、複数の行政担当者に対して、情報共有や森林管理策のご提案に伺ったり、また森林保護に関連する委員会に、新たな保護策の提案などを行ってまいりました。このような、研究と保全活動を両立してきた点を、賞審査にあたり評価して頂いたのかもしれません。保全活動を「研究者の業績」として評価頂く機会は多くないため、この観点からも今回の受賞を嬉しく思いました。

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写真2. アカモズ 学部2年から博士課程3年まで継続して研究を続けてきた種です。

 

今後の生物多様性保全を進めるためには、農地における取組の重要性が更に増すだろうと思っています。農地における鳥類の研究については、国内で既にたくさんの蓄積があるところではありますが、より保全を効果的に進める上では、更なる研究の蓄積が必要です。例えば、農地に生息している鳥たちの個体数はどの程度減ってきたでしょうか。和田(1922)は青森県のヒクイナについて、「極めて多く分布し、水田稲株間に営巣するが故に小児等のため卵を捕らわるること多し」と記述しています。兼常(1922)もヒクイナについて、「稲田にてふつうにみる種類なり。常に稲田の間に在り。」と述べています。1920年代には、東京都羽田で200-300個体のチュウサギや、ヨシゴイが繁殖していたようです(黒田 1915; 1920)。現在の青森ではヒクイナを、羽田ではヨシゴイを、繁殖の確認どころか観察することすら難しいでしょう。バンやオオヨシゴイ、クイナ、ウズラなどもこの期間にきっと個体数を大きく減らしたはずです。

保全を進める上での第一歩は、「個体数がどのように変化してきたか」を定量化し、その原因を明らかにすることだと考えています。トキやコウノトリでは、個体数変遷や減少原因について詳しく整理されており、それらが農地景観における保全活動にむすびついています。私たちの研究グループでは、日本の繁殖鳥類ほぼ全種の、過去170年間の個体数変化を全国規模で定量化することを目指しています。現在、そして未来の鳥を守るためには、過去の情報が欠かせません。そのために、「過去の鳥類の記録」を集めるプロジェクトを現在計画しております。

最後になりますが、博士課程研究を様々な方に評価頂ける形までまとめ上げることができたのは、特に指導教官の山浦悠一氏、中村太士教授、そして先輩の先崎理之さんと河村和洋さんのおかげであると考えています。私は考えていることや感情を言語化することが苦手だったのですが、山浦さんは私がどんなにしょうもないことを考えている場合でも、私の発言内容を正確に理解できるまで何度も何度も聞き取って頂き、私の考えを尊重して頂きました。「相手の考えを理解することに可能な限り努め、それを尊重する」―至極当たり前のことではあるものの、この姿勢を山浦さんに学んだことで、研究や保全の重要な場で物事を前に進めることができた場面が多くありました。わたし一人で研究をどんなに頑張ったところで、生物多様性保全を進めることは難しいでしょう。様々な分野や立場の方々の意見や考えを汲みながらともに研究・活動する仲間を増やすことが保全のために欠かせないと思っています。

また、育志賞の授賞式ではほかの受賞者の方々と交流する機会もあり、中には臨床医を続けながら研究をされている方もおりました。このような方の存在は、研究と保全活動のどちらも続けたい自分にとって、大きな刺激となりました。他の受賞者や日本鳥学会の皆様をはじめとして、今後も様々な方々に教えて頂きながら、研究を進めて参りたいと思います。

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第6回日本鳥学会ポスター賞「生態系管理・評価・保全・その他」部門を受賞して

徳長ゆり香 (日本獣医生命科学大学)

 この度は、日本鳥学会2022年度大会において、「生態系管理・評価・保全・その他」部門のポスター賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。研究の指導をして下さった先生方や共著者の皆様に良い報告ができたことを嬉しく思います。

 初めて発表者として参加した鳥学会でしたが、沢山の参加者の皆様から様々な意見をいただいたりディスカッションをしたりすることができたため、自身の研究を多角的な視点で捉え直すきっかけとなりました。コロナ禍が続く中、対面開催の準備・運営をしてくださった大会関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。貴重な機会をいただきありがとうございました。今後も良い研究成果が得られるよう、研究に邁進してまいります。

ポスター発表の概要
 マイクロプラスチック(MPs)による汚染問題は地球規模に広がっています。大気中マイクロプラスチック(AMPs)は、MPsの中でも小さく、都市部だけでなく自由対流圏、さらに、ヒトの肺からも検出されており、MPsを吸入することによる健康被害が懸念されています。鳥類は哺乳類よりも呼吸効率が良いため大気汚染の影響を受けやすいことで知られていますが、これまで鳥類がMPsを吸入し、それが肺に到達・蓄積するかどうかは解明されていませんでした。
本研究では、野生鳥類の肺における MPs の存在を明らかにするため、日本国内で有害鳥獣として捕獲され安楽死させられたカワラバト、ツバメ、トビの肺サンプルを、顕微フーリエ変換赤外分光光度計のATRイメージング法で分析しました。

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感染症対策を講じて検体を解剖し肺を採材する

 その結果、3種22羽のうち、2羽のカワラバトと1羽のツバメから計6個の破片状MPsが検出されました。MPsのポリマー材質はレジ袋、ラップ、バケツなどの原料であるポリエチレン(PE)、ストロー、医療器具、自動車部品などの原料であるポリプロピレン(PP)、スニーカーやランニングシューズのソール、クロッグサンダル、建築資材にも使われるエチレン酢酸ビニル(EVA)の3種類であり、いずれも日本の大気から検出事例のあるポリマーでした。日本においてカワラバトは留鳥であり、ツバメは夏鳥ですがMPsが検出された個体は幼鳥であったことから、いずれのMPsも日本で吸入されたものであることが判明しました。

 本研究は、一部の野生鳥類が摂食だけでなく吸入によってもMPsに汚染されていること、吸入したMPsが肺に到達することを初めて証明しました。MPsは有害な化学物質を含んでいたり吸着したりしている場合があるだけでなく、小さなMPsは肺から血流に入り全身臓器に到達する可能性があるため、摂取量が少なくても重大な健康影響を及ぼす恐れがあります。今後は、気嚢を含む呼吸器系や循環系におけるMPs の汚染実態と健康影響を解明するために研究を続けていきたいと考えています。

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第6回日本鳥学会ポスター賞「行動・進化・形態・生理」部門を受賞して

姜雅珺(千葉大・院・機能生態研究室)

 この度、日本鳥学会2022年度大会において「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞を授与して頂き誠にありがとうございました。

 終始熱心なご指導を頂いた千葉大学機能生態研究室の村上正志教授に感謝の意を表します。また、実験の実施にあたり、千葉大学生物機械工学研究室劉浩教授、日本野鳥の会十勝支部室瀬秋宏様、行徳野鳥観察舎友人会佐藤達夫様、久米島ホタル館佐藤文保様、山階鳥類研究所山崎剛史様に大変お世話になりました。ありがとうございました。とくに、風洞実験を指導して頂いた千葉大学生物機械工学研究室・D3村山友太様に感謝の意を表します。

 そして、わたしのポスターをご覧にいただき、たくさんの有益なコメントを頂いた皆様に感謝しております。また、鳥学会の運営の皆様、記念品をご提供いただいたモンベル様に感謝の意を表します。今大会を通じて、多くの示唆と刺激を得ることができました。皆様から頂いた貴重なご意見を踏まえて、今後研究を進めていきたいと思っています。
 
 本研究はJST奨学金の支援を受けて実施しています。

研究の概略
 鳥類の翼は「飛翔」という鳥類にとって最も重要な機能を司っています。その形態は各種の生態学的ニッチと関係し、操縦性能や飛翔速度といった機能に影響を与えると考えられます。先行研究で、羽ばたき飛翔において翼先端部 =hand-wingで生じた揚力と推進力が重要であることが示されており、翼先端の形態が飛翔機能と密接に関連すると考えられます。このような翼先端の形態として、翼端スロットの有無が注目されます。これまで、鳥の翼機能形態と飛翔に関してはたくさんの研究が行われていますが、翼先端の形質に集中してその飛翔性能との関係を解析することで、鳥類種間での翼機能の違いをより詳しく評価できると考え、研究を進めています。
 
 本研究では、91種のさまざまな飛翔行動と生息環境をもつ鳥類について、飛翔性能に関わると考えられる翼先端形質を、Klaassen van Oorschotの提案した指数 E (Emarginate index) とTi (wingtip sharp index) で評価し、さらに、アスペクト比とセミランドマーク法で翼全体の形を評価しました。その上で、これらの翼先端形質、及び翼形質が鳥類の飛翔行動や生息環境と相関を示すことを確かめました。つまり、短距離飛翔の鳥の翼は短く、先端が丸く、スロットのある形である一方、滑空飛翔の鳥の翼は長く、先端が尖って、スロットのない形でした。また、セミランドマーク法によって、翼先端の輪郭において羽ばたき飛翔の翼と滑空飛翔の翼が大きく異なっていることが示されました。これらの結果から、飛翔を特徴づける翼の形態として、初列風切羽分散度合、つまり、翼に占める初列風切羽の範囲が新たな形質指標と提案できます。羽ばたき飛翔と滑空する種では、初列風切羽分散度合が大きく異なっていました。

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 さらに、初列風切羽分散度合が、なぜ飛翔行動と関係するのか、機能的に調べるために、PIV粒子画像流速法によって風洞実験を実施しました。その結果、高迎角の際に、羽ばたき飛翔する鳥の翼は初列風切羽分散度合が小さいにもかかわらず、この部分を含むhand-wingで渦を安定させることで空力性能を維持していることがわかります。一方、滑空飛翔の翼は初列風切羽分散度合が大きいのですが、空力性能は翼全体で保っていることがわかりつつあります。風洞実験については、まだ条件が安定しないなど、課題がたくさんありますが、たくさん実験をして良い結果を得られればと頑張っているところです。

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