日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W13 風力発電施設が渡り鳥に与える影響と累積的影響について考える

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W13 風力発電施設が渡り鳥に与える影響と累積的影響について考える

浦 達也1*・澤 祐介2・風間健太郎3・中原 亨4・葉山政治1
1 (公財)日本野鳥の会
2 (公財)山階鳥類研究所
3 早稲田大学人間科学学術院
4 北九州市立自然史・歴史博物館
*E-mail: ura@wbsj.org

 複数の風力発電機を設置するウインドファーム(以後WF)は,鳥が衝突したり(バードストライク),渡り鳥がWFを避けるためにルートを変更したり,WF建設のための大規模開発で鳥類が生息を放棄するなどの懸念がある.渡り鳥が一つのWFを避ける場合には飛翔エネルギーなどへの影響は小さいが,複数のWF施設を避けて飛ぶ場合,累積的な影響評価が必要となる.累積的影響の対象は、繁殖期であれば鳥の行動圏内に存在する開発行為すべてを,渡り鳥であれば日本列島の出入り口から越冬地の間に存在する開発行為すべてを含める.後者については、複数のWF事業による鳥衝突確率の計算だけでなく,渡り期間中の生存率や,越冬期および次の繁殖期までの生存率や繁殖成功率への影響まで計算することが理想とされている.
 今後,日本各地でWF建設が増えていくと考えられるため,事業ごとにアセスを行うのではなく,複数の事業や計画が鳥類に与える影響を総合的に評価していくことが,今後の生物多様性保全上も重要と考える.本集会では,5名の演者がWFの建設が渡り鳥に与える影響について,それぞれの立場から報告した.

1.鳥類保護委員会における近年の決議案件の動向
澤 祐介

 鳥学会鳥類保護委員会では,主要な活動として学会員の提案に基づき,鳥類の保護や生息環境の保全などに関する意見書や要望書等を学会決議,もしくは保護委員長決議として発出している.風力発電に関する案件は,2011年に初めて環境省宛に意見書を発出した.昨今,風力発電の導入が加速するなか,鳥類への影響が大きい事業も散見され,2017年以降,再生エネルギー導入に関連した意見書を9件発出している.これらの現状を踏まえ,学会として,鳥類への影響を回避した風力発電の導入に向け,より迅速,適切な対応を行うため,2022年2月には「日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループ」が鳥類保護委員会内に立ち上がった.風力発電の導入には,累積的影響も含め課題が多いが,適切な導入が進むよう学会としても働きかけを継続したい.

2.風力発電施設による鳥類への障壁影響事例と累積的影響評価手法の紹介
浦 達也

 日本野鳥の会が行った調査結果から,国内ではハチクマ,ノスリ,サシバ,マガン,ヒシクイ,ハクチョウ類で,WFを避けてルートを変更する障壁影響が生じていることが示唆されている.海外でもガン,ハクチョウ類や猛禽類の他,洋上ではホンケワタガモなどの海ガモ類やアジサシ類で障壁影響が多く発生することが確認されている.
 渡り鳥に対するWF建設の影響を評価するには,渡りルート上に存在する複数のWFの影響を累積的に評価すべきであると考える.環境省は「一定の地域内で複数の事業が平行して行われる際(中略)相加的・相乗的に影響を評価すること」と累積的影響評価を定義付けているが,国内にはガイドライン等は存在せず,日本の事業者はどのように累積的影響を評価すればよいかが分からない状況である.海外の事例では累積的影響評価の手法として,1)定性的記述,2)単純加算モデル,3)単純個体群動態モデル,4)複合的個体群動態モデル,5)個体ベースモデルの5つがあるが,後に行くほどモデル計算に使うパラメータが複雑になっていく.一方,非常に簡単な手法の1)定性的記述は,評価者が主観的に影響の有無や強度を評価できるため,推奨されていない.少なくとも2)単純加算モデルを行うこと,また,繁殖速度などの情報があれば3)単純個体群動態モデルを実施することが推奨される.なお,累積的影響評価を実施すべき地理的範囲および時間軸は,評価者の適切な判断に委ねられるため,客観的かつ適切な設定が求められる.

3.カモメ類の越冬・中継地利用と洋上風力発電の潜在的脅威
風間健太郎

 日本において洋上風力発電の海鳥へのリスク評価や予測は,とくに非繁殖において不十分である.本発表では,日本沿岸におけるカモメ類の越冬や中継地における洋上風力発電の潜在的脅威について説明した.
 再生可能エネルギー(再エネ)は有力な気候変動対策の一つであるが,健全な運用がなければ再エネ自体が生物多様性喪失要因となることは,現在共通認識になりつつある.風力発電が鳥類個体群に及ぼす累積的な影響評価のためには,事前,事後,対照区影響評価(BACI)デザインが有効である.BACIを実施するには建設前のベースラインデータが不可欠である.しかしながら,日本の洋上においては,海外に比べ海鳥の分布データが圧倒的に不足している.国や自治体主導による洋上の海鳥生息情報の蓄積が必要である.
 近年,GPS追跡調査による海鳥の非繁殖期の移動や環境利用の解明が進みつつある.北海道で繁殖するカモメ類の渡り中継地や越冬地は洋上風力発電の「促進区域」やその候補区域と重複することがわかってきた.とくに北海道や東北の日本海側,陸奥湾,千葉,福井,北九州などの海域はではカモメ類へのリスクが懸念されるため,洋上風力発電の導入に際しては適切な影響評価と影響軽減策が必要である.
 海鳥の通年の移動追跡データを用いれば,海鳥の渡りルートと既設風車との重複(脆弱性)だけでなく,将来の導入予定風車との重複(感受性)を評価できる.こうした評価を通じ,国土や大陸スケールにおいて鳥類個体が渡り期間中にどの程度風車の衝突リスクに晒されるかなど,個体レベルでの累積的影響評価が可能となる.海外ではこうした影響評価がすでに実施されている.日本でも,海鳥の移動追跡データベースを活用することで,こうした評価が進むことが期待される.

4.渡りをする猛禽類に対する累積的障壁影響の潜在的コスト推定
中原 亨

 渡り鳥の移動経路上にある風力発電施設は移動の障壁となり,その回避のために鳥は余分なエネルギーを消費する.しかし,渡り鳥が複数の風車近傍を通過する際に生じる累積的な障壁影響については,渡り期間全体での風車接近数のカウントや回避行動の観察が難しいため,見過ごされてきた.本発表では,長期間にわたる個体の遠隔追跡によってこの課題に取り組み,国内移動中の猛禽類が接近する風車の数の把握と,風車を回避すると仮定した際に生じる累積的なエネルギーコストの程度の検討を試みた.まず,ノスリ17個体,ハチクマ8個体,サシバ2個体の渡りをGPSロガーで追跡し,2017年春と秋,または両方の国内の渡り経路情報を入手した.次に,これらの経路の両脇2km以内にあった風車または風車群の数を調べた.さらにそれらの近傍100-2,000mを水平に回避すると仮定した複数のシナリオを用意し,航空力学的手法に基づいてシナリオ毎に各個体のエネルギー消費を推定した.その結果,最大で42の風車または風車群の近傍を通過していること,これらの近傍2,000mを迂回すると仮定した際に32.0km,75.7分の追加距離と時間が生じることがノスリにおいて推定された.その際に生じるエネルギー消費は,国内移動中に生じるエネルギー消費全体の2.5%に相当した.この結果は,猛禽類の渡りにおいて風車回避時に累積するエネルギーコストが比較的軽微であることを示唆した.将来的には,GPSロガーの測位頻度の増加によって,より正確な回避行動の把握とエネルギーコストの推定が可能になるだろう.一方で,地形,気象,飛行高度,垂直方向への回避,さらには国外移動時の累積影響等を考慮する必要性や,エネルギー消費の推定に多くの仮定を重ねているという問題への対応の必要性も課題として残った.本発表は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の再委託事業として実施した研究の一部を紹介したものである.

5.国境を超えて移動する渡り鳥と風力発電
葉山政治

 長距離を移動する渡り鳥への風力発電施設の影響の評価は,渡りの経路全体をとおした累積的な評価を行うべきである.その種が国境を越えて移動を行う場合には,統一的な基準による評価が必要となる.洋上風力発電に関して国内では排他的経済水域(EEZ)内の案件については,国連海洋法条約(UNCLOS)に準拠して,環境影響評価を行う方針が示されている.渡り鳥の経路である東アジア・オーストラリア地域フライウェイを見ると,洋上では各国のEEZが隣接する状況にあり,各国で協調した取り組みが必要である.移動性の動物種を守る仕組みとしては,移動性の野生動物種の保全に関わる条約(ボン条約)があるが,東および東南アジアでの同条約への締約国はフィリピンのみであり,日本も批准していない.二カ国間渡り鳥保護条約等の仕組みもあるが,当事国間に限定されており,不十分である.唯一,日本を含む地域で可能性のあるものとしては東アジア・オーストラリア地域フライウェイネットワークでの取り組みが考えられる.なお,ボン条約には再生可能エネルギーのタスクフォースがあり,加盟国に限らず事業者や金融機関,研究者なども参加して議論を行っており,フライウェイ事務局もメンバーであり,ここでの議論がフライウェイでの活動に反映される可能性は大きい,英国のRSPBやBTOなどの自然保護団体等も議論に参加しており,日本鳥学会からの積極的な参加が期待される.

 講演後,会場からは「事業者が環境影響評価を行う際には,重要種のバードストライクの発生確率の計算を行うが,WFが渡りルートの障壁になることをほとんど評価していないのはなぜか」,「累積的影響評価が実施されないのは、その手法が分からないこと以外の要因はあるのか」,「国などが渡り鳥のルートの調査を行い,全国的な渡り鳥の情報収集や整理を行わないと,事業者が単独で累積的影響評価を行うのは難しいのではないか」などの質問や意見が出された.
 今回の集会を通じて分かったことは,渡り鳥等における障壁影響の存在や累積的影響評価の実施の必要性を広く学会員や行政機関、事業者などに知ってもらうことである.また,累積的影響評価を実施すべき地域や時期を示すことも含め,累積的影響評価の定義付けを国や学術団体が行う必要があることも認識できた.そして,事業者が累積的影響評価を行う際に,計画地だけではなく渡り鳥の経路全体が知れるデータの利用が求められている.

 

図1. 自由集会での話題提供の様子(演者:葉山政治 氏)

 

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W15 アルバトロス類の将来にわたる保全に向けて -現状と課題-

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W15 アルバトロス類の将来にわたる保全に向けて -現状と課題-

山本 裕1,5*・鈴木康子1,3・油田照秋1,4・長谷川 博1,2

1 世界アルバトロスデー&シーバードウィーク実行委員会
2 東邦大学名誉教授/NPO法人OWS会長
3 バードライフ・インターナショナル
4 (公財)山階鳥類研究所
5 (公財)日本野鳥の会
*E-mail:y-yamamoto@wbsj.org

 海鳥は現在,急速に個体数が減少しており,世界の海鳥個体数の約19%をモニタリングしたデータの解析から,1950-2010年の60年間で全個体数の約7割が減少したと推定されている(Paleczny et al. 2015).IUCNのレッドリストでは,全世界の海鳥362種のうち絶滅のおそれのある種は31%の113種(CR 19種,EN 36種,VU 58種)にも及ぶ.中でも大型で卓越した飛翔力をもつアルバトロス類は鳥類の分類群のうち絶滅リスクが高いグループの一つで,全22種のうち15種(68%)が絶滅危惧種で,準絶滅危惧種(NT 6種)を含めると95%にもなる.
 2019年5月,ACAP(The Agreement on the Conservation of Albatrosses and Petrels:ミズナギドリ目鳥類の保全に関する国際協定)は,本協定が調印された日にちなんで,6月19日を「世界アルバトロスデー」と定めて,世界のミズナギドリ目鳥類が直面している危機的な状況と保全活動の緊急性を呼びかける活動を開始した.
 日本では,長谷川 博氏の呼びかけに賛同した6団体(NPO法人OWS,(公財)日本野鳥の会,(公財)山階鳥類研究所,(一社)バードライフ・インターナショナル東京,NPO法人リトルターン・プロジェクト,NPO法人小笠原自然文化研究所)が,2020年以降,アルバトロス類を含む日本の絶滅危惧海鳥類の現状と保全について普及啓発活動を進めている.その一環として,本集会では,4名の話題提供によって,アルバトロス類の保全活動の現状と課題を共有し,課題の解決に向けた議論を行うことを目的に開催した.

鳥島個体群の回復とエコツアーの可能
長谷川 博

 大型海鳥オキノタユウ(アホウドリ)は,19世紀の終わりごろから,羽毛を目当てに乱獲され,個体数が激減して1949年には地球上から絶滅したと信じられた.しかし,1951年に伊豆諸島鳥島で約10羽の生存が確認され,再発見された.その後,鳥島測候所の人びとによって最初期の保護活動が行われたが,1965年に鳥島で火山性地震が群発し,噴火を警戒して気象観測所が閉鎖され,繁殖状況調査と保護活動は途絶えた.
 それから11年後の1976年に繁殖状況(営巣つがい数と巣立ちひな数,繁殖成功率)の調査が再開,継続された.その結果に基づいて,この種を再生へと導くための積極的保護計画が立案,実施されてきた.その第一は,植生が後退した営巣地への植栽による好適な営巣地の造成で,1981-82年に実施された.これによって,繁殖成功率は44%から67%に引き上げられ,巣立ちひな数は20羽前後から50羽台へと急増した.
 第二は,営巣地のある急斜面で1987年に発生した土石流への緊急対処で,砂防,植栽工事によって従来営巣地を保全管理して繁殖成功率を従来の水準に回復,維持し,並行して,そこから巣立った個体を,デコイと音声を利用して,鳥島の北西側に広がる土石流発生の恐れのない安全な斜面に誘引し,新営巣地を形成することを目的とした.これは1992年に始められ,2004年に新営巣地が確立した.
 これらの保護計画の成功によって,2018年に鳥島個体群の総個体数は推定で5,165羽になり,2026年には10,000羽に達すると予測される.個体数増加にともない,伊豆諸島海域から三陸沖で確実に観察されるようになった.今後,エコツアーが広がると期待される.

アルバトロス類に漁業混獲が起こる理由とその対策
鈴木康子

 漁業による混獲は,アルバトロス類が直面している主な脅威の一つである.なぜアルバトロス類が混獲されやすいかは,その生態に関係している.飛翔距離が長く行動範囲がとてつもなく広いため,漁船の操業域と被ることが多々ある.また,鋭い嗅覚によって20-30㎞離れた餌を感知できるので,遠くからでも漁業で使われる餌におびき寄せられる.混獲率が改善されなければ,今後数十年の間に絶滅する恐れのある種がいるほど深刻な問題である.
 特にアルバトロス類が混獲されやすい漁法はトロール漁とはえ縄漁であるが,どちらも効果的な対策が既に確立されている.はえ縄はマグロ漁でも使われる漁法で,マグロ漁業を管理する国際組織では,海鳥混獲回避に関する規則を定めている.具体的には,マグロはえ縄船がアルバトロス類の生息域で操業する際は,定められた混獲回避策(トリライン,加重枝縄,夜間投縄など)を使うことが義務付けられている.しかし,未だに混獲されてしまうアルバトロス類が後を絶たない.その理由として,混獲回避策が漁業者によってきちんと使われていないことが考えられる.その背景には,規則遵守のモニタリングが不足しているため,規則自体が守られていない場合が散見されている.また,規則を守っていても,混獲回避策を効果的に使えていないという技術的問題の可能性もある.
 混獲削減に向けた課題の克服には,包括的なアプローチが必要である.漁業者への働きかけとサポート,国際機関や行政による規則とモニタリングの強化の他に,水産物を扱うサプライチェーンとの協働や,消費者による混獲問題の理解と水産業の透明性を求める声など,垣根を超えた連携が重要である.

アルバトロス類保全の最前線 -移住事業の進捗とモニタリングの必要性
油田照秋

 2024年現在,アホウドリ(センカクアホウドリを含む)の繁殖地は世界に4つある.最大の繁殖地であり,全体の9割近くが繁殖しているとされる伊豆諸島鳥島と,政治的な問題により20年以上調査がされていない尖閣諸島,そしていずれも過去10年以内に新たに(再び)繁殖地となった小笠原諸島聟島と米国ハワイ州ミッドウェー島である.
 伊豆諸島鳥島には島内に3つの繁殖コロニーがあるが,いずれの場所でもつがい数は増加傾向にある.特に比較的新しく形成された2つのコロニーは増加率が高い.2024年3月の調査では,雛の数は計1,173羽であった.また,鳥島全体の個体数は約8,600羽と推定された.近年個体数は安定した増加傾向にあるが,鳥島は活火山であり,大規模噴火が起こると繁殖地が壊滅する可能性もある.また繁殖成功率が安定しないコロニーもある.
 小笠原諸島聟島では,2008年から5年間雛の移送飼育をし,かつての繁殖地の再生を試みた結果,2016年から繁殖に成功し,現在聟島で生まれ帰還した個体を含む少数の繁殖個体群が形成されつつある.2024年は初めて3つがいが繁殖に成功した.鳥島で新しいコロニーが形成された時,つがい数が安定して増加するまでに10年以上を要した.聟島では今後どのように推移するかは予想が難しく,まだ安定した繁殖地が形成されたとはいえない.
 野生動物の管理には,順応的管理が欠かせない.これは,長期的に未来予測の不確実性を伴う対象を扱う場合,継続的に現状把握をしながらそれまでの計画や活動を評価し,見直しながら柔軟に管理する方法で,その中で特に現状を把握するためのモニタリングが非常に重要になる.アホウドリの保全事業は,鳥島では40年以上,聟島では繁殖地の再生プロジェクトが始まった2008年以降毎年のモニタリングによって支えられている.しかし,予算的な問題により近年この調査の継続が難しくなっている.
 本講演後は,モニタリング継続に向けて山階鳥類研究所が始めた取り組みを紹介し,参加者とモニタリングの継続に向けて今後どのような手段が考えられるかなどを議論した.

アルバトロス類を取り巻く現状と課題
山本 裕

 アルバトロス類は,今,大きく減少しており,IUCNのレッドリストでは約7割の種が絶滅危惧種とされている.その減少要因として,繁殖地では,ネズミ類やノネコによる捕食,人の攪乱,病原菌,土壌侵食等で,洋上では,はえ縄漁やトロール漁業等による混獲の割合が高く,この他に油汚染,プラスチックの誤飲や誤食,有害化学物質等による汚染がある.
 国内では,アホウドリ(センカクアホウドリを含む),クロアシアホウドリ,コアホウドリの3種が繁殖する.個体数の現状把握は,鳥島,聟島列島でしっかりとされており,学術的な研究も鳥島,聟島列島でされている.モニタリングは鳥島,聟島列島で,現在は十分な体制で実施されているが,関係省庁等の予算削減によりその存続が危ぶまれている.尖閣諸島は領土問題のため立ち入りができず,情報が不足している.保全上の課題の解決には,混獲問題では,混獲回避策に対する漁業者の理解,及び消費者,サプライチェーンとの連携が必要である.
 アホウドリの鳥島繁殖個体群は順調に個体数が増加しているが,火山噴火や外来植物の繁茂,土壌流出,混獲,プラスチックの誤飲や誤食が懸念されている.聟島繁殖個体群は現在定着しつつあるが,繁殖集団の確立にはまだ時間がかかる.これらの繁殖地での基礎的な生態調査とモニタリング,環境整備などの保全活動が重要で,そのための継続的な体制作りが必要である.

 会場には,高校生も含め30名を超える参加があった.話題提供後の質疑応答では,はえ縄漁における混獲回避策の漁業者への周知や,漁業認証を消費者にどのように伝えるか等についての議論がされ,モニタリングの継続が不透明になっていることに対しては,モニタリングの重要性の再確認と,継続に向けての取り組みの紹介,協力の呼びかけがされた.今回の集会が参加者のアルバトロス類への関心をさらに高め,保全活動につながることを主催者一同願っている.

引用文献
Paleczny M, Hammill E, Karpouzi V. & Pauly D (2015) Population Trend of the World’s Monitored Seabirds, 1950-2010. PLoS ONE DOI:10(6): e0129342.
doi:10.1371/journal.pone.0129342.1371/journal.pone.0129342.

 

図1. 東京港野鳥公園での海鳥保全をテーマとした展示の様子

 

図2. 日本鳥学会自由集会での話題提供の様子(演者:長谷川 博 氏)

 

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日本鳥学会 2024年度大会自由集会報告 - W05 鳥類の渡り追跡公開と市民科学

嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)
E-mail: tshimada0423[at]gmail.com
※ 送信の際は[at]を@に変えてください

 近年,衛星用送信機,ジオロケーター,レーダーなどの機器の発達により,渡り鳥の移動追跡は飛躍的に進展した(樋口 2021).鳥の姿そのものは見えないものの,移動の様子はコンピュータ上に明確に表すことができる.また,鳥たちの渡りは研究者だけでなく,一般の人も含めて多くの人が知っている.春に渡ってくるツバメ,秋に渡ってくるハクチョウなど季節の風物詩となっているものもある.幼い頃にスウェーデンの童話「ニルスの不思議な旅」に胸躍らせた人もいるだろう.

渡り追跡の成果は,これまで論文や書籍などをはじめとするさまざまな媒体を通して一般の人に伝えられてきた.一般の人に伝える媒体もSNSなどの普及により,大きく進展している.すなわち,鳥の渡り追跡を一般の人に広く,すみやかに伝える環境が整いつつある.多くの人の関心のある渡り追跡を広く公開することは,一般の人が鳥や鳥類学に関心をもち,市民科学に貢献するきっかけを提供することにつながる.

この自由集会では,これまでの鳥類の渡り追跡研究のレビューと国内初の鳥類の渡り追跡公開プロジェクトとなった「ハチクマプロジェクト」について紹介し,次いでリアルタイムの位置情報に加えて画像取得が可能となったカメラ付きGPSロガーによる「スワンプロジェクト」について現状報告を行った.カメラ付きGPSロガーを開発したドルイドテクノロジー社(中国)の今後の新技術展開についても話題提供した.そして鳥類の渡り追跡公開によって見えてきたことを共有し,今後の展望などを議論した.

 

ハチクマプロジェクト
樋口広芳(慶應大)

 1990年代初めから今日まで衛星用送信機やジオロケーターなどを用いて,ツル類やカモ類,タカ類など25種以上580個体以上の鳥の渡りを追跡研究してきた.マナヅルやタンチョウでは,渡り追跡によって朝鮮半島の非武装地帯が重要な生息地であることがわかった.また,ハチクマの春秋の渡りでは,東アジアのすべての国を一つずつめぐって移動したことが明らかになった(図1).そして春と秋で渡り経路は異なるものの,年による変化は少なく,春秋での経路の違いを生み出す要因が東シナ海の風況にあることがわかった.こうした数多くの渡り研究は,渡り鳥に国境はなく,遠く離れた国や地域の自然と自然をつないでいることを明らかにした.そのことは渡り鳥が遠く離れた国や地域の人と人をもつないでいることを意味し,世界各地で渡り鳥を介した人と人とのさまざまな交流,保全に向けてのいろいろな国際協力が行われている.こうした中,ハチクマ渡り衛星追跡公開プロジェクト「ハチクマプロジェクト」が始まった(図2).鳥類の渡り追跡を公開する初めての試みである.2012年秋から2013年夏,4羽のハチクマを衛星追跡し,追跡状況をほぼリアルタイムで一般公開した.ハチクマプロジェクトには東アジアを中心に世界中の人々がアクセスし,推定で延べ10万人ほどの人が参加して情報交換などを行い,それによって追跡個体の詳細な渡り経路,中継地や越冬地,渡りの経過などを多くの人と共有することができた.渡り追跡の一般公開を通じてわかったことは,1)多くの人に渡りの具体的な様子を伝え,理解と感動を与える,2)生息地の具体的なつながりを示すことにより,保全上の問題点などを示唆することができる,3)鳥が渡りを通じて遠く離れた国や地域の自然と自然,人と人をつないでいることを実感してもらえる,4)渡り鳥とその生息環境の保全には国際協力が不可欠であることを伝えることができる,ことである.そして,追跡している鳥たちが見ている景色が見られたら,渡りの様子をもっと具体的に実感できる.このことが10年後,次に紹介するスワンプロジェクトにつながった.

ハチクマの秋(左)と春(右)の渡り経路図.衛星追跡の結果.1本の線が1個体の渡り経路.春の渡り経路中, 〇印はハチクマが1週間以上滞在した地点.Higuchi (2012) J. Ornithol.153 Supplement 1: S3-S14. にその後の情報を加えて作図.
図1.ハチクマの秋(左)と春(右)の渡り経路図.衛星追跡の結果.1本の線が1個体の渡り経路.春の渡り経路中, 〇印はハチクマが1週間以上滞在した地点.Higuchi (2012) J. Ornithol.153 Supplement 1: S3-S14. にその後の情報を加えて作図.

 

ハチクマプロジェクトの紹介.
図2.ハチクマプロジェクトの紹介.

 

スワンプロジェクト
嶋田哲郎

 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団と浜頓別クッチャロ湖水鳥観察館,ドルイドテクノロジー社が主催し,樋口広芳東京大学名誉教授を顧問とする「スワンプロジェクト」が2023年12月にスタートした.これはオオハクチョウとコハクチョウにカメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」を装着し,渡りを追跡するとともに位置情報や画像を公開することで,市民によるハクチョウ見守り体制を構築する国際共同プロジェクトである.宮城県伊豆沼でオオハクチョウ10羽,北海道クッチャロ湖でコハクチョウ10羽にスワンアイズを装着し,すべての個体に愛称を付けた.位置情報と画像が定期的に取得され,1日に3回,それらの情報を取得することができる.タイムラグがあるものの,ほぼリアルタイムにハクチョウのいた場所を知ることができ,ハクチョウが見た景色を目にすることができる.位置情報と画像は多言語(日本語,中国語,英語)のホームページで公開されており(https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/),だれでもアクセスできる.また,スマホのアプリも準備されており,スマホによる道案内でハクチョウのいた場所までたどり着くことができる.観察記録はX(旧ツイッター)に投稿することで,記録が蓄積されていく仕組みになっている(#SwanEyes).スワンアイズは位置情報と画像がセットになっているため,ハクチョウがいつどこで何をしているのかをよく理解できる(図3).また,画像から飛行場所を特定できる場合があり,飛行位置が位置情報を結んだ推定上の移動経路と異なることがあることがわかった.さらに,カメラには他種,他個体も写るため,時期や地域に応じて異なった,鳥同士の関係性も見える(図4,5).Xではフォロワー数や観察記録の掲載が増え続けており,市民の関心の高さが伺える.2024年11月,プロジェクトは継続中であり,今後も市民とともにハクチョウを見守り続け,市民科学の底上げにつなげたい.

オオハクチョウ目線の伊豆沼・内沼周辺での暮らし.
図3.オオハクチョウ目線の伊豆沼・内沼周辺での暮らし.
コハクチョウ・トワがロシア北極圏で8月8日に撮影した画像.トワは幼鳥メスで繁殖に参加しないため,非繁殖鳥の仲間と一緒にツンドラで夏を過ごした.
図4.コハクチョウ・トワがロシア北極圏で8月8日に撮影した画像.トワは幼鳥メスで繁殖に参加しないため,非繁殖鳥の仲間と一緒にツンドラで夏を過ごした.
オオハクチョウ・ナツキが6月12日午前1時に撮影した白夜のロシア北極圏.
図5.オオハクチョウ・ナツキが6月12日午前1時に撮影した白夜のロシア北極圏.

 

デジタル化技術は革新的なテレメトリー技術,人工知能,市民科学によって鳥学を促進する
李国政(ドルイドテクノロジー) 通訳:姜雅珺(バードリサーチ)

 デジタル化技術の進展は収集できるデータの構造と量を変化させた.個体の移動から分布,ビックデータまで,さらに通信技術の発達により,収集可能な情報の幅が大きく広がった.現在では,個体,群集,生態系,生物圏までさまざまな情報がデジタル化され,これらのデータを基盤として生物ユビキタスネットワーク(いつでもどこでも利用可能なネットワーク)を構築することが可能となった.私たちは生物ユビキタスネットワークと独自開発した行動を識別する人工知能技術を,Cellular,Intellink,Ubilinkの3つのインターネット技術を用いた通信手段によって,市民参加型のプラットフォーム「IntelinkGO」を新たに構築した(図6).これによって,個体ごとのリアルタイムのデータの収集や個体周辺の環境情報の収集,複数地点でのサンプリングを実現できた.この技術がスワンプロジェクトに活用されている.さらに,DEBUT VISION-5D Sensing Technologyの開発も進行中であり,これによって飛翔中のさまざまな音声(鳴き声や心拍数など)や渡り中の映像を記録することができるようになる.これらの革新的なテレメトリー技術,人工知能,市民科学を駆使することで,鳥学研究がさらに進展することを期待する.

図6.IntelinkGOの仕組み.

 

 これらの発表を踏まえ,シマフクロウの巣にカメラを設置し,市民で監視を行う取り組みをしている早矢仕有子氏よりコメントをいただいた.

 

コメント
早矢仕有子(北海学園大)

 市民科学をすすめるときに重要なことのひとつは,科学的事実を市民にわかりやすく伝えることである.ハチクマプロジェクトもスワンプロジェクトも学術研究が背景にあるため,科学的事実を説明できる根拠がある.そして研究者がその事実を的確に伝えることで,正しい情報が市民にわかりやすく伝わる.両プロジェクトはこの点でオリジナリティが高い.今後,プロジェクトがすすむことで市民の意識がさらに高まり,市民との協同が深化すれば,より素晴らしいものになるだろう.

 

まとめ

 1990年代から樋口広芳氏が先駆的かつ精力的にすすめてきた鳥類の渡り追跡は,位置情報だけでなく,鳥目線の画像情報の公開という新しい段階を迎えた.人は共有した体験が多い人ほど深くつながれる.ハクチョウ目線の画像を見ることは,かれらの体験を共有することにつながり,それは人とハクチョウとがより深くつながれることを意味する.市民の高い関心はこのことに関係していると考えられ,市民科学として,市民との協同が今後も進展するだろう.たとえば,これまでにないハクチョウ目線の画像は,見ているだけでも楽しく,鳥を知らない人でも好奇心がそそられるだろう.位置情報や画像をもとに標識ハクチョウを追っている観察者がすでに多数いるが,追跡する中でハクチョウの生態への関心が高まり,位置情報と画像を組み合わせることで新たな発見が生まれてきている.また,そうした観察記録をXに投稿し,他のハクチョウの記録と比較することも行われている.最終的には,スワンプロジェクトを活用した市民と研究者との共著による科学論文が出版されることで,鳥類学への貢献が期待される.さらに,だれでも情報を閲覧できるため,風力発電施設やメガソーラーの設置をはじめ,鳥類の渡りに脅威となるような開発行為を検討するときなど,保全に役立つ有用なデータベースにもなる.将来的にはこうしたデータベースをもとに鳥類の渡り予報のようなものができると面白い.鳥類の渡り追跡公開は,研究,保全,普及啓発,どの観点をみても,それらが大きく進展する可能性を持っている.

 

参考文献
 樋口広芳(編)(2021)鳥の渡り生態学.東京大学出版会,東京.

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日本鳥学会誌73巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌73巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。73巻2号の注目論文をお知らせします。

著者: 北川達朗・綿貫豊
タイトル: オオセグロカモメによるカモメ属雛捕食の個体差とその影響
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.73.207

北海道の天売島では、集団営巣する海鳥の利点を活かして、生態や生理的特徴の個体差と、環境変動、生活史戦略、種間関係などとの関わりについて、長年研究が進められています。
本論文の著者の北川さん達は、オオセグロカモメの食性の個体差と営巣位置に着目して研究した結果、本種には海鳥を専門的に捕食する個体が存在し、本種の近くで営巣したり、繁殖開始が遅れたウミネコは、本種の捕食に遭いやすいことを明らかにしました。
集団営巣性(coloniality)の適応進化は、海鳥を材料に数多く取り組まれてきた興味深いテーマであり、北川さん達が地道に調べられた成果は、この現象の理解をより深めてくれるに違いありません!また、私も、天売島のウトウの個体差を学生時代の研究テーマとしていたため、これまでのお家芸?が後輩たちに引き継がれていることを、とても嬉しく感じた次第です。
以下、北川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただきありがとうございます。オオセグロカモメの食性に関する研究は、共著者である綿貫豊先生が学生の頃に取り組まれていた研究テーマの一つで、これまでにいくつもの関連論文が発表されています。この研究では、先行研究で明らかとなっているオオセグロカモメの食性の個体変異に加え、これまであまり注目されてこなかった営巣位置に着目しました。そして、海鳥を専門的に捕食するオオセグロカモメの営巣位置が、ウミネコの捕食リスクに異質性をもたらす場合があることを、食性・繁殖調査と捕食行動の直接観察から示しました。
調査地である北海道天売島では、毎年多くの研究者と学生が海鳥の調査研究をおこなっています。天売島の海鳥を対象とした研究成果は、国内外の学術誌に多数発表されており、今回、自身の研究成果を新たに加えることができたことを大変嬉しく思います。本論文が海鳥研究の発展に寄与する一助となれば幸いです。今後も引き続き、地道に研究活動を続けていきたいと思います。

(北川達朗)

写真1.ウミネコの巣内雛を丸呑みにしたオオセグロカモメ

 

写真2.ウミネコの巣立ち雛を捕食するオオセグロカモメ

 

写真3.巣立ち成功したウミネコの親子
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イベント案内「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」

風間美穂(きしわだ自然資料館)

日本鳥学会津戸基金の助成を受けて開催する「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」をご案内させていただきます。

海辺の鳥を観察したくても、海に近づける場所が限られている大阪湾。実は、いろいろな鳥が記録されています。また、大阪湾と別の海域を行き来する海鳥もいます。12月7日(土曜日)は、これら海鳥の面白さをお伝えするための講演会、というよりは楽しいお話会です。お気軽にお越しください。

講演会では大阪湾の海鳥の現状、東京湾やその他の地域で長年、海鳥を見てきた方による事例発表を聞き、シンポジウムでは講演者と参加者で、海鳥の面白さを語り合いましょう。はじめて鳥を見る方にもおすすめです。

12月8日は、岸和田漁港周辺で、カモメをはじめとする海鳥の観察会も行います。
12月7日(土曜日)のシンポジウムは申込不要ですが、12月8日(日曜日)は申込が必要です。

【シンポジウムプログラム】
<第1部:海鳥っぷ話題提供>
大阪湾の海鳥を見よ(日本野鳥の会大阪支部長 納家仁氏)
目で追えない時はロガーで見よ(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員 平田和彦氏)
ウミウも見よ・新海鳥ハンドブックのお話(科学イラストレーター・新海鳥ハンドブック著者)
大阪湾の人工干潟・阪南2区人工干潟の鳥も見よ(きしわだ自然資料館 風間美穂)

<第2部:海鳥っぷシンポジウム>
海鳥をみる面白さをわだい提供者と参加者の間で語ろう

  • 日時:2024年12月7日(土曜日)13時30分~17時・シンポジウム
    2024年12月8日(日曜日)9時00分~11時00分(観察会)
  • 場所:市立公民館多目的ホール(12月7日シンポジウム)・岸和田漁港とその周辺(12月8日観察会)
  • 講師:納家仁氏(日本野鳥の会大阪支部長)・平田和彦氏(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員)・箕輪義隆氏(科学イラストレーター)ほか
  • 定員:12月7日・小学生以上100名(小学生は保護者同伴)12月8日・20名(小学生は保護者同伴)
  • 費用:無料(12月7日)・50円(12月8日・傷害保険料)
  • 申込方法:当日13時より受付(先着順)・11月21日(木曜日必着)までに、往復はがきまたは電子メールに参加者全員の住所・氏名・小中学生は学年・電話番号・双眼鏡の有無を記入し、自然資料館「海鳥観察会」係まで。
  • 主催:きしわだ自然資料館・結・creation

本事業は日本鳥学会津戸基金および、船の科学館「海の学びミュージアムサポート」の支援を受けて実施します。

きしわだ自然資料館のホームページhttps://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/tudokikinumidori2024120708.html

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:仮剥製作りに挑戦!学んだことと展望

浅井美紅(東邦大学)

山階研究所で行われた鳥の学校、仮剥製作りに参加させていただきました。私は幼い頃から鳥類に興味を持っており、地元で軽いバードウォッチングを楽しんでいました。大学に入ってからは、友達と泊まりがけで島の鳥を観察したり、学会やバンディングに参加したりするなど、活動が学術的な方面にも広がり、鳥を学ぶ楽しさをさらに知ることができました。また、自分や友人が鳥の亡骸を採集する機会も増え、それを有効活用する技術を身につけてサークルの仲間に広めたり、博物館のボランティア活動で活かしたりしたいと思い、今回の鳥の学校に参加しました。

まず、山階研究所の岩見さんから、剥製の製作や活用についての講義を受け、剥製が後世に貴重な資料として残される重要性を学びました。この講義を通じて、仮剥製作りのモチベーションがさらに高まりました。そしていよいよ、今回の検体であるウミネコを手に取り、測定を開始しました。カモメの仲間を手元で詳しく見るのは初めてで、貴重な経験となりました。小鳥に比べて羽毛がしっかりしており、開腹してみると、脂肪がしっかりと付いていることも海鳥ならではの特徴で、非常に勉強になりました。

仮剥製作りは、マニュアルや岩見さんの手元モニターを見ながら進めました。岩見さんの技術には感銘を受けました。皮を剥く作業や鳥の体を慎重に処理していく様子を見て、その技術の高さを実感しました。しかし、いざ自分でやってみると、その難しさに驚かされました。特に皮を剥く際は力加減が非常に難しく、皮を破かないように細心の注意を払いながら作業を進めました。このような繊細で集中力を要する作業であることを改めて痛感しました。

さらに、鳥の内部構造を直接観察できたことは非常に貴重でした。骨や筋肉の配置、関節の外し方などを実際に見ながら学べたことで、鳥の構造への理解が一層深まりました。この知識は、今後バンディングで鳥を扱う際にも活かせると思います。仮剥製作りには、除肉や洗浄など多くの工程があり、体験できたのはその一部でしたが、全ての作業をこなすにはかなりの労力が必要であることを実感しました。

今回の体験で得た知識と技術は、今後さらに磨いていきたいと思います。博物館などで仮剥製作りを何度も学び、技術の精度を高めていくことが目標です。そして、サークルの後輩たちに今回学んだ技術を伝えるとともに、博物館のボランティア活動を通じて、剥製作りに貢献していきたいと考えています。

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:「標本製作講習」参加報告

坂井充(北海道大学理学部)

この度、鳥の学校2024にて鳥の仮剥製作りを体験してきました。
私自身も鳥を研究している人間なので、鳥の死体などには馴染みがありました。しかし、剥製作りとなるとハードルが高いように感じ、今まで手を出せずにいました。そこに、運良く鳥の学校で剥製の作り方を教えてくださるというので、応募し、参加することができた次第です。
当日は、一人一羽の割り当てで、ウミネコの仮剥製作りを学びました。最初は解凍されたウミネコの形態計測をし、お腹から裂いて、皮をはぐ作業をしました。さらに、生殖腺を見て、性判定を学びました。この時点で既に、開始から2時間ほど経過していたのですが、先生方は同じ作業を10分程でするのだとか。熟練の技というのはそれほどまでに早いのかと驚きました。時間の関係上、自分で解剖したウミネコとはここでお別れをし、続きは先生方が事前に用意してくださったウミネコの皮を使いました。仮剥製への綿の詰め方や支柱の付け方、仕上げの方法などを教わりました。実際に自分で剥製の形を整えていると、翼を適切な位置に持って行くと、スッと収まるのが面白かったです。
時間が限られているなか、剥製作りの全ての行程を経験することが出来たわけではありませんでしたが、先生方が、できるだけ沢山学べるようにと工夫し、事前に準備をしてくださったおかげで、全体の流れを通して、可能な限り多くのことを学ぶことが出来たと思います。独学で何かをはじめるときは、往々にして何が正解で、何が間違いなのか分からないものです。今回、剥製作りの正解の一つを自分で体験しながら学ぶことが出来たのは、とても貴重な体験でした。
これから、剥製作りが身につくかどうかは僕の頑張り次第ですが、剥製を作ることは僕自身の研究や調査地での教育活動の幅を大きく広げると思います。この経験を最大限活かしていきたいと思います。
最後に、今回の鳥の学校を企画・運営してくださった全ての方に、貴重な経験を与えてくださったこと、感謝申し上げます。

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:標本製作講習 開催報告

澤祐介(企画委員)

2024年度の鳥の学校は、9月17日に山階鳥類研究所で標本製作講習が行われた。岩見恭子氏(山階鳥類研究所)を講師に迎え、10名の受講者が参加した。講習でははじめに、標本製作の意義について説明があった。標本はその時代の生物相・自然史を反映した貴重な記録であること、過去に遡って標本を集めることはできないこと、そして大きな博物館だけでなく、各地の博物館や大学などで、地域の生物を集めて標本として保存する価値などについて説明があった。また標本製作時には、仮剥製の他、胸筋からのDNAおよび安定同位体用サンプルの取得、胴体部分の骨標本作成など、ひとつの鳥体を余すことなく活用されており、鳥学の発展の基礎を支えていることを強く感じた。
講習では、ウミネコを材料に、受講者1人につき1羽の仮剝製を製作した。限られた時間内で全工程を学ぶため、前半と後半にパートをわけて講習が進められた。前半は、半解凍にしてある鳥の外部計測、性別判定、皮むき、肘関節・膝関節の取り外し、尾椎の切断、大まかな除肉、頸椎の切断と頭骨内の処理、胸筋サンプルの採取までを行った。この後、本来であれば、脂肪除去、精密な除肉、羽毛の洗浄と乾燥となるが、この工程は時間がかかるため、講師による実演と解説が行われた。
後半では、講師陣があらかじめ洗浄乾燥まで済ませた別個体の「皮」が受講者1人につき1羽配られ、これを仮剥製に組む作業を行った。講師をはじめ、3名の講師補助によるサポート体制がとても充実していたため、受講者全員、仮剝製の組み上げまで無事に完成することができた。その後の質疑応答でも各工程の詳細な内容、技術についての質問が飛び交い、内容の濃い講習となった。参加者の事後アンケートでも、「これまで仮剥製を作っていて、曖昧だったことが明確になった」「本やネットには載っていないような標本づくりのコツや工夫を教えていただけた」などの感想があり、有意義な講習となったことが覗えた。
今回の鳥の学校のために、事前の冷凍鳥体、作業工程途中の鳥体等を準備し、会場や作業道具等を提供いただいた山階鳥類研究所の皆さまに深く御礼申し上げる。今回製作した標本は、製作者として受講者の名前を記録し、山階鳥類研究所に保管されるとのことである。未来の鳥類研究者がいつかこの標本を活用する時がくると思うと、感慨深いものがある。今回の受講者は全国各地の大学や博物館、自然観察施設などの関係者が多く参加されていた。各地での標本の蓄積に、今回の鳥の学校の内容が少しでも貢献できれば幸いである。

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2024年度黒田賞を受賞して

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室

このたびは、栄誉ある黒田賞を受賞させていただき大変光栄です。
今大会では、受賞講演に加え、大会実行委員の仕事と公開シンポジウムのコーディネーター、企画委員の仕事など、大会中は忙しなく動いていましたが、お会いする方々から口々にお祝いのお言葉をいただき、とても幸せな時間を過ごさせていただきました。また、今大会はハイブリッド開催であったため、会場に来られない方たちにも、講演を聞いていただくことができました。講演会場だけでなく、休憩室でのサテライト配信やオンライン配信にご尽力いただいた大会実行委員のみなさまに、重ねて御礼申し上げます。同じ大会実行委員として頼もしく、安心して講演することができました。

受賞対象となった研究内容は、「鳥類生態学で拓く鳥インフルエンザ研究」と題して講演しました。私は、鳥インフルエンザウイルスの本来の自然宿主とされる、ガンカモ類の一種であるマガンの生態研究で学位を取得したのちに、鳥インフルエンザの研究を始めました。学生時代より培った知識や技術、人とのつながりなどを拠り所として鳥インフルエンザ研究を進められたことは事実ですが、不安定なポスドクの職を転々としながらも、「これだ!」と自ら選びとって続けてきた研究を日本鳥学会に認めていただけたことは、大変意義深いものでした。

対象となった研究は、野生鳥類における鳥インフルエンザのリスクマップ作成や野生鳥類の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)サーベイランスおよび飼養鳥のHPAI防疫体制の構築に向けたアンケートなどです。これらに加え、農林水産省の高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム委員としての疫学調査や疫学報告書執筆といった社会的活動を、業務研究の傍らで行ってきました。このような鳥類学以外の獣医疫学などの他分野とも深く関わり合い、鳥類学者が担う社会的責任を果たしてきたことを評価いただきました。

鳥インフルエンザ研究の対象としたカモ類

鳥インフルエンザは動物の疾病であるため、獣医学が中心となる研究分野です。しかし、野生鳥類がHPAIウイルスを運ぶキャリアとして機能している以上、野生鳥類の生態の理解が進まなければ、その感染拡大リスクの予測や対策を効果的に進めることはできません。HPAIウイルスの知識が必要であることは言うまでもありませんが、どのような場所で、どの鳥類が感染しやすそうなのか、どんなサーベイランスをすればHPAIウイルスの国内侵入や感染の広がりを検知できるのか、宿主側の情報から予測が立てられるのは、鳥類生態学者の強みだと感じています。

そして、人、動物、環境の健康を一つとみなすというOne Healthの理念に基づき、獣医学など他分野の研究者と鳥類生態学者が協働することで、互いの研究分野を理解し合い、個々の研究分野だけでは成しえない目標が達成されていく実感を得てきました。さらに、バードウォッチャーや野生鳥類研究に携わる人々に近い鳥類学者が鳥インフルエンザ研究に関わることで、野生鳥類関係者の協力や理解を得られやすいのでは、とも感じています。研究を進めていく中で、国内外の検査機関や行政担当者、動物園関係者、野生鳥類の救護施設や野生鳥類生息地の管理者など、様々な立場の方々をお話する機会をいただきました。野生鳥類、家きん、飼養鳥、そして人のくらしから、HPAIによる被害を減らしたいという関係者の願いに少しでも応えてゆけるよう、引き続き鳥類研究者としての責務を果たしていきます。

今年で14名となった黒田賞受賞者のうち、女性は私で3人目です。講演では、大学院の同期たちの協力を得て、生態学者の現状を紹介しました。博士課程進学時から学位取得まで、男女比はほぼ1:1であったものの、その後女性研究者だけが減少し続け、回復することもありませんでした。性別にかかわらず、鳥類学を含む生態学の分野で研究職を続けていくことは、博士号を取得することよりもずっと厳しいです。そして残念ながら、少なくとも日本においては、女性であればなおさらです。

授賞講演の様子(2024年度大会、令和6年9月13日)

黒田賞は、私よりも少し年上の方々が日本鳥学会に働きかけたことをきっかけに、創設されました。受賞対象となった鳥インフルエンザに関わる研究や社会的活動を私が続けてこられたのは、研究環境を整え背中を押してくださった上司たちをはじめ、周りの方々のおかげです。一方で、若い研究者が研究職をあきらめなくていいように、まだポスドクの立場にあった日本鳥学会員の先輩方が動いてくださったおかげで、黒田賞があります。受け取る側から与える側へ。今度は私も、鳥類学を志す若い世代にバトンを渡せるよう、日本鳥学会をより良い方向に変えていけるよう、力を尽くしていきます。

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2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (水越 かのん)

2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (水越 かのん)

筑波大学 森林生態環境学研究室
水越 かのん

この度は、日本鳥学会第2024年度大会において『生態系管理/評価・保全・その他』部門のポスター賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。鳥類の研究を志した時からずっと目標であり、憧れていた賞を頂き、嬉しい驚きと喜びで胸がいっぱいです。節足動物の同定にご尽力下さった自然環境研究センターの森英章先生、卒業研究から長きにわたり熱心なご指導と小笠原諸島での調査全般における手厚いサポートを頂いております森林総合研究所の川上和人先生、そして指導教員としてこの研究を支え、導いて下さった森林生態環境学研究室の上條隆志先生に、心より感謝申し上げます。
また、ポスター発表に足を運んでくださった方々にもこの場をお借りして御礼申し上げます。大会参加を通じ、多くの気付きや研究を発展させるためのヒントを得ることができました。今回の受賞を励みに、今後も調査研究に邁進する所存でございます。

研究の概要
ミズナギドリ類は土中に巣穴を形成しますが、その内部には巣材や羽毛、卵殻などの有機物が蓄積します。更に巣穴は直射日光や風雨の影響を直接受けることもありません。こうした巣穴は家主である海鳥以外に、特にケラチンや枯死植物を摂食し、乾燥や高温に弱い節足動物類に対しても潜在的なハビタットとして機能している可能性があります。生息地を新たに創出する生物を生態系エンジニアと呼びますが、本研究ではミズナギドリ類の生態系エンジニアとしての機能を検討するため、小笠原諸島西島・南島で採集したオナガミズナギドリとアナドリの巣材を分析し、その巣内共生節足動物相を明らかにしました。

巣穴から顔を出すオナガミズナギドリの幼鳥

分析の結果、両種の巣材から39種以上の節足動物の出現を確認しました。分類群ごとにまとめると、ケラチンを摂食するチョウ目(ヒロズコガ類)幼虫とワラジムシ目の出現が過半数を占め、次いでハチ目(アリ)、ゴキブリ目の割合が高いことが分かりました。海鳥の巣穴は節足動物、特に分解者にとって好適なハビタットであると考えられます。

巣材から出現した節足動物(左上:ヒロズコガ類幼虫ケース, 左下:オガサワラゴキブリ,
右上:コヒゲジロハサミムシ, 右下:コガタコシビロダンゴムシ)

海鳥は数百から数十万羽に及ぶ大規模な集団営巣地を形成するため、一羽一羽が掘った巣穴は全体として繁殖地の陸上生態系に大きな影響を発揮するはずです。ところが、これまで海鳥の営巣に伴う環境形成作用が注目されることはほとんどありませんでした。本研究は世界で初めて海鳥巣穴内の節足動物共生系を網羅的に明らかにし、巣穴形成による海鳥の生態系エンジニアとしての機能にスポットライトを当てた事例です。
穴を掘ったり、樹木に穴をあけたり、枝を集めたりして鳥類は『巣』という構造物を新たに創出します。鳥類は営巣を通じ生態系エンジニアとして重要な機能を担っていると考えられますが、現状、それを実証する研究はほとんど進んでいません。今後は海鳥巣穴内の温湿度環境の測定や巣材から出現した節足動物の食性分析を行い、営巣というプロセスが果たす機能について実証的なデータを収集していきたいと考えています。

 

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