広報委員長退任のご挨拶(とAIの活用について)

広報委員長 上沖正欣

シドニーのシェアオフィスからの眺め

12月末をもって4年間務めた広報委員長の任を終えるとともに、10年間在籍した広報委員会も任期満了となり退くこととなりました。

この4年間は一般社団法人化英文誌ペーパーレス化日本鳥類目録発行ダイバーシティ推進の学会宣言発出など、鳥学会として大きなニュースが続きました。2022年の委員長就任時の記事では「鳥学通信を充実させたい」と書きましたが、これについては4年間で120本余りの記事を公開することができました。鳥学通信自体をWordPress化して更新しやすい体制を整えたり、和文誌委員会の取り計らいにより、和文誌フォーラムに掲載されていた学会報告記事をタイムリーに掲載できるようになったことも大きかったと思います。研究室紹介の記事(とHPのまとめリンク)や、私が現在海外にいることから企画した海外で研究を行っている方にフォーカスした記事連載(海外での研究に興味がある方は、合わせて日本生態学会関東地区会会報No.61の特集記事も是非ご覧ください)などを見て、進学先を決めたり海外での研究に興味を持ったという声を聞くこともあり、進路に悩む方々にとって鳥学通信が役に立っているのであれば、これほど嬉しいことはありません。これも全て広報委員メンバーの、そして何よりご寄稿くださった会員の皆さまのご協力のお陰です。心より感謝申し上げます。

鳥学会HPに関しても、鳥類学に対する一般の方々の興味関心が高まっていることを示しているのか、ユニーク訪問者数は毎日約2,000名、SNS(X)のフォロワー数は現在約7,200名となっており、年々増加を続けています。今後は次期委員長の長谷川理さんへ襷をつなぎますが、引き続き鳥学会がおこなう調査研究保全活動について、会員内外に向けて情報発信してくれることと思います。また、会員の皆様も、情報発信や交流の場として、研究紹介やイベント告知、学会への提言などで鳥学通信を活用していただけますと幸いです。


個人的に最後に紹介したいのは、AI関連の話題です。私は、生成AIが一般に普及する以前からプログラミングやAIの研究への応用に関心を持ち、2019年に「鳥類研究 x IT」と題して自由集会を実施しました。その後、オーストラリアの大学院でITを学びましたが、当時ChatGPTはまだ出ておらずIT専攻学生でもAIを使うことは一般的ではなかったため、プログラミングの課題はGoogleやStack Overflowであれこれ検索して試行錯誤しながら何週間も時間をかけて解決していました。それが今やChatGPTGeminiKiroなどに「こんなコード書いて」と言えば一瞬でコードを書いてもらえます(あの苦労は何だったのか・・・)。シェアオフィスでChatGPTという単語を聞かない日はないし、昨日作業していた公園のベンチでも隣のご高齢のご夫婦がChatGPTの使い方ついて1時間近く語り合っていて、今ではすっかりAIが日常に溶け込んでいるのを感じます。2025年の鳥学会大会でも、AIを用いた研究発表がいくつかありました。

ただ、自分の研究にどうAIが役立つのかイメージしにくいという方もいるかもしれません。そんな方にまず読んでいただきたいのが 「アカデミアノート」 です。このサイトでは研究に使えるAIツールや論文管理ソフトなどに関する話題をはじめ、申請書の書き方や研究者としてのキャリアの考え方まで幅広く扱っており、学部生からベテラン研究者まで幅広い層に役立つ情報がまとめられています。アカデミアノートでは有料サービスの紹介が多いですが、もしまだAIを一度も使ったことがないという場合、まずはChatGPTGeminiCoPilotなど無料で気軽に使えるものから試してみることをお勧めします(有料ソフトでも裏側ではこれらのAIサービスを流用していることが多いです)。

例えばAIに論文PDFを読み込ませて表のデータをエクセルとして抽出したり、論文の英文法をチェックしてもらったり(言い回しや単語のチョイスがやや不自然なことはあれど、ネイティブの知り合いもAIの英文法は完璧だと言っていました)、処理が面倒くさいデータがあったら「このデータを自動で処理するRプログラム書いて」と頼んでみたり。研究について漠然とした問を投げかけても、新しいアイデアがもらえるかもしれません。忙しい同僚や友達にお願いするのは気が引けるようなことでも、AIなら気兼ねなく何でも頼むことができます。ドラえもんの誕生日はまだちょっと先ですが、「あんなこといいな、できたらいいな」という夢は、既にいくつか叶えられる時代になっているのです(どこでもドアも早く現実にならないですかね・・・)。

ただ、ここで改めて強調しておきたいのは、研究をAIに任せるべきだという話ではありません。質の高いデータを集め、その結果に意味づけを行うのは、あくまで研究者自身の役割です。AIはその過程を支援し、速度や精度を高めるための道具に過ぎません。AIはニューラルネットワークを用いているその仕組み上、コードや文法など規則性・一般性があるものは得意ですが、不規則な事象や特定の専門的知識が必要な内容に関しては不得意です。また、AIが誤った情報をもっともらしく提示する、いわゆる「ハルシネーション」やAIによるフェイク画像・動画などには十分注意しなければなりません。しかし、これはAIが登場する以前からある誤情報(デマ)と同様で、我々が正しい知識を持ち、複数の情報源を確認し事実確認を行う、という基本姿勢で対処できます。

今もう既にAIを使うのは当たり前になっており、使うかどうかではなく「どう使うか」が問われるフェーズに入ってきていると思います。鳥学会においても、新しい技術を積極的に、そして柔軟に取り入れることで、今後皆さんの研究がより良い方向へ発展することを願っています。

上沖正欣
キバタンに連絡先を教える私(AI画像ではありません)Photo by P. de Villiers
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日本鳥学会誌74巻2号 注目論文(エディターズチョイス)のお知らせ

日本鳥学会誌74巻2号 注目論文(エディターズチョイス)のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻2号の注目論文をお知らせします。

著者: 猿舘 聡太郎, 雲野 明, 松井 晋
タイトル: クマゲラの冬期における生立木の採餌木選択と採餌場適地推定
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.223

日本で唯一の大型キツツキ類であるクマゲラは、本州では幻の鳥として存続が危ぶまれていますが、北海道では広く見られ、札幌のような大都市であっても、その近郊の野幌森林公園などでは観察できる比較的ポピュラーな鳥です。本論文の著者である猿舘さんたちは、札幌のクマゲラの冬期における採餌環境を特定するため、周囲の山々13箇所、計100キロ近くを踏査し、食痕である立木に掘られた大きな穴を探す調査を行いました。
その結果、クマゲラは、低地の森林にある落葉針葉樹のカラマツと落葉広葉樹のシラカンバの大径木を好むことを発見しました。このことは、常緑針葉樹のトドマツ林を好むと考えられてきた、これまでの傾向とは異なり、北海道内でも地域差があることを示唆しています。
さらに、カラマツが北海道では人工林として戦後広く造成されたことに注目し、クマゲラの食痕を生物多様性の高さを表す指標とすることで、ゾーニング管理に役立つ可能性を提言された点は、時代のニーズをよく捉えた本研究の”ウリ”ですね!

それでは以下、猿舘さんからいただいた解説文です。

北海道では1950年代から70年代にかけて、低標高地域を中心に天然林の伐採が進み、その多くがトドマツや本州から導入されたカラマツの人工林へと転換されました。こうした森林環境の変遷を経た北海道には、国の天然記念物であり絶滅危惧種に指定されているクマゲラが生息しており、その姿は都市に隣接する森林でも観察されています。しかし、都市近郊の人工林を含む現在の森林において、クマゲラがどのような場所を採餌に利用しているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。本研究では、札幌市に生息するクマゲラを対象に、冬期に生きた木の樹幹を掘って採食した痕跡(採餌痕)が残る樹木に着目し、採餌木の特徴や周辺環境を詳細に調査しました。

山歩きが好きだったことも功を奏し、札幌市の南西部に整備された総延長100kmに迫る登山道を景色や植生を楽しみつつ、指導教員や研究室の仲間の支えにも助けられながら踏査することができました。クマゲラの採餌痕をたどりながら調査や解析を進めるうちに、北海道の森林がどのような歴史を経て現在の姿に至ったのかが次第に見えてきました。採餌木は、森林がどのように変化してきたのかを物語る手がかりとなり、まるでクマゲラが、森林の歩んできた歴史と今を教えてくれている、そんな感覚を覚えました。
本論文が、クマゲラの生息環境の理解と保全、そして木材利用との調和を考えるうえで、少しでも参考になれば幸いです。

(猿舘 聡太郎)

写真1 冬期にカラマツの樹幹で採餌するクマゲラ

 

写真2 採餌中のクマゲラとそのおこぼれを狙うヤマゲラ

 

写真3 夏期に地上部の枯死木で採餌するクマゲラ

 

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Ornithological Science 24巻2号が公開中です

Ornithological Science 24巻2号が公開中です

Ornithological Science編集委員長 上野裕介

Ornithological Scienceの最新号が公開中です。
次号は1月末発行、Open Accessの試験運用が始まります。

The latest issue of Ornithological Science has been available. The next issue is scheduled for release toward the end of January, and a trial of Open Access will begin.

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REVIEW ARTICLE: KURODA AWARD
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Movement ecology of Columbiformes maintaining long-distance dispersal
ability in island habitats
Haruko ANDO
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_173/_article/-char/ja

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ORIGINAL ARTICLE
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Do long-term changes in wing length indicate changes in migration
distances of North Eurasian Passerines?
László BOZÓ, Yury ANISIMOV, Tibor CSÖRGŐ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_189/_article/-char/ja

Streaked Shearwater Calonectris leucomelas rearing chicks in the
central Sea of Japan did not switch diet at the 2013/2014 regime
shift.
Chamitha DE ALWIS, Ken YODA, Yutaka WATANUKI, Akinori TAKAHASHI,
Kenichi WATANABE, Satoshi IMURA, Maki YAMAMOTO
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_199/_article/-char/ja

Genetic diversity of the Japanese captive population of Crested Ibis
Nipponia nippon estimated from pedigree analysis
Shiori KUBOTA, Shigeaki ISHII, Takahisa YAMADA, Toshie SUGIYAMA, Yukio
TANIGUCHI, Yoshinori KANEKO, Tetsuro NOMURA, Hiroaki IWAISAKI
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_215/_article/-char/ja

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SHORT COMMUNICATION
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No remarkable effect of blood mercury on corticosterone levels in
Black-tailed Gulls
Yasuaki NIIZUMA, Takushi TERADA
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_225/_article/-char/ja

Nestling-age dependent parental care strategy of Lesser Kestrel Falco
naumanni in Mongolia
Onolragchaa GANBOLD, Urangoo PUREVSUREN, Rentsen OYUNBAT, Joon-Woo
LEE, Otgontsetseg KHUDERCHULUUN, Ganchimeg J. WINGARD
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_229/_article/-char/ja

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鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

植田晴貴(日本獣医生命科学大学)

 日本鳥学会2025年大会における鳥の学校は、「鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編」でした。私自身ドローンを用いた研究を行っているわけではありませんが、ドローンを用いた鳥類研究に興味があり、実際に操縦も行うとのことでしたので参加させていただきました。
 酪農学園大学でドローンを用いた研究をされている小川先生、小野先生が本講習会を担当されており、初めに簡単にドローンの操縦方法を座学にて教えていただきました。その後体育館へ移動し、実際に飛行体験をさせていただきました。飛行実習として、実際に飛ばしてデコイのカモを撮影しました。私自身ドローンの操縦は今まで行ったことがなく、ドローンの発進や移動など、操縦に苦戦しました。特に、目視での位置と画面上のドローンの位置が全然一致しておらず、デコイの撮影に苦労したことが印象に残っています。将来ドローンを操縦する際は、屋外で飛ばす前に室内練習やドローンスクールなどを用いて、確実な操縦技術を身に着けてからと思いました。
 体育館での飛行体験後、屋外の池でデモンストレーション飛行を行っていただきました。屋外でのデモ飛行では、2種類のドローンを用いて5つのデコイを撮影しました。撮影は25m、50m、75m、100m、125mの高さから行い、125mではドローンが豆粒程度の大きさで、目視での確認はとても難しかったことが印象に残っています。
 屋外での撮影後、座学及び画像解析を行いました。座学では、ドローンを用いた研究を紹介いただきました。送電線における鳥の巣の発見(Dong et al. 2022)や海鳥のコロニーのカウント(Hondgson et al. 2016)など、人が行うには難しい研究が紹介されており、今後ドローンを用いた研究が広がっていくであろうと感じました。画像解析ではArcGIS Proを用いて、マップの作成を行い、個体数カウントはGoose123というシステムを用いました。Goose123は、ドローン画像からAIを用いて水鳥を自動カウントするシステムであり、本講習会の講師である小川先生が開発したシステムであるとご紹介いただきました。実際にデモ飛行で撮影した画像をカウントした結果227羽いると表示されました。カウントされている物を確認すると、池に浮いていた葉やゴミ、光の反射などをカウントしていることが判明しました。小川先生によると、解像度があまりにも良い場合や撮影状況によりマガン以外をカウントしてしまうことがあるため、Goose123にディープラーニングで学習させることでより精度を高く、カウントを行えるようになると教えていただきました。
 最後になりますが、この度はドローンの操縦及び画像解析という貴重な機会をご提供いただき、企画・運営をしてくださったみなさまに感謝申し上げます。また、操縦体験や座学の資料だけでなく、講習会終了後の質問にも快くご回答いただきました講師の方々にも感謝申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:ドローン体験で撮影したカモのデコイ

 

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第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

畑山優香(北海道大学大学院)

 鳥のように大空を飛んでみたい!鳥好きに限らず、多くの人が一度は抱く願いでしょう。かく言う私もその一人です。「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」というタイトルを見た時、これならば空を飛ぶ気分を少しだけ味わえるかもしれない、という考えが浮かびました。この他愛のない思いが一番の参加動機だったのですが、鳥たちの見ている景色に想いを馳せつつ、研究現場でのドローンとAIの活用に触れ、充実した時間を過ごすことができました。
 講習会は午前と午後の二部構成でした。午前中には室内での操縦体験と野外での模擬調査見学があり、午後からは研究現場でのドローン活用についての講義を拝聴しました。
 午前中の操縦体験では、参加者が多かったにもかかわらず、実機を扱う機会を一人一回ずつ確保していただきました。自分の操作でドローンが宙に浮いた時の感覚は忘れがたく、終了後にドローンの価格を検索してしまうほど刺激的でした(写真1)。それに続く野外での模擬調査では、会場となった酪農学園大学構内の池にマガモとマガンのデコイを浮かべ、それを上空からドローンで撮影する工程を見学しました。調査用ドローン(写真2)は子どもが四つん這いになったほどのサイズがあるように感じられ、迫力ある飛行音にも驚きました。また、ドローンは地上のモニターと同期しており、頭上の機体から送られる映像を確認できるようになっていました。映像を見ていると、鳥たちが見下ろしている世界を垣間見た気分になりました。
 午後の講義では、ドローンの強みである航空写真の撮影能力が、水鳥のカウント調査で発揮されることを学びました。水辺に集まる群れを上空から撮影し、航空写真を専用のAIで解析することで個体数を計測できるのだそうです。また、撮影データは生息数調査だけでなく、羽数カウントのプログラム精度の向上にも活用されているとのことでした。講義の途中では、午前の模擬調査の映像や過去の研究データから作成された航空写真を使い、AI解析の工程も体験させていただきました。
 一日の講習を通して印象的だったのは、ドローンとAIによる解析と、人の目によるカウント調査が、互いを補い合う手法であるという点です。現段階では、経験豊富な調査員によるカウントが最も正確で信頼されている手法であるそうですが、湖の中心部など、目視では確認しにくい場所にも群れが形成されることがあります。そのような場合、ドローンとAIが心強いサポートツールになり得るのだそうです。人の目の精緻さに驚くと同時に、AIとの共存可能性が見出される分野があることに明るさを感じました。
 また、航空写真のAI解析を体験し、高密度な群れが写った画像から一羽一羽を正確に検知する一方で(写真3、4)、水面の木の葉を鳥と誤認識する場合もある結果を見て、プログラム開発の難しさがうかがえました。近年のAIの発達を前にすると、「人の能力など無駄になるのではないか」と無力感に苛まれることもあります。しかし、万能に見えるAIの裏にあるものは、開発者の知恵と意思と努力なのでしょう。今後、AIを前に無力感を覚える機会は増えるかもしれませんが、AIを動かし育てるのはやはり人の力であることを忘れないでいようと思います。
 ドローン操縦の基本や活用を凝縮して学ぶ機会をいただいたことは、鳥や野生動物の研究に関わる学生として、得がたい経験でした。今の私の日常にはドローンを扱う機会はほとんどありません。けれども、過去に得た知識や体験が、思いもよらぬ形で役立つ…人生には、そんな「伏線回収」のような瞬間が時々訪れると信じています。これからも、鳥や動物に関わる進路を目指し続けたいです。最後に、操縦体験と講義を担当してくださった酪農学園大学の小川健太先生、小野貴司先生と、鳥の学校の企画・運営の関係者の皆様に御礼申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:屋外での撮影に使用したドローン

 

写真3:画像解析する著者

 

写真4:黄色い点が検知されたマガン
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鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

企画委員 鳥の学校担当
鳥取大学 鳥由来感染症グローバルヘルス研究センター
森口紗千子

 鳥の学校では、学会内外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講習を毎年実施している。第16回は、北海道札幌市で開催された2025年度大会初日の9月12日に、江別市に位置する酪農学園大学で行われた。ドローンをテーマとした鳥の学校は、北海道網走市で開催された2022年度大会に続き2回目である。講師は、前回と同じ酪農学園大学の小川健太氏に加え、同じく酪農学園大学の小野貴司氏に依頼した。前回はドローンの飛行体験と座学が中心であったが、今回は、ドローンの飛行体験に加え、ドローンで撮影したガンカモ類の画像から個体数をカウントする画像解析の実習である。当日は天気にも恵まれ、ドローン日和であった。
 午前中はドローンの飛行体験である。体育館で講師からマンツーマンで指導を受けながら、参加者全員がドローンを操縦して離陸、決まったルートの移動、ドローンのカメラによるカモのデコイの撮影、着陸までを体験した。他の参加者たちは、タブレットの操縦シミュレーションでトレーニングをしながら順番を待っていたが、よい事前練習になったようである。その後は、さらに大きなドローンを用いて、屋外の池にガンカモ類のデコイを浮かべ、講師がドローンで撮影するデモ飛行を見学した。
 午後はパソコンでの画像解析実習である。ドローンで撮影されたマガンのねぐらの画像をArcGIS Proに取り込み、画像をつなぎ合わせる作業や、マガンをカウントするために開発された解析ソフトGoose123で自動カウントする作業を体験した。参加者のカウント結果は共有され、それぞれの解析結果を見比べることもできた。
 事後アンケートによると、全員がドローンの操作ができた、GISの基本的な使い方や、画像解析の基本的な流れが手を動かしながら追えたのは勉強になったなど、参加者の90%以上が大変満足や満足と回答された。今回もワクワクするような講習をご用意いただいた講師陣と酪農学園大学のスタッフの方々、そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に深くお礼申し上げる。
 鳥の学校は、今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である。鳥の学校の案内は、日本鳥学会誌の大会案内および大会ホームページに掲載する。

 

写真1:ドローン実習

 

写真2:ドローンの操縦シミュレーション

 

写真3:屋外でのドローンのデモ飛行

 

写真4:画像解析実習

 

 

 

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日本鳥学会2025年度大会自由集会報告 - W10 危機対応自由集会(対動物編)

黒沢令子(NPOバードリサーチ嘱託研究員)

野外での調査中にトラブルに出会う確率が増しているので、2024年度に行なった対人編に引き続き、2025年は危険な野生動物に対する対応を知る集会を行なった。そして、それぞれの動物の基本生態と、それに即して人間側が留意すべき対処法、さらに共存を探る方法などを語っていただいた。

会場の様子

話題提供者として、以下の講師を招聘した。(敬称略)

哺乳類(ヒグマ): 大石智美(北海道大学文学院)
昆虫(スズメバチ):丹羽真一 (さっぽろ自然調査館)
節足動物(マダニ):大杉祐生(北海道大学国際感染症学院)
鳥類(カラス):  中村眞樹子(NPO法人札幌カラス研究会)
大陸の状況紹介: 姜雅珺・盛雄杰(NPO法人バードリサーチ、雲南大学生物多様性研究院)

また、江指万里(北海道大学理学院)・姜雅珺に主催側のスタッフとしてお世話いただいた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。

当日の参加者は20名前後で、アンケートの結果、講師を含め23名から回答を得た。参加者の内訳は、年代が、10~20代(人数:6)、30~40代(3)、50~60代(12)、それ以上(1)、未回答(1)だった。属性は、学生・大学院生(2)、研究者や指導者(6)、自然環境調査従事者や自然愛好者(13)、未回答(2)だった。性別は、男性(11)、女性(11)、未回答(1)、ふだんの活動地域は、九州以南(0)、四国九州(3)、中国近畿(5)、中部関東(7)、東北(2)、北海道(4)、未回答(2)だった。

このように、日本各地から幅広い年齢層の多様な立場の参加者を得た。特に男女比が同じであり、立場も多様だったのは、ジェンダーや立場を問わず活発である日本鳥学会のあり方を表しているといえるかもしれない。

集会では、まず付箋を使って参加者の経験や情報を書いてもらい、それを読み上げて全員で共有した。写真はその内容を紹介しているところ。ホワイトボード上に挙げられた主な分類群(件数)は、左からイノシシ(3)、カラス(0)、ハチ(8)、ダニ(6)、クマ(10)。2群以上にまたがる場合もあった。

アンケートの回答。

(1)これまでに野外で出会った危険な動物(見かけただけの場合も含む)
クマ類(13)、ハチ類(15)、ダニ類(7)、カラスや他の鳥類(1)
今回取り上げた以外で危険性のある動物
毒ヘビ(7)、イノシシ(7)、ヒル(3)、ブユ(3)、トビ、ムカデ、ネズミ、サシガメ、野犬、カモシカ

(2)これまで未知だったことや、興味を惹かれた内容
・クマの生態(類似5件)。糞や足跡、食痕の新しさを判定して、新しい場合は引き返す判断の材料とする方法など。
・スズメバチの中でもリスクの高い種類がいること。スズメバチの生態(2)
・オオスズメバチやクロスズメバチの巣は見つけにいこと。
・ハチアレルギーを事前に調べられること。
・マダニ媒介感染症の解説はためになった。(3)
・マダニによる感染症が多いのに、驚いた。(2)
・マダニの生態。マダニが宿主を変えること、鳥類がマダニやTBPなどの感染症を媒介・拡大させる可能性と、分散への寄与は初めて知った。(5)
・脳炎ウイルスのワクチンがあること。(2)
・カラスの行動の知識を再確認した。威嚇への対応は興味深かった(6)
・中国での危険生物(ヒルなど)の紹介は参考になった。野外活動時に、林床を枝等で探りながら歩けば、潜んでいた毒ヘビを先に逃がすことができること。
・事後の再検証を行うのは大切だと思った。

(3)今日の集会を経験して、行動に移そうと思ったこと
・ヒグマ対策。クマスプレーを買う(3)。EPA認証をクリアしている物を選ぶ。複数人で行動する。いざという時、身を伏して頭を守る防御姿勢をとる。(2)
・ハチ対策。皮膚科に行って、アレルギー検査をする(3)。ポイズンリムーバーを持参する。
・ダニ対策。ディートなどの虫よけを使う。Tick Twisterを持参する。(2)
・ハチ、ダニ対策。服の色で避けられる危険があるようなので、明るい服を選ぶ。(2)
・カラス対策。攻撃に対して、腕を真上に上げる、傘をさすなど(2)。威嚇されるような場面があれば、刺激をしないようにする。
・鳥について。神奈川県ではトビが大変危険。
・動物の本能を理解した上で対応を行なっていきたい。
・危険性のある生物の情報を把握する。注意する(3)。なるべく遭遇を避ける行動をとる。無理をしないで、危険回避を優先する。やばそうな時期を避ける。
・経験を共有することが重要だと思った。
・夏場の調査では熱中症対策が必要なので、ナイロン生地を使用しなければならないため、両立できるよう工夫をしていきたい。
・慣れすぎることは危険なので、油断しないようにしたいと思った。

(4)講師に伝えたいこと
・カラス対策(2)。自転車に乗る時は、ヘルメット着用が努力義務になったので対策として勧められるのではないか?
・オジロワシでは、繁殖つがいがヒナを防衛する際に、通常攻撃はしない。警戒声、警戒行動のみである。(←種や生態によって違いがある件)
・近所の公園の木がカラスが営巣するという理由で伐られてしまった。仕方ない部分もあるが、共存を模索して欲しい。
・昨年の対人防御の話は実践する必要がなく済んでいる。
・「生息域にお邪魔している」という意識が大切というのに同意。
・皆、けっこう色々な動物に出会っていて、驚いた。
・各専門家の話をまとめて伺う良い機会だった。ためになった。面白かった。(3)
・正しい知識こそ危機対策だと思った。正しい理解が大切で、思い込みはよくない。(3)


〇質問

Q1:国産のクマスプレーの効果について質問。
A(大石): 「熊一目散 公式サイト | 安心の国産熊スプレー」は国産だが、成分濃度・噴射距離・噴射時間などEPAのガイドラインに準拠して製造されているため、EPA認証製品と同等の効果があると考えられる。従来の製品と比較して噴射までの手順が短いのも特徴である。自身が操作し易いものを選ぶとよいと思う。

Q2:ヒグマ対応。仕事上だと新しい食痕があっても引き返せないことが多く、悩ましい。
A(大石): ←基本の行動(音を出す、複数人で動く、クマ撃退スプレーを携帯する)などを抑えることが最も大切。クマによる攻撃は首から上が多いため、万が一に備えてヘルメットの着用もお勧め。また、食痕を見つけた際は周囲で足跡も探してみるとよい。足跡は雨が降ったり他の動物に踏まれたりして消え易いので残る時間が短い(私自身も足跡を見て、引き返すかどうかの判断基準としてきたことが多い)。危険性が高い場合 →明瞭な足跡がある、自分たちが進む方向に続いている、親子である場合(大きさの異なる足跡が一緒についている)。

参考
「秋田県庁HP」 クマに関するQ&A
「ヒグマの会HP」 ヒグマの生態や歴史
「知床財団HP」 ヒグマへの対処法(世界自然遺産「知床」にある公益財団法人)

 

Q3:スズメバチに襲われそうになったら、その場に静止しているのがよいだろうか?
A(丹羽): ←状況判断がすべて。
状況1)「まとわりつき飛翔」の場合。スズメバチは、飛翔動線上に見慣れないものがあったり、大型動物がいたりすると、点検するように飛び回る。基本的に単独の行動。
対応:←人間がじっとしていれば、数十秒から数分で立ち去る。ただ、袖口や襟元に入り込んでしまうと高い確率で刺される。こういう偶発的な事故的な刺傷を避けるためには少しずつ移動し、スズメバチから離れるようにするのがよい。

状況2)「襲われそう」なのが確かな場合。
対応:←巣が近くにある可能性が高いので、刺されなくても速やかにその場を離れるのが鉄則。
〇アゴをカチカチ鳴らすなど威嚇の段階だと、すぐには刺してこない場合もあるが、警報フェロモンに触発された働きバチが次々と集まってくるので、時間とともに危険度が増す。
対応: ←ゆっくり後ずさりしながら離れる。
〇地中の巣を踏んでしまった場合は、一斉に働きバチが飛び出してきて、腕や頭部を狙って刺そうとする。
対応: ←非常に危険度が高まっているので、直ちに走って逃げる。

スズメバチの行動パターンを実地で知っておくためには、実際のスズメバチの巣を使って、人間が近づいた時の反応や攻撃の仕方を体験するような、観察会(体験会)を開くとよいかもしれない(専用の防護服を用意しておく)。

参考文献
・『スズメバチはなぜ刺すか』(松浦誠 1988年)
『フィールド調査における安全管理マニュアル』(生態学会 2025)

 

Q4:ハチアレルギー対策の薬エピペンの使用法について質問
A(丹羽):エピペンは、緊急対応用に特別に認可される薬なので、専門医に相談するのがよい。

参考文献
「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン《令和元年度改訂》」
エピペンの公式サイト

 

Q5:ダニに刺されて病院に行った際に処方される抗生物質は、何に対して、どの程度の効果があるのだろうか?
A(大杉):
1)細菌性(ライム病や紅斑熱)←抗生物質が有効
2)ウイルス性(SFTSやマダニ媒介性脳炎)←抗生物質は効かない
マダニ刺咬後、(発熱や皮膚)症状が出た場合 → 皮膚科を受診し抗生物質を処方してもらう。
症状が出ていない段階で予防的に投与するべきか?という問題。
←医師間でも意見が別れる。
←北海道や本州中部でシュルツェマダニに刺されたのが明らかで、しかも発見時のマダニが飽血状態だった時は、ライム病の感染リスクがかなり高いので、予防的に抗菌薬を投与してもよいかもしれない。

参考文献
『マダニの科学』(朝倉書店) 2024 マダニの分類・生態から近年の研究、感染症やその対策まで、詳細かつ一般向け
国立健康危機管理研究機構HP : マダニ対策、今できること
厚生労働省HP: ダニ媒介性感染症

★マダニのサンプル募集中
鳥類につくマダニを入手したら、連絡下さい。
<ohsugi.yuki.b8@elms.hokudai.ac.jp>

 

要望1:カラス対策について。媒体を問わず、対策などを発信して欲しい(四国九州の調査者)。
カラスの攻撃行動の段階や、攻撃されそうになった時、人ができる対処法などが紹介されている。
札幌カラス研究会のサイト

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第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会事務局
作山宗樹

今年の11月に岩手県盛岡市で、日本鳥学会津戸基金の助成を受けて開催する公開シンポジウム「鳥を調べ、鳥に学ぶ」をご紹介させて頂きます。

鳥類の生態や行動、進化などを調べる際に、鳥類を捕獲・標識して初めて分かることがたくさんあります。今回北東北で初となる日本鳥類標識協会の全国大会開催を契機として、鳥類の生態研究を通じて、鳥を調べる面白さや興味深さをお伝えする場を用意しました。多くの一般の方々にご参加いただき、演者の方々には調査研究を広く分かりやすくお話いただきます。

できるだけ多くの方々に足を運んでもらうため、会場は盛岡駅に隣接する県営の300人収容可能な会議場としました。会場が駅に接している利便性から、県内はもちろん、近隣県の生態学・野鳥・自然観察に関わる複数の団体に後援をお願いし、広く宣伝頂いております。
なお、本講演企画は地元や隣県などの日本鳥類標識協会会員および日本野鳥の会もりおか会員によるボランティアで運営されます。翌11月9日に行われる標識協会会員向けの一般口頭発表会や標識協会総会とは切り離した形で行います。

開催概要およびプログラム

1.開催日時 2025年11月8日(土)13:50~16:30(13:20開場)

2.会場 いわて県民情報交流センター(アイーナ) 804会議場
(住所:〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅西通1丁目7番1号)

3.主催 第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会

4.入場料、申し込み方法および定員
 入場無料、事前申し込み不要、定員300名

5.講演者および講演タイトル
・三上かつら氏(NPO法人バードリサーチ)
  下北半島のイスカ―その形態と生態-
・成田章氏(ウミネコ繁殖地蕪島を守る会(青森県立八戸聾学校))
  1966年から2024年までの標識調査からわかるウミネコの年齢や移動について
・菅澤颯人氏(岩手大学獣医学部)
  鳥についてる変な虫:シラミバエの生態と病原体保有状況について
・高橋雅雄氏(岩手県立博物館)
  個体標識から分かったオオセッカや草原棲小鳥類の生態

6.後援団体
青森自然誌研究会/秋田自然史研究会/岩手県立博物館/岩手生態学ネットワーク/
環境省東北地方環境事務所/公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団/
自然観察指導員ネットワーク岩手/東北鳥類研究所/
特定非営利活動法人おおせっからんど/日本野鳥の会青森県支部/
日本野鳥の会秋田県支部/日本野鳥の会北上支部/日本野鳥の会弘前支部/
日本野鳥の会もりおか/日本野鳥の会宮城県支部/日本野鳥の会宮古支部

7.シンポジウム特設webサイト
https://birdbanding-assn.jp/J04_convention/2025/2025taikaisympo.htm

本シンポジウムは日本鳥学会津戸基金の助成を受けて実施します。

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ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

企画委員会 本多里奈

2016年の創設以来、毎年多くの方にご応募いただいているポスター賞。これまで、ポスター賞は30歳以下の若手会員を対象にしていましたが、昨今の研究情勢を鑑み、より多くの方の研究を奨励することを目的に、2025年度大会からポスター賞の参加資格を変更し、賞を増設することにいたしました。今回は、ポスター賞がどう変わったか、ポスター賞に応募する上で何を意識すればよいかを紹介します。

★参加資格:応募条件が緩和され、より多くのキャリア初期の研究者が応募可能となりました!
大会年の4月1日時点で、以下のいずれかの条件に当てはまる方がポスター賞に応募できます。
・30歳以下である
・博士号未取得で、学部学生、大学院生、研究生のいずれかとして大学に所属している
・博士号取得後3年以内である
昨年度までの条件ではポスター賞の対象になりづらかった社会人学生や再進学の方も応募が可能になっています。

★賞の増設:受賞のチャンスが倍になりました!
昨年度は「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で受賞者は各1名でしたが、今年から受賞者は各部門最大2名(最優秀賞・優秀賞)となります。

今回の変更を受けて、初めてポスター賞に応募する方もいるのではないでしょうか。ここで、ポスター賞の審査方法について見ていきましょう。ポスター賞は、毎年各部門数名の審査員が手分けして全ての応募発表に目を通しています。通常、一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」をもとに受賞者候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを聞いて、一次審査と同じ審査項目に加えて「プレゼンテーションのわかりやすさ及び簡潔さ」にも注目して審査を行います。プレゼンテーションで、時間をかけてとりくんできた研究を全て伝えたい!という気持ちはとてもよく分かります。しかし、全てを伝えようとするとどうしても冗長になりがちです。説明の時間も長くなり、限りある審査時間の中で、審査員があなたの発表を最後まで聞ききれないという事態にもなりかねません。発表の際は、「研究の意義、方法、結果、考察、今後の展望」という研究のエッセンスを5分程度にまとめて話してみましょう。審査員だけでなく、より多くの人に発表を聞いてもらえることにも繋がります。

さて、応募資格の変更と賞の増設により、応募者が例年よりも増加することが予想されます。このような状況で、公正な審査を円滑に行うために、みなさんに気を付けてほしいことがあります。それは、申し込みです。まず、応募部門がご自身の研究にマッチしていなければ、正しく評価してもらうことはできません。また、申し込み時に不備があれば、そもそもポスター賞に応募できなくなる可能性もあります。私はそそっかしい質で、慌てているときにとんでもない凡ミスをしてしまうことが多々あります。みなさんにはそのようなことがないように、落ち着いて申し込みをしていただければと思います。そのときに一緒に意識してほしいことは、「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。講演要旨作成時には、是非以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ornithology.jp/newsletter/articles/633/

みなさんの情熱が詰まった研究を楽しみにしています。それでは、たくさんのご応募をお待ちしております!

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日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 吉川徹朗

タイトル: 植物の種子散布者としての鳥類:鳥類-植物間の相互作用が駆動する植物の生態, 進化動態

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.1

私が吉川さんと初めてお話ししたのは、たしか15年ほど前の大会時の懇親会?だったように思います。植物生態学の分野で世界的に有名な菊沢先生の指導を受けながら、植物の専門家として鳥を見るというお話を聞かせてもらい、鳥屋さんがちょっと植物をかじったのとは異なる、重厚な研究が展開される日を近い将来目にするのだろうと感じたことを、今も覚えています。
多くの方が感じていたでしょう、この予感はやはり的中し、2019年度の黒田賞に選ばれた吉川さんが、本総説という形で、みごと"結実”させてくれたことを、長く鳥学会に関わってきた一人として、とても嬉しく感じています。
本総説は、非常に幅広い視点からまとめられた内容で、どこを切り取っても大変勉強になるのですが、特に私がオススメしたいのは、海外誌であればレビュー論文のPerspectivesに相当する"課題と展望”です。様々なテクノロジーが進む中でも、研究の根幹をなす自然史知見を最重要に考えられてきた吉川さんの姿勢がひしひしと伝わってきます。
それでは以下、吉川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただき、ありがとうございます。この総説は鳥類による種子散布に関する知見をまとめたものです。種子散布は動物・植物の双方の関わり合いを介して植物の空間移動がもたらされる魅力的な現象ですが、和文の新しい教科書や解説書が乏しい状況でした。黒田賞の受賞の総説を書くにあたって考えたのは、種子散布の基本から最新研究まで、その全体像を見渡すための手引きとなるものが書けたら、ということです。そんな気負いが仇となって、完成に大変時間がかかってしまいましたが、鳥類研究者だけでなく、植物生態に興味を持つ人にも読んでもらえるものになったのではないかと思います。昨年出版された「タネまく動物 体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」(小池伸介・北村俊平編集、文一総合出版)も、日本の多くの種子散布研究者がさまざまなトピックを紹介する書籍で、この分野の入門に最適です。併せて読んで、種子散布研究の道しるべとして活用してもらえたら、とても嬉しく思います。

(吉川徹朗)

写真1 ヘクソカズラの液果を食べるシチトウメジロ(写真:服部正道氏)

 

写真2 スイカズラの液果

 

写真3 シラカシの堅果

 

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