鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

植田晴貴(日本獣医生命科学大学)

 日本鳥学会2025年大会における鳥の学校は、「鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編」でした。私自身ドローンを用いた研究を行っているわけではありませんが、ドローンを用いた鳥類研究に興味があり、実際に操縦も行うとのことでしたので参加させていただきました。
 酪農学園大学でドローンを用いた研究をされている小川先生、小野先生が本講習会を担当されており、初めに簡単にドローンの操縦方法を座学にて教えていただきました。その後体育館へ移動し、実際に飛行体験をさせていただきました。飛行実習として、実際に飛ばしてデコイのカモを撮影しました。私自身ドローンの操縦は今まで行ったことがなく、ドローンの発進や移動など、操縦に苦戦しました。特に、目視での位置と画面上のドローンの位置が全然一致しておらず、デコイの撮影に苦労したことが印象に残っています。将来ドローンを操縦する際は、屋外で飛ばす前に室内練習やドローンスクールなどを用いて、確実な操縦技術を身に着けてからと思いました。
 体育館での飛行体験後、屋外の池でデモンストレーション飛行を行っていただきました。屋外でのデモ飛行では、2種類のドローンを用いて5つのデコイを撮影しました。撮影は25m、50m、75m、100m、125mの高さから行い、125mではドローンが豆粒程度の大きさで、目視での確認はとても難しかったことが印象に残っています。
 屋外での撮影後、座学及び画像解析を行いました。座学では、ドローンを用いた研究を紹介いただきました。送電線における鳥の巣の発見(Dong et al. 2022)や海鳥のコロニーのカウント(Hondgson et al. 2016)など、人が行うには難しい研究が紹介されており、今後ドローンを用いた研究が広がっていくであろうと感じました。画像解析ではArcGIS Proを用いて、マップの作成を行い、個体数カウントはGoose123というシステムを用いました。Goose123は、ドローン画像からAIを用いて水鳥を自動カウントするシステムであり、本講習会の講師である小川先生が開発したシステムであるとご紹介いただきました。実際にデモ飛行で撮影した画像をカウントした結果227羽いると表示されました。カウントされている物を確認すると、池に浮いていた葉やゴミ、光の反射などをカウントしていることが判明しました。小川先生によると、解像度があまりにも良い場合や撮影状況によりマガン以外をカウントしてしまうことがあるため、Goose123にディープラーニングで学習させることでより精度を高く、カウントを行えるようになると教えていただきました。
 最後になりますが、この度はドローンの操縦及び画像解析という貴重な機会をご提供いただき、企画・運営をしてくださったみなさまに感謝申し上げます。また、操縦体験や座学の資料だけでなく、講習会終了後の質問にも快くご回答いただきました講師の方々にも感謝申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:ドローン体験で撮影したカモのデコイ

 

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第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

畑山優香(北海道大学大学院)

 鳥のように大空を飛んでみたい!鳥好きに限らず、多くの人が一度は抱く願いでしょう。かく言う私もその一人です。「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」というタイトルを見た時、これならば空を飛ぶ気分を少しだけ味わえるかもしれない、という考えが浮かびました。この他愛のない思いが一番の参加動機だったのですが、鳥たちの見ている景色に想いを馳せつつ、研究現場でのドローンとAIの活用に触れ、充実した時間を過ごすことができました。
 講習会は午前と午後の二部構成でした。午前中には室内での操縦体験と野外での模擬調査見学があり、午後からは研究現場でのドローン活用についての講義を拝聴しました。
 午前中の操縦体験では、参加者が多かったにもかかわらず、実機を扱う機会を一人一回ずつ確保していただきました。自分の操作でドローンが宙に浮いた時の感覚は忘れがたく、終了後にドローンの価格を検索してしまうほど刺激的でした(写真1)。それに続く野外での模擬調査では、会場となった酪農学園大学構内の池にマガモとマガンのデコイを浮かべ、それを上空からドローンで撮影する工程を見学しました。調査用ドローン(写真2)は子どもが四つん這いになったほどのサイズがあるように感じられ、迫力ある飛行音にも驚きました。また、ドローンは地上のモニターと同期しており、頭上の機体から送られる映像を確認できるようになっていました。映像を見ていると、鳥たちが見下ろしている世界を垣間見た気分になりました。
 午後の講義では、ドローンの強みである航空写真の撮影能力が、水鳥のカウント調査で発揮されることを学びました。水辺に集まる群れを上空から撮影し、航空写真を専用のAIで解析することで個体数を計測できるのだそうです。また、撮影データは生息数調査だけでなく、羽数カウントのプログラム精度の向上にも活用されているとのことでした。講義の途中では、午前の模擬調査の映像や過去の研究データから作成された航空写真を使い、AI解析の工程も体験させていただきました。
 一日の講習を通して印象的だったのは、ドローンとAIによる解析と、人の目によるカウント調査が、互いを補い合う手法であるという点です。現段階では、経験豊富な調査員によるカウントが最も正確で信頼されている手法であるそうですが、湖の中心部など、目視では確認しにくい場所にも群れが形成されることがあります。そのような場合、ドローンとAIが心強いサポートツールになり得るのだそうです。人の目の精緻さに驚くと同時に、AIとの共存可能性が見出される分野があることに明るさを感じました。
 また、航空写真のAI解析を体験し、高密度な群れが写った画像から一羽一羽を正確に検知する一方で(写真3、4)、水面の木の葉を鳥と誤認識する場合もある結果を見て、プログラム開発の難しさがうかがえました。近年のAIの発達を前にすると、「人の能力など無駄になるのではないか」と無力感に苛まれることもあります。しかし、万能に見えるAIの裏にあるものは、開発者の知恵と意思と努力なのでしょう。今後、AIを前に無力感を覚える機会は増えるかもしれませんが、AIを動かし育てるのはやはり人の力であることを忘れないでいようと思います。
 ドローン操縦の基本や活用を凝縮して学ぶ機会をいただいたことは、鳥や野生動物の研究に関わる学生として、得がたい経験でした。今の私の日常にはドローンを扱う機会はほとんどありません。けれども、過去に得た知識や体験が、思いもよらぬ形で役立つ…人生には、そんな「伏線回収」のような瞬間が時々訪れると信じています。これからも、鳥や動物に関わる進路を目指し続けたいです。最後に、操縦体験と講義を担当してくださった酪農学園大学の小川健太先生、小野貴司先生と、鳥の学校の企画・運営の関係者の皆様に御礼申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:屋外での撮影に使用したドローン

 

写真3:画像解析する著者

 

写真4:黄色い点が検知されたマガン
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鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

企画委員 鳥の学校担当
鳥取大学 鳥由来感染症グローバルヘルス研究センター
森口紗千子

 鳥の学校では、学会内外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講習を毎年実施している。第16回は、北海道札幌市で開催された2025年度大会初日の9月12日に、江別市に位置する酪農学園大学で行われた。ドローンをテーマとした鳥の学校は、北海道網走市で開催された2022年度大会に続き2回目である。講師は、前回と同じ酪農学園大学の小川健太氏に加え、同じく酪農学園大学の小野貴司氏に依頼した。前回はドローンの飛行体験と座学が中心であったが、今回は、ドローンの飛行体験に加え、ドローンで撮影したガンカモ類の画像から個体数をカウントする画像解析の実習である。当日は天気にも恵まれ、ドローン日和であった。
 午前中はドローンの飛行体験である。体育館で講師からマンツーマンで指導を受けながら、参加者全員がドローンを操縦して離陸、決まったルートの移動、ドローンのカメラによるカモのデコイの撮影、着陸までを体験した。他の参加者たちは、タブレットの操縦シミュレーションでトレーニングをしながら順番を待っていたが、よい事前練習になったようである。その後は、さらに大きなドローンを用いて、屋外の池にガンカモ類のデコイを浮かべ、講師がドローンで撮影するデモ飛行を見学した。
 午後はパソコンでの画像解析実習である。ドローンで撮影されたマガンのねぐらの画像をArcGIS Proに取り込み、画像をつなぎ合わせる作業や、マガンをカウントするために開発された解析ソフトGoose123で自動カウントする作業を体験した。参加者のカウント結果は共有され、それぞれの解析結果を見比べることもできた。
 事後アンケートによると、全員がドローンの操作ができた、GISの基本的な使い方や、画像解析の基本的な流れが手を動かしながら追えたのは勉強になったなど、参加者の90%以上が大変満足や満足と回答された。今回もワクワクするような講習をご用意いただいた講師陣と酪農学園大学のスタッフの方々、そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に深くお礼申し上げる。
 鳥の学校は、今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である。鳥の学校の案内は、日本鳥学会誌の大会案内および大会ホームページに掲載する。

 

写真1:ドローン実習

 

写真2:ドローンの操縦シミュレーション

 

写真3:屋外でのドローンのデモ飛行

 

写真4:画像解析実習

 

 

 

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日本鳥学会2025年度大会自由集会報告 - W10 危機対応自由集会(対動物編)

黒沢令子(NPOバードリサーチ嘱託研究員)

野外での調査中にトラブルに出会う確率が増しているので、2024年度に行なった対人編に引き続き、2025年は危険な野生動物に対する対応を知る集会を行なった。そして、それぞれの動物の基本生態と、それに即して人間側が留意すべき対処法、さらに共存を探る方法などを語っていただいた。

会場の様子

話題提供者として、以下の講師を招聘した。(敬称略)

哺乳類(ヒグマ): 大石智美(北海道大学文学院)
昆虫(スズメバチ):丹羽真一 (さっぽろ自然調査館)
節足動物(マダニ):大杉祐生(北海道大学国際感染症学院)
鳥類(カラス):  中村眞樹子(NPO法人札幌カラス研究会)
大陸の状況紹介: 姜雅珺・盛雄杰(NPO法人バードリサーチ、雲南大学生物多様性研究院)

また、江指万里(北海道大学理学院)・姜雅珺に主催側のスタッフとしてお世話いただいた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。

当日の参加者は20名前後で、アンケートの結果、講師を含め23名から回答を得た。参加者の内訳は、年代が、10~20代(人数:6)、30~40代(3)、50~60代(12)、それ以上(1)、未回答(1)だった。属性は、学生・大学院生(2)、研究者や指導者(6)、自然環境調査従事者や自然愛好者(13)、未回答(2)だった。性別は、男性(11)、女性(11)、未回答(1)、ふだんの活動地域は、九州以南(0)、四国九州(3)、中国近畿(5)、中部関東(7)、東北(2)、北海道(4)、未回答(2)だった。

このように、日本各地から幅広い年齢層の多様な立場の参加者を得た。特に男女比が同じであり、立場も多様だったのは、ジェンダーや立場を問わず活発である日本鳥学会のあり方を表しているといえるかもしれない。

集会では、まず付箋を使って参加者の経験や情報を書いてもらい、それを読み上げて全員で共有した。写真はその内容を紹介しているところ。ホワイトボード上に挙げられた主な分類群(件数)は、左からイノシシ(3)、カラス(0)、ハチ(8)、ダニ(6)、クマ(10)。2群以上にまたがる場合もあった。

アンケートの回答。

(1)これまでに野外で出会った危険な動物(見かけただけの場合も含む)
クマ類(13)、ハチ類(15)、ダニ類(7)、カラスや他の鳥類(1)
今回取り上げた以外で危険性のある動物
毒ヘビ(7)、イノシシ(7)、ヒル(3)、ブユ(3)、トビ、ムカデ、ネズミ、サシガメ、野犬、カモシカ

(2)これまで未知だったことや、興味を惹かれた内容
・クマの生態(類似5件)。糞や足跡、食痕の新しさを判定して、新しい場合は引き返す判断の材料とする方法など。
・スズメバチの中でもリスクの高い種類がいること。スズメバチの生態(2)
・オオスズメバチやクロスズメバチの巣は見つけにいこと。
・ハチアレルギーを事前に調べられること。
・マダニ媒介感染症の解説はためになった。(3)
・マダニによる感染症が多いのに、驚いた。(2)
・マダニの生態。マダニが宿主を変えること、鳥類がマダニやTBPなどの感染症を媒介・拡大させる可能性と、分散への寄与は初めて知った。(5)
・脳炎ウイルスのワクチンがあること。(2)
・カラスの行動の知識を再確認した。威嚇への対応は興味深かった(6)
・中国での危険生物(ヒルなど)の紹介は参考になった。野外活動時に、林床を枝等で探りながら歩けば、潜んでいた毒ヘビを先に逃がすことができること。
・事後の再検証を行うのは大切だと思った。

(3)今日の集会を経験して、行動に移そうと思ったこと
・ヒグマ対策。クマスプレーを買う(3)。EPA認証をクリアしている物を選ぶ。複数人で行動する。いざという時、身を伏して頭を守る防御姿勢をとる。(2)
・ハチ対策。皮膚科に行って、アレルギー検査をする(3)。ポイズンリムーバーを持参する。
・ダニ対策。ディートなどの虫よけを使う。Tick Twisterを持参する。(2)
・ハチ、ダニ対策。服の色で避けられる危険があるようなので、明るい服を選ぶ。(2)
・カラス対策。攻撃に対して、腕を真上に上げる、傘をさすなど(2)。威嚇されるような場面があれば、刺激をしないようにする。
・鳥について。神奈川県ではトビが大変危険。
・動物の本能を理解した上で対応を行なっていきたい。
・危険性のある生物の情報を把握する。注意する(3)。なるべく遭遇を避ける行動をとる。無理をしないで、危険回避を優先する。やばそうな時期を避ける。
・経験を共有することが重要だと思った。
・夏場の調査では熱中症対策が必要なので、ナイロン生地を使用しなければならないため、両立できるよう工夫をしていきたい。
・慣れすぎることは危険なので、油断しないようにしたいと思った。

(4)講師に伝えたいこと
・カラス対策(2)。自転車に乗る時は、ヘルメット着用が努力義務になったので対策として勧められるのではないか?
・オジロワシでは、繁殖つがいがヒナを防衛する際に、通常攻撃はしない。警戒声、警戒行動のみである。(←種や生態によって違いがある件)
・近所の公園の木がカラスが営巣するという理由で伐られてしまった。仕方ない部分もあるが、共存を模索して欲しい。
・昨年の対人防御の話は実践する必要がなく済んでいる。
・「生息域にお邪魔している」という意識が大切というのに同意。
・皆、けっこう色々な動物に出会っていて、驚いた。
・各専門家の話をまとめて伺う良い機会だった。ためになった。面白かった。(3)
・正しい知識こそ危機対策だと思った。正しい理解が大切で、思い込みはよくない。(3)


〇質問

Q1:国産のクマスプレーの効果について質問。
A(大石): 「熊一目散 公式サイト | 安心の国産熊スプレー」は国産だが、成分濃度・噴射距離・噴射時間などEPAのガイドラインに準拠して製造されているため、EPA認証製品と同等の効果があると考えられる。従来の製品と比較して噴射までの手順が短いのも特徴である。自身が操作し易いものを選ぶとよいと思う。

Q2:ヒグマ対応。仕事上だと新しい食痕があっても引き返せないことが多く、悩ましい。
A(大石): ←基本の行動(音を出す、複数人で動く、クマ撃退スプレーを携帯する)などを抑えることが最も大切。クマによる攻撃は首から上が多いため、万が一に備えてヘルメットの着用もお勧め。また、食痕を見つけた際は周囲で足跡も探してみるとよい。足跡は雨が降ったり他の動物に踏まれたりして消え易いので残る時間が短い(私自身も足跡を見て、引き返すかどうかの判断基準としてきたことが多い)。危険性が高い場合 →明瞭な足跡がある、自分たちが進む方向に続いている、親子である場合(大きさの異なる足跡が一緒についている)。

参考
「秋田県庁HP」 クマに関するQ&A
「ヒグマの会HP」 ヒグマの生態や歴史
「知床財団HP」 ヒグマへの対処法(世界自然遺産「知床」にある公益財団法人)

 

Q3:スズメバチに襲われそうになったら、その場に静止しているのがよいだろうか?
A(丹羽): ←状況判断がすべて。
状況1)「まとわりつき飛翔」の場合。スズメバチは、飛翔動線上に見慣れないものがあったり、大型動物がいたりすると、点検するように飛び回る。基本的に単独の行動。
対応:←人間がじっとしていれば、数十秒から数分で立ち去る。ただ、袖口や襟元に入り込んでしまうと高い確率で刺される。こういう偶発的な事故的な刺傷を避けるためには少しずつ移動し、スズメバチから離れるようにするのがよい。

状況2)「襲われそう」なのが確かな場合。
対応:←巣が近くにある可能性が高いので、刺されなくても速やかにその場を離れるのが鉄則。
〇アゴをカチカチ鳴らすなど威嚇の段階だと、すぐには刺してこない場合もあるが、警報フェロモンに触発された働きバチが次々と集まってくるので、時間とともに危険度が増す。
対応: ←ゆっくり後ずさりしながら離れる。
〇地中の巣を踏んでしまった場合は、一斉に働きバチが飛び出してきて、腕や頭部を狙って刺そうとする。
対応: ←非常に危険度が高まっているので、直ちに走って逃げる。

スズメバチの行動パターンを実地で知っておくためには、実際のスズメバチの巣を使って、人間が近づいた時の反応や攻撃の仕方を体験するような、観察会(体験会)を開くとよいかもしれない(専用の防護服を用意しておく)。

参考文献
・『スズメバチはなぜ刺すか』(松浦誠 1988年)
『フィールド調査における安全管理マニュアル』(生態学会 2025)

 

Q4:ハチアレルギー対策の薬エピペンの使用法について質問
A(丹羽):エピペンは、緊急対応用に特別に認可される薬なので、専門医に相談するのがよい。

参考文献
「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン《令和元年度改訂》」
エピペンの公式サイト

 

Q5:ダニに刺されて病院に行った際に処方される抗生物質は、何に対して、どの程度の効果があるのだろうか?
A(大杉):
1)細菌性(ライム病や紅斑熱)←抗生物質が有効
2)ウイルス性(SFTSやマダニ媒介性脳炎)←抗生物質は効かない
マダニ刺咬後、(発熱や皮膚)症状が出た場合 → 皮膚科を受診し抗生物質を処方してもらう。
症状が出ていない段階で予防的に投与するべきか?という問題。
←医師間でも意見が別れる。
←北海道や本州中部でシュルツェマダニに刺されたのが明らかで、しかも発見時のマダニが飽血状態だった時は、ライム病の感染リスクがかなり高いので、予防的に抗菌薬を投与してもよいかもしれない。

参考文献
『マダニの科学』(朝倉書店) 2024 マダニの分類・生態から近年の研究、感染症やその対策まで、詳細かつ一般向け
国立健康危機管理研究機構HP : マダニ対策、今できること
厚生労働省HP: ダニ媒介性感染症

★マダニのサンプル募集中
鳥類につくマダニを入手したら、連絡下さい。
<ohsugi.yuki.b8@elms.hokudai.ac.jp>

 

要望1:カラス対策について。媒体を問わず、対策などを発信して欲しい(四国九州の調査者)。
カラスの攻撃行動の段階や、攻撃されそうになった時、人ができる対処法などが紹介されている。
札幌カラス研究会のサイト

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第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会事務局
作山宗樹

今年の11月に岩手県盛岡市で、日本鳥学会津戸基金の助成を受けて開催する公開シンポジウム「鳥を調べ、鳥に学ぶ」をご紹介させて頂きます。

鳥類の生態や行動、進化などを調べる際に、鳥類を捕獲・標識して初めて分かることがたくさんあります。今回北東北で初となる日本鳥類標識協会の全国大会開催を契機として、鳥類の生態研究を通じて、鳥を調べる面白さや興味深さをお伝えする場を用意しました。多くの一般の方々にご参加いただき、演者の方々には調査研究を広く分かりやすくお話いただきます。

できるだけ多くの方々に足を運んでもらうため、会場は盛岡駅に隣接する県営の300人収容可能な会議場としました。会場が駅に接している利便性から、県内はもちろん、近隣県の生態学・野鳥・自然観察に関わる複数の団体に後援をお願いし、広く宣伝頂いております。
なお、本講演企画は地元や隣県などの日本鳥類標識協会会員および日本野鳥の会もりおか会員によるボランティアで運営されます。翌11月9日に行われる標識協会会員向けの一般口頭発表会や標識協会総会とは切り離した形で行います。

開催概要およびプログラム

1.開催日時 2025年11月8日(土)13:50~16:30(13:20開場)

2.会場 いわて県民情報交流センター(アイーナ) 804会議場
(住所:〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅西通1丁目7番1号)

3.主催 第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会

4.入場料、申し込み方法および定員
 入場無料、事前申し込み不要、定員300名

5.講演者および講演タイトル
・三上かつら氏(NPO法人バードリサーチ)
  下北半島のイスカ―その形態と生態-
・成田章氏(ウミネコ繁殖地蕪島を守る会(青森県立八戸聾学校))
  1966年から2024年までの標識調査からわかるウミネコの年齢や移動について
・菅澤颯人氏(岩手大学獣医学部)
  鳥についてる変な虫:シラミバエの生態と病原体保有状況について
・高橋雅雄氏(岩手県立博物館)
  個体標識から分かったオオセッカや草原棲小鳥類の生態

6.後援団体
青森自然誌研究会/秋田自然史研究会/岩手県立博物館/岩手生態学ネットワーク/
環境省東北地方環境事務所/公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団/
自然観察指導員ネットワーク岩手/東北鳥類研究所/
特定非営利活動法人おおせっからんど/日本野鳥の会青森県支部/
日本野鳥の会秋田県支部/日本野鳥の会北上支部/日本野鳥の会弘前支部/
日本野鳥の会もりおか/日本野鳥の会宮城県支部/日本野鳥の会宮古支部

7.シンポジウム特設webサイト
https://birdbanding-assn.jp/J04_convention/2025/2025taikaisympo.htm

本シンポジウムは日本鳥学会津戸基金の助成を受けて実施します。

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ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

企画委員会 本多里奈

2016年の創設以来、毎年多くの方にご応募いただいているポスター賞。これまで、ポスター賞は30歳以下の若手会員を対象にしていましたが、昨今の研究情勢を鑑み、より多くの方の研究を奨励することを目的に、2025年度大会からポスター賞の参加資格を変更し、賞を増設することにいたしました。今回は、ポスター賞がどう変わったか、ポスター賞に応募する上で何を意識すればよいかを紹介します。

★参加資格:応募条件が緩和され、より多くのキャリア初期の研究者が応募可能となりました!
大会年の4月1日時点で、以下のいずれかの条件に当てはまる方がポスター賞に応募できます。
・30歳以下である
・博士号未取得で、学部学生、大学院生、研究生のいずれかとして大学に所属している
・博士号取得後3年以内である
昨年度までの条件ではポスター賞の対象になりづらかった社会人学生や再進学の方も応募が可能になっています。

★賞の増設:受賞のチャンスが倍になりました!
昨年度は「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で受賞者は各1名でしたが、今年から受賞者は各部門最大2名(最優秀賞・優秀賞)となります。

今回の変更を受けて、初めてポスター賞に応募する方もいるのではないでしょうか。ここで、ポスター賞の審査方法について見ていきましょう。ポスター賞は、毎年各部門数名の審査員が手分けして全ての応募発表に目を通しています。通常、一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」をもとに受賞者候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを聞いて、一次審査と同じ審査項目に加えて「プレゼンテーションのわかりやすさ及び簡潔さ」にも注目して審査を行います。プレゼンテーションで、時間をかけてとりくんできた研究を全て伝えたい!という気持ちはとてもよく分かります。しかし、全てを伝えようとするとどうしても冗長になりがちです。説明の時間も長くなり、限りある審査時間の中で、審査員があなたの発表を最後まで聞ききれないという事態にもなりかねません。発表の際は、「研究の意義、方法、結果、考察、今後の展望」という研究のエッセンスを5分程度にまとめて話してみましょう。審査員だけでなく、より多くの人に発表を聞いてもらえることにも繋がります。

さて、応募資格の変更と賞の増設により、応募者が例年よりも増加することが予想されます。このような状況で、公正な審査を円滑に行うために、みなさんに気を付けてほしいことがあります。それは、申し込みです。まず、応募部門がご自身の研究にマッチしていなければ、正しく評価してもらうことはできません。また、申し込み時に不備があれば、そもそもポスター賞に応募できなくなる可能性もあります。私はそそっかしい質で、慌てているときにとんでもない凡ミスをしてしまうことが多々あります。みなさんにはそのようなことがないように、落ち着いて申し込みをしていただければと思います。そのときに一緒に意識してほしいことは、「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。講演要旨作成時には、是非以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ornithology.jp/newsletter/articles/633/

みなさんの情熱が詰まった研究を楽しみにしています。それでは、たくさんのご応募をお待ちしております!

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日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 吉川徹朗

タイトル: 植物の種子散布者としての鳥類:鳥類-植物間の相互作用が駆動する植物の生態, 進化動態

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.1

私が吉川さんと初めてお話ししたのは、たしか15年ほど前の大会時の懇親会?だったように思います。植物生態学の分野で世界的に有名な菊沢先生の指導を受けながら、植物の専門家として鳥を見るというお話を聞かせてもらい、鳥屋さんがちょっと植物をかじったのとは異なる、重厚な研究が展開される日を近い将来目にするのだろうと感じたことを、今も覚えています。
多くの方が感じていたでしょう、この予感はやはり的中し、2019年度の黒田賞に選ばれた吉川さんが、本総説という形で、みごと"結実”させてくれたことを、長く鳥学会に関わってきた一人として、とても嬉しく感じています。
本総説は、非常に幅広い視点からまとめられた内容で、どこを切り取っても大変勉強になるのですが、特に私がオススメしたいのは、海外誌であればレビュー論文のPerspectivesに相当する"課題と展望”です。様々なテクノロジーが進む中でも、研究の根幹をなす自然史知見を最重要に考えられてきた吉川さんの姿勢がひしひしと伝わってきます。
それでは以下、吉川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただき、ありがとうございます。この総説は鳥類による種子散布に関する知見をまとめたものです。種子散布は動物・植物の双方の関わり合いを介して植物の空間移動がもたらされる魅力的な現象ですが、和文の新しい教科書や解説書が乏しい状況でした。黒田賞の受賞の総説を書くにあたって考えたのは、種子散布の基本から最新研究まで、その全体像を見渡すための手引きとなるものが書けたら、ということです。そんな気負いが仇となって、完成に大変時間がかかってしまいましたが、鳥類研究者だけでなく、植物生態に興味を持つ人にも読んでもらえるものになったのではないかと思います。昨年出版された「タネまく動物 体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」(小池伸介・北村俊平編集、文一総合出版)も、日本の多くの種子散布研究者がさまざまなトピックを紹介する書籍で、この分野の入門に最適です。併せて読んで、種子散布研究の道しるべとして活用してもらえたら、とても嬉しく思います。

(吉川徹朗)

写真1 ヘクソカズラの液果を食べるシチトウメジロ(写真:服部正道氏)

 

写真2 スイカズラの液果

 

写真3 シラカシの堅果

 

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2024年度日本鳥学会津戸基金助成シンポジウム開催報告

風間美穂(きしわだ自然資料館)

 

日本鳥学会津戸基金シンポジウム「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ! 」が2024年12月7日に開催されました。多くの方にご参加いただきありがとうございました。

「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」

開催目的:
都市近郊の海である大阪湾は、長年の埋め立てなどにより自然海岸が少なく、また、海に近づける場所が限られているため、自然観察を行う地域住民から「近いようで遠い海」と称されることもある。しかし、研究者や地域のバードウォッチャー、日本野鳥の会大阪支部や地域の自然史博物館によって、大阪湾内では多様な鳥類が記録されており、また、大阪湾と別の海域を行き来する鳥類も確認されている。
今回は、近いようで遠い海である、大阪湾の自然環境を、鳥の視点から考えるきっかけとするとともに、鳥類研究の最前線を学ぶ機会とする。また、翌12月8日は、岸和田漁港や阪南2区埋立地、木材コンビナートで見られる鳥の観察会を行い、実際の大阪湾の環境とそこで見られる鳥類を確認する。

開催:シンポジウム:2024年12月7日(土)
観察会:2024年12月8日(日)
会 場:岸和田市立公民館(12月7日)
阪南2区人工干潟・木材コンビナート・岸和田漁港(12月8日)
参加者数:44名(12月7日)、12名(12月8日)、合計 56名

主 催:岸和田市教育委員会郷土文化課 きしわだ自然資料館
担 当:きしわだ自然資料館 風間 美穂(日本鳥学会会員)
協 力:日本鳥学会(津戸基金)、船の科学館海の学びミュージアムサポート、合同会社 結creation

開催内容・要旨
第1部
大阪湾の海鳥を見よ(日本野鳥の会大阪支部長 納家仁氏)
瀬戸内海の東端に位置し、渡り性の水鳥の飛来コースのひとつとなっている大阪湾は外洋に面していないこと、又、府域には自然の海岸がほとんど残っていないことなど、海鳥が観察できる場所も限られる。外洋性の鳥の飛来は極めてまれであり、台風などによっての迷行記録が主で、保護されたり、落鳥するケースが多い。5~6月のハシボソミズナギドリや11月のオオミズナギドリの幼鳥の観察などの機会がまれにある程度である。今回は、主に大阪湾岸で見られるカモやカモメ、アジサシの仲間なども海鳥に含めて、合計41種を画像で紹介した。2023年9月に泉佐野市で救護したセンカクアホウドリの話題、大阪湾の海上での鳥類調査の結果や日本野鳥の会が取り組んでいる海洋プラスチックごみの問題、日本野鳥の会大阪支部が取り組んでいる大阪湾岸で干潟や湿地を取り戻す活動に触れ、岸和田貯木場を新たな干潟造成の候補地と考えていること、ネイチャーポジティブや30by30などにより生物多様性の損失を食い止め回復させることが大きな課題であることを紹介した。

目で追えない時はロガーで見よ(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員 平田和彦氏)
鳥の行動や生態を研究するうえで、直接じっくり観察することが最も大切なのは、今も昔も変わらない。しかし、どうしても目で追えないこともある。例えば、海鳥の潜水行動や、渡り鳥の移動を観察し続けるのは困難である。そこで役立つのがバイオロギングの技術である。研究の目的に応じて、位置情報や水圧や温度などを記録できるデータロガーを鳥類に装着して、個体レベルの行動を連続的に記録することができる。本講演では、バイオロギングの利点と欠点について概説したうえで、GPSデータロガーを用いて世界で初めてウミウの渡りを追跡した2羽の例を紹介した。このうち1羽は、本シンポジウムの会場からほど近い大阪湾を通過した。これまで大阪湾ではウミウは少ないと思っていた多くの参加者とこの新知見を共有する機会を持てたことで、これからは注意深く観察する人が増え、正確な飛来状況が解明されることが期待された。

ウミウも見よ・新海鳥ハンドブック増補改訂版も見よ(科学イラストレーター・新海鳥ハンドブック著者 箕輪義隆氏)
一般的にウミウは岩礁海岸、カワウは内陸の河川や湖沼、内湾を主な生息環境としており、千葉県では太平洋側の岩礁海岸にウミウ、東京湾沿岸にカワウが多く生息する。しかし、両種はしばしば同所的に見られ、カワウが優占する東京湾にも少数のウミウが渡来する。東京湾で見られるウミウの個体数は近年増加傾向にあり、特に湾奥部では普通に見られるようになってきた。また、2024年には人工物を利用した複数の集団塒が湾奥部で確認されている。
ウミウとカワウの生息状況を把握するためには正確な識別が不可欠であるが、両種の姿形はよく似ているため、混同されることも多い。また、遠距離や逆光などの悪条件では識別が一層難しくなる。2024年に出版された「新海鳥ハンドブック増補改訂版」には両種の識別点が詳述されているので、観察の際にはぜひ活用して頂きたい。

大阪湾の人工干潟・阪南2区人工干潟の鳥も見よ(きしわだ自然資料館 風間美穂)
阪南2区人工干潟は,大阪府岸和田市の沖合約1kmにある埋立地「阪南2区」内に造成された人工干潟(北干潟1ha,南干潟5.4ha)で, 2004年5月から毎月1回,ラインセンサス法およびスポットセンサス法による鳥類調査を継続して行っている.
調査では,2004年5月から2024年2月までの約20年間に30科89種の鳥類が確認され,2005年度から2023年度(2024年2月)までの期間に確認した鳥類はのべ60,622個体である. 近年は,公園で確認される鳥類が新たに確認されているが,これは干潟近隣の緑化がすすんでいるからと考えられる. その一方で,シギおよびチドリ類の飛来種数は覆砂事業が行われた2017年をピークに減少している.2023年夏は2008年以来15年ぶりとなるコアジサシの繁殖が確認され,2羽のヒナが巣立った.阪南2区人工干潟は小規模な干潟ではあるが,鳥たちの生息場所あるいは繁殖場所として利用されている.

第2部 質疑応答・シンポジウム
シンポジウムでは、大阪湾内ではあまり見られないとされているウミウについての質問や知見が多く出された。長年大阪の鳥を見ている方からは、大阪湾南部にある「友ヶ島」では、ウミウがよく見られるなどの情報提供があった。また、近年の大阪湾の埋め立て事業等の開発が鳥におよぼす影響なども話し合われた。


12月8日(日)海の鳥の観察会
午前9時より、マイクロバス1台をチャーターして、岸和田市周辺の大阪湾の海岸線の鳥を観察。人工干潟のある阪南2区ではスズガモの群れが見られると予測したものの、見られなかったが、カンムリカイツブリやセグロカモメ、また、ミサゴが魚をとり、食べている下で落ちた肉片を食べようと待ち構えるハシボソガラスなどが確認できた。そのほか、埋め立て中の土地から真水が噴き出しているのも確認。岸和田市の古老によると、埋め立て前の岸和田の海岸線は遠浅で、海の中を泳ぐと時々水が噴き出しているところがあり、そこでは貝類が豊富に見られたので、漁師は場所を把握し、保護していたとのこと。埋め立て事業が行われている現在でもなお、そのような場所があるのだと実感した。
次に、大阪府内最大の漁獲高を誇る岸和田漁港の船だまりでは、オオセグロカモメなどのカモメ類を確認のほか、オオバンなども見ることができた。
最後に、現在、埋め立てが予定されている、木材コンビナートに行くと、ハマシギの大群やダイゼンなどを確認することができた。埋め立て事業が推進されている大阪湾岸の現状を参加者には知ってもらえたと思う。

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(5)素晴らしきオーストラリア

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)
熊田那央(バードリサーチ嘱託研究員)

皆さま、こんにちは。オーストラリア生活についての連載ブログも、いよいよ最終回となります。そこで今回は、片山と熊田それぞれにとって、特に思い出に残った出来事をお話ししたいと思います。いつもより少しだけ長めですが、お付き合いいただければ幸いです。


片山にとって最も印象的だったのは、研究発表と水田視察のために、ニューサウスウェールズ州のリバリーナ(Riverina)という地域を訪れたことです。オーストラリアでも稲作は行われており、その生産量の9割以上をリバリーナとその周辺地域が担っています。ちなみに、オーストラリアで約百年前に初めて稲作を成功させたのは高須賀穣という日本人の方です。詳しくはこちら:https://www.sunricejapan.jp/takasuka.html

リバリーナはオーストラリアの東南に位置し、メルボルンから約450km内陸に向かった先にあります。私はメルボルン空港でレンタカーを借りると、丸一日のロードトリップをスタートさせました。オーストラリアはスピード違反に対して非常に厳しく、あちこちに自動撮影カメラが設置され、制限速度を数キロでも超えると数万円またはそれ以上の罰金となります。私は安全第一で、何度も休憩を挟みつつ運転しました。道中にはエミューがいて、旅に刺激を与えてくれました。夜8時を回ると日が沈みだしますが、同時にカンガルーなどの野生動物が活発になります。彼らが道路に飛び出してこないかどうか、さらに神経を使うことになります。無事に宿に到着した私は、疲れきってすぐに寝てしまいました。

道中にいたエミューたち
道中にいたエミューたち

翌日、私はMatthew Herring博士(以下、マシュー)と再会しました。リバリーナの日中は40度を超えることもあり、涼しくなる夕方に水田地帯を案内してもらいました。この地域の湿地や田んぼには、世界でも約三千個体しかいないとされるAustralasian Bitternが繁殖しています。マシューは、彼らの生態を研究し、保全のために稲作農家と様々な取組みを進めてきました。繁殖に適したタイミングの水張りや、畔の草を刈り残すなどの工夫をしています。彼はなんと、数百件以上の農家の連絡先を知っているそうです! 許可なく農道には入れないため、彼があらかじめ農家の方に電話をして許可を取ってくれました。

夕暮れ、マシューは私をある場所に案内してくれました。そこにはAustralasian Bitternに配慮した田んぼがありました。美しい夕焼け空の下、一羽が田んぼから頭部を少しだけ出して、ボォーっと鳴きました。マシューの論文でしか知らなかった鳥の姿と鳴き声を、この目と耳で感じることができました。こんな美しい光景を見せてくれたマシューと農家の方々に、私は何を返せばよいのだろうかと思いました。

この光景を一生忘れないでしょう
この光景を一生忘れないでしょう

マシューは、現地での研究発表を企画してくれました。リバリーナには、オーストラリアのお米を製造・販売する「SunRice社」のオフィスがあります。そこで講演する機会をいただき、セミナーを通じて社員の方や研究者の方と交流することができました。色々な質問をいただきましたが、特に印象的だったのは「人口が減り続ける日本で、米の生産と生物多様性保全をどうやって維持できるのか?」というものでした。耕作放棄地の湿地化など、いくつかの可能性はありますが、まだ断言できるようなエビデンスは少ないです。私は今後の宿題とさせてもらいつつ、一刻も早く研究を進めなければならないと感じました。

SunRice社で行ったハイブリッドセミナー
SunRice社で行ったハイブリッドセミナー

こうしてリバリーナでの日々は、あっという間に終わりました。私はマシューとハグをして別れを告げると、後ろ髪を引かれる思いで最寄りのグリフィス空港に向かいました。彼と過ごした三日間は、オーストラリアでもっとも思い出に残る日々になりました。

リバリーナには人工湿地もあり水鳥の楽園となっています
リバリーナには人工湿地もあり水鳥の楽園となっています

熊田からは旅先で見られて興奮した鳥3選と大学でのセミナー発表について紹介します。ブリスベンを離れてケアンズ、タスマニア、ラミントン国立公園など、様々な場所を訪れ10年分くらいの旅行を1年で行ってしまった気分ですが、どこも本当に行ってよかったです。11月に訪れたケアンズでは、せっかくだからと現地在住の松井さんにガイドをお願いして1日たっぷりと鳥見に連れて行ってもらいました。子連れであれこれお願いしたにもかかわらずさすがプロ、季節的に少し早いラケットシラオカワセミを始め、鳥のリクエストにもしっかり応えていただいた上に子供たちが喜ぶ場所もおさえて大変充実した鳥見ができました。ありがとうございました。ケアンズで特に印象に残ったのがヒクイドリです。松井さんと別れた翌日、教えてもらったポイントに向かう途中の道で電線に止まるモリショウビンを見つけて車を停めて見ていたところ木陰に動く影が。よく見るとそこに子連れのヒクイドリの雄がいました。縞々模様のヒナ二匹と親が木の実を啄むところを子供達とじっくりと見、その恐竜っぽさにみんなで大興奮しました。

しきりに赤い実をついばんでいました
しきりに赤い実をついばんでいました

タスマニアではどうしても見たい鳥がいました。ムナジロウです。オーストラリア南部だけに生息するこのウを、メルボルンで見ることが叶わなかった私は、タスマニアでなんとしても見なければと意気込んでいました。初日の浜辺でその願いはあっさり叶います。オーストラリアシロカツオドリやミナミオオセグロカモメが遠くを飛んでいくのを眺めていると、海にうかぶウのシルエット。あれは!と思い見ると白黒ボディに黒い顔、間違いありません。その時は距離も遠くほんの短い時間の邂逅となりましたが、翌日にのったクルーズツアーではじっくり見ることができました。風の強い日で舟は大変揺れ、酔い止めを忘れて双眼鏡を覗きすぎてもう船酔いでへろへろではありましたが、だからこそ糞で白くよごれた岩とそこに集う群れは大変印象に残っています。

オーストラリアで見られるウ類最後の1種でした
オーストラリアで見られるウ類最後の1種でした

最後はラミントン国立公園でみたアルバートコトドリです。オスのダンスと鳴き真似が有名な種ですが、私たちが行った2月はあまり活性が高くないようで声もたまに聞こえるぐらい。見るのは難しいかなと思いつつ諦めきれずにトレイルを歩きまわり続けていましたが、旅程の最終日についに見ることができました。なによりも嬉しかったのが最近急速に鳥に興味を持ち出した長女が、宿に飾ってある絵を見てこの鳥がみたい!と言い出し頑張って歩き回り探した鳥を一緒に見ることができたことです。朝の4時から歩き通しても空振りした日の翌日にも、あきらめずにまた早朝からついてくる姿にオーストラリア滞在での成長を感じました。

研究関連の話も1つ。片山さんが昨年5月に行っていたクイーンズランド大のセミナーで、私も2月に発表させていただきました。メインは福島第一原発事故での避難指示区域での鳥類相の変化に関しての紹介をさせていただきましたが、もちろんカワウへの愛もアピール。いまいち伝わったかはわからないですが……。自分の研究で来たわけではないとはいえ、せっかく関連したテーマの研究室なのだからともらった機会。なかなか準備の時間もとれず慣れない英語発表に四苦八苦し、と大変ではありましたが、普段と違う人に聞いてもらい、質問してもらうというのはやっぱり大事だなあとオーストラリアで忘れかけていた研究モードに久しぶりになれ、本当にありがたい時間でした。発表機会を提供してくれ、如何ともし難い質疑応答をフォローしてくれた天野さんをはじめ、準備の時間を少しでも増やそうと家事育児を代わってくれた片山さん、発表練習につきあってくれたピアーズさんとそのご家族、本当に皆さんに感謝です。

大学での研究発表の様子。もちろん勝負服(カワウTシャツ)着用。
大学での研究発表の様子。もちろん勝負服(カワウTシャツ)着用。

振り返ってみると、日本を離れる時には全く想像もしていなかった、たくさんの素晴らしい出来事がありました。美しい自然の中での、鳥たちとの出会い。そして何よりもうれしかったのは、多くの親切な人たちとの出会いです。道ばたで話しかけてくれた、日本好きのピアーズさん。彼のお母さんで、私たちにテニスを教えてくれたペニー。教会で出会ってから、何度も鳥見に連れて行ってくれたウォーウィックとウェンディ。オーストラリアの田んぼを案内してくれたマシュー。そして私たちの研究も生活もサポートしてくれた、天野さんとそのご家族。私たちがこんなにもオーストラリアを好きになったのは、間違いなく彼らのおかげです。日本に帰国してからも、彼らとの日々を思い出すたび、私たちはオーストラリアを恋しく思うでしょう。

もちろん見知らぬ土地での暮らしは、楽しいことばかりではありませんでした。子どもたちには、日本とは全く異なる環境で日本語も通じない中、苦労させてしまいました。最後までがんばってくれて、本当にありがとう。いつかこの日々が、あなたたちの人生の糧になりますように。みんなで過ごしたこの一年は、私たちの人生の宝物です。

最後までこのブログをご覧くださった皆様、鳥学通信担当の皆様、本当にありがとうございました。

 

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W08 鈴木孝夫と中西悟堂,鳥学会と日本野鳥の会の歴史を語る

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W08 鈴木孝夫と中西悟堂,鳥学会と日本野鳥の会の歴史を語る

安西英明((公財)日本野鳥の会参与 E-mail: anzai[AT]wbsj.org)
川﨑晶子(立教大学)

※本文中の文字に下線が引いてあるものは、より詳しい説明のあるサイトなどにつながっています。クリックしてご覧ください。

1.開催の意図

鈴木孝夫(1926-2021)は世界的に知られている言語社会学者であるが,日本鳥学会の永年会員で,1950年代には黒田長久らとともに若手の鳥学研究グループを模索していたこともあった.小学生の時に日本野鳥の会創設者,中西悟堂(1895-1984)の『野鳥と共に』(1935)を読み中西宅に出向いた経歴を持ち,日本野鳥の会最古参会員を自慢にしていた.中西の思想を生活レベルで具現化し,1950年代から今でいうエコライフを始め,「買わずに拾う,捨てずに直す」をモットーにしていたため,没後,膨大な蔵書も捨てることなく活用できるようにと遺族,関係者で奔走している.

主催者は鈴木が所蔵していた鳥学会誌やさまざまな鳥関係の本をお預かりしているので,鳥学会大会の参加者に差し上げる機会にしたいと,本集会を企画した.また,会場に並べた書籍を参加者の興味関心に応じて引き取っていただく前に,鈴木と中西とともに,創設90周年となる日本野鳥の会(1934年創設)の歴史が日本鳥学会(1912年創設)とも関係していることを紹介した.

補助資料として,(1)日本鳥学会誌2021年70巻2号「紙碑 鳥好きで博学の自由人 鈴木孝夫を偲ぶ」(川﨑執筆),(2)日本野鳥の会会誌『野鳥』2024年7・8月号「中西悟堂が未来に示したもの」(原剛と安西の対談),(3)当日のパワーポイントの縮小印刷,を配布し,冒頭では,(公社)日本環境教育フォーラムがウェブで提供している環境教育ラジオ「私の本棚(第7回):日本の感性が世界を変える(鈴木)」で,安西が鈴木の著作とともに鈴木の師匠として中西を紹介したものを聞いていただいた.

集会当日(2024年9月13日)の様子:鈴木,中西の資料を前にして語る安西.(撮影:川﨑)

2.鈴木孝夫と中西悟堂

ある日の野鳥の会中央委員会(1955年12月,中西宅):戦後しばらくして委員会が出来,中西会長を支えるようになった.ここでは前列左に鈴木,後列左から3人目に黒田長久が写っている.(提供:小谷ハルノ.本稿で使用した小谷ハルノ氏提供のものは,中西が保管していた写真で,中西の長女小谷ハルノ氏から安西が一式を預かっている.)

鈴木は慶應義塾大学名誉教授であり,同大言語文化研究所に所属,欧米の大学や研究所で客員教授等も歴任し,多くの著書を残した.岩波新書『ことばと文化』(1973)は増版を重ね,その後の著書でも,既存の学問の枠に収まらない独自の視点で,言語や文化から生態系の構成員である人のあり方まで,示唆に富む発信を続けた.広い見聞と見識を持つ一方で,観察から発見する法則,鳥瞰図的ものの見方などは,幼少から野鳥に親しみ観察を続けて来た経験があるからこそであろう.

明治神宮70周年記念探鳥会(2017年4月)での鈴木:戦前から中西を手伝っていた鈴木は,戦後初の定例探鳥会となる明治神宮探鳥会でも指導役だった.(撮影:蒲谷剛彦)

鈴木は,中西が1939年に若手鳥学者育成のためにつくった研究部に所属,後に「それまでいわゆる公侯伯子男がするものだった鳥の研究に一般人が関わる契機となった」と評している.その著書『世界を人間の目だけで見るのはもうやめよう』(2019)でもわかるように,中西が早くから主張していた人間中心の物質文明の繁栄が人や自然に及ぼす悪影響について,鈴木は追求し続けた.晩年は自らの学問を言語生態学的文明論と呼び,2017年,日本野鳥の会連携団体総会の基調講演「最古参会員の提言」では「野鳥や自然を守るためにも,資源やエネルギーの消費が少なくても幸せになれる道を選択したい」と述べている.

鈴木の最近の著作例:『鈴木孝夫の曼荼羅的世界』(2015,冨山房インターナショナル),『日本の感性が世界を変える』(2014,新潮選書),『世界を人間の目だけで見るのはもう止めよう』(2019,冨山房インターナショナル).(撮影:川﨑)

中西悟堂は僧侶,詩人,歌人,思想家でもあるが,「野鳥の父」とも呼ばれ,鳥は捕って食べる,飼うが当たり前だった1934年に「野の鳥は野に」と日本野鳥の会を創設,会誌『野鳥』を創刊,科学と芸術の融合を目指して文化運動として発展させ,自然保護運動の主軸にもなっていく.その原点は中西自身が『野鳥』誌にも書いていたように日本古来の自然観,自然「じねん」である.ヒューマン(human)と区別されるネイチャー(nature)は自然「じねん」と同義ではなく,「じねん」は「おのづからしかり,あるがまま」という意味で,そこには人も含まれ,生かされているというもので,共存,共生の思想に通じるものであり,生物多様性条約においては2050年ビジョンに反映されている.

「中西悟堂:砧の自宅にて」:八ヶ岳野鳥村悟堂山荘への小谷ハルノ氏寄贈写真額.(撮影:川﨑)

補足資料:
1.紙碑 中西悟堂氏 鳥 33(4) 129-131,1985.
2.NHK映像ファイル あの人に会いたい 中西悟堂,1978,1976年の番組を再構成し2004年制作.
3.すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々 中西悟堂さん,東京都杉並区区民参加型ウェブサイト,西村眞一,2014.

3.日本鳥学会の重鎮の野鳥の会への貢献

日本野鳥の会は中西が私財を投じ,自身の健康や家族をも犠牲にしていた側面もあるが,多くの協力者,支援者がいたからこそ文化運動として広がり,戦後の復興までも成し得たと言える.ここでは鳥学会で重鎮とされる方々がどのような支援,協力をしてきたか,会頭を務めた故人に絞って,事例を記しておく.

(※各氏名リンク先は「日本鳥学会100周年記念特別号」PDFの各歴代会長のページにリンクされています)

1)内田清之助(1884-1976,鳥学会3代会頭,在任期間:1946-47)

中西の思想や生き様に感銘した竹友藻風が,柳田國男らとともに中西に鳥の雑誌の創刊を勧めていた1933年,中西が相談に出向いたのが鳥学会の大御所と言われていた内田で,「学者の書くものは普及性がないので,文壇,画壇の人を通じて一般人に鳥の保護を訴えるには格好の企画である」と賛成し,野鳥の会の発起人,賛助員になり,会の運営,支部の設立にも関わり,経済的な支援もした.

野鳥の会初期の談話会(5周年記念とのメモがあることから1939年):後列左から柳田國男,内田清之助,鷹司信輔,黒田長禮,清棲幸保.前列の右が中西,その左二人目中央が山階芳麿.他は画壇,文壇の重鎮たちなど.(提供:小谷ハルノ)

2)鷹司信輔(1889-1959,鳥学会2代会頭,在任期間:1922-46)

「鳥の公爵」と呼ばれ,野鳥の会創設時は賛助員で,1934年3月,最初の座談会にも参加した.1936年には内田と共に関西支部設立を手伝う.戦後,明治神宮宮司となり,野鳥の会のために内苑を開放したことが,現在も続く明治神宮探鳥会の契機となった.

京都での「野鳥の会講演会」(1936年)檀上の鷹司:関西支部(後の京都支部)設立に至った会で,司会は中西,垂幕には登壇者として柳田國男,新村出,川村多実二,内田清之助らの名も見える. (提供:小谷ハルノ)

3)山階芳麿(1900-1989,鳥学会5代会頭,在任期間:1963-70)

野鳥の会創設時の賛助員で,最初の座談会では「…保護というものは法律とか理屈ではいかぬ.どうしてもやはり鳥を愛するという情操の方面から行かなければ…」などと野鳥の会への支持を述べた.『野鳥』誌には創刊号から度々執筆し,前述した野鳥の会の研究部に協力,支援を続けた.1950年代から日本鳥類保護連盟会長(初代は前述の鷹司)で,同連盟で評議員,副会長,専務理事を務めた中西と共に,かすみ網や空気銃の問題,鳥獣保護法の成立や後述する初の国際会議などに取り組んだ.

なお,日本野鳥の会の事務所は中西宅などを転々としたが,1956年に山階鳥類研究所の一画に机と電話を設置したのが初の本格的な事務所である(鳥学会も1947-75年は事務局を山階鳥類研究所としていた).

山階邸での野鳥の会研究部の会合(1942年):前列中央に山階が座り,右端に中西が立っており,鈴木ら当時の若手達は左手から後方に並んでいる.(提供:小谷ハルノ)
能登のトキ調査(1959年,眉丈山)での中西(左)と山階(右隣の帽子の人):山階の右側は,現在,日本中国朱鷺保護協会名誉会長,石川県トキスーパーバイザーの村本義雄氏(百寿).その右は当時の日本野鳥の会石川支部長,熊野正雄,ベレー帽は高野伸二(当時は山階鳥類研究所所属).(提供:小谷ハルノ)

4)黒田長禮(1889-1976,鳥学会4代会頭,在任期間:1947-63)

「鳥学の父」とも呼ばれ,野鳥の会創設時の賛助員で,最初の座談会にも参加し,『野鳥』誌にも度々寄稿した.葬儀では中西が弔辞を述べている.

初の探鳥会(1934年6月)に続く大規模な行事「鳥に就いて物を聴く会」(同年11月,東京府多摩丘陵百草園にて):前列右端膝立ちが中西でその後ろは尾崎喜八,右端は山下新太郎.後列,左から奥村博史,清棲幸保,北原白秋,山田孝,黒田長禮,松山資郎,山階芳麿,2人おいて鷹司信輔.(提供:小谷ハルノ)

5)黒田長久(1916-2009,鳥学会6代,8代会頭,在任期間:1970-75,1981-90)

父は上記の長禮.日本野鳥の会会長(在任期間:1990-2001)を務めた.

黒田長久 『野鳥』1996年1月号,会長の「新年のごあいさつ」より.(提供:日本野鳥の会)

6)中村 司(1926-2018,鳥学会9代会頭,在任期間:1990-91)

父は中西が野外鳥学四天王と呼んだ一人,中村幸雄(他三人は川村多実二,榎本佳樹,川口孫治郎)で,日本野鳥の会では甲府支部長のほか,財団の理事や名誉顧問も務めた.

中村司(左)と現日本野鳥の会会長上田恵介:『野鳥』2015年12月号より(提供:日本野鳥の会)

補足資料:紙碑 中村司先生を偲ぶ 日本鳥学会誌 68(1) 128-129, 2019

上記の会頭の他,清棲幸保(1901-1975),橘川次郎(1929-2016),山岸哲(11代会長),藤巻裕蔵(12代会長),樋口広芳(13代会長),上田恵介(16代会長)などの方々の野鳥の会への貢献も紹介した.

4.鳥学会の戦後復興,『野鳥』誌での学会の記事

1960年の『野鳥』25周年記念号では,黒田長禮が研究史の総括「過去二十五年の学界の歩み」を書いた中で1945年の鷹司家や黒田家の空襲による被害に触れているが,終戦後,中西は山階から「学会が機関紙『鳥』を発行してゆける経済的基盤を作って欲しい」と頼まれ,「こんどはこちらがお手伝いせねば」と苦手な金策に奔走した(中西は鳥学会から1953年,54年に表彰されている).

戦前から戦後しばらくの『野鳥』誌には鳥学会の動静,報告,行事の紹介などがしばしば掲載されている.前述した『野鳥』25周年記念号では内田清之助の「日本野鳥の会発祥のころ」に続く「学界25年の諸相」という括りで,黒田長禮の「過去二十五年の学界の歩み」,以後,川村多実二,山階芳麿などが書いている.その後「鳥界将来への問題」という括りでは黒田長久「鳥学将来の動向」に始まり,蝋山朋雄「野外鳥類学とは」,浦本昌記「日本鳥学の将来とアマチュア」,橘川次郎「鳥学今後の問題点」,山階芳麿「鳥類保護の将来」まで,現在に通じる議論が綴られている.

5.アジア初の国際会議

1960年に山階芳麿(日本鳥類保護連盟),黒田長禮(日本鳥学会),中西(日本野鳥の会)を代表に,鳥関係の国際会議としてはアジア初となる第12回国際鳥類保護会議(ICBP)が東京で開催された.アジア地域の協力体制についても話し合われ,トキを国際保護鳥に加えるなどした.当時の日本側の分担表には鈴木の名もあり,得意な語学力を使って参加者の家族の世話を担当していたようである.この会議を成し得たことが日本野鳥の会ではその後のアジア各国との連携,国際条約のシンポジウム開催などの国際活動に繋がり,鳥学会としても2014年のIOC(第26回国際鳥類学会議)の誘致,成功に至った原点と言えるのではないだろうか.

ICBP国際鳥類保護会議(1960年)参加者の記念写真:前列右に山階芳麿,黒田長禮(右端)が座っており,中西は中央後ろで立っている.(提供:小谷ハルノ)
ICBPのエクスカーションで解説をしている中西:写真裏に「碓氷峠の見晴台でカナダのロイド氏一家に妙義山の成因を説明する」などのメモ.(提供:小谷ハルノ)

6.まとめ

本集会では上記のような歴史の紹介に続き,質疑の後,まとめとして安西は「未来を見据えるために現在を知るには,過去を知ることも必要.少なくとも私は先達の尽力の延長に自分の仕事があることを自覚でき,先達の想いなどを引き継いでいく責任や誇りを励みにすることができた」,川﨑は「鳥学の発展および鳥類保護への学術的貢献とされる鳥学会の目的に鑑みても,人と鳥の関わりや文化,思想,歴史的な研究にも期待したい」と述べた.会場に並べた数十冊の鈴木蔵書のほとんどは「鈴木の意思を継いで活用いただきたい」とお願いして,参加者に差し上げることができたが,鳥学会誌や鳥学通信などはバラでなく,一括での引き取り手を探すことにした.

本稿をまとめるにあたり,「日本鳥学会100年の歴史」(日本鳥学会誌61巻,2002),及び,日本野鳥の会会誌『野鳥』の主に初期のもの,25周年特集号(1960年3-6月号),80周年記念号(2014年4月号)などを参考にした.

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