鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」を受講して

近畿大学 神野寛和

 今回、日本鳥学会金沢大会に伴って行われた、片野鴨池での鳥の学校に参加させていただきました。自分は高校生の頃からカモ類に対して興味を持っており、今後もカモ類をはじめとした水鳥類に関連した調査・研究がしたいと考えていたため、今回の鳥の学校への参加を決めました。

 まず、鴨池観察館のレンジャーである櫻井さんに片野鴨池についての講義を行っていただきました。片野鴨池がトモエガモやマガンなどをはじめとしたガンカモ類の主要な越冬地であるということや、オオタカやクマタカなどの猛禽類の生息地にもなり、鳥類の重要な生息地だということを教えていただきました。また、ラムサール条約やEAAFPに登録されていることや、片野鴨池の成り立ちなども知ることができました。

 次に、坂網猟師の方々から、坂網猟が武士のみに許可されて構え場まで行くことなどによる足腰の鍛錬のために藩が奨励していたなどの歴史や、実際の猟の仕方やカモが坂網に捕まった時にどうなるかなどを教えていただきました。その後の坂網漁の実習では、実際に坂網を組み立てるところを見せていただき、里で簡単に手に入る材料を用いた猟具であるということを初めて知りました。実際に投げさせていただきました。個人的には見た目以上に軽く、持ちやすく感じました。しかし、実際に投げてみたところ、真上にまっすぐ投げるのは思っている以上に難しかったです。また、薄暗い時間にカモの風切り音でその飛来を知り、狙えると判断した高度を飛んでいる時にカモが飛んでくるところに投げるということを実際に行うと考えると、自分には到底できないことで猟師の方々の技術に感銘を受けました。

 また、実習後に日本野鳥の会の田尻さんのお話がありました。その中にあった、片野鴨池周辺の農家さんたちと協力して、越冬期にカモ類が採餌できる環境を整えるために“ふゆみずたんぼ”や“あまみずたんぼ”を行うことで、水がある環境での採餌を好むカモ類が飛来する環境を作ったというお話がとても印象に残りました。

 最後に、山階鳥類研究所の澤さんが使っておられる、ガンカモ類を捕獲するために使う(講師の先生がコクガンを捕獲する用の)くくり罠を作りました。その際、捕獲対象となる鳥類が罠にかかった後に負傷しないようにする工夫と、かかった鳥類が暴れたり一度落ち着いたのちに緩んだりしないような工夫が両立されている罠の作り方を教えていただくことができました。

 全体を通して最前線で活動しておられる先生方のお話を聞くことで、普段の生活では知ることや体験することのできないような事に触れることができて、大変勉強になりました。これからさらに水鳥についてもっと学びたいとさらに思うきっかけとなりました。

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2023年09月15日 鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」への参加報告

古園由香

 当日は、少し雨の予報が出ていたものの、良い天候に恵まれました。
加賀市鴨池観察館において講師と参加者の自己紹介後、講演と実習が始まりました。毎年楽しみにしている鳥の学校。今回は片野鴨池の話、坂網猟について、ガンカモ類の捕獲について学びました。

 「片野鴨池と坂網猟」櫻井佳明さん(加賀市鴨池観察館)
 片野鴨池の成り立ちや坂網猟の歴史についてのお話でした。片野鴨池は昔は谷で、海から運ばれた砂が堆積してできたそうです。300年前くらいから大聖寺藩がトンネルを掘って水を抜き、水田化されました。1999年以降、田んぼをやる人がいなくなり、湿生遷移が進んでしまうと鴨が池に入らなくなるため、坂網猟の漁師さんたちが草刈りや池の水の管理を続けて坂網猟を続ける環境を維持されていることなどを教えていただきました。ガンカモ類の越冬する環境を維持するためには、人の手が不可欠なのだと思いました。坂網猟はもとは大聖寺藩の武士の鍛錬のために始められたそうで、明治時代まで武士しか猟をすることが許されなかったそうです。そんなことを知るのもおもしろかったです。

 「坂網猟の紹介、体験」山下範雄さん、世川馨さん(大聖寺捕鴨猟区協同組合)
実際に鴨を捕獲している猟師さんのお話です。坂網猟よもやま話(みんなが平等に猟をするためくじ引きを2回行うなど)を臨場感たっぷりにお話していただきました。その後野外に出て、坂網をどのように投げるか実演していただきました。さっきまで面白おかしく猟の話をしてくださっていた山下さんだったのですが、坂網を持ったとたん猟師さんの顔になり、その網さばきや手つきはとてもかっこよかったです。その後、参加者も網の持ち方から教えてもらいながら坂網を投げました。その後も、組み立て方から仕舞い方までみっちり教えていただきました。坂網の道具としての機能性や美しさも堪能することができて、良い経験になりました。

 「今日も調査ができるのは、地域の皆さんのおかげです」田尻浩伸さん(日本野鳥の会)
 300年近く水田での稲作と坂網猟に利用されていた鴨池ですが、ラムサール条約などに登録され、観光や学校活動としても利用されるようになり、その中で鴨池にかかわっている人も複雑、多様化しています。カモが来る環境を守り、坂網猟を続けるためにトモエ米を作ったり、無形文化財に指定できないか考えてみたり、「なるべく邪魔にならないように、少しでも負担が少なくなるように」研究を組み立てて結果を活用していく過程を話してくださいました。始めはやる気がなかった農家の方が、最近は「カモが来るようになってうれしい」と話されている、というのがとても素敵だなと思いました。

 「ガンカモ類の捕獲と発信機装着実習」澤祐介さん(山階鳥類研究所)
 ガンカモ類の捕獲方法いろいろ、そのメリットとデメリット、注意点などを詳しく教わりました。捕獲を開始して5年の間にくくり罠の作り方が改良されていった過程を見るのはとても勉強になりました。くくり罠を作成する実習も行いました。その後、発信機についての話を聴いて、ぬいぐるみに装着する実習を行いました。同じ重さの発信機でも、着ける位置によっては鳥の動きを悪くしてしまうことなど、気を付けなければいけないなと思いました。発信機が鳥の動きを妨げないようによく観察、確認することが大切なのだということを学びました。
 
 どの話も実習も興味深く、とてももりだくさんの講習会でした。参加できてとてもよかったです。講師の先生方、準備などお世話してくださった森口さん、会場となった加賀市鴨池観察館のスタッフのみなさま、本当にありがとうございました。

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鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」開催報告

澤祐介((公財)山階鳥類研究所)

 日本鳥学会2023年度大会の鳥の学校のテーマは「捕獲技術実習」でした。鳥の生態研究を進める上で、個体識別や機器装着が必要なシーンは多々あるかと思います。そのために鳥を捕獲することになるわけですが、研究対象種によって捕獲方法は様々で、さらにはあまり表には出てこない細かなノウハウ、技術がたくさんあります。今回の鳥の学校は、ガンカモ類を対象に、捕獲技術と発信器装着の基礎を学ぶ実習で、私は講師陣の一員として参加しました。

 石川県での開催ということで、実習の実施場所は片野鴨池。ご存知の通り、坂網猟という伝統猟法が受け継がれており、ここで捕獲されたトモエガモの衛星追跡によりその渡りルートや生息地選択の研究などが行われてきました。当日は、片野鴨池レンジャーの櫻井氏による片野鴨池や坂網猟の歴史・成り立ち、地元猟師の山下氏、世川氏による坂網猟の現場でのリアルな話・網投げ体験、日本野鳥の会田尻氏による地域との連携の重要性などについてお話がありました。
 私は、捕獲を成功させるために、①道具を扱う技術と、②捕獲に関するTPOを見極める技術が必要と考えています。①は、道具の特性を理解し安全に、適切に使えることが必要で捕獲を実施するための大前提の技術です。②は、実際にフィールドで鳥がどのような動きをするのかを見極め、その鳥の行動に応じてどの罠が有効か、どの時間帯、どの場所で捕獲ができるのかを考えることです。特にガンカモ類の捕獲を実施するにあたって、②は地域との連携が重要になります。その地域のガンカモ類の行動の特徴、定期的に来る場所の把握、罠を仕掛けたい場所での地主との調整など、地域の協力者がいないとできないようなことも多々あります。まさしく、片野鴨池での協力体制はこれを具現化した内容で、地域の猟師さんと研究者が一体となって成り立った研究フィールドであることを実感しました。猟師さんからは坂網の仕組み(網をまっすぐ投げるためのバランスの調整、鳥が網に入って逃げないようにする構造など)、①に関する技術もお聞きすることができ、非常に勉強になりました。

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 さて、私からは、ガンカモ類の捕獲について一般的な方法を紹介した後、これまでコクガンやハクガンなどの捕獲に使用してきたくくり罠を作成する実習を行いました。2017年から現在までコクガンの捕獲を通して、トライアンドエラーを繰り返し、罠の改良を重ねてきました。現在使用しているくくり罠の構造となぜそのような構造にしたのかを解説し、実際に作成してもらいました。この罠をすぐに皆さんがフィールドで使えるかは、対象種や場所によって異なるのでわかりませんが、鳥の安全のために実施している工夫、罠にかかった鳥がすぐに逃げないようにするための工夫など、どのような視点で捕獲技術を考えていけばよいのかをお伝えすることはできたのではないかと思っています。また、発信器の装着実習では、装着時に気にしなければならない項目の説明とともに、鳥のぬいぐるみを使って発信器を装着する手順を学んでいただきました。また装着後についても、装着した影響がないか注意深く観察し、常に改良を考えることが重要であることを、コクガンのこれまでの実績をもとに解説しました。

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 近年は、発信器やロガーが小型化、低価格化してきたことで、これらの機器を使った研究は急速に拡大しています。一方、機器の選定、装着方法、装着技術によって、追跡成功率が大きく左右されることも多々あります。そのような失敗事例、成功事例がもっと共有できれば、日本の追跡研究はさらに発展すると考えています。ガン類では、これまでの私たちの経験をもとに、捕獲のノウハウや発信器選定・装着に関するガイドラインを公開しています。一般公開用に伏せているページもありますが、ご希望の方はご連絡をいただければ完全版を送りますので、お気軽にご相談ください。日本の追跡研究の発展のため、これからも様々な方と技術交流、情報交換ができればよいなと考えています。今後ともよろしくお願いします。

関連リンク
EAAFPガンカモ類作業部会 国内科学技術委員会 
→ガンカモ類捕獲ガイドライン(第1版)(2023年3月公開) を参照
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/awgstcjapan

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鳥の学校第13回「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

中村晴歌(北海道大学)

 空撮や農薬散布、荷物運搬まで幅広い分野で活躍するドローンを、鳥類研究に応用するための入門講座となる「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」が、鳥学会2022年度の鳥の学校で開催されました。私自身は特にドローンを使った研究をしているわけではなく、ドローンの操縦体験に惹かれて参加を決めました。
 
 今回講座を担当してくださったのは、酪農学園大学農食環境学群環境共生類准教授の小川健太先生です。先生のご専門はリモートセンシングによる環境モニタリングで、北海道ドローン協会会長も務めておられます。

 講座は室内での講義パートと屋外での操縦体験パートがあり、午前中の方が天気が良いとのことでまずは操縦体験から始まりました。

ドローン操縦体験
 経験者と初心者に分かれ、東京農業大学網走キャンパスの広大な学生用駐車場で操縦体験を行いました。私はもちろん初心者チームに入り、PHANTOM RRO V2(図1)という白くて比較的小型の機体を数分間操縦させていただきました。短時間ではありましたが、参加者全員がドローン操縦を体験できました。

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図1 PHANTOM RRO V2 右が機体で左がコントローラー。コントローラーについた液晶でドローンが撮影している動画を確認できます。

操縦した率直な感想としましては、

・スティックの操作が複雑で慣れるまで時間がかかる
 私が操作したモードでは、右スティックで上昇・下降・横移動、左スティックで前進・後退・回転ができるのですが、これを正確に把握して操作するのは初心者だとかなり難しかったです(逆に、普段からシューティングゲームなどでゲーム機のコントローラーを握っているような人はかなり得意かもしれません)。

・奥行きの正確な感覚が必要
 地面に置かれた直径1mほどのシートから離発着をしたのですが、このシートの中に着陸させるのが難しかったです。左右のブレはそこまで出ないのですが、シートよりだいぶ手前や奥に着陸させてしまう方が私含め多い印象でした。

 経験者チームはINSPIRE2 X5S(図2)という黒くて大きな機体を使って駐車場側の畑の撮影を行っていました。途中カラスがそばを飛んだりしていましたが、目立ったモビング行動などは取らず。操縦体験前にはオオワシが2羽上空を飛ぶところを観察できるという嬉しいサプライズもありました。

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図2 INSPIRE2 X5S 経験者チームが操縦体験をしていた機体。機体が大きい分、近づかれた時の威圧感や飛行中の音がPHANTOM4より大きいような気がしました。調査環境や対象種によって適した機体は違ってきそうですね。

ドローンについての講義
 午後からは北海道ドローン協会が作成したドローン教科書基礎編を用いた講義をしていただきました。操縦する際の天候や機体の管理方法から2021年航空法の改正、操縦に国家資格が必要になったことなどまで幅広く学ぶことができました。

 印象に残ったのは実際の研究への応用例です。以下興味深かった部分を簡単に紹介します。

・広大な面積をもつ湖沼などでの水鳥のモニタリング
水鳥のドローンへの反応は種によって、また水面か陸上かで反応性が異なり、例えば水面での垂直接近の下限高度はカモ類>ハクチョウ>マガンの順で大きく、単純に鳥の大きさで決まるわけではない。
(詳しくは2019年に公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団より発行されたドローンを活用したガンカモ類調査ガイドラインhttp://izunuma.org/pdf/drone_gideline.pdfを参照)

・鳥の捕獲に使用できるかもしれない
 実際にドローンに捕虫網を取り付けて昆虫を捕獲して調査研究を行った例がある(Madden et al. 2022)。飛行能力が高い種では難しそうですが、地上性で長距離を飛べないような種では可能だったりするのでしょうか。

・送電線鉄塔の鳥の巣モニタリング
 ディープラーニングを用いて自動的に鳥の巣を発見できる(Dong et al. 2022)。送電線鉄塔だけでなく、人が直接アクセスしづらいような場所で繫殖する種のモニタリングがドローンによってどんどん可能になっていくのでしょう。すごく楽しみです。

全体を通しての感想
 今回の鳥の学校でドローンについて事前に学習したおかげで、鳥学会を聴講する際ドローンを用いた多くの研究発表をより深く理解することができました。そしてとても便利なように思えるドローンですが、実際はバッテリーの持続時間や天候の問題、高度な操作技術の必要性など鳥の研究に応用する上でまだまだ難しい点がたくさんあることを初めて知りました。発想次第ではまだまだ新しい応用方法がこれからいくらでも出てきそうなので、今回のようなそれまでドローンに触れたことのない人でも気楽に操縦体験ができる機会が今後もっと増えていくことを願います。

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鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」に参加しました

中島京也(日本ワシタカ研究センター)

 日本鳥学会2022年度大会は新型コロナウイルス対策に配慮しながら3年ぶりの現地開催となり、13回目となるテーマ別講習会「鳥の学校」も「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」として実施されました。2014年に日本鳥学会大会と同時に開催された国際鳥類学会議ではRound Table DiscussionでDr. David BirdとDr. Juan José Negroから鳥類調査への無人航空機の利用例が紹介されましたが、その後国内でも高画質の映像が撮影できるマルチコプター型ドローンの普及が進み、鳥類の調査や研究に空撮画像やそれらの解析データが利用されるようになってきました。近年はドローンが小型化して携帯性が向上し、機体の価格も下がってきましたので、撮影用機材として利用される機会はさらに増えると思われます。このような状況の中で「鳥の学校」としてドローンに関する講座が企画され、酪農学園大学環境共生学類環境空間情報学研究室の小川健太先生から専門的な内容を学べる機会が得られたのは効果的だと感じました。

 講座ではドローンを飛行させる際の注意点や関連する法律などの基本的な事項から撮影した画像の処理方法などの具体的な事項まで紹介され、これからドローンを使用する事を検討している参加者にとっては大変参考になったと思います。また、大きさの異なる3種類のドローンの実機も用意され、参加者による屋外での操縦体験の他に事前に設定した範囲を自動で飛行するドローンが地上の画像を連続撮影する様子やその撮影画像をデータ解析に利用する過程も確認することができ、座学だけではない「鳥の学校」の特色が活かされていました。既にドローンを調査等で使用している経験者の方も参加者に含まれていたため、冬期にドローンを使用する際のバッテリー保温方法など製品のマニュアルには載っていない具体的な対策例が参加者側から紹介されたのも参考になったと思います。

 講座で使用する参考資料のご準備の他にドローンの実機展示と多数の参加者による操縦体験にもご対応いただいたので、機体の運搬や複数の予備バッテリーの準備など小川先生と環境空間情報学研究室の皆様には通常の講義よりもお手数をおかけしたと思います。そのご協力に対しまして改めて厚く御礼申し上げます。また、「鳥の学校」の開催にご尽力いただいた日本鳥学会企画委員会の森口紗千子様をはじめとした関係者の皆様、講座終了後に路線バスを利用して公開シンポジウム会場へ向うと開始時間に間に合わないのでご自身の車両に関係者を乗せて移動していただいた参加者の皆様にも感謝申し上げます。

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鳥の学校(第13回テーマ別講習会)「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」報告

企画委員会 森口紗千子

 
 鳥の学校-テーマ別講習会-では,専門家を講師として迎え,会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っている.第13回は,2年ぶりに対面で開催された2022年度大会と連結して,大会初日の11月3日に大会会場である東京農業大学網走オホーツクキャンパスで行われた.近年,鳥類の野外調査でも使用され始めたドローンを使う上で,ドローンを鳥類調査に用いるために必要な知識と技術を養ってもらうため,機種,法令,安全管理,データ解析,鳥類への影響等に関する座学と,操縦実習まで,小川健太氏(酪農学園大学)を講師にお迎えし,26名の会員が参加した.

 天候が午後から悪化する予報であったため,講師の紹介と簡単な説明の後,さっそくドローンの野外実習を大会会場の駐車場で行った.講師らによる2種類のドローンの操縦や撮影の実演に加え,経験者と初心者にグループ分けされた参加者も操縦を体験した.

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図1_座学風景

 後半は座学で,ドローンの一般的な知識や使用方法,国家資格化の動向などの最新情報に加え,鳥類の調査研究のための水鳥類の自動カウントなどの実践的な手法を学んだ.さらに,野外実習で撮影した画像データを用いた解析のデモンストレーションへと続いた.座学では,ドローンの使用経験のある参加者と講師の間をはじめ,活発な情報交換が行われ,低温下でのバッテリーの保管方法など,使用時のポイントが議論された.

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図2_参加者のドローン操縦体験

 事後アンケートによると,参加者のうちドローン経験者からは,悩みの共有や新しい知見の情報交換ができた,ドローン初心者からは,操縦体験だけでなく新しい技術にも触れられた,ドローンを用いた研究発表への理解が深まったなどの感想が寄せられ,質問できる機会が多くてよかったなど,参加者の満足度も高かった.ドローンの準備から始まり,幅広い内容にわたる座学と,参加者との相互のやり取りを重視して講義を進めてくださった講師,野外実習を補助していただいた助手の方々,コロナ禍の大会開催という困難の中,会場準備にご尽力いただいた大会実行委員会の方々,そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に,深くお礼申し上げる.

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図3_ドローンからの撮影

 鳥の学校-テーマ別講習会-は,今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である.鳥の学校の案内は,大会ホームページや学会誌に掲載する.

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鳥の学校(2019年):第11回テーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥~最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」の報告

吉田保志子(企画委員会)

 
 鳥の学校-テーマ別講習会-は、大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催しています。今年度は「鳥類調査のための法律講座~知っておきたい基礎知識」を、初めてのオンライン開催で行いました。 この報告は今後、和文誌学会記事や鳥学通信でお届けすることとし、今回は一昨年(2019年)のテーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥~最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」について報告します。
 
 2020年度冬シーズン(2020-2021)の国内では、2018年1月以来となる家きんでの高病原性鳥インフルエンザ発生がみられました。世界的にも発生が相次ぎ、ウイルスを保有する野鳥が多く、環境中のウイルス濃度が高い状況にあると考えられました。冬鳥の渡来時期を迎え、今年の状況が心配されるところです。
 
 今回の報告では、当日の配布資料もご覧いただけます。高病原性鳥インフルエンザと野鳥に関わる情報がコンパクトにまとめられており、感染を広げないために鳥類調査や野鳥観察においてとるべき具体的な消毒方法も知ることができますので、ぜひご一読ください。
 
 2019年のテーマ別講習会は、大会と連結して、大会初日の9月13日に帝京科学大学千住キャンパスで行われました。鳥インフルエンザウイルスはもともと野生の水鳥類を宿主とする病原性の低いウイルスですが、近年は高病原性に変異して野鳥や家きんに感染する例が増加しており、野外に高病原性鳥インフルエンザウイルスが存在することを前提とした対応が求められる状況となっています。この講習会では、野鳥と鳥インフルエンザに関わる最近の情勢や対策状況、野鳥観察や捕獲調査の際に気を付けるべき点など、野鳥と接触する機会の多い鳥学会会員として知っておきたいことを解説していただきました。

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講義の様子

 
 講師は講演順に、金井 裕(日本野鳥の会)、森口紗千子(日本獣医生命科学大学)、安齊友巳(自然環境研究センター)、大沼 学(国立環境研究所)、牛根奈々(日本獣医生命科学大学)、原口優子(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)の6氏をお迎えし、森口氏には講師代表として全体の構成や内容の相互調整などのとりまとめも担当いただきました。参加者は43名で、若手からベテランまでさまざまな立場の方々がおられました。
 
 最初の講演は金井氏による「拡散!! H5Nx高病原性鳥インフルエンザ」で、鳥インフルエンザとはどのような感染症なのか、野外でのウイルス拡散、北半球における野鳥の感染状況、養鶏業や野鳥の保全との関係などについて、幅広い視点から解説されました。昼食休憩を挟んで、午後から森口氏による「国内の高病原性鳥インフルエンザ検査体制における現状と課題 -野鳥から動物園まで-」で、自治体や地方環境事務所がとっている検査体制とその課題についての解説があり、安齊氏による「鳥インフルエンザに対する野鳥の緊急調査 -調査の現場から-」で、国内で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に行われる緊急調査の実際を紹介されました。大沼氏による「高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性種差を培養細胞で評価できるか?」では、希少鳥類への影響を評価するための培養細胞を用いた試験が紹介されました。
 
 つづいての実習では、7つの班に机を移動して分かれ、牛根氏による「フィールドでの注意点 -病原体に感染しないため、そして運び屋にならないために-」が行われました。消毒薬の種類別の特性と適用対象についての解説の後、各班に「観察時の携行品」として渡されたナップザック内の物品を使って、野外観察の後に何をどのように消毒するかを班メンバーで考えて発表するという実践的な課題が出されました。「観察時の携行品」は班によって異なっており、参加者は熱心に話し合って、適切な消毒について理解を深めました。最後に、原口氏による講演「出水市でツル類に発生した高病原性鳥インフルエンザの状況報告」があり、希少鳥類の集団越冬地と養鶏業が隣り合う立地における対応状況を解説されました。

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実習(班ごとの結果発表)の様子

 
 参加者からは、鳥インフルエンザの全体像を短時間で理解することができて良かった、幅広い話題が提供され、どれもわかりやすかった、実習の設定が身近で印象に残った、といった感想が寄せられ、有意義な機会となったことがうかがわれました。最新の情報をまとめた講義や、興味のわく実習を準備してくださった講師の方々、会場の確保や当日の進行を支えてくださった全ての方々に深く感謝申し上げます。

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2019鳥の学校「高病原性インフルエンザと野鳥」に参加して

松井 晋(東海大学)

 この10数年で、渡り鳥が飛来する時期になると「高病原性鳥インフルエンザ」のニュースがたびたび取りあげられるようになりました。防護服を着た数百人以上の作業員が、養鶏場で大量のニワトリを殺処分して消毒作業を進めているニュースをみると誰しもが不安になります。これほど社会的にも経済的にも大きなインパクトを与えている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、インターネットで調べた情報だけでは、なかなかその全容を理解することができず、「今いったい何が起こっているのか?」、「どのような対策が進められているのか?」ということが気になっていました。今回の鳥の学校は、まさにこのような疑問に応えてくれる内容で、高病原性鳥インフルエンザの最近の情勢や対策、野鳥と接触する機会の多い私たちが気を付けるべきことなどを6名の分野の異なる講師陣から多角的に学ぶことができました。

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班に分かれて実習

 
 最初に、人と動物およびそれを取り巻く生態系をひとつとみなして包括的に問題を解決していくことを目指した「One World-One Health」の考え方が紹介されました。人と動物の両方がかかわる感染症の対策は、生態学でいう複雑な生物間相互作用の中に人や家畜も組み入れたようなマクロな視点をもちながら、病原体が伝播する特定の感染経路を絞りこんで適切に対処しなければいけないので、とても難しい課題だなと感じました。そしてこのような課題だからこそ、さまざまな関係者が分野横断的に連携する必要があるということを理解することができました。またH5N1亜型のウイルスがこの20年間で変異を繰り返して北半球に広がっていった状況などの説明を聞いて、高病原性の鳥インフルエンザの対策には国際協力が不可欠だということもよくわかりました。

 国内では高病原性鳥インフルエンザウイルスに対してどのように対応しているのか?ということいついても、その対応の流れや出水市の具体例について大変興味深い話を聞くことができました。まず野鳥については野鳥マニュアル(環境省2018)、飼養鳥については飼養鳥指針(環境省2017)に沿って行われる鳥インフルエンザの簡易検査、遺伝子検査、確定検査などの対応フローについて説明がありました。また早期警戒や飼養鳥の安楽殺等の重要な判断をする情報として確定検査結果を利用するためには検査時間の短縮が大きな課題であるという指摘も演者からありました。そして、いざ高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に、発生地点を中心とする半径10㎞の範囲で実施される緊急調査についても解説がありました。また高病原性鳥インフルエンザが過去に発生している出水市で環境省・鹿児島県・出水市・鹿児島県ツル保護会が合同で実施している監視活動についての説明もありました。出水市の一連の活動の中で最も印象に残ったのは、基幹産業となっている養鶏業者が高病原性鳥インフルエンザの発生を未然に防ぐ活動を自衛のために積極的に進めているという点でした。これはまさにワンヘルスのアプローチで様々な関係者が積極的に対策しているモデルケースのように感じました。

 高病原性鳥インフルエンザウイルスの各種鳥類に対する病原性に関する最新の研究も紹介されました。鳥インフルエンザウイルスの病原性はニワトリをもとに高病原性と低病原性が決定されているそうで、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した際の死亡率は鳥類種によって異なるようです。そのため各種絶滅危惧種の細胞を活用して、さまざまな鳥類の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性を評価するための手法が考案されているそうです。今後の研究成果が気になります。

 講演の間には、「フィールドでの注意点」と題する楽しいグループワークもありました。ここでは講師から「バードウォッチャーが病原体の運び屋になる可能性がある」という鳥好きの私たちにとっては衝撃的!?な事実が指摘されました。そしてフィールドで動物由来の病原体に感染しないためは、節度ある行動(むやみに生体・死体・痕跡に触れない)と昆虫対策(例:マダニ)が重要だという注意がありました。さらに私たちが病原体の運び屋にならないために、各グループに配られた持ち物を使って、フィールドに出かけた際に現地で靴、機材、皮膚などを消毒する方法や手順をグループのメンバーで話しあいました。このグループワークでは持ち物に含まれていたウィスキーを消毒のために使用するべきか、これは講師が仕組んだ引っ掛けではないのかということなどをメンバーであれこれ楽しく議論することができました。

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バードウォッチング後の消毒として出された「お題」

 
 今回の鳥の学校で鳥インフルエンザについて総合的に学ぶための貴重な機会を提供していただいた鳥学会企画委員会の皆様、会場となった帝京科学大学の方々、そして興味深い話題を提供していただいた講師の皆様に感謝申し上げます。

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鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

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図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

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図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

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図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

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鳥の学校「バイオロギング野外実習」に参加して

細田凜(日本獣医生命科学大学)

・はじめに
 ドラえもんの秘密道具とも言われるバイオロギング。その専門家に直接ご教授いただけることは大変貴重な機会であるため、この度参加することに決めた。

・バイオロギングとは 
 動物に小型の記録計(データロガー)をとりつけ、「動物自身に」行動や周囲の環境などを測定・記録させる画期的な技術だ。移動の記録に加え、様々なパラメータ(環境温度や、心拍数、採餌行動など)を同時に測定することも可能だ。これにより、生息域の特定や、渡り鳥のメカニズムの解明、環境モニタリングや生息海域の環境変化など種や生物多様性の保全に寄与することができる。
 ロガーには、防水機能付きものや再回収する必要のないもの、設定条件が揃うと自動で記録が開始されるものなど様々なタイプのものがある。また、パラメータの一つである「動き」を記録する加速度計は、XYZ軸の震えによって、その場所でどんな行動をしていたのかが分かる優れものだ。

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図1. 野外実習前にバイオロギングの基礎を学ぶ。

・実習
 舞台は、粟島。オオミズナギドリ有数の繁殖地だ。
オオミズナギドリの成鳥は、昼間沖合いで魚を捕り、夜になると巣に戻ってくるため、ロガーの装着・回収は真夜中に行われる。オオミズナギドリの営巣地では、オスの「ピーピー」、メスの「グワッ」という声が呼応し、月明かりに照らされた夜空を悠然と舞う姿は、神秘的なものであった。

1)ロガー装着
 実習一日目の夜は、成鳥にロガーを装着した。
ロガーの装着は、羽毛の上に直接接着材を付けて装着しているのかと思っていたが、実際はしっかりとテープで固定されていた。ロガーの装着方法は、背中の羽毛をめくってテサテープを敷き、同様に数枚並べていったら、その上にロガーを置いて丈夫なテサテープを巻き固定する。初めてのロガー装着は、テープから羽がはみ出てしまったが、良い体験だった。

2)ヒナの測定
 実習2日目の午後は、親鳥たちが海へ狩りに出かけている昼間に、巣穴にいるヒナの身体計測を行った。オオミズナギドリの巣穴は、海岸の急斜面にあるため、巣穴に行くのもかなりスリルがあった。巣穴からヒナを出すと、まだ灰色の綿毛に覆われてもふもふだった。ヒナを鳥袋に入れ、頭長や自然翼長など5項目と体重を計測した。

3)ロガー回収・解析
 実習2日目の夜は、装着したロガーの回収と解析を行った。
ちなみにもし再捕獲できなかったり、再捕獲する必要のないロガーの場合でも、羽に取り付けているロガーは換羽と共に外れるので、装着個体の永久的なストレスはないと考えられる。
 回収したロガーをPCにつなぎ、ロガー解析専用ソフトでデータをダウンロードした。地図に示されたオオミズナギドリが飛んだ軌跡を見たときには、こんなに飛んでいるのかと感心した。

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図2. 繁殖地内で捕獲した個体を計測する。

・まとめ
 バイオロギングは、その動物を通して様々なことを明らかにでき、それらを根拠に種や生物多様性の保全にも寄与することができる魅力的で興味深い技術だ。いつか鳥の研究ができる日が来たときには、ぜひともバイオロギングを使ってみたい。

・謝辞
 山本さま、松本さま、大学のみなさま、この度は大変お世話になりました。ご多忙の中、バイオロギングについて丁寧なご教授をいただき、誠に感謝申し上げます。
 川上さま、鳥の学校関係者の皆さま、このような貴重な実習の機会を与えていただき、誠に感謝申し上げます。

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