2021年度日本鳥学会大会自由集会報告:W5 加速する風力発電と日本鳥学会の対応

風間健太郎(早稲田大学)・浦達也(日本野鳥の会)
佐藤重穂(鳥類保護委員会)・綿貫豊(北海道大学)
記事執筆:風間健太郎
脱炭素社会実現を目指し、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入はますます進んでいます。風力発電は鳥類に様々な影響をもたらします。近年、鳥類に対しとりわけ大きな影響が懸念されるいくつかの風力発電建設計画に対して環境大臣意見が出されたり、複数の生物系学会や自然保護団体による声明・意見書・要望書が提出されたりしています。日本鳥学会においてもこれまでいくつかの風力発電事業に対して要望書を提出してきました。

一方で、急増する建設計画の動向や鳥学会としての対応を把握している鳥学会会員は多くはなく、学会としての情報の収集・提供体制は十分に整備されていません。この集会では国内各地で加速する風力発電の動向や学会および関連機関の動きを紹介し、今後研究者や学会員としてどのような情報収集・提供をしていくべきか、学会としてどのような体制を構築すべきかを議論しました(図1)。

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集会の講演内容を以下に記しますが、その前に集会以降の動きについて紹介します。2021年度大会終了以降、本集会の企画者らが中心となり「日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループ」設立が提案され、評議員会において承認されました(日本鳥学会評議員会報告)。ワーキンググループは、①導入が加速する風力発電に対する学会の基本理念の策定、②鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、および③個別風力発電事業に対する意見書案の作成を主なタスクとしています。このうち①については2022年度総会での承認を目指し現在急ピッチで準備が進められています。

ワーキンググループの活動や学会基本理念の内容について会員の皆様から引き続き広く意見を募るべく、2022年度網走大会においてワーキンググループ主催の自由集会を開催します。ぜひご参加いただき貴重なご意見をお寄せいただければ幸いです。

2021年度集会講演内容

1. 趣旨説明:風間健太郎(早稲田大学人間科学学術院)
 
 地球温暖化をくい止めるためにエネルギーミックスによる化石燃料の使用量削減が世界的目標とされています。風力発電は有効な再生可能エネルギーとして導入が世界中で進んでいます。日本においては2000年代に入って導入が加速しており(NEDO、図2)、2021年8月時点で400以上の建設計画があります(経済産業省)。政府主導のもと風力発電の導入を促進するためにゾーニング事業(環境省)や導入促進(有望)区域の選定(資源エネルギー庁)も行われています。

風発自由集会_図2.jpg

 風力発電はバードストライクや障壁効果、生息地の喪失・改変など鳥類に様々な影響を及ぼします。風力発電の健全な導入のためにはこうした影響をつぶさに評価・予測し、それを軽減するための措置が求められます。しかしながら国内における現状の環境アセスメントではそれらが十分に達成できていません。さらに、現在国は風力発電の導入促進を図るために環境アセスメントの短縮(簡略)化を推進しているほか、環境アセスメントを義務づける風力発電の事業規模を拡大する制度の改正(環境省)を行いました。環境省は「風力発電における鳥類のセンシティビティマップ」を作成し鳥類のリスクが高い場所をあらかじめ地図化し公開(環境省EADAS)していますが、地域によってデータが不足していたり情報の空間解像度が十分に高くなかったりするなど、既存情報を用いた鳥類へのリスク予測の不確実性は高い状況にあります。これらの状況を踏まえ、今後国内における風力発電の健全な導入のためには、鳥類の専門家集団たる日本鳥学会による積極的な情報収集・共有の体制構築が求められます。

2. 風力発電事業に対する日本野鳥の会の活動:浦 達也((公財)日本野鳥の会 自然保護室)

(公財)日本野鳥の会は全国の風力発電事業に対して2003年より、「風力発電は立地選択によっては鳥類の生息等に影響を与える」として様々な活動を行っています。柱となる活動は、①政策提言・意見要望活動、②国内外の情報収集と事例紹介、③調査研究の3つです。

 ①は、国や地方自治体が主催の検討会への出席と意見陳述、アセス図書に対する意見書提出と事業者や行政機関との協議、②は、国内外の現地視察や学会参加、シンポジウム等の開催、野鳥保護資料集の発行、③は、国内情報の取りまとめ、カウンターアセス(対抗調査)、独自調査とその結果の学会発表や機関誌等での紹介です。今後、風力発電が適正な立地で建設されるために、研究者や学生の皆さまには、③の調査研究の実施を期待するところです。それは、英国やドイツなどの風力発電先進国のように、科学的証拠をもって影響把握や立地選定等を行うべきだからです。

3. 石狩湾を利用する海鳥:綿貫豊(北海道大学水産科学研究院)
 
 2050年までに温室効果ガス実質排出量を0にすることを目指して、自然再生エネルギーを得る様々な手法が検討・実施されています。風力発電もその一つです。陸上での建設は頭打ちになりつつあり、代わって洋上風力発電の計画と建設が加速しています。今後20年間でその規模を2000倍にするという案も出されており、海鳥へのインパクトが懸念されています。海鳥がよく使う場所を避けること、建設する場合でも細かい場所選定、軽減手法の検討と事後評価が必要です。

 石狩湾では最大100基1000MW規模の洋上風力発電施設群の計画が複数出されています。環境省はEDASに鳥類センシティビティマップ海洋版を公表しており、それによると石狩湾は比較的低リスクで湾の奥にやや高い海域があります。ただし、海上センサスではカモメ類、ウ類、カモ・アビ類に加えミズナギドリ類が観察されており(南波、浦:北の海鳥11号)、また、GPSトラッキングにより天売島で繁殖するウトウが150kmほど離れた石狩湾の奥で頻繁に採食する年もあることがわかりました(環境研究総合推進費4-1803)。近くにはウミネコの繁殖地もあり、慎重な情報収集が必要です。

4. 苫東地域の現状:先崎理之(北海道大学大学院地球環境科学研究院)
 
 自然度の高い環境がまとまって残る苫小牧市東部から厚真町西部の海岸部において、Daigasガスアンドパワーソリューションズ株式会社による(仮称)苫東厚真風力発電事業が現在進行しています。本講演では、北海道産鳥類の約50%に相当する238種が事業地において記録されていること、その中には40種以上の環境省レッドリスト掲載種が含まれていることを紹介しました。

 続いて、演者らによる2012年以降のモニタリング調査によって事業地内部とその周囲において4~8つがいのチュウヒの繁殖が毎年確認されており、特に海岸部の湿地で営巣数が多いこと、事業地でタンチョウが過去2回繁殖に成功していること、事業地が勇払原野に残存する最後のアカモズ繁殖地の一つであることを紹介しました。

 最後に、上記稀少種を含む鳥類に対する当事業の悪影響を鑑み、当事業の中止を求めて鳥学会が提出を予定している要望書について、その作成過程、苦労した点、現在までの進捗状況を紹介しました。

5. 鳥学会からの要望書の提出状況:佐藤重穂(森林総合研究所四国支所)
 
 日本鳥学会には委員会の一つとして鳥類保護委員会があり、鳥類の保護や生息地の保全に関する活動を担当しています。鳥類保護に関する学会決議や意見書を関係機関へ提出する際には鳥類保護委員会で内容を審議しています。近年、風力発電については、以下のような要望書を提出しています。

 これらの要望書等は単に提出するだけでなく、添付資料として保全の必要性を示す根拠を提示するとともに、必要に応じて科学的な知見を提供する準備がある旨を伝えています。

(仮称)苫東厚真風力発電事業に関しては、2020年12月に風力発電事業者に対して道央で最大規模の低湿地で多くの鳥類の生息地であり、保全の必要性のきわめて高い場所であることを提示する意見書を提出したものの、事業計画の再検討が見られなかったため、2021年度鳥学会大会での総会決議を準備するに至った経緯を紹介しました。

6. 総合討論
 
 総合討論では、はじめに風間から国内外の学会等による再生可能エネルギー導入に対する方針が紹介されました。日本生態学会態学会英国鳥類保護協会英国鳥類学協会などはホームページ等で再生可能エネルギーに対する基本的な考え方をそれぞれ公開しています。

 今後、日本鳥学会においても風力発電導入に対する何らかの方針を示すべきであるとの考え方が集会主催者より提案されました。さらに、①この方針案の策定、②鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、および③個別風力発電事業に対する意見書案の作成など、急増する風力発電計画に即応するためのワーキンググループを日本鳥学会鳥類保護委員会の下部組織として設立することが提案されました。

 300名以上の参加があった会場からは、これらの提案に対して好意的な意見が寄せられました。風力発電を「真の環境調和型エネルギー」とするべく鳥類に対する影響評価が拡充されるよう積極的に情報発信すべきとの意見が多数ありました。一方、指針を公開しても事業者に適切に利用されない可能性もあるため、行政へ積極的にはたらきかけたり、行政機関が公開しているアセスメント手引きの中で参照されるよう促したりするなど、情報発信のやり方には工夫が必要であるとの指摘もありました。

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