助教・岡久雄二
はじめに
鳥学会の委員の皆様から研究室紹介のバトンをいただきました。今回は、人間環境大学環境科学部フィールド生態学科の保全鳥類学研究室(岡久研究室)の紹介をさせていただきます。
人間環境大学環境科学部フィールド生態学科とは?
人間環境大学は2000年に開学した比較的新しい私立大学です。愛知県と愛媛県にキャンパスがあり、環境科学部フィールド生態学科は愛知県岡崎市本宿にある岡崎キャンパスのなかにあります。
“フィールド生態学”という学科名の通り、「野外調査」と「生態学」に力を入れており、森、川、海などのフィールドを舞台とした実験・実習で生態調査や環境保全の技術を修得するための教育を行っています。
岡崎キャンパスには演習林が併設されており、キビタキ、センダイムシクイ、サンショウクイなどの夏鳥を中心に50種程度の野鳥が観察できます。そのうえ、大学の向かいにある扇子山では毎年3,000羽以上のタカの渡りが観察できます。さらに、タカの渡りで有名な伊良湖岬へもすぐ行けるというバードウォッチングには適したロケーションです。野鳥が好きな学生の皆さんには、本当に魅力的な環境だと思います。
岡久先生ってどんな人?
私自身はキビタキの研究で博士号を取得しました。若かりし頃の姿については「はじめてのフィールドワーク〈3〉日本の鳥類編」(東海大学出版)などをご一読ください。現在は再導入生物学を専門として、トキ、アカモズ、シロハラサギなどの研究を行っています。
とくに、トキについては環境省野生生物専門員や希少種保護増殖等専門員として、7年間と少しの間、佐渡島におけるトキ野生復帰を主導してきました。日本のトキ野生復帰を成功させた研究者(実務者)の一人というのが、日本鳥学会における私という人物の評価だろうと思います。
佐渡島ではトキ保護増殖事業およびそれに紐づく計画管理、モニタリング、科学的評価、地域調整などを行ってきました。このなかで、トキの育成方法による繁殖行動の違い(Okahisa et al. 2022)、統合個体群モデルによるトキ野生復帰の評価法の開発(Okahisa & Nagata 2022)、トキ野生復帰が佐渡島にもたらす経済的影響の評価(岡久2023)などを論文としてまとめました。
また、こうした朱鷺保護活動のノウハウを他種の保全へ応用することを目指し、残り27羽まで減ってしまったブータン王国のシロハラサギ保全を目指した取組みや他の国内希少野生動植物種の再導入の科学的評価なども行っています。
岡久研究室ってどんなところ?
岡久研究室は、保全鳥類学研究室と名乗っており、「希少鳥類の保全を実践する研究室」を自称しています。院生の配属はなく、学部3・4年生のみを受け入れています。ただ、学部1・2年生や他の研究室のゼミ生であっても保全に対する熱意があれば一緒に活動しており、現在は約30名の学生が私のもとで希少鳥類の保全に取り組んでいます。
研究室の最も大きなプロジェクトはアカモズの保護増殖です。かつてアカモズは日本各地に広く生息していましたが、2022年時点において本州と北海道の一部地域に残り200羽程度の繁殖が確認されているのみです。当研究室の行ったシミュレーションに基づけば、本州個体群は2026-2030年にも絶滅すると予測されています。
このようなアカモズを救うため、国、地方公共団体、研究機関などと連携し、生息域内における捕食者対策の実施、巣の保護と救護、普及啓発を進めるとともに、緊急避難的措置としての生息域外保全、越冬地および渡り中継地での情報収集、細胞の保存等の取組みを行っています。
当研究室ではこれらの取組みのうち、本州における保全を担当しています。アカモズの生息域内・域外保全の両者について、現場で生じた課題を評価し、解決方法を開発し、実用することで保全を前に進めていくということが私たちのミッションです。捕食者対策、ファウンダー導入を目指した卵移送方法・育成方法など、様々な開発が必要です。その結果、工具を持った学生たちで研究室が溢れる日もあります。また、当研究室の重要なパートナーである豊橋総合動植物公園では学生たちがアカモズの行動観察、飼育補助や保全の普及を目指した展示作製等の活動を行っています。
保全鳥類学研究室は設立からまだ2年目ですが、熱意溢れる学生たちや学外の多くの関係者の皆様に支えられて、アカモズの育成に成功しました。
〇詳細はこちら⇒https://www.uhe.ac.jp/info/ntf/230828001786.html
これらをファウンダー(始祖個体)として飼育下での繁殖を実施することで、飼育個体群を確保し、アカモズの短期的な絶滅の回避を目指します。また、生息域内での保全活動を一層強化することでアカモズの減少を止め、将来的に飼育下で生まれた個体を野生復帰させることで、アカモズの野生個体群が安定的に存続可能な状況に達することを目指しています。
「研究をして良い学術論文を書いて保全へ提言する」ことは研究者の重要な役割ですが、対象種の保全を成功させなければ意味はありません。そして、真に持続可能な保全の取組みを確立するためには、鳥類の保全を実践する専門家を継続的に育成していかねばなりません。こうした考えに基づいて、学生たちには研究目的の野外調査だけでなく、生息域内での保護活動や動物園での域外保全の活動、行政との調整などを実践してもらっています。当研究室での経験を活かし、他大学の院に進んで鳥類の保全を推進する研究者になったり、社会に出て生物多様性保全に貢献したりするような人材を育てたい、というのが一教員としての願いです。
鳥類の保全に熱意のある高校生の皆さんは、ぜひ当研究室で一緒に活動していきましょう。