著書じまん「岩波科学ライブラリー ハトはなぜ首を振って歩くのか」

2015年10月19日
ハト本画像.jpg

人類学者を志しながらハトの首振りを研究テーマに選ぶのは、明らかにスタート地点からいろいろ間違っている。それくらい私だって気づいていたが、十数年も首振り研究にまい進してしまった。思い返すに、その責任の一端は、そんな研究を「面白い」と評価してくださった多くの鳥学会会員の皆様にある。みなさんの懐の広さが一人の若き研究者の人生をいかにたやすく狂わせ、その結果どこにたどりついたのか、ぜひ本書を一読していただきたい。

本書「岩波科学ライブラリー ハトはなぜ首を振って歩くのか」は、動くとは何か、歩くとは何かという基本的な問いかけを入口に、形態学、運動学、神経生理学、行動学などさまざまな視点から、鳥の歩行や首振りにまつわる数々の疑問に挑んでいる。挑んだ結果はねかえされているケースもあるが、首振り研究の歴史から今後の展望まで、平易な言葉を使いながら、しかし専門性を損ねることなく見事にまとめあげているあたり、さすがだ。岩波書店の方々の努力により、首振りの章の片隅にハトが首を振るパラパラがあり、秘蔵の首振り動画もネット閲覧できる念の入りよう。「21世紀科学における首振り研究の到達点」と呼ぶにふさわしい出来栄えになっている(誰が呼んでいるのかといえば、私が呼んでいる)。本書を読まずして、もはや首振りを語ることは許されないだろう。

ところで、ここしばらく首振り研究者としては目立たない灰色の人生を歩んでいた私だが、本書の出版が契機となり、デイリーポータルZさんの「ハトの目線を体験できるメガネ」開発に関わらせていただいた。本書では「鳥類ハト化計画」で首振りの章を終えたが、よもやその先に「人類ハト化計画」が待ち受けていようとは、人類学者として本懐を遂げたといっても過言ではない。(やっぱり道を間違えてないかというツッコミは、そっと胸にしまっておくといい)

…科学とは、1%のヒラメキと、あと99%は後先考えずにそれを実行しちゃう愚かさなのかもしれない。

ハト化計画.jpg
「人類ハト化計画」の打合せ風景(画像提供:デイリーポータルZ、加工:藤田)

ハトカフェ.jpg
ココロに安らぎを、ポケットに首振りを。

この記事を共有する