公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 上席主任研究員
嶋田 哲郎
鳥学で仕事をする,本当に狭き門です.少ない席をめぐって熾烈な競争があります.私の話は,上には上がいる,と思ってもなおかつ鳥学で仕事をしたい人のための話です.私の同期(40代半ば)には優秀な鳥学者がたくさんいます.あいつにはかなわないなあ,と思う人が頭に浮かびます.また,和文誌編集委員などいくつかの学会役員をやらせていただきましたが,みなさん頭の回転が速く,仕事が速すぎます.
さて,こういう上には上がいる状況で,どうしたら鳥学の仕事につけるのでしょうか?それはタイミングです.最初から身も蓋もない言葉で申し訳ありません.でも続きがあります.タイミング,求めよさらば与えられんです.
修士2年の頃,博士課程にすすんで自分の研究を極める覚悟がなかったこと,経済的な事情もあり,修士で終えて就職しようと思っていました.鳥学会には学部のときから参加していました.私の同期の鳥学者は繁殖期の鳥をやっている人が多かったのですが,非繁殖期でガンカモというのは当時私くらいでした.そういう意味では競争相手は少なかったといえます.ガンカモをやっている数少ない若手として,学会を通じて多くの水鳥研究者と深く交流できたことは,就職につながる背景のひとつでした.
もうひとつ,どんなにつまらない内容でもできるだけ論文を書くようにしていました.自分が新しい発見しているのだという高揚感,そしてそれを論文にすれば自分の仕事が永遠に残るという事実は私にはたいへんな魅力でした.論文として少しずつでも結果を積み重ねていけば,見てくれている人は見てくれているものです.日本雁を保護する会の呉地正行さんから財団で職員を探しているよ,という連絡をいただき,その話に飛びついてから今に至ります.
私は学位よりも就職を選びました。一方で,同期がすばらしい業績を上げて博士号を次々に取得していく中,早く学位をとらなければという焦燥感にかられました.また,研究員という肩書きをもちながら博士号をもっていないことに引け目を感じていました.ようやくホッとできたのは,論文博士として博士号を取得できた,就職してから10年後のことでした.
鳥学で仕事をするにはいろいろな道があります.私の場合,就職はタイミングがよかったというしかありません.しかし,振り返ってみると,結果的にではありますが,タイミングをつかむための努力はしていたように思います.上には上がいる,という事実に幾度となく自信をなくしつつも自分のオリジナリテイを常に探っていました.そして,学会に出て見識を広めること,自分の実績を着実に残すこともしていました.そういうことが鳥学で仕事をするためのタイミングを引き寄せたのだろうと思います.見ている人は必ず見ています.