海外のジャーナルに投稿して

2016年4月6日
北海道大学大学院環境科学院
生物圏科学専攻動物生態学コース
博士課程3年 乃美大佑

北海道大学環境科学院所属の乃美(のうみ)といいます。北大苫小牧研究林でシジュウカラの繁殖を研究しています。今回このような機会をいただきうれしく思っています。先日海外のジャーナルに投稿した論文が掲載されたのでその報告をします。

脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。.jpg
脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。

僕が修士課程に入った当時、研究室にはシジュウカラの婚外交尾(浮気)の研究をされていた油田さん(現新潟大)がおり、共同で研究をすることになりました。油田さんの研究に触発されて動物の行動や進化に興味を持ち修士論文のテーマを探したところ、鳥類では雌雄の産み分けを行うらしいことを知りました。

性比の問題は進化生物学における魅力的なテーマで今日までに数多くの生物で研究がなされています。特に鳥類の場合、性染色体が雌ヘテロ型であるため、雄ヘテロ型の哺乳類などと比べると、雌親が雌雄の産み分けをしやすいといわれています。分子生物学の技術の進歩により、浮気の研究と時を同じくして、鳥類の性比調節に関する研究も盛んに行われるようになりました。中でも縄張りの質により子の性比を調節するセーシェルヨシキリの例は有名ですね。

油田さんのこれまでの調査で苫小牧のシジュウカラは複数回繁殖率が高く、繁殖シーズンが長い(5~8月)という特徴がありました。4年分の調査で得た、合計191巣1500羽の雛を性判別した結果、1回目の繁殖でのみ、一腹卵数が多くなるほど雄の割合が低くなるという傾向を発見しました。

シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係
シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係。

これまで性比の研究は数多くされてきましたが、「繁殖の一時期だけ性比調節を行う」という例はありませんでした。これには雛の性的二型と巣立ち雛の生存率が関係していると考えています。巣立ち雛の生存率は巣立ち日が早いほど高いことが知られているので早い時期に多くの雛の育てるのが適応的です。しかし、餌要求量の大きい雄の雛が多くなると繁殖のコストが増すため一腹卵数の大きい巣で性比が雌に偏っていたのではないかと考えています。一方で繁殖の後期に巣立った雛は生存率が低く、繁殖の価値は低いため多くの雛を育てる利点は少ないと考えられます。雛数が少ないと餌要求量に応じた性比調節は必要なくなるため、この傾向が見られなかったのではないかと考えています。

孵化して13日目のシジュウカラの雛。.jpg
孵化して13日目のシジュウカラの雛。

せっかくやってきた修士論文の研究を残る形にしたいという思いから国際誌に投稿することにしました。そこで、鳥類を研究対象としたジャーナルを探しました。その時目にとまったのがポーランドのジャーナル、Acta Ornithologicaでした。このジャーナルはいろいろな分野を扱っており、過去にも性比を扱った研究が載っていたので、ひょっとするとチャンスがあるかもと思い投稿してみました。

DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。.jpg
DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。

初投稿から約1年半、Editorが何度も丁寧に見てくれたおかげで時間はかかりましたがなんとかアクセプトされました。しかし、過去の他の論文を見てみてもほとんどの論文が投稿日から採択日まで1年以上かかっていました。なので、急ぐ場合にはこのジャーナルは正直オススメしません。とはいえ、特に時間は問わないという方や、自分の研究分野を扱ったジャーナルが少ない、でもなんとか載せたいという方にはいいかもしれません。補足をすると、Acta Ornithologicaでは特に巣材を扱った研究が多いように思います。この手の研究を行っている方、オススメしますよ(笑)。

論文についての詳しい内容は原著をご覧下さい。
Nomi D., Yuta T., Koizumi I. 2015. Offspring sex ratio of Japanese Tits Parus minor is related to laying date and clutch size only in the first clutches. Acta Ornithologica. 50: 213–220.

この記事を共有する