企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)
文責:越智大介
皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。
【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向
越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。
図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す
2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法
井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。
3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介
勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。
4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み
佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。
5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介
山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。
6.総合討論
総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。
7.終わりに
本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。
8.参考資料
FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.