新刊紹介:「目立ちたがり屋の鳥たち」江口和洋著

2017年4月7日 江口和洋

 今は昔,「無名のものたちの世界」(1973年:思索社)という全3巻の本がありました.当時,興隆し始めた,ニコ・ティンバーゲンやコンラート・ローレンツなどに代表される行動学(エソロジー)の研究成果を基に,動物たちの面白い行動を紹介した一般書でした.鳥では,浦本昌紀さんによるニワシドリ類のあずまや建築行動の紹介が特に面白く,大学院に入ったばかりの私は,そのうちに自分もこんな面白い鳥の研究をやるぞと思いつつ読みふけったものでした.この本に限りませんが,振り返れば,若い頃にいろいろな本に出会い,そのことが自分の行く末を決定したのだということがよくわかります.改めて,読者の興味を引き出すような良書の効果は大であると感じます.

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 昔(もう大昔です)と比べると,現在は情報の収集は格段に便利に容易になりました.目的がはっきりしていたら,情報を探し出すことは数分で済みます.しかし,ネット上の情報はあちこちに散らばっています.目的を形成する以前では,体系的にまとまった情報を引き出す事は不可能です.本の重要な役割はここにあります.つまり,まず,読者にある主題への興味を引き起こすことで,それにより,読者に次へ進むための目的を与えることです.ただ情報を提供するだけであれば,本はネットに太刀打ちできませんが,情報を整理した状態で提供して読者の研究への興味を引き出すことは本にしかできません.この「目立ちたがり屋の鳥たち」は,一人でも多くの人に鳥の研究の面白さを知っていただきたいと言う目的で執筆されました.

 内容は,以下の通りです.

第1章 早起き鳥はセクシー  つがい外交尾と精子競争  
第2章 イケメンはイクメン  正直な信号  
第3章 オオカミがきた!   盗食と信号の操作  
第4章 愛の巣を飾ろう  つがい形成後投資  
第5章 イースターエッグを探せ   目立つ卵殻色の進化  
第6章 舞踏への勧誘  ニワシドリのあずまや建築  
第7章 親の手助け弟を世話し   協同繁殖  
第8章 デキる奴はモテる   認知行動と個性  
第9章 ライバルこそが頼り  他種の利用または搾取
  
 本のタイトルや章タイトルは,くだけた表現であることから察せられるように,この本は学術書ではありません.でも,いろいろな鳥の行動を主題毎に整理して紹介しています.ただ面白おかしいと言うのではなく,一つ一つの事実については,すべて研究成果に基づいています.また,単に事実の紹介だけではなく,それぞれの行動の意味についても,実証的研究の成果に立った解釈を紹介しています.動物の行動に関しては,事実そのものが面白いと感じるだけでなく,なぜかと言うことを知りたいという欲求が多くの人にあります.この時に,一般書やマスメディアでは,十分な根拠に基づかない「俗説」に基づいて面白おかしく説明されることがしばしばあります.これは科学研究にとっては不幸なことです.本書では,このような説明を極力排除して,十分な根拠に基づいた論理的な説明を心がけ,十分な証拠が得られていない主題については将来の研究に委ねると言う態度を貫いています.

 本書では,鳥の行動の説明原理の根本は個体間や雌雄の対立だという立場から解説を行っています.第1章のつがい外父性はその典型であり,つがい外父性という現象が次章以降のさまざまな行動と関連していることを述べています.一見,個体間の協同と見られる協同繁殖についても利益の対立とは無縁でなく,この繁殖様式の進化に関する説明も一筋縄ではいきません.
 
 信号の進化は鳥類行動学の重要な分野です.これまでは,さえずりなどの音声コミュニケーションや羽衣の装飾など鳥類自身の形態や行動に注目されて研究が進められて来ましたが,さらに,最近では形態の外部にある「延長された表現型」の研究が大きく進展してきました.巣の形態,卵の色,さらには,求愛場所の装飾なども配偶者獲得に重要な役割を演じていることを述べています.巣作りの巧妙さに見られるように鳥類は優れた建築家であることは良く知られています.そのような優れた建築物や道具を作る能力は知的能力(認知能力)と関係しています.最後の他種の利用は,同種間の個体間関係を取り扱った他の章と異なり,他種との共存を生じさせている理由に関する行動的側面と取り扱っています.
 
 先に述べたように,本書では多くの研究成果を紹介することで,鳥の行動の面白さとそれらの行動の進化を引き起こした理由についての仮説のいろいろを伝えようとしています.専門の研究者だけでなく多くの鳥学会員の方々に読んでほしいと思います.学術書ではないと書きましたが,行動の意味を説明する部分では少々専門的な知識が必要になる部分もあるかとは思います.そのような時は読み飛ばして,面白い行動の事実だけをまず知って,興味が湧いたら「なぜ」と言う疑問の解明へと進むことをお勧めします.

 最後に,鳥学会員の方々にお得な情報を提供します.本書は,著者割りで購入できます.購入を希望される方は,下記のとおり,東海大学出版部の担当者の稲英史さんまでメールで申し込んでください.

【書名】目立ちたがり屋の鳥たち-面白い鳥の行動生態
【著者】江口和洋
【体裁】A5変形,254頁,並製
【定価】3024円
【著者割引】2420円(税込)
・尚、送料は400円 3冊以上の場合,送料小会負担でお送りします
【発 行】東海大学出版部
【発売日】2017年4月20日
【ISBN】ISBN978-4-486-02140-7

 お支払方法 振込、MASTER・VISA CARDを但しカードの場合は、カード名義、カード番号、有効期限をご連絡ください。 ご購入の場合はメールにて稲(inaair@tsc.u-tokai.ac.jp)までご連絡ください

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