CNS(Cell, Nature, Science)など世界のトップジャーナルに論文が掲載されることは、研究者としてはやはり目指してみたい目標です。Cellは、分子レベルあるいは細胞レベルに関する研究を掲載する雑誌なので、鳥の分野(少なくとも野外鳥類を対象とするような分野)はお門違いといえるかもしれません。しかし、NatureとScienceであれば、可能性はあります。
この1月に、そのNatureに、鳥学会員である天野さんの論文が掲載されました。天野さんは東大で学位を取得後、農環研を経て、イギリスのケンブリッジ大学に海外学振の特別研究員として着任、今も同大学で研究を続けています。
天野さんは昨年も海外での研究事情の記事を掲載してくださっています。
鳥学会に属する人の中では、天野さんは珍しくマクロな視点で研究をしています。ひとまずわかりやすいので、「マクロな視点」と表現はしましたが、天野さんの実態を表すにはあまり適当ではありません。「マクロな視点」というと、マクロレベルで観察されるパターンに着目しているような印象を受けてしまいますが、天野さんの視点は、個体レベルから生態系レベルまでを貫き、そして、そこに時間の変化と空間スケールも加えて、たぶん、本来の形に近い生態系を把握しようとしている感じがします。我々は、観察や理解しやすいので、ついつい個体レベルの現象とか、空間を区切ってものを考えがちです。それはそれで意義深いと思うのですが、天野さんのような視点をもった方がいることで、我々の研究もまた違う価値を持ってくるような気がします。
さらにもう1つ天野さんの研究視点として特別なのは、保全という人間の行為を科学的に見ていることだと思います。それは一見、科学哲学者の領分のような気もします。ですが、一昔前に、科学哲学者がやっていたことは、あたかも「窓越しから、何を言っているかわからない夫婦喧嘩を見て、論評していた」ようなものでした。それはそれで、面白い論評だったかもしれませんが、あまり何も生み出さなかったような気がします。対して、天野さんは、夫婦喧嘩を仲裁することを目的として、冷徹でありながらも、妥協策や落としどころを見つけるために科学的な視点で観察をしている気がします(保全活動と夫婦喧嘩を同列に扱っては大変失礼だと思いますが、意図はなんとなくわかってもらえそうなので許してください)。
今回の論文は、その天野さんの持つ2つの視点が組み合わさってできた論文のような気がします。この論文では、それぞれの国におけるガバナンスの強さ(法律の施行などが実効的にいきわたる度合)が、生物多様性の保全の有効性に強く影響していることを議論しています。生物多様性の空間的時間的変化をデータから解析しつつ、それをもたらしている人間活動を分析しているわけです。おそらく天野さんにしかできない研究です。
そこに至るまでの苦労や裏話を鳥学通信に書いてもらうよう依頼したところ、快く引き受けてくださいました。記事はこちらです。
天野さんの裏話を読んでみていただければわかりますが、掲載に対する強い意志を感じます。もちろん、研究者としての気概のようなものもありますが、義務感あるいは正義感のようなものもそれを後押ししているような気がします。
海外で研究をしようと考えている若手(だけでなくてかまいませんが)の研究者、トップジャーナルを目指そうとしている研究者、保全にかかわっている研究者の方には、特に興味深い内容ではないかと思います。そして、そうではなくて、もっと局所的な場所で、特定の種について研究をしている人たちにとっても、自分たちの研究をいつもと違った視点で見てみるきっかけになるのではないかと思います。