科学・技術分野の次世代育成と環境づくりにおいて男女差をなくすために ―第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムの内容を読んで―

上沖正欣(日本鳥学会企画委員)

 日本鳥学会は、自然科学系分野の男女共同参画を進めるために2002年に設立された男女共同参画学協会連絡会にオブザーバーとして参加しており、毎年開かれるシンポジウムに出席している。私は今年のシンポジウムに企画委員として出席予定だったが、2019年10月12日にお茶の水女子大学で開催予定だった「第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム-科学・技術分野の次世代育成と環境づくり」は台風の接近に伴い中止となり、参加予定者への講演要旨集の送付と発表ポスター等の公開のみとなった。そのため、公開された資料についての所感を述べることで今年度の報告に代えたい。
 男女共同参画の実現が21世紀日本社会の最重要課題と位置づけられ、1999年6月に「男女共同参画社会基本法」が公布施行されてから20年以上経過しているが、日本における研究分野における女性研究者比率は15%程度と、30%を超える諸外国と比較して最低水準となっている。特にSTEM分野(Science, Technology, Engineering, Mathematics)と称される科学・技術・工学・数学分野において、学力や業績に男女差はないにもかかわらず女性研究者の比率が低いことが指摘されており、政府や大学、学会は採用方法の見直しや女性向け支援制度の創設、ワークショップ開催など様々な取り組みを進めている。女性比率の向上は、単純に性比が平等になるというだけではなく、女性をはじめとする多様な人材の活躍を推進し、社会構成や意思決定のダイバーシティが創出されるというメリットにもつながる。実際、企業においては、男性ばかりの均質な人材の組織よりも、女性がいる組織のほうがリスク管理能力や業績が向上し、イノベーションが起こりやすいという調査結果がある。
 発表資料を読んでいる中で、九州大学の女性枠採用のデータに目が留まった。年齢層の高い役職である教授は既婚率が高い(86%)反面、子供がいる割合が少ない(14%)が、准教授や助教クラスでは既婚率が50~70%程で子供がいる割合は50%前後ということだった。若い世代の職場環境やワークライフバランスが改善傾向にあることが指摘されていたが、恐らく社会的抑圧の緩和や女性自身の意識変化も関係しているだろう。その他、いずれの大学・学会の発表結果においても女性比率は年々増加する傾向が見て取れた。こうした流れは素直に喜ばしいし、今後も続いて欲しいと思う。しかし、全体の増加率は年1%前後とごく僅かであり、連絡会が掲げる2020年に女性研究者の比率を30%とする目標には遠く及ばず、更に10年以上かかってしまう計算になる。
 最大のボトルネックとなっていると思われるのが、大学院への女性の進学率の低さだ。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2019」によると、学部生の男女比はほぼ半々なのだが、そのうち修士課程に進学する男性が15%なのに対し、女性は7.6%と約半数になっている(その後の博士課程への進学率や職業選択に顕著な男女差はない)。つまり、研究職の女性比率を増やしたいのであれば、学部生のうちから対策を考える必要があるということだ。ただ、男女平等社会が実現されるほど、女性は科学や数学の道を選ばなくなるという「男女平等パラドックス」という問題もあり、科学分野で性比の偏りを解消することはそれほど簡単ではない。
 鳥学会が過去に「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」へ提供した2006~2010年のデータを見ても、この傾向が見て取れる。つまり、鳥学会学生会員の男女比はほぼ半々であるのに、一般会員における女性会員の割合は1/4程度と明らかに少ないのだ。対象年内で継続して会員になっている割合も、男性会員はほぼ100%であるが、女性会員は65%と4割近くが退会してしまっている。これは2015年の同シンポジウム報告でも、川上和人氏が問題点として挙げている点である。鳥学会としても、退会する際にアンケートを取ったり、将来の人生設計や職業選択をテーマに女性同士の意見交換会などを実施したりするのもよいかもしれない。鳥学会においても、より積極的に女性に働きかけなければ、男女差を縮めることは難しいだろう。
 また、個人的に気になったのは男女の意識差である。連絡会のウェブサイトで閲覧することのできる過去の大規模アンケート結果を見てみると、男女共同参画のために今後必要なこととして、男女共に「男性の意識改革」と回答した割合が一番多くなっており、女性では「育児介護支援策等の拡充」「男性の家事育児への参加の増大」がそれに続く。いずれの項目においても男性の回答割合は約5~10%低く、特に「男性の家事育児への参加の増大」は男性49%・女性63%で、差が15%と最も大きくなっており、男女間の温度差が感じられる。仕事と子育ての両立に対する苦労や不安が女性側にだけ偏るのは明らかに不公平だが、私自身男性として、そして身近な人の話を聞いていても、職場における男性への期待や家庭における男性の「甘え」があるように感じている。女性の社会進出を促すのであれば、まずは男性の意識改革をおこなって無意識のバイアス等を排除し、職場の育児支援制度を充実させ、男性が積極的に家庭進出するという、男性側の働きかけが何よりも必要であると思う。
 近年、働き方改革や男性の育休取得、ワークライフバランスが頻繁に叫ばれるようになっているが、こうした社会潮流との相乗効果により、研究職に限らず様々な社会において男女差が今後益々改善され、「次世代育成と環境づくり」への大きな推進力となることを期待したい。そして近い将来には、男性だから女性だからと言われない、個々の能力が真っ当に評価される、真の意味で偏見の無いジェンダー平等・公平な社会が実現されればよいと、切に願う。

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