北村 亘(東京都市大学)
金井 裕(日本野鳥の会)
浦 達也(日本野鳥の会)
北沢 宗大(北海道大学)
*E-mail: shigeho@affrc.go.jp
*本報告は同タイトルのフォーラムの記事(日本鳥学会(69(1):130-132)に画像とリンク先を追加したものである。
はじめに
近年,大規模な太陽光発電施設の建設が国内各地でみられているが,それに伴い,環境保全上の問題も生じている.持続可能な社会の構築に向けて,再生可能エネルギーの利用の促進は必須だが,環境破壊や生態系への負の影響はできる限り回避する必要がある.しかし,太陽光発電施設が鳥類をはじめとする生態系にどのような影響を及ぼすのか,十分に解明されていない.
そこで,鳥類保護委員の佐藤,北村,金井が中心となって,大規模太陽光発電施設が鳥類に与える影響をテーマに自由集会を企画した.本集会では,これまでの知見を総括するとともに,環境アセスメント制度の中での扱いについて情報を共有して,論点を整理し,さらに研究者にどのような研究が求められるかの意見交換を図ることを目的とした.
話題1: 集会の趣旨説明と鳥類保護委員の活動
2019年7月に環境影響評価法施行令が一部改正され,太陽光発電施設も環境アセスメント制度の対象となることが決定した.しかし,一定規模以上の施設が対象となるため,それに該当しない施設は対象とならない.2019年6月に日本鳥学会鳥類保護委員会は環境省に対して,太陽光発電施設に関する意見書(鳥類保護委員会2019)を提出した.要望内容は,次の3点である.
1)太陽光発電施設のもたらす自然環境への影響の調査・研究の実施
大規模太陽光発電施設の設置が,鳥類をはじめとする生物の生息および自然環境に対してどの程度の影響を及ぼすか,予測・評価をできるようにするために,調査・研究を推進すること.
2)鳥類への影響の回避措置の実施
大規模太陽光発電施設の設置を行う場合,予防原則に基づき,鳥類への影響を回避もしくはできるだけ低減させるための措置を講じるようにすること.
3)環境影響評価法等の法制度の整備
50ha以上の開発面積を伴う太陽光発電施設計画については,環境影響評価法の規制の対象とすること.50ha未満の計画についても,事前届出制度や公表の義務付けなど,必要な制度を早急に整備し,トラブルに繋がりそうな計画を早期に把握するとともに,行政指導を行うこと.
以上のように,環境影響評価制度の対象となる発電施設の規模要件を厳しく設定することを求めるとともに,鳥類や生態系への影響調査,および予防原則に基づく影響の回避措置を求めている.
なお,国の環境影響評価法施行令改正では,出力が4万kW以上である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第一種事業とし,出力が3万kW以上4万kW未満である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第二種事業とすることとなっているが,出力4万kWは100haに,3万kWは75haに相当する.大規模太陽光発電施設については,2020年から環境影響評価を義務づけることが2018年に閣議決定されたが,その際に対象となる事業の規模要件として100ha以上とされた.しかし,2019年現在,条例で太陽光発電事業を環境影響評価の対象としている自治体では50ha以上とするものがもっとも多かった.環境影響評価法の対象は埋め立て,干拓について50ha以上を第一種事業の対象としていることから,委員会の要望書では,太陽光発電事業についても50ha以上を規模要件とすることを提言した.
話題2: 大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響
気候変動の原因である温室効果ガスの排出量を大幅に削減することが喫緊の課題である.温室効果ガスの削減策の一つである再生可能エネルギーのうち,国内では太陽光発電の導入が進み,多くの大規模太陽光発電施設の運転が開始されている.近年,太陽光パネルの設置のために森林や草原が伐開されたり,太陽光パネルを池や沼の水面を覆うように設置するなど,野鳥の生息場所への影響が懸念される事例が多数みられ,各地で自然保護上の問題が発生している(環境省(2019)太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書参照).そこで,大規模太陽光発電が,どのように自然環境に影響を与えるのかについて課題を整理した(浦(オンライン)大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響~問題点・課題・対策~参照).
太陽光パネル設置が野鳥へ与える影響として,直接的な生息地の喪失,生息地の改変や分断,利用場所からの閉め出しの主に3つが挙げられる.設置場所が野鳥にとって魅力的ではない場所(例:都市環境,集約的な耕作地,整備された工業用地など)では,影響が小さいが,保護区やその近くなどに太陽光パネルが設置される場合は,野生生物にとって貴重な生息場所である可能性が高く,野鳥へ悪影響を与える可能性も高まる.放棄耕作地や生産力の低い農地,長期間放置された工業用地などでは,太陽光パネルの設置用地とされることが多い.しかしこれらの場所では,すでに希少な動植物種が生息するなどの理由で自然保護上の重要な場所になっていることがあり,太陽光パネルの設置によって希少な動植物へ悪影響を及ぼす可能性が高い.
また,水鳥が光を反射する太陽光パネルを水域と間違い,衝突する可能性もある.カゲロウ,カワゲラのように水中に卵を産む昆虫は,光を反射する太陽光パネルを水域と間違えて太陽光パネルの表面に卵を産むことが確認されている.設置場所やその周辺が,そういった昆虫を重要な食物資源としている野鳥の生息地である場合,野鳥の繁殖成功度と食物入手の機会を減らす可能性がある.さらに,太陽光発電所を囲んでいる防護柵やフェンスは,野鳥の衝突の危険性を高める可能性がある.
なお,太陽光パネル設置による環境や生態系へ及ぼす影響として,次のようのものがある.太陽光を地表が反射する割合が変化し,大気の温度に影響を与える.地表面温度と大気境界層の状況が変化する.土地利用や土地被覆の変化が生じる.外来植物の侵入や生物相の変化を促す.
以上のように,さまざまな影響が生じることが考えられるので,それを避けるために,設置前に詳細な環境影響評価を行うことが必要である.
話題3: 太陽光発電事業に係る環境影響評価について
令和元(2019)年の環境影響評価法の施行令改正により,令和2(2020)年4月から,100ha以上の太陽光発電施設が環境影響評価法による評価対象となる(環境省(オンライン)環境アセスメント制度:令和元年政令改正関係(太陽電池発電所の追加)参照).太陽光発電については,すでに日本国内の累計で43GWの発電施設が導入されている.日照条件が良ければ,どこでも設置できるという利点もあるが,建物の屋上などだけでなく,森林伐採のような開発行為を伴う事例も多い.また,地域住民に対する説明が不十分な事例もある.
100ha以上(4万kW)が第1種事業,75ha以上(3万kW)が第2種事業となり,それよりも小規模な事業は自治体による条例での評価対象となることがあり得る.さらに規模が小さいものは,環境への影響に関するガイドラインを環境省が設定して,それに沿うように促すことを考えている.その場合は,自主的な簡易評価をしてもらうことになる.事業規模の要件については,他の種類の事業案件と同等にする必要性がある.
太陽光発電事業はさまざまな場所に設置されることが想定されるので,地域特性を考慮すべきと考える.第1種事業は必ず環境影響評価をするが,第2種事業でのスクリーニングにあたっては,森林伐採,土地の安定性(土砂流出),水の濁りなどが懸念される場合に評価の対象とすることを想定している.
話題4: 太陽光発電施設は鳥類の生息地として機能しているか? 北海道勇払平野での検証
生物多様性に対する脅威として,土地利用の変化と気候変動はどちらも重要な要因である.しかし,気候変動への対策である再生可能エネルギーの導入には,多くの土地が必要なものもある.大規模太陽光発電はその一つであり,野生生物の生息地の保全との間にトレードオフの関係が生じる.
太陽光発電施設における鳥類の生息地としての価値は,これまで知られていなかったので,こうした施設を建設した場合,どの程度,価値が低下するかを正確に評価できなかった.そこで,鳥類の生息地としての価値を他の土地利用方法と比較するための研究を行った.
調査地は北海道南部の勇払平野であり,22haないし62haの太陽光発電施設が3カ所建設されている.太陽光発電施設,湿原,耕作放棄地,牧草地,畑の5種類の土地利用について,鳥類の繁殖期の生息状況を調査した.その結果,種数,個体数は湿原や耕作放棄地に比べて太陽光発電では少なく,牧草地や畑と同程度であった.例えば草原性の種であるノビタキでは,繁殖成績と餌資源になる昆虫のバイオマスは,太陽光発電と他の土地利用との間で差はなかった.ただし,太陽光発電施設の中でも除草の場所を限定した施設では,生息する鳥類の個体数が多かったので,こうした配慮によって生息地の価値を多少高めることは可能かもしれない.
この研究では北海道の一地域だけのもので,全国的な評価をするためには,広域かつ多地点の調査が必要である.また,今回の調査では草原性の鳥類を対象として扱ったため,森林性の鳥類への影響は不明である.今後のさらなる研究が求められる.
以上の4名の演者による話題提供の後,企画者の一人である北村が,再生可能エネルギーの導入目標が政府によって示されている中で,今後も太陽光発電施設の増加が見込まれること,しかしながら,千葉県の山倉ダムでは水面に太陽光パネルが設置されたために水鳥の飛来数が減少した事例や,太陽光パネルを設置するために林地が伐採されたことで土砂崩れなどの問題が生じている事例などがあることを紹介した.その上で,研究者としては,効率的な調査手法や評価手法の確立,鳥類の生息地の視点から保全の優先順位の高い場所の提示,発電施設の望ましい管理方法などに取り組めるのではないかと提案した.
これを受けて,会場の参加者との意見交換を行った.時間が不足して,討議が不十分だった感があるが,100名余りの参加者の方々が熱心に聞いてくれたことは,持続可能な開発と環境保全の両立という困難な課題に興味を持つ人が多いことの表れとも言える.研究活動が持続可能な社会の構築に役立つよう努力したい.