2021年度の黒田賞を受賞して

農研機構 農業環境研究部門
片山 直樹

 この度は日本鳥学会黒田賞という、大変栄誉ある賞を受賞できたこと、本当に嬉しく思っております。改めて、これまでお世話になった皆様に深くお礼申し上げます。また、先日の私の受賞講演をお聞きくださった皆様、本当にありがとうございました。

 私の研究は、受賞講演でご紹介した通り、農地生態系の鳥類をはじめとする生物多様性と農業活動の関係を、フィールドワーク、市民データ、システマティックレビュー、メタ解析や文化的データベースの活用など、多様なアプローチで探ることです。鳥類学が果たすべき社会的役割を評価していただけたこと、本当に光栄に思っています。私の研究内容の多くは、つい先日、応用生態工学会誌に出版された和文誌総説でも紹介していますので、興味のある方はぜひご覧いただければ幸いです。

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大学院の時から研究をはじめたチュウサギ

 今回は、黒田賞受賞を通じて私が感じたことや、ここ数年間の研究生活について、率直にお話ししたいと思います。まず、私が黒田賞を受賞できた要因を考えてみると、やはり「常勤職として10年近く研究を続けられたこと(テニュアトラック制の5年間も含む)」に尽きるのではないか、と思っています。私自身、博士号を取得してから3~4年間は、なかなかうまく論文が書けず、沢山のリジェクトを経験してきました。しかし5~6年目あたりから、特に明確なきっかけはないのですが、一つ壁を越えたような感覚を得ました。そしてその後、Biological ConservationやJournal of Applied Ecologyなど、ずっと憧れていた雑誌にも論文を出版できました。つまり、自分に特別な才能・能力があったのではなく、「継続は力なり」という格言の通りだったのだろうと思います。(もちろん、継続できた自分を少しは褒めてあげたいとも思っています。)

 そのように考えると、もし若手・中堅研究者の雇用問題が一気に解決して、安定した環境で研究を続けることができるようになれば、一体どれだけの魅力的な研究成果が生まれるのだろう、と想像せずにはいられません。もちろん、常勤職でなくても大変な努力と創意工夫をされ、素晴らしい研究成果を挙げてきた方々も、歴代の黒田賞受賞者を含め数多くいらっしゃいます。そうした方々には、本当に畏敬の念しかありません。しかし、如何に突出した研究者であっても、少数の人間だけでは鳥類学の発展は望めないと思います。なぜなら、様々な種の生態や進化を解き明かし、また保全につなげるには、多くの人間の協力が不可欠だからです。だからこそ、鳥を愛する一人でも多くの方が、安心して研究や活動に取り組むことのできる社会になることを願っています。こうしたメッセージを、黒田賞の受賞者から発信することに何かしらの意味があれば、と思っています。

 さて、ここ数年の研究生活についても、少し触れたいと思います。私にとって最も大きな出来事は、子どもが生まれたことです(現在、5才と1才になりました)。これによって、私の生活や価値観は劇的に変わりました。子どもたちが生まれてきてくれたのは本当に幸せなことですが、子育てに「休日」はないので、フィールドワークに行ける機会は相当に制限されます。そこで、自分の研究スタイルを大きく変えることにしました。フィールドワークの時間を大きく減らし、市民データの活用、文献レビューやそれを応用したメタ解析など、空き時間に進められる研究をメインにしました。この変化は、研究の幅を大きく広げてくれるなど、ポジティブな影響をもたらしてくれました。そう考えると、黒田賞を受賞できたのは家族のおかげかもしれません。

 しかし、得るものがあれば失うものもあります。研究と育児の両立には、本当に悩みました(今も悩みは尽きません)。この話を始めるとあと数千字は軽く書けそうですが、誰も読まないと思うのでやめておきます。一つ言えることは、鳥学会は子どもを持つ研究者に対してとても優しい、ということです。実際、今回のオンライン大会でも託児サービス利用料を補助していただき、そのおかげで安心して大会に専念することができました。大会事務局の皆様のご配慮に、この場をお借りしてお礼申し上げます。

 長々と、研究内容と関係ない話ばかりしてしまいました。来年は、コロナの問題が落ち着き、網走で皆様とお会いすることができるでしょうか。一年後、社会がどうなっているのか、私には全く想像もつきません。対面の良さ、オンラインの良さ、それぞれあると思います。それぞれの良いところを合わせ持った社会になることができるのでしょうか。希望を持って、一年後を楽しみに日々を過ごしたいと思います。

 このような雑文を最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

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