ドイツの鳥類学研究所での研究生活(後編:ドイツでの暮らし)

太田菜央(マックスプランク鳥類学研究所)

(前編 マックスプランク鳥類学研究所の研究環境 はこちら)

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たまに見かけると嬉しい小鳥、アオガラとゴシキヒワ

ドイツでの暮らし

南ドイツは北海道より少し緯度が高いところに位置していて、気候も北海道ととてもよく似ています。ただし雪はかなり少なく、たまに地面がうっすら覆われる時期がある程度です。私は長らく札幌に住んでいたので寒さに関してはむしろ楽になったくらいなのですが、新鮮だったのは夜の短さでしょうか。朝は8時を過ぎても暗く、16時には日が沈みます。個人的には家でじっとしていることを地球がオフィシャルに認めてくれている感じがして嫌いではないのですが、日光不足で気分が沈みがちになるという弊害が出る人も多いようです。逆に夏は20時を過ぎても明るく、湖のそばのビアガーデンでビールを楽しむのが南ドイツの定番です。

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異様に気合いが入っているボンの自然史博物館の剥製たち

 

ヨーロッパで暮らす醍醐味は何と言っても、陸続きの土地で色々な国の色々な景色・文化に触れられることかと思います。日本育ちの身からすると陸路で国境を超えるという行為がまず面白いですし、隣り合った土地で言葉も文化もガラリと変わってしまうのが不思議です。博物館や宗教施設は豪華で歴史のあるものが多く、土地柄が垣間見える瞬間も楽しいです。ドイツは剥製のクオリティが驚くほど高い自然史博物館が多く、周囲の環境も含めた生態描写までこだわって作られていてつい見入ってしまいます。定期的な無料開館日や若い人のための割引制度なども充実しており、文化的施設と市民の距離がとても近いなと感じます。

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鳥好きにおすすめ、マルセイユの大聖堂。メインのモザイク画はたくさんの鳥に囲まれた船がモチーフで、いかにも港町らしい祈りのメッセージが伝わってきます。なんと文鳥もいる!

 

私は研究上の成り行きでドイツに来ることになって、実はそれまで海外に行くなどと自発的には全く思う機会がなく生きてきたのですが、現在自分でもびっくりするほど楽しく過ごしています。社交好きの人にはがっかりされる意見かもしれませんが、ちょうど良くよそ者でいられることが非常に快適です。海外に出るとか好きな研究をするというストーリーは、個人のモチベーションや能力といったものをベースに語られがちですが、色々な人と会って話すうちにそれって大して信用ならないなと思うようになりました。海外にいる日本人の方の背景を聞いてみると、子どもの頃に海外に行った経験があるとか、親や周りの人の仕事が海外と関わりのあるものだったというパターンが本当に多いです。そういう背景があることはとても素敵だなと思う一方、「自分にはとてもそんな…」と思ってしまう人との差は小さなきっかけの有無に過ぎないようにも感じています。生まれや育ちで自然に作られる流れをかき乱して、私のように海外に行く発想などなかった人間が色々な仕組みや人からの助けを借りて気づけばヨーロッパで研究生活を送っている、という事態が起こるのは、現代社会のなかなか面白くて良いところだと思います。

興味のある研究室や施設が海外にあるけれど自分の能力に自信が持てないという方は、一旦自分の経験や感覚を信じすぎるのはやめてとりあえず何か行動してみる、既存の仕組みがあれば利用してみる、ということをおすすめしたいです。そういった予想外の展開の先にこそ、何か楽しい発見が待ち受けているかもしれません。

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