日本鳥学会誌71巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では、号ごとに編集委員の投票によって注目論文を決め、その発行直後からオープンアクセスにしています。

今号は、以下の論文が選ばれました。

 著者: 藤巻 裕蔵
 タイトル: 北海道における鳥類の繁殖期の分布
 DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.121

多くの研究者がもつ夢のひとつは、自分の人生をとおして取り組みつづけられる研究テーマをもつことではないでしょうか。そして、日本で生まれ育った多くのフィールドワーカーのあこがれのひとつは、広大な北海道の自然を自分のフィールドとすることではないでしょうか。

このモノグラフは、私たちの研究者としての夢が単なる夢ではなく現実のものにできること、それが多くの研究や保全活動に貢献するすばらしいランドマークとして具体的な形にできることを示してくださった論文だと、私は思っています。この論文をよんで元気づけられる読者は、私だけではないと思います。

藤巻先生からも、熱いメッセージが届いています。先生の研究者としての半生が濃縮された400字です。

 北海道の鳥が見たくて1957年に北海道の住人となったのだが,大学では「鳥では飯は食えないぞ」という教授の一言で.卒論から博士論文まではノネズミの生態をテーマとすることになった.
 
 就職した北海道立林業試験場ではノネズミの研究の傍ら細々と鳥の調査もしていたが,1975年帯広畜産大学に異動したのを機会に,おもな研究対象を鳥にすることにした.翌1976年から何処で,どのような環境で,どのような鳥が見られるかを調べ始めた.調査地は低地の住宅地,農耕地,湖沼周辺の草原から山地の森林,高山に及んだ(写真参照).登山道の少ない日高山脈の調査では川の渡渉や沢登りも経験した.
 
 これまでに自分で調査できたのは北海道の約3分の1であるが,未調査の地域については,論文・報告書,探鳥会記録,個人の未発表記録で補い,約50種の分布について発表した.これらの成果のまとめが今回の分布に関する総説である.今後も体力の続く限り調査を続けるつもりである.

藤巻裕蔵
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1. 十勝地方の農耕地,防風林が特徴的(撮影:藤巻裕蔵).
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2. 湧洞沼とその周辺の草原(撮影:藤巻裕蔵).
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3. 北海道中央部の針広混交の天然林(撮影:藤巻裕蔵).
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4. 日高山脈北戸蔦別岳(撮影:藤巻裕蔵).
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