博物館での仕事とノスリの追跡研究

北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)
中原 亨

私は現在、学芸員として博物館に勤務しております。はやいもので、現職についてから6年目になりました。このたび、鳥学通信の執筆依頼をいただきましたので、博物館の仕事と自身の研究について、少し綴らせていただきます。

博物館は「調査研究」「資料の収集・保存・管理」「展示」「教育普及」等、様々な役割を担っています。私たち学芸員は、研究に従事する傍ら、標本を作製したり、展示会の準備をおこなったり、講座やイベントを実施したりしています。繁忙期には来館者の列整理に出たりもします。
中でも大きな仕事の1つが、展示会の準備です。いのちのたび博物館では、春・夏・秋・冬に特別展を実施しており、そのうち春・夏に自然史の展示を行うことが多いです。特別展の準備では、まず学芸員間でどんなコンセプトの展示を行うかというアイデアを出しあい、その中から候補をいくつか選び、向こう数年間のおおまかな展示計画が決まります。担当者となり、特別展の時期の数か月前になると、本格的な準備が始まります。どの収蔵標本を展示するかの選定はもちろんのこと、他館に相談し、標本借用を行う場合もあります。使用する標本が決まれば、展示パネルの執筆に取り掛かります。そのほか、造作案を作ったり、事務方の職員と協力して広報戦略を練ったりもします。会期の数週間前になると会場造作が始まり、展示台やケースの位置が決まったら、標本を出して配置していきます。造作業者さんや他の学芸員と連携しながら、最後まで展示を作り上げていきます(例:2021年春の特別展の準備の様子 https://www.youtube.com/watch?v=dmvue9259Sw 私もちょくちょく映り込んでいます)。
特別展が始まってからも、関連イベントやマスコミ対応などの仕事が続き、会期が終わると、撤収作業と標本の燻蒸(害虫駆除等のための薬品処理)が行われます。このように、特別展担当者は会期を挟んだ数か月間、ほとんどかかりきりになります。私は2024年春、初めて特別展の主担当を務めることになりました。3月開幕ですが、すでに水面下で準備が始まっています。楽しんで学んでいただける特別展を目指して頑張りたいと思いますが、この先順調にやっていけるか、期待と不安が入り混じっている今日この頃です。

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特別展の展示ケース。パネルの執筆・標本やラベルの配置は学芸員が行う。

さて、私は数年前から、鳥類の遠隔追跡に関する研究に取り組んでいます。中でもメインとして行っているのが、ノスリを材料とした追跡研究です。ロガー等を用いた追跡は、渡り経路の解明だけではなく、選好環境の解析や行動生態学的な研究を行う上でも非常に有用です。私はもともと鳥類の追跡研究に興味があり、出身大学を離れたのを機に本格的に取り組み始めました。また、対象種としているノスリは比較的普通に見られる猛禽類であるにもかかわらず、注目されたことは少なく、まだまだたくさんの研究の可能性を秘めた魅力的な存在です。里山に生息するノスリは高い生物多様性を内包する二次的自然環境の指標種となるポテンシャルがありますし、渡りルートの異なる個体群間を比較することにより、鳥類の渡り行動がどのように個体群の分化に影響するのかを研究する上でもよい材料となります。これまでもいくつかの生物を研究対象として扱ってきましたが、ノスリの追跡に携わるようになって、ようやく一つの軸を得て研究を取り組めるようになったかなと思っています。
最近は、九州に渡ってきたノスリが越冬期に見せる個体間相互作用に興味を持ち、研究に着手しました。特定の個体同士の行動を追うためには、それらを狙って捕獲し追跡しなければならないという高いハードルがありますが、共同研究者をはじめ多くの方々にご協力いただきながら、そして今まで培ってきた経験をもとに試行錯誤しながら、チャレンジしています。学会や論文等で新たな成果を発表していけるよう、今後もノスリを材料とした研究に邁進していきたいと思います。

※これまでの一連のノスリ研究についてオンラインでご紹介する機会をいただきました(我孫子市鳥の博物館「鳥博セミナー」、2023年9月3日、詳細は https://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/gyoji/event/index.html )。ご興味のある方がいらっしゃいましたら、是非ご視聴ください。

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研究対象種のノスリ。
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