2023年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所・学振PD 澤田明

 この度は2023年度の日本鳥学会黒田賞を賜り、誠にありがとうございました。これまでのリュウキュウコノハズクに関する研究活動全体が評価対象となりました。私を研究者として育て上げていただいた研究指導者の方々、一人では行えない研究を共に形にしていただいた共同研究者の方々、離島での長期滞在を可能にすべくご尽力いただいた研究機関事務職員の方々、毎年半年におよぶ過酷な調査をともにやり遂げてきた学生の方々、調査生活を日々支えていただいた島の方々に深くお礼申し上げます。たくさんのデータをとらせていただいたリュウキュウコノハズクの方々にも感謝を申し上げます。この受賞報告では受賞記念講演では伝えきれなかった背景や思いを綴ることにいたします。

 約10年になるリュウキュウコノハズクとの付き合いは、2014年度に大阪市立大学の教員だった高木昌興氏に出会ったところから始まりました。当時学部3年の私は大学院から行う研究として高木先生の沖縄での野外研究に興味を持ちました。そこで学部4年の夏に、宮古島と南大東島の調査を見学しました。それぞれの調査地の特徴を実際に見ることで、自身により合っていると感じた南大東島のリュウキュウコノハズク研究を選択したのでした。
 
 島の標識個体群の長期研究は、進化学や生態学における古典であり最先端でもあります。進化の実験場としての強みを生かした島の長期研究が、何十年も前からトップジャーナルを飾る革新的知見を生み出し続けているからです。私が携わる南大東島のリュウキュウコノハズク研究も約20年研究が続く島の鳥類標識個体群の長期研究です。

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図1:南大東島のサトウキビ畑と防風林

 私は、配偶者選択を中心テーマに据えつつ、南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を様々な視点からとらえた基礎研究を行ってきました。その内容は、形態の記述のようなものから、個体数変化の解析のようなものまで多岐にわたります。その背景には個体から個体群の各過程は関係しており、配偶者選択を理解するには配偶者選択以外の要素にも目を向ける必要があるという考え方がありました。博士号取得後は波照間島を新たな調査地として加えました。複数の島で調査することで、島で行われてきた進化の実験の繰り返しデータを得るためです。こうした基礎研究を積み重ねることでより応用的な研究に取り組んでいく狙いもあります。しかし、検証する仮説の普遍性や掲載雑誌のインパクトファクターの高さが評価される世の中で、個々の基礎記述が評価を得ることには常々難しさを感じています。それゆえに、これまでの基礎の積み重ねが今回の黒田賞という形で評価を得たことを大変嬉しく思います。

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図2:波照間島のリュウキュウコノハズク

 受賞記念講演では具体的な研究成果の話に加えて、アウトリーチ活動についても話しました。調査地に長期滞在しながらの研究になるので、私の研究成果は地域の方々の支えのもと得られているものです。調査地への恩返しの気持ち、研究者としての責任感、さらには長期滞在型研究者だからこそできる何かがあるはずという使命感のもと、島でのアウトリーチ活動に力を入れてきました。

 アウトリーチの重要性を説いた受賞記念講演をお聞きになった方の中には、野外調査には高いレベルのコミュニケーション能力が要求され、私はその力を備えていると思われた方もいるかもしれません。しかし、実際の私はむしろそのような活動に苦手意識を持っています。南大東島の研究系の先輩方は地域交流を特に上手に行なっていました。それゆえに、そのようにできない自分は今後島で研究を続けていくのは無理かもしれないと思っていた時期もありました。頻繁に飲み会に参加すれば明らかに目先の調査時間は削られます。とはいえ、調査だけして地域と交流を全く持たないのがよくないことも分かります。おそらくちょうどいいバランスがあり、その最適なバランスはきっと研究者の性格や研究スタイルによって変わってくるはずです。調査の年数を重ねてこれに気付いたことで自分のペースで素直に調査地に向きあえるようになり、この先も調査を続けていけそうだと思えるようになりました。これから野外調査を行なう学生には地域交流に不安を覚える学生もいるかもしれません。私はそういう学生には「素直に向き合っていけば大丈夫」と伝えたいです。

 最後に、日本の島の長期研究についても思いを記します。豊富で多様な島を擁する日本で島の長期研究が盛んに行なわれないことは、非常にもったいないことだと思います。進化生態学の視点での長期研究は歴史的に欧米で盛んに行なわれてきました。時間がものを言う分野であり、新規参入した場合の数十年の時間差はどう頑張っても埋められないことは事実です。しかし、ではやる意味はないのか?というと、そうでもないはずです。たとえ研究期間が欧米より短くても研究者の工夫と着眼次第で、その時間差に負けないくらいの独自性や意義を見出すことが出来ると考えています。現在の我が国の研究環境は、地道な基礎研究を続けやすい環境とは決していえません。それでも、私は沖縄のリュウキュウコノハズク研究系の存続を諦めず、島の長期研究の価値を世に発信し続けていきたい所存です。

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