和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。
72巻2号の注目論文をお知らせします。
著者: 川路則友・上沖正欣・川路仁子
タイトル: センダイムシクイの繁殖生態とツツドリによる托卵
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.72.181
この論文は、なんと17年にわたるセンダイムシクイの繁殖生態に関する詳細な研究の報告です。札幌市にある森林総合研究所北海道支所の実験林で4月から5月にかけほぼ毎朝、日の出前から行なった調査の成果です。たくさんの個体を個体識別していますし、巣のビデオ撮影も行なっています。これをよんだだけで、ぼくはちょっとドキドキします。センダイムシクイと本種へのツツドリの托卵のきめ細かなデータが蓄積されていく様子が浮んできます。同じフィールドで17年という年月通いつづけ明らかにした成果を粛々と報告されている著者をうらやましく思います。電子付録の貴重な動画もぜひご覧ください。
私事ですが、この12月で日本鳥学会誌和文誌の編集委員長の任期4年を終えます。その最後にこの論文を注目論文として紹介できることを誇りに感じています。鳥学に興味をもちはじめたばかりの皆さん、忙しい盛りの中堅の皆さん、そしてベテランの皆さん、それぞれの方々によんでいただきたい論文と思っています。
以下は、著者である川路さんの言葉です。元気目盛りが上がります。
注目論文に選んでいただきありがとうございます。身近な鳥であるはずのセンダイムシクイの繁殖生態を詳細に調べた論文は意外にもこれまで皆無と言ってよく、ましてやツツドリによる托卵率や繁殖成功率などに至ってはまったく手つかずの状態です。そこで始めた研究ですが、まずは目標を最低100個以上の活動巣発見に定めたものの、敵も然る者、なかなか一筋縄ではいきません。おまけに私自身がかつてヤブサメを追った若い頃と異なり、密生したチシマザサに分け入ることを躊躇する年齢になってしまっていたことも想定外でした。幸い、第三著者が巣探しのスキルを徐々に向上させてくれたおかげもあり、時間はかかりましたが、何とか目標を達成でき、形にすることができました。なお、研究の過程で得られた興味深いビデオ映像の一部を、電子付録として動物行動映像DBのURLで示しました。読むだけでなく、クリックして見ても楽しめる論文になったのではないか、と自負しています。元職場の実験林という恵まれた調査地環境を与えられたことに感謝するとともに、次はどの種に迫ろうかと、年甲斐もなく考えてしまいます。(川路則友)
ツツドリヒナにより巣の外へ押し出されたセンダイムシクイの卵4個。メス親は知らん顔でツツドリヒナを抱いている。こののち何日も放置される白い卵は、いかにも捕食者に巣の存在までも教えていそうだが、不思議とやられない。
(川路則友撮影)宿主の巣からはみ出しそうなツツドリヒナ。翌日、無事巣立ちした。
(川路則友撮影)巣立ち直前のセンダイムシクイヒナたち。
(ビデオ映像より)(川路則友録画)