国際生物音響学会に参加して

五藤花(北海道大学環境科学院)
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秋の北海道大学札幌キャンパス。銀杏並木が有名で毎年多くの観光客が訪れる。ちょうど学会期間の中日に紅葉がピークを迎え、主催者である相馬雅代先生の完璧なスケジュールに脱帽。

 

2023年の10月27日から31日にかけて、北海道札幌市の北海道大学にてInternational Bioacoustics Congress (通称IBAC、アイバックまたはイバック、呼び方に個人差あり)が開催された。世界の20以上の国々から、200人を超える学生や教員、専門家が参加した。

そもそもBioacousticsすなわち生物音響学とは何かというと、ざっくり言えば生き物の音をひろく扱う学問である。その懐の広さたるや、仏様もびっくりレベルである。分野で言えば、遺伝子から神経生理、解剖学、行動、生態系まであつかう生物学、音の物理的性質、機械学習、録音機材を扱うような工学寄りまで。音の周波数で言えば、ゾウのような低音から、コウモリやネズミ、イルカ等の超音波まで、ヒトの可聴域を優に超える範囲の音を扱う。ちなみにこれはIBACを運営しているInternational Bioacoustics Societyによる生物音響学の紹介文からかいつまんでご紹介している。ご興味のある方はこちらを読んでいただけると嬉しい。

私にとってこれが初めての国際学会だったのだが、いち参加者としても、そして北海道大学の運営側としても学会に携わらせてもらった。準備段階から皆が帰るまで、わくわくのとまらない非常にエキサイティングな学会だった。私がインコだったなら、終始瞳孔を収縮させながら頭を振っていたことだろう(※補足情報)。

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学会初日の朝。皆でポスターボードを用意中。

 

準備期間には、発表要旨を読んでプログラムを組んだり、ポスター賞の投票箱を段ボールから作ったりと、学会運営の苦労の一部を味わった(主催の先生方はもっと大変だったに違いないので”苦労の一部”としておく)。しかし何せコロナ禍で実地の学会経験も浅く、国際学会が初めての学生である。すべてが新しい挑戦だったが、先生方が適宜助言してくださったおかげで、なんとか仕事をこなしていたように思う。そしてその傍ら、自分のポスターも並行して行っていた。多忙を極めていたが、その分ポスターが刷り上がった時の達成感はひとしおであった。そんななか、夜にふらふらになって研究室のデスクに帰ったら、後輩からチョコの差し入れが。「ごとはなさん、おつかれさまです、チョコでーす」と書かれた付箋が添えられていた。実際こういうのが何より心温まる。素敵な研究室メンバーに恵まれているなとありがたく思った。

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左:前日の夜に撮った看板の写真。

 

そしてやってきた当日。北大のキャンパスは紅葉真っ盛りでゲストの皆様をお迎えするには絶好の季節だった。早朝からぞくぞくと集まってくる外国人の方々に若干の緊張を覚えたが、国際学会初心者にとってありがたかったのは、なんといってもそのフレンドリーな雰囲気だった。

口頭発表では、対象種の鳴き声を紹介するときに実演してみせる人が続出。初日から会場にサルやら鳥やらの鳴き真似が飛び交い会場は大盛り上がり。口頭発表のタイムキーパーを担っていた私は、盛り上がっている時ほど、楽しそうにお話されているところで発表を打ち切らなくてはならないのが非常に心苦しかった。私だってコーラスに加わりたい。

自分が参加したポスター発表では、論文で名前を拝見した研究者の方々と実際に議論することができ、とても刺激になった。論文には出てこないような日々のちょっとした気づきやアイデアまで含めて、国境や立場を超えて議論できるというのは大変貴重な機会だったと思う。ポスターセッションが終わってもまだまだ喋り足りないと思うくらい時間はあっという間に過ぎていった。

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ポスターは刷って貼っておしまいではない。刷ってからが勝負。 割り箸と画用紙で自作した小道具まで使ってプレゼンに挑んだ。その効果もあってか、ありがたいことに皆様からの投票でポスター賞をいただいた

 

毎朝の招待講演にも、鳥を扱っている研究者が数名登場した。ヨウムのアレックスで知られているペッパーバーグ博士の講演は、まるで彼女の本を読んでいるかのように興味深いエピソードでいっぱいだった。南アフリカでミツオシエの研究をされているスポティスウッド博士の講演は研究内容が面白過ぎて朝の眠気が全て吹っ飛んだ。どれもタイムキーパーの特権で最前列の席から聴けたことを非常にうれしく思う。

最終日の最後まで、参加者の皆さんが楽しそうに過ごしているのをみて運営側としては非常に嬉しかった。会場を閉じますよといっても、皆名残惜しそうに会話を続けていてなかなか出て行かない(こういうとき日本人だったら蛍の光でも流せば出ていってくれそうなのに、などと妄想した)。施錠を任されている運営側としては早く閉めてしまいたいが、それだけ参加者の皆さんにとって良い議論や交流の場になっていたと思えば頑張った甲斐があるというものだ。おかげで、初めての国際学会参加と運営をとても温かい気持ちで終えることができた。

次のIBACは2025年、開催場所はデンマーク。鳥を含めた生き物がつくりだす音に興味のある方は、ぜひ参加を検討してみてはいかがだろうか。

- 受賞されたポスター賞のインタビュー記事はこちら(英文。PeerJのサイトに移動します)
- 五藤さんの海外留学シリーズの記事はこちら
- 補足情報:ディスプレイの際に頭を振るインコ目の例(Youtube: キバタンワカケホンセイインコ
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