海鳥の体の大きさの種内地理変異

2016年7月11日
名古屋大学大学院環境学研究科
日本学術振興会特別研究員PD
山本誉士

はじめに、私は主にバイオロギングという手法を用いて動物の行動・生態を研究しています。バイオロギングでは、動物に小さな記録計(データロガー)を取り付けることにより、その個体の行動や周囲の環境などを測定・記録します(詳しくは、高橋 & 依田 2010 日本鳥学会誌 59, 3–19「総説・バイオロギングによる鳥類研究」をご覧ください)。大学院ではオオミズナギドリCalonectris leucomelas(写真1)という海鳥の渡り行動を調べるため、北は岩手から南は西表島まで、日本各地の繁殖地で野外調査をおこないました。その過程において、なんだか繁殖地によってオオミズナギドリの体の大きさが違うような気がする、、、ということを感覚的に思っていました。データロガーを装着するため鳥を捕まえるのですが、北に位置する繁殖地では両手でしっかりと鳥を持ちますが、南に位置する繁殖地では片手で楽々持つことができました。

一般的に、動物の体の大きさは寒い高緯度域では大きく、暖かい低緯度域では小さいことが知られており、このような地理変異をベルクマンの法則と呼びます(種内変異はネオ・ベルクマンの法則、Renschの法則、ジェームスの法則などと呼ばれます: Meiri 2011 Global Ecology and Biogeography 20, 203–207)。ベルクマンの法則やジェームスの法則は体温維持に関わる適応であり(体が大きいほど体重あたりの体表面積が小さくなるため熱を逃がしにくい)、多くは陸上動物で検証されてきました。一方、海洋動物、特に海鳥類や海棲哺乳類の繁殖地の多くはアクセスが困難な僻地や断崖に形成されるため、繁殖地間で体の大きさが異なることは経験的に知られていましたが、繁殖分布域を縦断して種内変異傾向を調べた研究はありませんでした。

そこで、2006〜2013年にかけてメイン調査の合間に成鳥の外部形態を測り(写真2)、8箇所の繁殖地(図1)から合計454羽の計測データを集めました(苦節8年!)。そして、主成分分析により体の大きさの総合的指標(PC1)を算出し、オオミズナギドリの体サイズと繁殖地が位置する緯度・経度・気温(1981〜2010年の7〜9月の平均気温:本種の抱卵・育雛期)との相関を調べました。

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写真1. オオミズナギドリは日本や朝鮮半島、台湾などの東アジア周辺の海域で繁殖する海鳥で、平均的な大きさはカラスより少し小さいくらいです。繁殖期には地中に掘った長さ数メートルの巣穴で営巣し、一夫一妻で1羽の雛を育てます。主な餌はカタクチイワシなどの魚で、洋上では多くの時間を滑空(羽ばたかずに飛ぶ)して移動します。非繁殖期にはパプアニューギニア北方海域、アラフラ海、南シナ海まで移動・滞在します(Yamamoto et al. 2010 Auk 127, 871–881; 2014 Behaviour 151, 683–701)。

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写真2. 繁殖地での調査風景(『生物時計の生態学〜リズムを刻む生物の世界〜(文一総合出版)』に海鳥の野外調査の様子を書いておりますので、よろしければご覧ください)。露出嘴峰長、鼻孔前端嘴高、全頭長、翼長、ふしょ長を計測。成鳥の体重は雛への給餌前後および採餌トリップに費やした時間で大きく変動するため、体重は主成分分析から除きました。

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図1. 調査を実施した繁殖地の位置。オオミズナギドリの主要繁殖地の北限から南限にかけて網羅的に調査を実施しました(北緯24¬–39°、東経123–142°)。

データを解析した結果、オオミズナギドリの体サイズは緯度と正の相関を示し(図2)、北の繁殖個体群ほど体が大きいという「感覚」が支持されました。なお、気温は緯度および経度と負の相関を示しました。つまり、北に位置する繁殖地ほど気温が低いため体が大きいという、ベルクマン(ジェームス)の法則に従うということです。全体的にみると高緯度ほどオオミズナギドリの体サイズは大きくなる傾向がある一方、いくつかの個体群間では、低緯度に位置する繁殖地の方が大きいという逆の傾向も見られました(例えば、御蔵島MIと男女群島DA、宇和島UWと冠島KA:図2)。

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図2. 各繁殖地のオオミズナギドリの体サイズと緯度の関係。青はオス、赤はメス。実線は一般化線形モデルで推定した回帰直線、破線は個体群の中で特に小さい仲ノ神島個体群NAを除いた場合(極端に小さい値に回帰が影響されている可能性を考慮)。北から、FO岩手県船越大島、SA岩手県三貫島、AW新潟県粟島、KA京都府冠島、MI伊豆諸島御蔵島、UW瀬戸内海宇和島、DA長崎県男女群島、NA南西諸島仲ノ神島。

海鳥では、形態的特徴が採餌行動と関連していることが報告されています。例えば、翼面荷重(つまり、翼の面積に対する体重の割合)が小さいと、長距離もしくは広範囲を移動する場合にエネルギー消費が少なくてすむと考えられています。相似の場合、体の大きさがa倍に拡大されると、体積はa3倍になるのに対し、表面積はa2倍になります。つまり、体が大きくなるほど、表面積に対する体積の割合(翼面荷重)が大きくなるということになります。先行研究により、御蔵島(MI)のオオミズナギドリは繁殖地から採餌域まで数百〜千kmも移動し、宇和島(UW)のオオミズナギドリは主に瀬戸内海内の狭い範囲で採餌することが知られています。この仮説に従えば、あまり移動しない宇和島の個体はより大きく、長距離移動する御蔵島の個体はより小さくなることになります。このことから、各繁殖地が位置する海洋環境と関連した採餌行動の特徴が、彼らの体サイズに影響している可能性が示唆されます。

本研究の結果は、体の大きさの地理変異傾向は海洋動物にもあてはまることを示しました。一方、形態的特徴の地理変異において、生息環境に適応した(採餌)行動的特徴を考慮する必要性を新たに提唱しました。野外調査では作業とデータまとめに追われる日々ですが、その合間に対象種やその生息環境をよく観察することで、研究アイデア(科学の芽)はフィールドに沢山転がっていることを実感しました。

【論文】Yamamoto T, Kohno H, Mizutani A, Yoda K, Matsumoto S, Kawabe R, Watanabe S, Oka N, Sato K, Yamamoto M, Sugawa H, Karino K, Shiomi K, Yonehara Y, Takahashi A (2015) Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas. Journal of Biogeography 43, 801–808.

論文の中では外部形態の性差強度(Sexual Size Difference)についても議論しております。その他の研究についてはhttps://sites.google.com/site/takasocegle/1をご覧頂ければ幸いです。

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海外のジャーナルに投稿して

2016年4月6日
北海道大学大学院環境科学院
生物圏科学専攻動物生態学コース
博士課程3年 乃美大佑

北海道大学環境科学院所属の乃美(のうみ)といいます。北大苫小牧研究林でシジュウカラの繁殖を研究しています。今回このような機会をいただきうれしく思っています。先日海外のジャーナルに投稿した論文が掲載されたのでその報告をします。

脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。.jpg
脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。

僕が修士課程に入った当時、研究室にはシジュウカラの婚外交尾(浮気)の研究をされていた油田さん(現新潟大)がおり、共同で研究をすることになりました。油田さんの研究に触発されて動物の行動や進化に興味を持ち修士論文のテーマを探したところ、鳥類では雌雄の産み分けを行うらしいことを知りました。

性比の問題は進化生物学における魅力的なテーマで今日までに数多くの生物で研究がなされています。特に鳥類の場合、性染色体が雌ヘテロ型であるため、雄ヘテロ型の哺乳類などと比べると、雌親が雌雄の産み分けをしやすいといわれています。分子生物学の技術の進歩により、浮気の研究と時を同じくして、鳥類の性比調節に関する研究も盛んに行われるようになりました。中でも縄張りの質により子の性比を調節するセーシェルヨシキリの例は有名ですね。

油田さんのこれまでの調査で苫小牧のシジュウカラは複数回繁殖率が高く、繁殖シーズンが長い(5~8月)という特徴がありました。4年分の調査で得た、合計191巣1500羽の雛を性判別した結果、1回目の繁殖でのみ、一腹卵数が多くなるほど雄の割合が低くなるという傾向を発見しました。

シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係
シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係。

これまで性比の研究は数多くされてきましたが、「繁殖の一時期だけ性比調節を行う」という例はありませんでした。これには雛の性的二型と巣立ち雛の生存率が関係していると考えています。巣立ち雛の生存率は巣立ち日が早いほど高いことが知られているので早い時期に多くの雛の育てるのが適応的です。しかし、餌要求量の大きい雄の雛が多くなると繁殖のコストが増すため一腹卵数の大きい巣で性比が雌に偏っていたのではないかと考えています。一方で繁殖の後期に巣立った雛は生存率が低く、繁殖の価値は低いため多くの雛を育てる利点は少ないと考えられます。雛数が少ないと餌要求量に応じた性比調節は必要なくなるため、この傾向が見られなかったのではないかと考えています。

孵化して13日目のシジュウカラの雛。.jpg
孵化して13日目のシジュウカラの雛。

せっかくやってきた修士論文の研究を残る形にしたいという思いから国際誌に投稿することにしました。そこで、鳥類を研究対象としたジャーナルを探しました。その時目にとまったのがポーランドのジャーナル、Acta Ornithologicaでした。このジャーナルはいろいろな分野を扱っており、過去にも性比を扱った研究が載っていたので、ひょっとするとチャンスがあるかもと思い投稿してみました。

DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。.jpg
DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。

初投稿から約1年半、Editorが何度も丁寧に見てくれたおかげで時間はかかりましたがなんとかアクセプトされました。しかし、過去の他の論文を見てみてもほとんどの論文が投稿日から採択日まで1年以上かかっていました。なので、急ぐ場合にはこのジャーナルは正直オススメしません。とはいえ、特に時間は問わないという方や、自分の研究分野を扱ったジャーナルが少ない、でもなんとか載せたいという方にはいいかもしれません。補足をすると、Acta Ornithologicaでは特に巣材を扱った研究が多いように思います。この手の研究を行っている方、オススメしますよ(笑)。

論文についての詳しい内容は原著をご覧下さい。
Nomi D., Yuta T., Koizumi I. 2015. Offspring sex ratio of Japanese Tits Parus minor is related to laying date and clutch size only in the first clutches. Acta Ornithologica. 50: 213–220.

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