故郷の北海道で,鳥の研究室はじめました

2016年2月8日
酪農学園大学 環境共生学類
環境動物学研究室 森さやか

1月に広報委員に任命されると共に,三上修委員長からこの原稿を書くよう,最初の任務を拝命いたしました.ブログ化以前の鳥学通信には,「飛び立つ!」という,就職したての研究者のコーナーがありました.私は就職してから既に2年が経とうとしていますが,近況について紹介させていただきたいと思います.

私は2014年4月から,北海道の江別市にある酪農学園大学に准教授として勤務しています.江別市は札幌市の隣にあり,札幌駅から大学最寄り駅まではJRで15分ほどです.ただし,酪農学園大学と言う名の通り,大学の前には畑や牧草地が広がっています.そのため,最寄駅から大学の建物に至るまでには,徒歩でさらに15分ほどかかります.大学の裏手には,クマゲラやフクロウも繁殖する野幌森林公園が広がっています.私の研究室は公園側に面しているので,窓を開けると居ながらにして,さわやかな鳥たちの声が聞こえてきます.
環境動物学研究室のベランダからの風景.奥が野幌森林公園に続く森林_R.JPG
環境動物学研究室のベランダからの風景.奥が野幌森林公園に続く森林

私は札幌市出身なのですが,18年ぶりに落ち着いて故郷に生活拠点を置くことになりました.研究活動では,学生時代からずっと北海道を主なフィールドとしてきましたので,北海道に戻ってこられたのは幸運だと思っています.

さて,酪農学園大学は,学部・学科の代わりに学群・学類制を採用しており,獣医学群と農食環境学群があります.私の所属する環境共生学類は農食環境学群に属し,理系・文系の多様な視点から,環境と調和・共生する社会の実現に向けた教育と研究活動を展開しており,博士課程まで進学も可能です.野生動物関係では,特にシカやクマ等の哺乳類の管理や狩猟に関わる研究や活動に力を入れており,GISやリモートセンシング関連の設備も充実しています.昨年からは,DNAの解析設備も整いつつあります.40代の教員が多く,研究分野の近い教員には,学部時代からお世話になってきた方や,出身研究室の先輩方もいます.そのため,いろいろと相談や協力はしやすい雰囲気です.
環境動物学研究室のDNA実験室_R.JPG
環境動物学研究室のDNA実験室

私は,環境動物学研究室という研究室を開設しました.他に鳥類を専門とする教員がいないため,当面は鳥類専門の研究室として運営していくことにしました.学生は1学年定員8名で,3年生から研究室に配属されます.昨春の着任とほぼ同時に定員一杯の3年生が配属され,道筋をつけるのに苦労をしてきましたが,彼らも現在は卒論をまとめているところです.今年は研究室運営も少し軌道に乗ってきて,来年度の4年生は,今年度よりもレベルの高い課題に取り組む意欲を見せています.毎年徐々に研究室の活動を盛り上げていければよいかなと思っています.
昨年秋に学類で導入したDNAシーケンサー_R.JPG
昨年秋に学類で導入したDNAシーケンサー

このところ,北海道には,鳥学会で活躍する研究者が集まりつつあるようです.全国的に鳥の研究を出来る大学が減っている印象でしたが,北海道での活動は,今後ますます活発になりそうです.私もその一翼を担えるように,教育活動も研究活動も一層責任と意欲を持って取り組んでいかなくてはならないと思っています.とりあえずは,今年の札幌大会を,札幌近郊勢のみなさんと力を合わせて盛り上げていきたいと思います.

最後に,大学教員として教育にあたる立場になり,過去に自分が受けてきた指導や経験してきたことを振り返ることが多くなりました.これまでいろいろなご指導,ご支援をいただいてきたみなさまに,改めて感謝いたします.今後ともどうぞよろしくお願いいたします.

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:タイミング,求めよさらば与えられん

2016年1月25日
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 上席主任研究員
嶋田 哲郎

鳥学で仕事をする,本当に狭き門です.少ない席をめぐって熾烈な競争があります.私の話は,上には上がいる,と思ってもなおかつ鳥学で仕事をしたい人のための話です.私の同期(40代半ば)には優秀な鳥学者がたくさんいます.あいつにはかなわないなあ,と思う人が頭に浮かびます.また,和文誌編集委員などいくつかの学会役員をやらせていただきましたが,みなさん頭の回転が速く,仕事が速すぎます.

さて,こういう上には上がいる状況で,どうしたら鳥学の仕事につけるのでしょうか?それはタイミングです.最初から身も蓋もない言葉で申し訳ありません.でも続きがあります.タイミング,求めよさらば与えられんです.

修士2年の頃,博士課程にすすんで自分の研究を極める覚悟がなかったこと,経済的な事情もあり,修士で終えて就職しようと思っていました.鳥学会には学部のときから参加していました.私の同期の鳥学者は繁殖期の鳥をやっている人が多かったのですが,非繁殖期でガンカモというのは当時私くらいでした.そういう意味では競争相手は少なかったといえます.ガンカモをやっている数少ない若手として,学会を通じて多くの水鳥研究者と深く交流できたことは,就職につながる背景のひとつでした.

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宮城県伊豆沼にある職場の伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター

もうひとつ,どんなにつまらない内容でもできるだけ論文を書くようにしていました.自分が新しい発見しているのだという高揚感,そしてそれを論文にすれば自分の仕事が永遠に残るという事実は私にはたいへんな魅力でした.論文として少しずつでも結果を積み重ねていけば,見てくれている人は見てくれているものです.日本雁を保護する会の呉地正行さんから財団で職員を探しているよ,という連絡をいただき,その話に飛びついてから今に至ります.

私は学位よりも就職を選びました。一方で,同期がすばらしい業績を上げて博士号を次々に取得していく中,早く学位をとらなければという焦燥感にかられました.また,研究員という肩書きをもちながら博士号をもっていないことに引け目を感じていました.ようやくホッとできたのは,論文博士として博士号を取得できた,就職してから10年後のことでした.

鳥学で仕事をするにはいろいろな道があります.私の場合,就職はタイミングがよかったというしかありません.しかし,振り返ってみると,結果的にではありますが,タイミングをつかむための努力はしていたように思います.上には上がいる,という事実に幾度となく自信をなくしつつも自分のオリジナリテイを常に探っていました.そして,学会に出て見識を広めること,自分の実績を着実に残すこともしていました.そういうことが鳥学で仕事をするためのタイミングを引き寄せたのだろうと思います.見ている人は必ず見ています.

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シリーズ:「鳥に関わる職に就く」の刊行

2016年1月24日
広報委員会 三上修

広報委員会からの新しい鳥学通信のシリーズの紹介です。
それは、タイトルのとおり「鳥に関わる職に就く」というものです。

現在、鳥学に関わらず、若手研究者の就職が厳しくなっています。
大きな理由は、1.不況、2.少子化、3.ポストポスドク問題の3つでしょう。
簡単に説明します。

1.不況によって、あらゆるところに余裕がなくなっていて、これまであったポストが、職についていた方が去ると同時にポストそのものが無くなる傾向にあります。
2.少子化に伴い、教育関連のポスト、とくに大学のポストが減少しています。
3.ポスドクを増やす政策が行われたあと、その受け皿がないままポスドクが増え、とてつもない競争状態に陥っています。

と、なかなか大変なことはありますが、鳥に関わる仕事で生きていく、それが楽しい、ということを若手研究者、あるいはもっと若い世代である学部生や、さらには高校生に伝えて、進学したり、進学せずとも鳥の分野に入ってきて欲しいという思っています。

そこで、鳥に関わる多様な職についている方に、どうやって、その業種に入ったのか、その苦労、楽しみ、職をつかむコツなど、書いてもらおうと思いました。

それによって、若手の希望になったり、なにか作戦を考えてもらえばと思っています。
これから、不定期に掲載していきます。

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バードリサーチの発行物のご紹介

2016年1月14日
バードリサーチ
植田睦之

寒いですね。ぼくにとってはフィールドワークがいちばん忙しい時期なのですが,普通の人は,家や研究室にこもって論文読んだり,論文書いたり,デスクワークしている時期なのではないかと思います。

そこでちょっと,バードリサーチの出版物をご紹介。デスクワークの合間に読んでみてください。

研究誌 Bird Research
まずは学会員の皆さんのニーズの一番高そうな論文誌から。その名もBird Research。
研究誌表紙2013.jpg
ぼくは日本鳥学会誌の編集にも関わっているので,「投稿して!」とは言いにくいのですが,ぜひ,読んでみてください。最新号はバードリサーチの会員でないと全文は読めませんが(要約は読めます),2014年に発行した10巻以前の論文はどなたでも読むことができます。

ダウンロード数の多い人気の論文は人気順に
1. 森林におけるスポットセンサスとラインセンサスによる鳥の記録率の比較
2. 全国規模の森林モニタリングが示す5年間の鳥類の変化
3. 最近記録された日本における野生鳥類の感染症あるいはその病原体概要
4. 近年建てられた住宅地におけるスズメの巣の密度の低さ
5. 日本に生息する鳥類の生活史・生態・形態的特性に関するデータベース
といったところです

いろいろな論文が掲載されていますが,他誌と違う特徴としては調査手法に関する論文や,個体数の増減に関する論文が多いところかなと思います。
http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/

生態図鑑
次にご紹介するのは,それぞれの種を研究している研究者の方々に執筆してもらっている生態図鑑です。
生態図鑑.png
これまでに129種掲載されています。姿かたちや大きさといった,普通の図鑑にあるような記載もありますが。この図鑑のウリは,研究者の皆さんが自身で研究した興味深い生態や保護上の課題などについて書いていることです。

論文になっている情報はもちろんのこと,まだ論文になっていないことも書いてあります。現鳥学会会長も前会長も執筆してます。執筆者もそうそうたるメンバーです。このサイトをみるような人なら,きっと気に入ってもらえると思います。
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/seitai.html

このコンテンツは無料ではありません。バードリサーチ普通会員以外の方の購入は2000円です。「読みたいけど,そんなに払いたくないなぁ」お気持ちわかります。ぼくもケチと呼ばれる一族ですから。そんなあなたに朗報。執筆いただけたら,ダウンロード権が手に入ります。それも未来永劫。まだ書かれていない種のうち「この種ならかけるよ」という方,ぜひ,植田までご連絡ください。

そのほかにニュースレターも発行しています。こちらから概要を読むことができます。
http://db3.bird-research.jp/news/

また,バードリサーチのホームページには以下のコンテンツもありますので、ぜひ訪問ください。

鳴き声図鑑
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/nakigoe.html

鳴き声識別練習ページ
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koeq/

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全国鳥類繁殖分布調査に参加しませんか?

2015年11月18日
植田睦之(バードリサーチ)
1、新たて正式日英4C.png

最近,鳥が増えたり,減ったりといった変化を感じることありませんか? 日本鳥学会誌にも八ヶ岳でジョウビタキの繁殖が定着していることスズメの減少など鳥の生息状況の変化について報告した論文が掲載されています。

地域の鳥の変化については,いろいろな研究がされていますが,全国的な鳥の分布の変化を示した唯一の情報が環境省が行なった鳥類繁殖分布調査です。この調査は1970年代と1990年代に行なわれ,アカモズやチゴモズ,ヨタカやシロチドリなどがレッドリストに選定されることにつながりました。またこのデータは研究の上でも重要な情報で,日本で減少している鳥の特性の解析(Amano & Yamaura 2007)土地利用が鳥へ及ぼす影響(Yamaura et al 2009)などこの情報を使って書かれた論文がいくつもあります。

1990年代に行なわれた最後の調査から,もう20年が経とうとしています。その間に,外来鳥の増加や,シカの増加による植生の変化,震災の影響など,鳥の状況には変化がおきていそうです。そろそろ3回目の全国調査が必要です。しかし,残念なことに,これまで調査を行なってきた環境省には,もうそれを行なう体力がないそうです。

では,どうするのか? 「みんなでやるしかないでしょ」ということで,NGO,省庁,大学,地方の研究機関,野鳥関係団体の合同調査として,第3回目の全国鳥類繁殖分布調査を実施しようと準備をはじめました。

期間は来年2016年から5年間。全国に約2,300あるコースでの現地調査や任意定点調査,アンケート調査の結果をまとめて日本で繁殖している鳥の分布図を描きます。

この調査に皆さんも参加しませんか? 現地調査を担当していただくのも歓迎ですし「この種は任せて」ということで種の情報収集やとりまとめを担当いただくのも歓迎です。また,解析WGグループというのもつくっていますので,調査全体の解析に係わりたいという方も歓迎いたします。

詳細は,全国鳥類繁殖分布調査のホームページをご覧ください。現地調査への参加はホームページから参加登録いただき,取りまとめに係わりたいという場合は,植田まで直接お問い合わせください。

皆様のご参加,お待ちしています。

主催団体:バードリサーチ,日本野鳥の会,日本自然保護協会,日本鳥類標識協会,山階鳥類研究所,環境省 生物多様性センター

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