シリーズ「鳥に関わる職に就く」:一芸を伸ばす
独立行政法人 国立科学博物館動物研究部 濱尾章二
本シリーズ執筆者の中で(多分)最年長の私ですが、40歳を過ぎて学位をとり公募落選を繰り返したので、人並みの苦労をしています。大学によって異なる書式で業績をまとめ(なぜ出版年、査読有無などを一つ一つ別のセルに入れさせるのだ?)、職務に就いた場合の計画を作文することを繰り返しました。そのあげく、大学改組が認められなかったから公募を取り消すとの連絡を受けたこともあります。不合理、不公平と思えるしくみに落胆させられることがしばしばでした。
それでも、高校教員からの転職だったので、食べていけなくなるという心配はせずに済みました。定職に就いていない若手の方にとって、求職活動のストレスはたいへんなものと思います。ここでは、そういう方が少しでも気を楽に、元気に頑張ることができるようにと、研究職に就いてしばらく経った私が思い返して気付いたことを書いてみたいと思います。
選考では論文業績が優れていることが何と言っても一番重要、落選するのは業績や能力が不足しているからとお考えの方もあると思います。大講座を率いて博士課程の院生をガンガン指導していくポストではそうかもしれません。しかし、広く「鳥に関わる職」を考えると、そうではない場合も結構あるように私は感じます。それは、良くも悪くも、採りたい人について採用側の思惑があるからです。採用者に望む専門分野・活動履歴・年齢層などのいわば本音は、組織としては合理的な理由があるのでしょうが、公にする公募要項には書かれていないことが多いものです。
私が当初採用された国立科学博物館の附属自然教育園も、その名の通り教育活動が重要な仕事でした。また、同僚となった研究員の皆さんは一回り以上年上という年齢構成でした。多くの公募でマイナスだった(と思う)私の教員経験や年齢がプラスにはたらいたのではないかと思っています(想像ですが)。
ですから、不採用になっても、その理由は研究の実力の不足とは限りません。年齢など本人にはどうしようもない点で、相手の思惑を外れたからかもしれません。応募し続ければ、そのうち自分のもっているものが先方の思惑に合うという場合が出てくる可能性があります。
思惑と関係して、若い方には一芸を伸ばすことをお勧めしたいと思います。ある研究分野、ある研究手法、あるいはある地域、分類群については人に負けないものがあるというのは、公募で思惑に合う可能性を高めるでしょう。環境教育に強い、保全に明るいなどということも、公募によっては求めている人間像に合う可能性があります。よい論文を量産する研究能力とは別に一芸に秀でているというのは、公募で有利になるためというだけでなく、長い人生での研究生活を考えると、研究者のあり方としても意味があることだと思います(最後にあげる文献、サイトもご参照下さい)。
本稿が、鳥に関わる職に就こうという皆さんを少しでも励ますものになっていると幸いです。
(参考)
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154-159.
lumely (2016) 学生に伝えたい,勉強・研究への取り組み方.ブログ図書の網.