一緒に鳥の研究しませんか?
助教・先崎理之
はじめに
鳥学通信には初めて登場させて頂きます。北海道大学の先崎と申します。縁あって2019年4月より北海道大学大学院地球環境科学研究院・環境科学院に助教として採用していただき、独立した研究室を運営しています。そこで今回は宣伝もかねて当研究室を紹介させて頂きたいと思います。
どんな研究をしてきたの?
まず最初に私自身の研究について簡単に紹介させて頂きます。私はこれまで主に鳥を対象として保全生態学的な研究を展開してきました。保全生態学とは平たく言えば「生き物を守るために必要な科学的知見を明らかにし実社会に還元する学問」のような感じでしょうか。保全は生き物への深い知識だけあれば進むと思われる節もあります。しかし、実はそんな簡単な話ではなく、金銭コストや見返り(効率)等の複数の科学的情報を統合しバランス感覚に優れた意思決定が不可欠な奥が深い学問分野です。
こうしたことから私は保全の意思決定に必要であるのに未解明だった問いに取り組んできました。例えば、我が国では根拠薄弱のまま行われていた多種の保全のための猛禽類の保全には利点と限界があること(Senzaki et al. 2015 Biol Conserv; Senzaki & Yamaura 2016 Wetland Ecol Manage)、象徴種(タンチョウ)の利用は保全活動への市民の金銭的支援を助長するベストな選択肢であること(Senzaki et al. 2017 Biol Conserv)、海鳥類、アカモズ、シマクイナ等の個体数ステータスや繁殖状況等を明らかにしてきました(Senzaki et al. 2020 Bird Conserv Int; Senzaki et al. in press Wilson J Ornithol; Kitazawa & Senzaki et al. in press Bird Conserv Int)。
(チュウヒの保全は、似たような環境を好む鳥類の保全には効果的だが、草本や哺乳類の保全には役立たないことが分かった。)
また、ここ数年は感覚生態学(Sensory Ecology)という分野に精力的に取り組んでいます。具体的には、人為騒音や人工光といった感覚汚染因子が、フクロウ類の採食効率を低下させたりマクロスケールでの多種の繁殖成績を決める要因になったりすること(Senzaki et al. 2016 Sci Rep; Senzaki et al. 2020 Nature)、はたまた鳥類を中心とした多分類群間の相互作用(Senzaki et al. 2020 Proc R Soc B)や生態系機能(Senzaki et al. in prep)さえも変えることを野外操作実験とビックデータによる検証の双方から示してきました。これらから、現在は見過ごされているこうした感覚環境(Sensory environments)をありのままに保つことが鳥類の保全に大きく貢献するという仮説を検証しています。
(騒音がうるさいと餌を見つけにくくなることが分かった。)
どんな研究をできるの?
さて本題に入りましょう。出来立てほやほやの当研究室ですが、上記のような鳥の保全に関わる研究テーマに興味をお持ちの学生さんは当研究室で思う存分に研究が展開できます。北大には鳥を扱う優れた研究室が他にもありますが、保全を専門に扱える点は当研究室ならではと考えています。特に鳥を対象にした感覚生態学研究は、日本で専門に学べる研究室が他になく世界的な競争者もまだ少ないため、フィールド経験がそこまでなくても世界に通用する新規性の高いテーマに取り組める可能性を大いに秘めておりお勧めです。もちろん、他のテーマでも面白ければなんでも良いというのが個人的なスタンスですが、いかなる場合でも学術的に必要とされているかどうかを説明できるというのが当研究室におけるテーマ選定時の重要な規準です。
一方で、私は現役バリバリの鳥屋であり、その力量の向上には日々全力を注いでいます。日本列島の鳥は独特で面白く、また優れたアマチュア鳥屋も少なくないため、アッと驚く未解明の現象が身近に見つかる可能性が大いに残されています。こうした点から、フィールドから得た鳥の生態に関する面白い仮説を解き明かす研究や鳥屋的知的好奇心を満たす研究を長い目で続けていくことも目指しています。私自身は現在シマクイナの行動に関わる斬新な仮説の検証(手探りなため具体的内容はまだ秘密)と気象研究者で同僚の佐藤友徳准教授と古くからの鳥仲間である渡辺義昭さん・恵さん夫妻におんぶにだっこ状態でヒメクビワカモメのリアルタイム渡来予報開発などに取り組んでいます(先崎 2020 Birder)。とっておきの鳥類の行動や生態を研究してみたいという学生さんや、鳥屋的気づき・視点を生かした研究テーマをお持ちの学生さんは是非当研究室にお越しください。
(10日先までの知床半島における出現確率を自動で表示してくれる。まだ試作段階で画像の日付は本来の予測期間外。今年中には論文を執筆したい。)
(北海道オホーツク海沿岸への渡来は少数の気象条件でほとんど説明できることが分かって来た。)
どうすれば入れるの?
環境科学院は学部を持たない大学院組織ですので、全ての学生が外部から進学してきます。毎年、修士課程は夏と春に入試を行っていますのでそれを受験し合格できれば入学できます。私の担当する専攻・コースは環境起学専攻・人間生態システムコースと生物圏科学専攻・動物生態学コースで、いずれからも学生を募集しています。
前者(起学)は鳥を対象にちょっと学際的なテーマに取り組んでみたかったり、ある程度は英語で研究を進めてみたい方にお勧めです。日本語を母語としない留学生が一定数おり、周囲の教員陣(露崎教授・根岸准教授・佐藤准教授など)はそれぞれ異なる分野を専門とする一流研究者ですので、様々な角度から研究を洗練させることができます。
後者(生物圏)はガチ勢鳥屋あるいはフィールドに身をささげたい方にお勧めです。私を除く同コースの教員陣(野田教授・小泉准教授・大館助教と副担当の揚妻准教授・岸田准教授・森田准教授)は群集・個体群・行動・進化など多様な側面から日本の動物生態学を牽引する一流研究者ですので、日本一のフィールド生態学的環境に身を置いて研究を進めることができます。
意欲と斬新なテーマをお持ちの学生さんをお待ちしております。もし当研究室に興味を抱いて頂いて頂けましたらお気軽にお問い合わせください。是非一緒に面白い研究をしましょう。