鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」を受講して

近畿大学 神野寛和

 今回、日本鳥学会金沢大会に伴って行われた、片野鴨池での鳥の学校に参加させていただきました。自分は高校生の頃からカモ類に対して興味を持っており、今後もカモ類をはじめとした水鳥類に関連した調査・研究がしたいと考えていたため、今回の鳥の学校への参加を決めました。

 まず、鴨池観察館のレンジャーである櫻井さんに片野鴨池についての講義を行っていただきました。片野鴨池がトモエガモやマガンなどをはじめとしたガンカモ類の主要な越冬地であるということや、オオタカやクマタカなどの猛禽類の生息地にもなり、鳥類の重要な生息地だということを教えていただきました。また、ラムサール条約やEAAFPに登録されていることや、片野鴨池の成り立ちなども知ることができました。

 次に、坂網猟師の方々から、坂網猟が武士のみに許可されて構え場まで行くことなどによる足腰の鍛錬のために藩が奨励していたなどの歴史や、実際の猟の仕方やカモが坂網に捕まった時にどうなるかなどを教えていただきました。その後の坂網漁の実習では、実際に坂網を組み立てるところを見せていただき、里で簡単に手に入る材料を用いた猟具であるということを初めて知りました。実際に投げさせていただきました。個人的には見た目以上に軽く、持ちやすく感じました。しかし、実際に投げてみたところ、真上にまっすぐ投げるのは思っている以上に難しかったです。また、薄暗い時間にカモの風切り音でその飛来を知り、狙えると判断した高度を飛んでいる時にカモが飛んでくるところに投げるということを実際に行うと考えると、自分には到底できないことで猟師の方々の技術に感銘を受けました。

 また、実習後に日本野鳥の会の田尻さんのお話がありました。その中にあった、片野鴨池周辺の農家さんたちと協力して、越冬期にカモ類が採餌できる環境を整えるために“ふゆみずたんぼ”や“あまみずたんぼ”を行うことで、水がある環境での採餌を好むカモ類が飛来する環境を作ったというお話がとても印象に残りました。

 最後に、山階鳥類研究所の澤さんが使っておられる、ガンカモ類を捕獲するために使う(講師の先生がコクガンを捕獲する用の)くくり罠を作りました。その際、捕獲対象となる鳥類が罠にかかった後に負傷しないようにする工夫と、かかった鳥類が暴れたり一度落ち着いたのちに緩んだりしないような工夫が両立されている罠の作り方を教えていただくことができました。

 全体を通して最前線で活動しておられる先生方のお話を聞くことで、普段の生活では知ることや体験することのできないような事に触れることができて、大変勉強になりました。これからさらに水鳥についてもっと学びたいとさらに思うきっかけとなりました。

写真_神野.JPG
この記事を共有する

2023年09月15日 鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」への参加報告

古園由香

 当日は、少し雨の予報が出ていたものの、良い天候に恵まれました。
加賀市鴨池観察館において講師と参加者の自己紹介後、講演と実習が始まりました。毎年楽しみにしている鳥の学校。今回は片野鴨池の話、坂網猟について、ガンカモ類の捕獲について学びました。

 「片野鴨池と坂網猟」櫻井佳明さん(加賀市鴨池観察館)
 片野鴨池の成り立ちや坂網猟の歴史についてのお話でした。片野鴨池は昔は谷で、海から運ばれた砂が堆積してできたそうです。300年前くらいから大聖寺藩がトンネルを掘って水を抜き、水田化されました。1999年以降、田んぼをやる人がいなくなり、湿生遷移が進んでしまうと鴨が池に入らなくなるため、坂網猟の漁師さんたちが草刈りや池の水の管理を続けて坂網猟を続ける環境を維持されていることなどを教えていただきました。ガンカモ類の越冬する環境を維持するためには、人の手が不可欠なのだと思いました。坂網猟はもとは大聖寺藩の武士の鍛錬のために始められたそうで、明治時代まで武士しか猟をすることが許されなかったそうです。そんなことを知るのもおもしろかったです。

 「坂網猟の紹介、体験」山下範雄さん、世川馨さん(大聖寺捕鴨猟区協同組合)
実際に鴨を捕獲している猟師さんのお話です。坂網猟よもやま話(みんなが平等に猟をするためくじ引きを2回行うなど)を臨場感たっぷりにお話していただきました。その後野外に出て、坂網をどのように投げるか実演していただきました。さっきまで面白おかしく猟の話をしてくださっていた山下さんだったのですが、坂網を持ったとたん猟師さんの顔になり、その網さばきや手つきはとてもかっこよかったです。その後、参加者も網の持ち方から教えてもらいながら坂網を投げました。その後も、組み立て方から仕舞い方までみっちり教えていただきました。坂網の道具としての機能性や美しさも堪能することができて、良い経験になりました。

 「今日も調査ができるのは、地域の皆さんのおかげです」田尻浩伸さん(日本野鳥の会)
 300年近く水田での稲作と坂網猟に利用されていた鴨池ですが、ラムサール条約などに登録され、観光や学校活動としても利用されるようになり、その中で鴨池にかかわっている人も複雑、多様化しています。カモが来る環境を守り、坂網猟を続けるためにトモエ米を作ったり、無形文化財に指定できないか考えてみたり、「なるべく邪魔にならないように、少しでも負担が少なくなるように」研究を組み立てて結果を活用していく過程を話してくださいました。始めはやる気がなかった農家の方が、最近は「カモが来るようになってうれしい」と話されている、というのがとても素敵だなと思いました。

 「ガンカモ類の捕獲と発信機装着実習」澤祐介さん(山階鳥類研究所)
 ガンカモ類の捕獲方法いろいろ、そのメリットとデメリット、注意点などを詳しく教わりました。捕獲を開始して5年の間にくくり罠の作り方が改良されていった過程を見るのはとても勉強になりました。くくり罠を作成する実習も行いました。その後、発信機についての話を聴いて、ぬいぐるみに装着する実習を行いました。同じ重さの発信機でも、着ける位置によっては鳥の動きを悪くしてしまうことなど、気を付けなければいけないなと思いました。発信機が鳥の動きを妨げないようによく観察、確認することが大切なのだということを学びました。
 
 どの話も実習も興味深く、とてももりだくさんの講習会でした。参加できてとてもよかったです。講師の先生方、準備などお世話してくださった森口さん、会場となった加賀市鴨池観察館のスタッフのみなさま、本当にありがとうございました。

写真_古園.jpg
この記事を共有する

鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」開催報告

澤祐介((公財)山階鳥類研究所)

 日本鳥学会2023年度大会の鳥の学校のテーマは「捕獲技術実習」でした。鳥の生態研究を進める上で、個体識別や機器装着が必要なシーンは多々あるかと思います。そのために鳥を捕獲することになるわけですが、研究対象種によって捕獲方法は様々で、さらにはあまり表には出てこない細かなノウハウ、技術がたくさんあります。今回の鳥の学校は、ガンカモ類を対象に、捕獲技術と発信器装着の基礎を学ぶ実習で、私は講師陣の一員として参加しました。

 石川県での開催ということで、実習の実施場所は片野鴨池。ご存知の通り、坂網猟という伝統猟法が受け継がれており、ここで捕獲されたトモエガモの衛星追跡によりその渡りルートや生息地選択の研究などが行われてきました。当日は、片野鴨池レンジャーの櫻井氏による片野鴨池や坂網猟の歴史・成り立ち、地元猟師の山下氏、世川氏による坂網猟の現場でのリアルな話・網投げ体験、日本野鳥の会田尻氏による地域との連携の重要性などについてお話がありました。
 私は、捕獲を成功させるために、①道具を扱う技術と、②捕獲に関するTPOを見極める技術が必要と考えています。①は、道具の特性を理解し安全に、適切に使えることが必要で捕獲を実施するための大前提の技術です。②は、実際にフィールドで鳥がどのような動きをするのかを見極め、その鳥の行動に応じてどの罠が有効か、どの時間帯、どの場所で捕獲ができるのかを考えることです。特にガンカモ類の捕獲を実施するにあたって、②は地域との連携が重要になります。その地域のガンカモ類の行動の特徴、定期的に来る場所の把握、罠を仕掛けたい場所での地主との調整など、地域の協力者がいないとできないようなことも多々あります。まさしく、片野鴨池での協力体制はこれを具現化した内容で、地域の猟師さんと研究者が一体となって成り立った研究フィールドであることを実感しました。猟師さんからは坂網の仕組み(網をまっすぐ投げるためのバランスの調整、鳥が網に入って逃げないようにする構造など)、①に関する技術もお聞きすることができ、非常に勉強になりました。

写真1_澤.jpg

 さて、私からは、ガンカモ類の捕獲について一般的な方法を紹介した後、これまでコクガンやハクガンなどの捕獲に使用してきたくくり罠を作成する実習を行いました。2017年から現在までコクガンの捕獲を通して、トライアンドエラーを繰り返し、罠の改良を重ねてきました。現在使用しているくくり罠の構造となぜそのような構造にしたのかを解説し、実際に作成してもらいました。この罠をすぐに皆さんがフィールドで使えるかは、対象種や場所によって異なるのでわかりませんが、鳥の安全のために実施している工夫、罠にかかった鳥がすぐに逃げないようにするための工夫など、どのような視点で捕獲技術を考えていけばよいのかをお伝えすることはできたのではないかと思っています。また、発信器の装着実習では、装着時に気にしなければならない項目の説明とともに、鳥のぬいぐるみを使って発信器を装着する手順を学んでいただきました。また装着後についても、装着した影響がないか注意深く観察し、常に改良を考えることが重要であることを、コクガンのこれまでの実績をもとに解説しました。

写真2_澤.jpg

 近年は、発信器やロガーが小型化、低価格化してきたことで、これらの機器を使った研究は急速に拡大しています。一方、機器の選定、装着方法、装着技術によって、追跡成功率が大きく左右されることも多々あります。そのような失敗事例、成功事例がもっと共有できれば、日本の追跡研究はさらに発展すると考えています。ガン類では、これまでの私たちの経験をもとに、捕獲のノウハウや発信器選定・装着に関するガイドラインを公開しています。一般公開用に伏せているページもありますが、ご希望の方はご連絡をいただければ完全版を送りますので、お気軽にご相談ください。日本の追跡研究の発展のため、これからも様々な方と技術交流、情報交換ができればよいなと考えています。今後ともよろしくお願いします。

関連リンク
EAAFPガンカモ類作業部会 国内科学技術委員会 
→ガンカモ類捕獲ガイドライン(第1版)(2023年3月公開) を参照
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/awgstcjapan

この記事を共有する

2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(森 真結子)

森 真結子(帯広畜産大学 保全生態学研究室) 

 この度は、日本鳥学会2023年度大会において、「生態系管理/評価・保全・その他」部門のポスター賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。今回発表させていた研究は、私自身の初めて行った研究であり、このような賞をいただくことができ、驚きと喜びの気持ちでいっぱいです。
 共に研究を作り上げて行く中で、いつも親身になって下さり、熱心にご指導いただきました保全生態学研究室の赤坂卓美先生には心よりお礼申し上げます。また、調査に同行して下さった研究室の皆様をはじめ、本研究に携わって下さった全ての皆様にもお礼申し上げます。
 本大会を通じて、多数の方々より貴重なご意見やアドバイスをいただきました。いただいた言葉ひとつひとつを整理し、さらに研究と向き合っていきたいと思います。また、大会を運営してくださった実行委員会の皆様および関係者の皆様にもお礼申し上げます。これまでにない貴重な経験をさせていただけたこと、感謝いたします。

研究の概要
 これまで鳥類による害虫抑制が、作物の収量増加に大きく貢献することが様々な研究で明らかになってきています。しかし、農業の集約化は鳥類の種数および個体数を著しく低下させています。世界の食料生産の需要が高まる中で、如何に生産量の増加と生態系サービスの享受を両立していくかが、今後の持続可能な社会の実現に欠かせない課題となっています。
近年、集約的農業において、土壌の質を改善するために緑肥作物が注目され始めています。休閑緑肥圃場は、農薬の散布や人の介入が少ないことから、鳥類にとって好適な生息場を提供し、周辺の農地への鳥類の害虫抑制機能をも増加させる可能性があります。そこで本研究では、持続可能な農業の実現を目的に、休閑緑肥圃場が有する鳥類の保全機能および周辺農地に対する鳥類の害虫捕食量を明らかにしました。
 北海道十勝平野において、休閑緑肥圃場と周囲に休閑緑肥圃場がない圃場を各11か所選定し、ラインセンサス法により鳥類相を調査しました。さらに、隣接する圃場内において鳥類による害虫捕食量を、疑似餌を用いて定量化しました。これにより得られたデータと休閑緑肥の有無、および周囲の土地被覆面積(森林面積と荒地面積)の関係をモデル化しました。

森さん_疑似餌設置風景.jpg
調査圃場内において疑似餌を設置する様子
森さん_疑似餌写真.jpg
設置した疑似餌についた鳥類による捕食痕

 結果は、鳥類の種数および個体数は休閑緑肥圃場内で増加しており、周囲の森林面積によっても増加していました。また、この鳥類の種数の増加を介して、休閑緑肥圃場に隣接する圃場内では疑似餌の捕食量が増加しました。本研究は、休閑緑肥圃場が有する新たな機能を明らかにし、休閑緑肥のさらなる導入が持続可能な集約的農業の実現に貢献することを示唆します。

この記事を共有する

2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(飯島大智)

東京都立大学・学振PD
飯島大智

 東京都立大学・学振PDの飯島大智です。このたびは日本鳥学会2023年度大会において「繁殖・生活史・個体群・群集」部門のポスター賞を授与していただき誠にありがとうございます。貴重な発表の場を設けていただいた大会関係者の皆様、ポスター発表でご意見を下さった皆様に御礼申し上げます。また、記念品をご提供いただいたモンベル様にもこの場を借りて感謝申し上げます。

研究の概要
 山岳は、垂直方向に気温や植生などの環境が劇的に変化するため、生物多様性や生物群集の地理的な勾配を形作るプロセスを探究するための理想的なシステムです。生物群集を種数などの指標に加えて、構成種の系統や形質から特徴づけ、環境との対応を調べることで、群集を形成するプロセスを深く理解することができます。しかし、山地帯から高山帯にかけた広い標高範囲にかけた生物の群集構造の標高勾配に対する自然環境と人間による土地利用の改変が与える相対的な影響は完全には解明されていません。

飯島さん_IMG_1687.jpg
野外調査中の風景。乗鞍岳の山頂(3,026m)を望む

 そこで本研究では、長野県乗鞍岳(標高3,026m)の山地帯から高山帯にかけて野外調査を実施し、鳥類群集を種数と、系統・形質構造から調べ、鳥類群集に自然環境と人間による土地利用の改変が与える相対的な影響を解明することを目的としました。種数、系統・形質構造は標高100mごとに調べました。具体的には、種構成をランダムに決定した群集と実際の群集の形質・系統構造を比較し、ランダム群集よりも実際の群集の構成種間の形質や系統が似ている群集(クラスター)、または異なっている群集(過分散)を調べました。群集のクラスター構造は、環境フィルターにより特定の生態を持つ種が選択されたこと示し、過分散構造は、種間競争などによって似た生態をもつ種が群集から排除されたことを意味する指標です。そして、種数と系統・形質構造に自然環境と人間による土地利用の改変が及ぼす影響を、空間自己相関を考慮した重回帰分析によって調べました。

飯島さん_IMG_1576.JPG
高山帯に生息するライチョウは、氷河期の生き残りと呼ばれる生物の1種である

 解析の結果、乗鞍岳の鳥類群集の種数、系統・形質構造は、高山帯、亜高山帯の上部、亜高山帯の下部から山地帯において、異なる特徴をもつことがわかりました。高山帯では低温、樹木のない環境、乏しい餌資源が、亜高山帯上部では数種の樹種が優占する針葉樹林が鳥類群集の構造に強い影響を与えていることが示されました。また、自然環境が鳥類群集に与える影響は、人間による土地利用の改変が与える影響よりも強いこともわかりました。以上の発見は、高山帯の鳥類群集は気候変動に対して、亜高山帯上部の鳥類群集は亜高山帯針葉樹林の開発に対して脆弱であることを示唆し、山岳の生物多様性保全に貢献するものです。今後は、鳥類群集だけでなく、高山帯や亜高山帯の生態系全体が気候変動や人為的撹乱に対してどのような影響を受けるのかを理解し、将来引き起こされうる変化の予測に寄与できる研究を進めていきたいと考えています。

この記事を共有する

2023年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (寺嶋太輝)

東京農工大学農学府共同獣医学専攻D2
寺嶋太輝

 この度は、日本鳥学会2023年度大会におきまして、「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞をいただき誠にありがとうございます。ポスター発表に足を運んでくださった皆様に御礼申し上げます。本研究は、日本野鳥の会の皆様や現地でサポートしてくださる神津島の皆様をはじめとする多くの方々のご協力の上で成り立っています。この場をお借りして感謝申し上げます。

ポスター発表の概要
 尾腺は鳥類に特有の分泌腺であり、その分泌物は羽づくろいの際に全身に塗り広げられます。近年、いくつかの鳥種において、分泌物組成に種差や性差、季節変化が報告されています。中でも、嗅覚の発達する海鳥では、尾腺分泌物の個体差を識別している可能性が示唆されています。本研究では予備的な研究として、国内に繁殖する海鳥2種について、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた尾腺分泌物の定性解析方法を確立した上で、種差および性差が存在するかを調べました。

TSP_posteraward.JPG
オーストンウミツバメ成鳥。捕獲は学術申請許可のもと実施した。

 その結果、対象としたオーストンウミツバメおよびオオミズナギドリについて、明確に異なるクロマトグラムを得ました。一方、この2種間で互いに共通して存在するいくつかの代謝物を同定しました。また、オーストンウミツバメでは雌雄で有意に異なる代謝物が6つ同定されました。2種で共通して存在する代謝物は、種の違いを超えた共通の尾腺分泌物の役割を担っている可能性があります。今後は、採取時期や個体数を増やすことで種差や性差を生む代謝物が繁殖期を通じて変化するのかを明らかにしていきたいと考えています。
 ウミツバメ科の海鳥は、謎多き海鳥の中でも、その体の小ささや専ら遠洋性の行動、繁殖地においての夜行性の活動がゆえに、その生理・生態系はほとんどわかっていません。私はオーストンウミツバメの尾腺分泌物組成に関する基礎研究に加え、尾腺分泌物を利用した環境汚染調査やジオロケータによる生態調査などの応用研究も行っています。これらの情報を有機的に繋ぎ合わせ、国内の他種ウミツバメ、特に絶滅の危機に瀕したウミツバメ、さらには世界中の小型海鳥の保全に役立たせることを夢見ています。

この記事を共有する

第7回日本鳥学会ポスター賞 飯島さん・寺嶋さん・森さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 中原 亨

 日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。昨年に引き続き対面形式で開催された日本鳥学会2023年度大会では、第7回ポスター賞を実施いたしました。厳正なる審査の結果、本年度は、飯島大智さん(東京都立大学)、寺嶋太輝さん(東京農工大学)、森真結子さん(帯広畜産大学)が受賞しました。おめでとうございます。

 応募総数は、多かった昨年度をさらに上回り、57件と過去最高を更新しました。チャレンジする若手は着実に増えてきているようです。会場は熱気に包まれ、活発な議論が行われていました。ポスター賞は30歳まで、受賞するまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非来年再挑戦してください。

 最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

日本鳥学会2023年度大会ポスター賞
応募総数:57件
 繁殖・生活史・個体群・群集部門:14件
 行動・進化・形態・生理部門:21件
 生態系管理/評価・保全・その他部門:22件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「系統・形質アプローチから解明する山岳の鳥類群集の群集集合」
飯島大智・小林篤・森本元・村上正志

《行動・進化・形態・生理》部門
「オーストンウミツバメとオオミズナギドリにおける尾腺分泌物の定性分析」
寺嶋太輝・山本裕・田尻浩伸・手嶋洋子・永岡謙太郎

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「集約的農業景観における鳥類の保全と生態系サービスの享受に対する休閑緑肥圃場の貢献」
森真結子・赤坂卓美

【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「ヒクイナは巣立ち雛のために新たに“抱雛巣”をつくる」
大槻恒介

《行動・進化・形態・生理》部門(同点2件)
「鳥類の鳴き声行動の理解に対するロボット聴覚に基づく観測と生成進化モデル」
古山諒・鈴木麗璽・中臺一博・有田隆也

「亜種リュウキュウオオコノハズクにおける翼の性的二形と育雛行動の関連」
江指万里・宮城国太郎・熊谷隼・細江隼平・榛沢日菜子・武居風香・高木昌興

※9月17日の授賞式にて、スクリーンに表示していたにもかかわらず、読み上げそびれていました。この場を借りてお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「公立鳥取環境大学構内における鳥の窓ガラス衝突と紫外線カットフィルムを使った対策の効果」
市原晨太郎

【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
「津軽平野で繁殖するゴイサギの繁殖期の行動パターンと渡り」
  柴野未悠・東信行

《行動・進化・形態・生理》部門
「種内の体色評価に画像利用は有効か?スペクトロメーターを利用した体色研究」
  榛沢日菜子・武居風香・髙木昌興

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「野生のウミネコのテロメア長は水銀暴露によって短縮する」
  大野夏実・水谷友一・細田晃文・新妻靖章

「DNAバーコーディングで明らかになった、絶滅危惧種カンムリワシの季節的な食性の差」
  戸部有紗・佐藤行人・伊澤雅子

「小笠原諸島で採集した海鳥巣材に含まれる種子の組成-海鳥による種子分散の観点から-」
  水越かのん・上條隆志・川上和人

「江戸時代の歴史資料から探る北海道におけるワシの分布」
  池田圭吾・久井貴世

図1.jpg
左から寺嶋さん、飯島さん、森さん、綿貫会長
この記事を共有する

企画展「猛禽」のご紹介

我孫子市鳥の博物館
望月みずき(旧姓:小島)

皆さまこんにちは、鳥の博物館学芸員の望月みずき(旧姓小島)です。今回は、鳥の博物館で開催中の企画展「猛禽−タカ・フクロウ・ハヤブサ−」を少しご紹介させていただきたいと思います。

企画展では、猛禽類の進化系統・生態系での役割などの話や、タカ目・フクロウ目・ハヤブサ目のそれぞれの獲物を捕らえることに特化した狩人としての生態・体のつくりの秘密、また身近な猛禽類の識別など、標本を交えてご紹介しています。

IMG_4347_広報写真_1面.jpeg

本企画展の目玉展示の一つは、フクロウとシマフクロウの翼標本の比較展示です。シマフクロウは日本最大のフクロウで、翼を比べてみるとその大きさの違いは一目瞭然です。更にフクロウは静かに飛んでネズミ類などを捕らえるため、翼の前縁部には消音効果のある鋸歯構造(セレーション構造)がありますが、シマフクロウは魚食性のため鋸歯構造はありません。翼を閉じている剥製ではなかなか観察することの出来ない部位なので、翼標本でぜひ見比べてみてください。

IMG_4353_シマフクロウ翼.jpeg
フクロウ(左)・シマフクロウ(右)の翼標本

今回の企画展では一部の標本を3Dデータ化し、webでも公開しています。(下記URL)

https://sketchfab.com/torihaku

展示ではガラスケースがあるため片側からしか標本を見ることができませんが、3Dデータでは様々な角度から自由に見ることができるほか、拡大して細部を見ることもできます。企画展に来られない遠方の方でも3Dデータは閲覧できますので、ぜひご覧ください。

鳥博sketchfab3Dデータ.png

最後に、企画展は11月5日(日)までとなっています。ジャパンバードフェスティバル(JBF)が開催される11月4日、5日は入館無料となりますので、ぜひ皆さまお越しください。

この記事を共有する

2023年度日本鳥学会内田奨学賞を受賞して(溝田浩美)

溝田浩美(人と自然の博物館地域研究員)

 この度は、2023年度内田奨学賞をいただけたことを大変うれしく光栄に思います。長い年月を要してしまいましたが、多くの方々のお力をお借りし論文にできたことを心より感謝いたしております。鳥学の世界に導いてくださった江崎保男先生、研究をご指導いただいた大谷剛先生や布野隆之先生、鳥の学校でお世話になった濱尾章二先生、査読や選考に携わっていただいた皆様に、この場をお借りしお礼申し上げます。

 アオバズクの調査は六甲山の北部で行いました。田畑が広がり、雑木林が残る自然豊かな地域です。2004年のことでした。同地域で動物病院を開業されている八百先生から、病院の裏にあるエノキの木に毎年アオバズクが来ていると聞き、その場所を見に行ったことが研究の始まりでした。アオバズクが止まるエノキの枝の下には餌となった昆虫の残骸が多数落ちており、この残し餌からどのような餌を食べているのかを調べることにしました。

図1.jpg
図1 エノキの枝に止まるアオバズクのオス

 翌年(2005年)の4月末にアオバズクの声が聞こえ、エノキの枝に止まるオスを確認した日から本格的に調査を始めました。はじめは、アオバズクの巣がどこにあるのかもわからず、日が落ち、上空をカラスの群れが塒に戻る姿を眺める日々が続きました。しかし、カラスが塒に入った後、アオバズクのオスが“ホウホウ”と鳴くと、どこからともなくメスが現れたので、私は納屋の陰に隠れ、息を殺しながらそっとアオバズクを観察しました。そして、八百先生の助言をもとに、樹洞ではなく民家の屋根裏の営巣地を見つけることができました。また、アオバズクの夜間観察から、ヒナへの給餌は両親で行い、甲虫や蛾などの頭胸部や翅などをむしり取って与えることも分かりました。

 残し餌の回収は、ヒナたちが巣立ち、この地を離れるまでの約2か月間、保育関係の仕事の合間にほぼ毎日行いました。藪蚊襲撃の中、上から見下ろすアオバズクの視線を感じながら黙々と残し餌を集めたことは、今でも忘れられません。回収した残し餌は種類別に分け、頭や胸、翅をカウントし、捕食された昆虫類などの頭数を調べました。翅だけで同定をすることが難しい昆虫類は、顕微鏡で拡大し、種による違いを一つ一つ見つけていきました。
 
 調査の結果は、「第1回 共生のひろば」で発表しました。「共生のひろば」はアマチュアの調査成果・活動内容の発表会であり、2004年以降、兵庫県立人と自然の博物館が毎年、2月11日に開催しています。博物館の研究員からの助言や他の参加者との交流はとても刺激になり、その中で新たな課題も見つかり、翌年の営巣環境での昆虫相の調査につながりました。

 調査2年目は営巣地周辺の昆虫相を調べるため、ライトトラップを用いて明りに集まる昆虫類を捕えました。昆虫類の採集は、白い布を向かい合わせて立て、ブラックライトを吊るし、虫まみれになりながら行いました。大谷家と溝田家が家族ぐるみでおこない、子どもたちは手に網を持ち、夜の遠足のようで、とても楽しい思い出となりました。

 捕えた昆虫類は、大谷先生に教わりながら、展足や展翅を行い、触角や足1本に至るまで形を整えていきました。乾燥させたのちラベルを付けるのですが、美しく整えられた昆虫はまるで芸術品でした。採集した昆虫類555個体を全て標本にした後、種名を調べました。作業をする中で大谷先生からお聞きする話は昆虫愛にあふれていて、昆虫に対する多くのことを学ばせていただきました。

図2.jpg
図2 種の同定のために作成した昆虫標本

 これらの調査から、コウチュウ目を主な餌としているアオバズクが、雛の孵化直後には体の柔らかいチョウ目をわざわざ選んで与えていることがわかってきました。しかし、それを学術論文に取りまとめるとなると、自然の中に身を置き、昆虫や鳥たちに囲まれた調査とは違い、私にとってはとても大変なことでした。自分の力のなさを痛感し、あきらめかけた時、鳥の学校の「論文を書こう」に誘われ、何とか頑張ることができました。論文投稿後は、査読者の方々が丁寧に助言してくださるのですが、それに応えられず、直せば直すほど混乱した時期もありましたが、大谷先生、布野先生に助けていただきながら、修正することができました。布野先生は最後まで手直ししてくださり、原著論文を完成させてくださいました。その論文で賞までいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 今後は、アオバズクが捕食した餌昆虫のカロリーや栄養成分に着目し、研究を発展させていきたいと思っています。2021年と2022年にライトトラップを徹夜で行い、分析に必要な昆虫類のサンプルは十分に集まりました。これらの昆虫類の同定と分析はとても大変ですが、楽しみながらコツコツと進めていくつもりです。

 あきらめずに続けてきたこと、一つ一つの地道な調査が楽しみだったこと、多くの人に支えられたこと、共に歩める素敵な人との出会いに恵まれたことが受賞へとつながったのかもしれません。投稿先がアマチュアに対し広く門戸を開いている日本鳥学会だったことも私にとっては幸運でした。
 
 これからも、鳥の世界に恩返しするため、小さな子どもたちやお母さんたちを虫好き、鳥好きにすべく、日々奮闘していきたいと思います。

この記事を共有する

2023年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所・学振PD 澤田明

 この度は2023年度の日本鳥学会黒田賞を賜り、誠にありがとうございました。これまでのリュウキュウコノハズクに関する研究活動全体が評価対象となりました。私を研究者として育て上げていただいた研究指導者の方々、一人では行えない研究を共に形にしていただいた共同研究者の方々、離島での長期滞在を可能にすべくご尽力いただいた研究機関事務職員の方々、毎年半年におよぶ過酷な調査をともにやり遂げてきた学生の方々、調査生活を日々支えていただいた島の方々に深くお礼申し上げます。たくさんのデータをとらせていただいたリュウキュウコノハズクの方々にも感謝を申し上げます。この受賞報告では受賞記念講演では伝えきれなかった背景や思いを綴ることにいたします。

 約10年になるリュウキュウコノハズクとの付き合いは、2014年度に大阪市立大学の教員だった高木昌興氏に出会ったところから始まりました。当時学部3年の私は大学院から行う研究として高木先生の沖縄での野外研究に興味を持ちました。そこで学部4年の夏に、宮古島と南大東島の調査を見学しました。それぞれの調査地の特徴を実際に見ることで、自身により合っていると感じた南大東島のリュウキュウコノハズク研究を選択したのでした。
 
 島の標識個体群の長期研究は、進化学や生態学における古典であり最先端でもあります。進化の実験場としての強みを生かした島の長期研究が、何十年も前からトップジャーナルを飾る革新的知見を生み出し続けているからです。私が携わる南大東島のリュウキュウコノハズク研究も約20年研究が続く島の鳥類標識個体群の長期研究です。

図1 (1).JPG

図1:南大東島のサトウキビ畑と防風林

 私は、配偶者選択を中心テーマに据えつつ、南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を様々な視点からとらえた基礎研究を行ってきました。その内容は、形態の記述のようなものから、個体数変化の解析のようなものまで多岐にわたります。その背景には個体から個体群の各過程は関係しており、配偶者選択を理解するには配偶者選択以外の要素にも目を向ける必要があるという考え方がありました。博士号取得後は波照間島を新たな調査地として加えました。複数の島で調査することで、島で行われてきた進化の実験の繰り返しデータを得るためです。こうした基礎研究を積み重ねることでより応用的な研究に取り組んでいく狙いもあります。しかし、検証する仮説の普遍性や掲載雑誌のインパクトファクターの高さが評価される世の中で、個々の基礎記述が評価を得ることには常々難しさを感じています。それゆえに、これまでの基礎の積み重ねが今回の黒田賞という形で評価を得たことを大変嬉しく思います。

図2.JPG

図2:波照間島のリュウキュウコノハズク

 受賞記念講演では具体的な研究成果の話に加えて、アウトリーチ活動についても話しました。調査地に長期滞在しながらの研究になるので、私の研究成果は地域の方々の支えのもと得られているものです。調査地への恩返しの気持ち、研究者としての責任感、さらには長期滞在型研究者だからこそできる何かがあるはずという使命感のもと、島でのアウトリーチ活動に力を入れてきました。

 アウトリーチの重要性を説いた受賞記念講演をお聞きになった方の中には、野外調査には高いレベルのコミュニケーション能力が要求され、私はその力を備えていると思われた方もいるかもしれません。しかし、実際の私はむしろそのような活動に苦手意識を持っています。南大東島の研究系の先輩方は地域交流を特に上手に行なっていました。それゆえに、そのようにできない自分は今後島で研究を続けていくのは無理かもしれないと思っていた時期もありました。頻繁に飲み会に参加すれば明らかに目先の調査時間は削られます。とはいえ、調査だけして地域と交流を全く持たないのがよくないことも分かります。おそらくちょうどいいバランスがあり、その最適なバランスはきっと研究者の性格や研究スタイルによって変わってくるはずです。調査の年数を重ねてこれに気付いたことで自分のペースで素直に調査地に向きあえるようになり、この先も調査を続けていけそうだと思えるようになりました。これから野外調査を行なう学生には地域交流に不安を覚える学生もいるかもしれません。私はそういう学生には「素直に向き合っていけば大丈夫」と伝えたいです。

 最後に、日本の島の長期研究についても思いを記します。豊富で多様な島を擁する日本で島の長期研究が盛んに行なわれないことは、非常にもったいないことだと思います。進化生態学の視点での長期研究は歴史的に欧米で盛んに行なわれてきました。時間がものを言う分野であり、新規参入した場合の数十年の時間差はどう頑張っても埋められないことは事実です。しかし、ではやる意味はないのか?というと、そうでもないはずです。たとえ研究期間が欧米より短くても研究者の工夫と着眼次第で、その時間差に負けないくらいの独自性や意義を見出すことが出来ると考えています。現在の我が国の研究環境は、地道な基礎研究を続けやすい環境とは決していえません。それでも、私は沖縄のリュウキュウコノハズク研究系の存続を諦めず、島の長期研究の価値を世に発信し続けていきたい所存です。

この記事を共有する