研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

鹿児島大学農学部
助教 榮村奈緒子

鹿児島大学農学部農学科・森林保護学研究室について紹介させていただきます。私はこの研究室に2018年から助教として勤務しています。

鹿児島大学農学部のある郡元キャンパスは、鹿児島中央駅から徒歩15分にあり、生活には便利な場所ですが、キャンパス内には植物園や水田もあり、多くの鳥に出会えます。農学部は2024年度から1学科に改編され、森林保護学研究室のある環境共生学プログラムでは、生物多様性の保全から農林業資源に関する分野まで、幅広く学べます。環境共生学プログラムの学生は、高隈演習林や屋久島などに行く実習が多く、自然が好きな人には楽しめると思います。本研究室が担当している森林生態学実習では、県内各地で動植物を観察しますが、万之瀬川河口に行ってクロツラヘラサギなどの野鳥の観察を行います。

実は、私は鹿児島大学の卒業生で、学生時代には野鳥研究会という大学のサークルに入っていました。学生の頃は、バードウォッチングや鳥の調査バイトで、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、甑島など、いろいろな島に行きました。本土でも、万之瀬川河口や国分・加治木の干拓地等に鳥を見に行きました。冬は出水のツル、秋は金峰山でタカの渡りが楽しめます。このように、鹿児島は南北600キロもあり、鳥を見るのによい場所がたくさんあるので、鳥が好きな人が大学生活をすごすのによい環境です。私は学生時代のサークル活動がきっかけとなり、野鳥だけでなく、島の生活にも興味を持つようになり、学部卒業後は鳥を見るために小笠原諸島に移住しました。その後、研究者を志すようになり、今に至ります。

森林保護学研究室は、鳥類専門の研究室ではありません。鳥や哺乳類をはじめとした森林に生息する野生動物の生態や管理について研究をしており、特に私は動物と植物の種子散布の関係に昔から興味をもっています。また、他の研究室や他大学の研究者と共同研究として、マダニやアマミノクロウサギなど、様々なテーマに取り組んでいます。鳥類に関しては、主にフィールドワークを中心とした研究に取り組んでいます。最近は、奄美のプロジェクトで、鳥類の音声モニタリングを行っています。他にも、海岸植物のクサトベラの果実二型などの種子散布に関する研究や、森林被害をもたらすシカの高隈演習林での分布状況を継続的に調べています。本研究室には、私以外にキノコや共生菌が専門の畑邦彦准教授が所属しており、セミナーなどを一緒に行っています。

卒業後の進路は、県の林業職や民間の林業職に就職する学生が多いですが、大学院に進学する学生もいます。卒業生には、本研究室での活動を含めた環境共生学プログラムでの経験を、生物多様性に配慮した持続的で安定的な森林管理に活かしてほしいと思っています。

郡元キャンパスからの桜島

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博物館で鳥を観る −開催中の特別展・企画展のご紹介−

遠藤 幸子(広報委員)

みなさん、こんにちは!
夏鳥が続々と渡ってきている、今日この頃。ゴールデンウィークに鳥の観察や調査に行くことを予定されている方も多いのではないでしょうか。

そんな野外活動の誘惑が多い季節ではありますが、今回は開催終了が迫っている鳥が登場する特別展と企画展を2つご紹介したいと思います。

まずは、北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)で開催中の
春の特別展「カラーズ 〜自然の色のふしぎ展〜」です。
特設サイト:https://2024colors.jp/

こちらの特別展では、さまざまな標本を見ながら、生きものの「色」の謎に迫ることができるのだそう!開催は2024年5月6日(月)まで。ちなみにこちらは、以前鳥学通信に記事を書いてくださった鳥学会員の中原さんが主担当として関わられている展示です。
関連記事:https://ornithology.jp/newsletter/articles/638/

次に、神奈川県立 生命の星・地球博物館で開催されている
企画展「動物のくらしとかたち -籔内正幸が描いた生態画の世界-」です。
企画展ウェブサイト:
https://nh.kanagawa-museum.jp/www/contents/1696383531035/index.html

動物画家 籔内正幸さんの作品を絵本や図鑑などでご覧になったことがあるという方は多いのではないでしょうか。上記のウェブサイトには、企画展で展示されている籔内さんの作品リストを含む展示内容が詳しく掲載されています。開催期間は2024年5月12日(日)までです。

詳しくは、それぞれのウェブサイトをご覧ください。

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スワンプロジェクトによる渡り追跡と市民科学の合体

スワンプロジェクトによる渡り追跡と市民科学の合体

嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団とドルイドテクノロジー(中国)が主催し、北海道クッチャロ湖水鳥観察館の協力、樋口広芳東京大学名誉教授を顧問とするスワンプロジェクトが2023年12月にスタートしました。これはオオハクチョウとコハクチョウにカメラ付きGPSロガー(スワンアイズ、図1)を装着し、渡りを追跡するとともに位置情報や画像を公開することで、市民によるハクチョウ見守り体制を構築する国際共同プロジェクトです。

図1. カメラ付きGPSロガー(スワンアイズ). 中央の四角い部分がGPSで、両脇の出っ張りがカメラ(60度の角度で2個、240度の視野). 全体で130g. オオハクチョウの体重を10kgとして体重の2%以下.

2023年12月21日に宮城県伊豆沼・内沼において、各部位の計測後、オオハクチョウ10羽(オス5羽、メス5羽)にスワンアイズを装着し、すべての個体に愛称を付けました(図2)。コハクチョウは現在、北海道クッチャロ湖で捕獲&スワンアイズの装着がすすめられています。位置情報は4時間ごとに1日6回、画像は7時、9時、13時、17時に記録され、1時、9時、17時にそれらの情報を取得することができます。少しタイムラグがありますが、ほぼリアルタイムにハクチョウのいた場所を知ることができ、ハクチョウが見た景色を目にすることができます。

図2. スワンアイズを装着された6C08(愛称:ミホ).

位置情報と画像は多言語(日本語、中国語、英語)のホームページで公開されており(https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/)、どなたでもアクセスできます。スマホのアプリも準備されており、スマホによる道案内でハクチョウのいた場所までたどり着くことができます。観察記録はX(ツイッター)に投稿する(#SwanEyes)ことで、記録が蓄積されていく仕組みになっています。

スワンアイズは私たちに何を見せてくれるのでしょう。これまで得られた知見を少し紹介します。図3は水田で採食しているアキラで、写っている顔はアキラ自身のもので、いわゆる自撮りです。図4はヒトシがみたねぐらの様子です。位置情報と画像がセットになっているため、いつどこで何をしているのかがよくわかります。飛行中のものもあります。ナツキが写した飛行中の仲間(図5)や、キヨシが秋田県から青森県へ移動したときのもの(図6)などです。

図3. 水田で採食するアキラ(2023年12月16日, 伊豆沼周辺).
図4. ヒトシが見たねぐら(2023年12月23日, 伊豆沼).
図5. ナツキが写した飛行中の仲間(2024年1月27日, 奥州市).
図6. 秋田県から青森県へ飛行中のキヨシから届いた画像. 一緒に飛ぶ6羽の仲間が左上に写っている(2024年3月14日).

飛行中の画像をみると、ほかにもわかることがあります。図6の画像は7時のものでした。5時と9時の位置情報を結んだ移動軌跡は北東へ向かっていましたが、画像に写った場所の地形から実際は北上していることがわかり、その位置は軌跡より22kmも離れた海よりの場所でした。すなわち、位置情報を結んだ移動経路はあくまで推定上のものであるということです。そしてこれらの個体は本州から海を越えて北海道に渡りました。衛星追跡によるこれまでの研究で彼らが海を越えることは頭ではわかっていました。しかし、実際に渡っている画像をみると衝撃を受けました(図7a, b)。

図7a. 太平洋上を飛行中の画像(ケンジ 2024年2月9日)。海面からあまり離れていないところを飛んでいることがわかる。
図7b. 太平洋上を飛行中の画像(ナオヤ 2024年3月19日)。

スワンアイズのカメラには他種、他個体も写り、そこから見えてくるものもあります。ハルカのスワンアイズは残念ながら放鳥直後に通信が途絶えましたが、幸いにもヒトシとつがいでした。いつかヒトシのカメラにハルカが写るのではと期待していたところ、果たして約1ヶ月後にハルカが写りました(図8)。写真では標識番号は見えませんが、通信が途絶えたのがハルカだけだったこと、ヒトシの周辺には彼の位置情報しかなかったことから、ハルカと断定できました。通常、通信が途絶えた場合、その個体はそのまま行方不明となりますが、ハルカの場合は幸いヒトシとつがいだったこともあり、生存確認ができました。カメラのおかげです。ほかにもオオハクチョウと一緒に群れをつくることの多い、マガン、ヒシクイ、シジュウカラガンなどのガン類をはじめ、エゾシカが写っていた画像もあります。

図8. ヒトシのカメラに写ったハルカ(2024年1月30日, 北上市).

3月24日現在、スワンアイズを装着したオオハクチョウ10羽は、すべて北海道へ渡りました(図9)。石狩にはアサミとキヨシ、根室にはナツキ、それ以外はみんな十勝にいます。北海道に至るまでのオオハクチョウのくらしをみると、湖沼や河川でねぐらをとり、周辺の農地で採食するという基本的な行動パターンは変わりません。一方で、カメラに写った採食場所は、伊豆沼などの越冬地ではハス群落や水田だったものが、北海道ではデントコーン畑(図10)や麦畑などに変化し、地域によって異なるくらしが見えてきています。

図9. スワンアイズを装着したオオハクチョウの現在の位置(EPマーク, 2024年3月24日).
図10. ケンジが利用したデントコーン畑. ヒシクイも写る(2024年3月18日, 北海道上士幌町).

スワンプロジェクトは始まったばかりです。手探りですすめている部分もありますが、X(ツイッター)をはじめとする市民の方の反響に勇気づけられています。公開されている位置情報を頼りに多くの方が標識ハクチョウを探して下さり、X(ツイッター)に投稿下さっています。スワンアイズのカメラではその個体周辺しか写りませんので、群れ全体を俯瞰した投稿者の画像はたいへん参考になります。

このプロジェクトでこれから何が見えるのか、何がわかるのか、私自身ワクワクしています。スワンアイズを装着されたハクチョウたちへの感謝とともに、みんなで一緒にハクチョウを見守り続けることで、鳥ひいては鳥類学への関心が広がることを心から願っています。

 

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活動探訪 「軽井沢のホントの自然 〜現在・過去・未来〜」に参加してきました!

広報委員 遠藤幸子

みなさん、こんにちは!鳥たちのさえずりが聞こえる今日この頃。今回は、寒いなかにも春の気配を感じる長野県軽井沢町よりお届けいたします。

軽井沢町は、観光地や探鳥地としてメディアで紹介されたりすることから、来たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。ここで昨年11月に「軽井沢のホントの自然〜現在・過去・未来〜」というイベントが開催されました。こちらのイベントでは、鳥類をはじめとする生物関連の著書を出版されている石塚徹さんが軽井沢町の自然の歴史や現在の状況などについてお話しされました*。

国設軽井沢野鳥の森からみた浅間山(2023年12月3日に遠藤が撮影)

軽井沢町は、浅間山という活火山の麓にあります。浅間山の噴火の影響により、昔は町の南部に湿原や草原が広がっていたそうです。そうした草原環境が開発により失われていった一方で、農地として開拓され、その後使われなくなった場所が草原になっていったのだそう。このようにしてできた草原では、以前は繁殖期にオオジシギもみられていたとのことでした**。残念ながらオオジシギは近年確認されていないとのことですが、こうした場所では草原を生息環境とするさまざまな生物が今もみられるのだそうです。石塚さんは、軽井沢に残る草原環境は、火山や人のかかわりの歴史を反映した「自然史遺産」であるとお話されていました。

当日の会場の様子。左が講師の石塚徹さん。

こちらのイベントでは他にも、軽井沢で近年増えた・減った生き物のこと、多様な環境が存在することの重要性などの色々なお話がありました。長年この地域で観察と調査をなさってきた石塚さんだから知っている、貴重な内容が盛りだくさんでした。

地域の自然の成り立ちを知ることは、自然環境の保全や再生を考えるうえでも大切なことです。このイベントの約3週間後、当日参加した人や後日動画をみた人が集まり、軽井沢の自然について一緒にお話するという「おしゃべり場」というイベントが開催されました。そこには、この地域の自然の歴史、科学的な知見、さまざまな立場の人々の想いとともに町の自然のこれからについて考える、人々の姿がありました。

*石塚さんは、軽井沢町の自然に迫る『軽井沢のホントの自然』(ほおずき書籍, 2012)、少年とともに自然を探検している気分になれる物語『昆虫少年ヨヒ』(郷土出版社,2011)、『歌う鳥のキモチ 鳥の社会を浮き彫りに』(山と渓谷社, 2017)などの鳥類関連の書籍など、さまざまな著書を出版されています。

**オオジシギは、環境省レッドリスト2020にて準絶滅危惧種に指定されています。

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