2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(田上結大)

愛媛大学大学院 理工学研究科理工学専攻 博士前期課程2年
田上結大

愛媛大学大学院博士前期課程2年の田上結大と申します。この度は、日本鳥学会2024年度大会におきまして、「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞を授与していただき、誠にありがとうございます。
ポスター発表を聞きに来てくださった皆様に御礼申し上げます。貴重なご意見やアドバイスをいただき、非常に良い刺激となりました。また、大会を企画運営していただいた関係者の皆様、貴重な場を設けていただきありがとうございます。

研究の概要
スズメ目は鳥類の約60%を占める多様な分類群で、その多様化の一因として営巣能力が挙げられます。スズメ目は巣材として、コケや草本、獣毛、菌類など様々な材料を利用して巣を作ります。特にコケは多くの鳥類によって利用されています。
先行研究においてツバメ科が泥を利用した営巣行動が分布域の拡大に寄与した可能性が示唆されています。しかし、どういった巣材を選択して巣を作るかの進化要因の研究は少ないです。
そこで本研究では、コケの巣材利用行動の進化要因を解明する第一歩として、ヒタキ科の巣材と地理的分布に着目し、系統比較法を用いて解析を行いました。ヒタキ科は約50属303種と多様性が高く、巣材としてコケを利用する種数が最も多い科です。

オオルリ(ヒタキ科)の古巣。コケが大量に使用されている。

巣材の種類と、分布域が含む生物地理区の情報をオンラインのデータベースを中心に収集したところ、45属243種についての情報を集めることができました。それらの種の系統樹を作成し、ヒタキ科の共通祖先がどこに分布していたか、また、巣材としてコケを利用していたかどうかを、祖先形質復元の解析を行い推定しました。
繁殖地の分布域の祖先形質復元の結果、ヒタキ科では独立に3回、アフリカ区への進出が起こっていることが分かりました。また、巣材の祖先形質復元に関して、ヒタキ科では巣材にコケを利用する行動が祖先的であり、それが大きな2つのクレードを含む、多数のクレードで独立して失われていたと推定されました。
上記の解析の結果、砂漠を含むアフリカ区への進出と巣材の変化が起きたと推定されたノードが一致していたため、繁殖地と巣材の進化には相関があるのではないかと考え、相関進化についての解析を行いました。その結果、巣材に使う植物の種類の進化と、砂漠を繁殖地とするという進化の間に、相関があることが確かめられました。さらに、巣材と繁殖地の形質状態間の遷移率から、特定の巣材選択が進化した後に、砂漠を繁殖地とする進化が起こる確率が高いことが示唆されました。本研究の結果は、巣材の選択が変化してから新たな繁殖地に進出した可能性を示しています。

 

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