2020年度の黒田賞を受賞して

明治大学 研究・知財戦略機構
山本誉士 http://ytaka.strikingly.com

 この度、2020年度の黒田賞を受賞することができ、大変名誉に思っております。残念ながら今年度の受賞講演は延期となりましたが、鳥学通信の場をお借りして、関係者の皆さまへの御礼と受賞の感想を述べさせていただきたいと思います。

 まずは私の研究内容の概要について。私はこれまで動物装着型データロガー(バイオロギング)を用い、主に海鳥類を対象として、彼らの繁殖期の採餌や非繁殖期の渡りといった、海上での移動と行動を明らかにしてきました(e.g. Yamamoto et al. 2010 Auk, 2014 Behaviour)。そして、衛星リモートセンシングデータ解析などを組み合わせることで、海鳥類がどのような海洋環境を選択的に利用しているのか、また環境変動と関連して空間分布がどのように動態するのかといったメカニズムの理解に努めてきました(e.g. Yamamoto et al. 2015 Mar Biol, 2016 Biogeosci)。近年では、鳥類の環境利用の特徴を統計モデル化することで、環境情報から時空間分布動態の推定にも取り組んでおります(e.g. Yamamoto et al. 2015 Ecol Appl)。さらに、海鳥類の空間分布データの一部を用い、生物多様性保全に関わる保全海域の選定に還元してきました。

 一方、海鳥類は陸上で集団営巣するため、繁殖地での行動観察やモニタリングなどによって、様々な生態が明らかにされてきました。しかし、海上における行動観察の困難さから、これまで断片的なデータをもとに解釈されたり、理論が提唱されたりしてきました。この点において、データロガーを用いて海上での行動も捉えることで、よりシームレスに繁殖生態の特徴や個体数変動の要因などの解明に努めております(e.g. Yamamoto et al. 2017 Ornithol Sci, 2019 Curr Biol)。

 さて、このような機会ですので、私のこれまでの苦悩(?)についても、少し回顧させていただきたいと思います。そもそも、私がなぜ鳥類を研究対象に選んだのかというと、それは「たまたま」でした。元々は、なんとなくペンギンの研究をしてみたいなと思っておりましたが、いきなり海外で野生のペンギンを研究対象とすることは難しく、大学院時代の指導教官の勧めによってオオミズナギドリの研究に取り組みました。そのため、このようなことを申すのは少し気が引けますが、私は鳥についてすごく興味があるかと言えばそうでもありません。私が識別できる鳥の名前は海鳥類を含めても数少ないです。それ故、鳥に詳しい人々が集まる日本鳥学会は、学生の時分にはハードルの高い場所であり、少し引け目(劣等感?)を感じていました。また、「とりあえずロガーを付けてみる」という私のスタンスが、研究の基本である仮説検証型ではなかったことも理由の一つかもしれません。しかし、フィールド調査を通して自然の中に身を置くことで、現象を理解する面白さや、研究対象としての鳥類の魅力を感じてきました。また、データを解析することで、これまで予想していなかった行動を明らかにできるデータ駆動型スタイルも、ロガーを用いた研究の醍醐味の一つであると今は強く感じております(e.g. Yamamoto et al. 2008 Anim Behav)。ジェネラリストかスペシャリストか?仮説検証型かデータ駆動型か?鳥類に限らず、哺乳類も含めて、様々な動物種を対象に研究する私のようなスタイルはジェネラリストであり、一方で移動という側面から動物の環境適応の理解に取り組むスペシャリストでもあります。また、現在でもデータを解析することで特徴を見出すデータ駆動型の研究を推進しつつ、その過程においてフィールドで発見した疑問などを基に仮説検証型の研究にも取り組んでおります(Yamamoto et al. 2016 J Biogeogr)。研究ベクトルには様々ありますが、分野を越えて多様な手法を取り入れつつ、特にこだわらないというこだわりが私の研究スタイルであると、いまは自信を持っていえます。

 もしかすると、鳥学会に参加している学生さんの中にも、かつての私のように、鳥に詳しくないことで引け目を感じている人がいるかもしれません。また、自分に研究ができるか不安に思っている人もいるかもしれません。でも、きっと大丈夫です。学生の時の私は決して優秀であるとは言えず、劣等感の塊でした。今回、そんな私が黒田賞を授与されるに至ったことが、若い世代の人々の励みの一つになれれば嬉しく思っております。鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ(コピーライトマークK先生)。でも、今後も「楽しみながら」鳥類の研究に取り組むとともに、日本鳥学会のさらなる発展に貢献できるよう努めて参りたいと思っております。最後に、あまりに多すぎるためここでは述べることができませんが、未熟な私をこれまで根気強くご指導いただきました先生方や先輩方、またフィールド調査でお力添えをいただいた全ての方に、心より感謝と御礼を申し上げます。

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アルゼンチンでのペンギン調査の様子
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