嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)
宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団とドルイドテクノロジー(中国)が主催し、北海道クッチャロ湖水鳥観察館の協力、樋口広芳東京大学名誉教授を顧問とするスワンプロジェクトが2023年12月にスタートしました。これはオオハクチョウとコハクチョウにカメラ付きGPSロガー(スワンアイズ、図1)を装着し、渡りを追跡するとともに位置情報や画像を公開することで、市民によるハクチョウ見守り体制を構築する国際共同プロジェクトです。
2023年12月21日に宮城県伊豆沼・内沼において、各部位の計測後、オオハクチョウ10羽(オス5羽、メス5羽)にスワンアイズを装着し、すべての個体に愛称を付けました(図2)。コハクチョウは現在、北海道クッチャロ湖で捕獲&スワンアイズの装着がすすめられています。位置情報は4時間ごとに1日6回、画像は7時、9時、13時、17時に記録され、1時、9時、17時にそれらの情報を取得することができます。少しタイムラグがありますが、ほぼリアルタイムにハクチョウのいた場所を知ることができ、ハクチョウが見た景色を目にすることができます。
位置情報と画像は多言語(日本語、中国語、英語)のホームページで公開されており(https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/)、どなたでもアクセスできます。スマホのアプリも準備されており、スマホによる道案内でハクチョウのいた場所までたどり着くことができます。観察記録はX(ツイッター)に投稿する(#SwanEyes)ことで、記録が蓄積されていく仕組みになっています。
スワンアイズは私たちに何を見せてくれるのでしょう。これまで得られた知見を少し紹介します。図3は水田で採食しているアキラで、写っている顔はアキラ自身のもので、いわゆる自撮りです。図4はヒトシがみたねぐらの様子です。位置情報と画像がセットになっているため、いつどこで何をしているのかがよくわかります。飛行中のものもあります。ナツキが写した飛行中の仲間(図5)や、キヨシが秋田県から青森県へ移動したときのもの(図6)などです。
飛行中の画像をみると、ほかにもわかることがあります。図6の画像は7時のものでした。5時と9時の位置情報を結んだ移動軌跡は北東へ向かっていましたが、画像に写った場所の地形から実際は北上していることがわかり、その位置は軌跡より22kmも離れた海よりの場所でした。すなわち、位置情報を結んだ移動経路はあくまで推定上のものであるということです。そしてこれらの個体は本州から海を越えて北海道に渡りました。衛星追跡によるこれまでの研究で彼らが海を越えることは頭ではわかっていました。しかし、実際に渡っている画像をみると衝撃を受けました(図7a, b)。
スワンアイズのカメラには他種、他個体も写り、そこから見えてくるものもあります。ハルカのスワンアイズは残念ながら放鳥直後に通信が途絶えましたが、幸いにもヒトシとつがいでした。いつかヒトシのカメラにハルカが写るのではと期待していたところ、果たして約1ヶ月後にハルカが写りました(図8)。写真では標識番号は見えませんが、通信が途絶えたのがハルカだけだったこと、ヒトシの周辺には彼の位置情報しかなかったことから、ハルカと断定できました。通常、通信が途絶えた場合、その個体はそのまま行方不明となりますが、ハルカの場合は幸いヒトシとつがいだったこともあり、生存確認ができました。カメラのおかげです。ほかにもオオハクチョウと一緒に群れをつくることの多い、マガン、ヒシクイ、シジュウカラガンなどのガン類をはじめ、エゾシカが写っていた画像もあります。
3月24日現在、スワンアイズを装着したオオハクチョウ10羽は、すべて北海道へ渡りました(図9)。石狩にはアサミとキヨシ、根室にはナツキ、それ以外はみんな十勝にいます。北海道に至るまでのオオハクチョウのくらしをみると、湖沼や河川でねぐらをとり、周辺の農地で採食するという基本的な行動パターンは変わりません。一方で、カメラに写った採食場所は、伊豆沼などの越冬地ではハス群落や水田だったものが、北海道ではデントコーン畑(図10)や麦畑などに変化し、地域によって異なるくらしが見えてきています。
スワンプロジェクトは始まったばかりです。手探りですすめている部分もありますが、X(ツイッター)をはじめとする市民の方の反響に勇気づけられています。公開されている位置情報を頼りに多くの方が標識ハクチョウを探して下さり、X(ツイッター)に投稿下さっています。スワンアイズのカメラではその個体周辺しか写りませんので、群れ全体を俯瞰した投稿者の画像はたいへん参考になります。
このプロジェクトでこれから何が見えるのか、何がわかるのか、私自身ワクワクしています。スワンアイズを装着されたハクチョウたちへの感謝とともに、みんなで一緒にハクチョウを見守り続けることで、鳥ひいては鳥類学への関心が広がることを心から願っています。