2030年までに陸域と海域の30%を保全する30by30目標と渡邊野鳥保護区フレシマ

田尻浩伸(公益財団法人日本野鳥の会)

私たち(公財)日本野鳥の会は今年3月に創立90周年を迎えた自然保護団体で、「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、全国各地にお住いの会員の皆さんと都内事務局に勤務する職員が連携しながら活動しています。活動は自然の大切さを伝える普及教育的な活動や開発問題等への対応、政策提言や調査活動まで様々ですが、特徴的なものに野鳥保護区の設置があります。野鳥保護区とは、鳥獣保護管理法や自然公園法など法や条例によって保護されていない民有地をご寄付によって買い取ったり、土地を所有する個人や企業と協定を結んだりすることで希少種とその生息地を保護する取組で、1985年に静岡県沼津市に最初の野鳥保護区となる小鷲頭山野鳥保護区を寄贈いただいたことから始まりました。2024年5月現在、北海道を中心に約4,000ヘクタールの野鳥保護区を設置しています。

渡邊野鳥保護区フレシマ
フレシマの看板に止まるオオジシギ(写真:古山 隆)

さて、2022年12月、カナダのモントリオールで開催された生物多様性条約締約国会議COP15において「昆明・モントリオール生物多様性枠組*、以下枠組」が採択されました。この枠組では、2050年ビジョンを「自然と共生する世界」、2030年ミッションを「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」、いわゆるネイチャーポジティブ(自然再興)とし、さらにその下に23の個別のターゲットが設定されています。その中のひとつが2030年までに陸域と海域及び沿岸域の少なくとも30%を保全するという30by30目標です(ターゲット3)。

30%を保全する手法として、前述のような法や条例で保護された鳥獣保護区や国立・国定・県立公園等の保護地域指定がありますが、その指定には利害関係者の合意形成などに時間がかかることも珍しくありません。そこで大きな期待を集めているのがOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)で、本来は保護を目的とした地域ではないものの結果的に高い生物多様性が残された地域を生物多様性の保全に活用していくというものです。OECMには自然観察の森やビオトープといった保全も目的とした地域はもちろん、企業緑地や里地里山、演習林や遊水地など本来は保全を目的としない様々な地域が含まれます。OECMに認定されると、国際的なデータベースに登録され、ウェブ上でその位置や様々な情報が公開されるようになります(https://www.protectedplanet.net/en/search-areas?filters%5Bdb_type%5D%5B%5D=oecm)。国内では、枠組採択に先駆けて2022年3月には2021年に英国で開催されたG7における約束に基づいて「30by30ロードマップ**」を閣議決定しており、2022年には自然共生サイトという名称で活動が本格化しました(当時は仮称)。2024年5月までに全国184か所が自然共生サイトとして環境大臣の認定を受けています。

タンチョウの営巣地を保護することを目的に当会が設置した渡邊野鳥保護区フレシマでは、タンチョウの営巣状況を把握するための繁殖状況調査、繁殖に影響を与える無断立ち入りなどに対応するための巡回監視や馬の放牧による植生管理などを継続しており、また過去には近隣での風力発電所建設計画に対応するためのオオワシ・オジロワシの調査などを行ってきました。生物多様性の高さと環境管理等を含めて自然共生サイトとして認定されたと考えています。

植生管理のため放牧を継続している馬
認定証を受け取った日本野鳥の会上田恵介会長。左は環境省白石自然環境局長。
令和5年度認定証授与式風景。関心の高さが分かる。

ここから少し分かりにくくなるのですが、自然共生サイトは必ずしもそのままOECMではありません。というのも、自然共生サイトは保護地域を含むことができる一方、OECMは保護地域を含まないものだからで、前述のデータベースに登録される範囲は「自然共生サイトのうち、保護地域を除いた範囲」になります。これは保護地域と重複する範囲を二重カウントしないようにするための措置です。

30by30目標達成のためには少しでも多くの地域がOECMとして保全されていく必要がありますが、自然共生サイトもしくはOECMに認定されると何かいいことがあるのでしょうか。もちろん、枠組の世界目標に貢献できる、生物多様性保全に貢献できる、そして貢献していることを対外的に広報できるといった側面もありますが、それだけでは多くの主体の参加は見込みにくいように思います。環境省が行った調査によると、企業の活用方法として自社技術の実証の場として活用しビジネスチャンスを期待する、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による情報開示への活用を期待する、といった声があったようです。そのほか、企業が自然共生サイト申請主体を経済的に支援することで間接的に生物多様性保全に貢献する、いわゆる生物多様性クレジットとしての活用なども検討されています。この手法がグリーンウォッシュや開発の免罪符にならないよう、制度設計や運用状況に注視していく必要があると考えています。

現在召集されている第213回通常国会では、OECMに関連する取組を法に基づいたものとする「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」が可決され(4月12日)、19日に公布、施行されました。今後(来年度?)、この法に基づいて、申請者は「増進活動実施計画(自治体の場合は連携増進活動実施計画)」を策定し、環境大臣ほかの主務大臣に認定を受けると、活動場所が自然公園法や鳥獣保護管理法、種の保存法、都市緑地法ほかの手続きが必要である場合、手続きの簡素化等の特例を受けることができるようになります。また、自然共生サイトは現時点で生物多様性が高いことが求められますが、増進活動実施計画では劣化した環境の回復や創出をする場合も含めることができ、計画を実施した結果、生物多様性が高まればOECMに認定されることもできるようになります。この回復や再生は2030年までに劣化した生態系の少なくとも30%で効果的な再生を行うという枠組のターゲット2の実現に貢献します。

これらOECMに関する特例などは、鳥学会会員が野外実験や捕獲等を行う場合にはメリットとなる場合もあるように思いますが、正直なところ、生物多様性保全に関心が高い層以外からより多くの参加を得るにはちょっと弱いのではないかと感じています。私たちはメリットとして税制優遇(不動産取得税や譲渡所得税、固定資産税、相続税など)があると良いと考えていますが、なかなか難しいようです。

批判的になってしまった感がありますが、まだ課題はあるものの30by30目標による生物多様性の保全には高い効果が見込まれています。自然共生サイトはその認定にあたって面積による制限がないことから、個人でも認定を受けることが可能で、実際に自然共生サイトに認定された個人住宅のお庭もあります。皆さんも、枠組の世界目標達成に参加、またネイチャーポジティブへの貢献のため、調査を行っているフィールド等の所有者とともに申請***してみてはいかがでしょうか。私個人としては、ブランド農産物のように生物多様性保全に貢献する農地で収穫された作物として、他の作物との差別化に使ってみたいと思っています。

 

*:環境省による昆明・モントリオール生物多様性枠組パンフレットは
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_pamph_jp.pdf

枠組仮訳は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_ja.pdf

枠組原文(英文)は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_en.pdf

**:30by30ロードマップは
https://www.env.go.jp/content/900518835.pdf

***:自然共生サイト申請(前期は受付終了、後期は9月ごろ募集開始予定)は
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

 

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