出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)
和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。73巻1号の注目論文をお知らせします。
著者: 高橋佑亮・東淳樹
タイトル: 農耕地帯で繁殖するチュウヒの狩り場環境選択
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.73.23
湿地性猛禽類のチュウヒは、世界的に見た場合、個体数が安定傾向とみなされていますが、国内の繁殖個体群はわずか100番い程度の状況で、環境省のレッドリストランクでは、絶滅危惧IB類に指定されています。
本種の保全を進めるにあたっては、とりわけ生息地管理が重要となり、そのためには、生息環境選択の詳細な情報が求められます。本論文の著者の高橋さん達は、このような背景に基づいて、秋田県の八郎潟で繁殖するチュウヒの狩り場選択と、狩り場環境の指標となる餌動物密度と植生高を明らかにされました。
鳥屋さんはどうしても、心の大半が鳥に奪われがちで、彼らが暮らす環境の定量的な記録をついつい忘れてしまい、最後の考察に困るケースがよく見られます。高橋さん達の論文では、このような状況に陥ることなく、きちんとデータを集められており、これから投稿を目指す方にとって、間違いなくお手本となる1本と言えますね!
以下は高橋さんからいただいた解説文です.
日本のチュウヒの繁殖地における採食環境については、狩りが見られた環境タイプの列記といった報告はあったものの、個々の環境タイプが狩り場としてどの程度重要なのか評価した例はありませんでした。この点を研究した成果が今回の論文です。また、単に狩り場として選択される環境タイプを示しただけでなく、それらの環境タイプがなぜチュウヒに選択されるのか、すなわち選択要因についても検討し、獲物となる動物の密度や植生構造と対応付けられたことが、本研究のもう一つの意義だと思っています。
思えば、これら獲物となる動物(ネズミ、カエル、鳥類)の調査や植生調査は、主題であるチュウヒの観察調査よりもむしろ大変でした。とくに、9種類の環境タイプにそれぞれ10個の罠を設置し、計90個の罠を毎朝、毎夕に一人で見回るネズミの捕獲は大変でした。このようにして収集した獲物や植生のデータと、チュウヒの狩り場環境選択の傾向を突き合わせてみると・・・。おや期待通り対応しているではありませんか。苦労が報われたのでした。
今後、鳥類の採食環境に関する研究において、この論文が少しでも参考になれば幸いです。また、草地の創出といったチュウヒの生息地保全の取り組みに際し、この論文が一助となれば幸いです。(高橋佑亮)