【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(3)クイーンズランド大での日々

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)

こんにちは、片山です。今年の4月半ばにオーストラリアに来てから、約6ヶ月が過ぎました。1年間の在外研究の半分がもう終わってしまったことになります・・・そんなに月日が経ったの!?と驚きを隠せないこの頃です。

この半年を振り返ってみると、たしかに色々なことがありました。研究のこと、人との出会い、オーストラリアの鳥たち、そして思わぬハプニング・・・渡航前には想像もしなかったことばかりでした。できるだけ多くの出来事を、全5~6回の連載の中でお話ししたいと思います。

今回は、大学での日々について紹介します。私が今通っているのは、クイーンズランド大学のセントルシアキャンパスです。キャンパスの入り口にあたる場所には、大学名が大きく掲げられています。これを初めて見た時、いよいよ来たんだなという実感がわきました。

芝生にはいつもズグロトサカゲリMasked Lapwingがいます(写真右下)。

キャンパス内には緑地や水場が多く、色々な鳥が暮らしています。なかでもUQ Lakesという小さな湖にはキバタンSulphur-crested Cockatoo、セイケイ Purple SwamphenやオオバンEurasian Cootなど多くの鳥を見ることができます。大学内だけでも、きちんと鳥見をすれば数十種は見られるのではないでしょうか。

絵画のような素敵な光景ですが、冬でも日差しが強いです。

私が所属するCentre for Biodiversity and Conservation Science(通称CBCS)は、Goddard buildingという建物の5階にあります。見晴らしも良く、気持ちのいい場所です。

左の建物がGoddard Buildingです。右手の芝生でランチ会もします。

この階に天野達也博士もいます。オーストラリアで彼と久しぶりの再会を果たすというのはなんとも不思議な気分でしたが、彼は昔と変わらず暖かく出迎えてくれました。

子どもたちも天野さんにとても懐いていました(許可を得て掲載)。

私はポスドク用の4人部屋を借りて、もう一人のポスドクのVioleta Berdejo-Espinola博士と使っています。彼女から大学の色々なことを教わったり、一緒にランチをすることもあります。彼女は今、世界中の脊椎動物の個体数変化を調べる研究プロジェクトを主導しています。私もこれに参加して、日本の論文収集を担当しています。この論文収集のプロトコルが自分の研究の参考になり、さっそく在外研究のありがたみを感じています。

CBCSには数十名以上の研究者や学生が所属しているようです。そうした方々との交流のために、毎週火曜日に開催される研究セミナーに参加しています。その日はまず朝10時半から、モーニングティー(お茶会)が始まります。無料で提供されるコーヒーや紅茶を片手に、多い時で20名以上の先生や学生が集まって会話を楽しんでいます。天野さんもご多忙で不在のことも多く、自分から積極的に誰かに話しかけていかないと何も始まりません。すこし緊張しますが、いざ話しかけてみると皆さんとてもフレンドリーです。鳥を研究している人も多いので、オススメのバードウォッチング場所を聞けるなど、話しかけて良かったなと思うことが多いです。この会話はもちろん英語で行うわけですが、ガヤガヤと賑わう中で相手の英語を聞き取るのは難しく、いつも脳が疲弊しています。お茶会とセミナーは誰でもウェルカムで、最近では熊田さんも参加しています。

多様なバックグラウンドを持っていても、生きもの好きなのは同じです。

モーニングティーの時間は30分ですが、合間にこの一週間の出来事を皆で共有する時間もあります。受理された論文がある人、博士論文の審査にパスした人、予算を獲得した人、外部のセミナーで講演する人、などが簡単な報告をしていきます。おめでたいことがあると、皆が拍手やお祝いの言葉をかけていて、そういう明るい雰囲気がとても良いなと思います。初めて参加した人は、ここで自己紹介をします。私も一分ほど自己紹介をしましたが、なんとか伝わったと思いたいです。

モーニングティーが終わるとセミナールームに移動して、質疑込みで1時間のセミナーが始まります。私も5月にセミナーをして、日本の農地生態系の生物多様性やその保全についてお話しました。そうやって書くと一行で終わってしまうのですが、30分近い時間を英語で話すのは初めてでした。セリフも用意して、何度も練習をしました。おかげで発表は何とかなりましたが、質疑応答は聞き取れない部分もあり、理想の自分にはほど遠いなぁと感じました。そういう経験も含めて、貴重な時間を過ごさせてもらっています。このセミナーをきっかけに、牧草地の鳥を研究している方のフィールドワークに11月に同行できることになりそうです。実現すれば、次回の記事でご紹介したいと思います。

それっぽく話しているように見えますが、内心はいっぱいいっぱいです。

さて、私にはオーストラリアでどうしても会いたい鳥の研究者がいました。その方はMatthew Herring博士と言って、オーストラリアの田んぼや湿地に生息する絶滅危惧種のオーストラリアサンカノゴイAustralasian BitternやオーストラリアタマシギAustralian Painted-Snipeを研究されています。これまでメールでしか連絡を取ったことのなかった彼に、ついに会うことができました。メールでもZoomでも交流できる時代ですが、彼と向かい合って、握手をして、言葉を交わした時間は忘れられない思い出になりました。12月には、彼の調査地の田んぼを視察して、現地の研究者や生産者にセミナーをする予定です。余談ですが、彼のお子さんの一人は日本が好きで空手を習ったり、ドラゴンボールを見ているそうです。そう聞くと嬉しくなりますね。

まさにナイスガイでした(本人の許可を得て掲載)。

さてまだまだ話したいことはあるのですが、この辺りでちょうどよい文字数になってしまいました。次回以降は、以下の話をしたいと思います:

・鳥のおかげ?あるオーストラリア人との出会い

・買った車が2か月で壊れる

・入居したアパートで様々なトラブルが発生

最後に、特に意味はありませんがセアカオーストラリアムシクイRed-backed Fairywrenを紹介します。ブリスベン近郊の森林や湿地で出会うことのできる美しい鳥です。

それではまた次回の記事でお会いしましょう。
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