澤祐介(企画委員)
2024年度の鳥の学校は、9月17日に山階鳥類研究所で標本製作講習が行われた。岩見恭子氏(山階鳥類研究所)を講師に迎え、10名の受講者が参加した。講習でははじめに、標本製作の意義について説明があった。標本はその時代の生物相・自然史を反映した貴重な記録であること、過去に遡って標本を集めることはできないこと、そして大きな博物館だけでなく、各地の博物館や大学などで、地域の生物を集めて標本として保存する価値などについて説明があった。また標本製作時には、仮剥製の他、胸筋からのDNAおよび安定同位体用サンプルの取得、胴体部分の骨標本作成など、ひとつの鳥体を余すことなく活用されており、鳥学の発展の基礎を支えていることを強く感じた。
講習では、ウミネコを材料に、受講者1人につき1羽の仮剝製を製作した。限られた時間内で全工程を学ぶため、前半と後半にパートをわけて講習が進められた。前半は、半解凍にしてある鳥の外部計測、性別判定、皮むき、肘関節・膝関節の取り外し、尾椎の切断、大まかな除肉、頸椎の切断と頭骨内の処理、胸筋サンプルの採取までを行った。この後、本来であれば、脂肪除去、精密な除肉、羽毛の洗浄と乾燥となるが、この工程は時間がかかるため、講師による実演と解説が行われた。
後半では、講師陣があらかじめ洗浄乾燥まで済ませた別個体の「皮」が受講者1人につき1羽配られ、これを仮剥製に組む作業を行った。講師をはじめ、3名の講師補助によるサポート体制がとても充実していたため、受講者全員、仮剝製の組み上げまで無事に完成することができた。その後の質疑応答でも各工程の詳細な内容、技術についての質問が飛び交い、内容の濃い講習となった。参加者の事後アンケートでも、「これまで仮剥製を作っていて、曖昧だったことが明確になった」「本やネットには載っていないような標本づくりのコツや工夫を教えていただけた」などの感想があり、有意義な講習となったことが覗えた。
今回の鳥の学校のために、事前の冷凍鳥体、作業工程途中の鳥体等を準備し、会場や作業道具等を提供いただいた山階鳥類研究所の皆さまに深く御礼申し上げる。今回製作した標本は、製作者として受講者の名前を記録し、山階鳥類研究所に保管されるとのことである。未来の鳥類研究者がいつかこの標本を活用する時がくると思うと、感慨深いものがある。今回の受講者は全国各地の大学や博物館、自然観察施設などの関係者が多く参加されていた。各地での標本の蓄積に、今回の鳥の学校の内容が少しでも貢献できれば幸いである。