2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (水越 かのん)

筑波大学 森林生態環境学研究室
水越 かのん

この度は、日本鳥学会第2024年度大会において『生態系管理/評価・保全・その他』部門のポスター賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。鳥類の研究を志した時からずっと目標であり、憧れていた賞を頂き、嬉しい驚きと喜びで胸がいっぱいです。節足動物の同定にご尽力下さった自然環境研究センターの森英章先生、卒業研究から長きにわたり熱心なご指導と小笠原諸島での調査全般における手厚いサポートを頂いております森林総合研究所の川上和人先生、そして指導教員としてこの研究を支え、導いて下さった森林生態環境学研究室の上條隆志先生に、心より感謝申し上げます。
また、ポスター発表に足を運んでくださった方々にもこの場をお借りして御礼申し上げます。大会参加を通じ、多くの気付きや研究を発展させるためのヒントを得ることができました。今回の受賞を励みに、今後も調査研究に邁進する所存でございます。

研究の概要
ミズナギドリ類は土中に巣穴を形成しますが、その内部には巣材や羽毛、卵殻などの有機物が蓄積します。更に巣穴は直射日光や風雨の影響を直接受けることもありません。こうした巣穴は家主である海鳥以外に、特にケラチンや枯死植物を摂食し、乾燥や高温に弱い節足動物類に対しても潜在的なハビタットとして機能している可能性があります。生息地を新たに創出する生物を生態系エンジニアと呼びますが、本研究ではミズナギドリ類の生態系エンジニアとしての機能を検討するため、小笠原諸島西島・南島で採集したオナガミズナギドリとアナドリの巣材を分析し、その巣内共生節足動物相を明らかにしました。

巣穴から顔を出すオナガミズナギドリの幼鳥

分析の結果、両種の巣材から39種以上の節足動物の出現を確認しました。分類群ごとにまとめると、ケラチンを摂食するチョウ目(ヒロズコガ類)幼虫とワラジムシ目の出現が過半数を占め、次いでハチ目(アリ)、ゴキブリ目の割合が高いことが分かりました。海鳥の巣穴は節足動物、特に分解者にとって好適なハビタットであると考えられます。

巣材から出現した節足動物(左上:ヒロズコガ類幼虫ケース, 左下:オガサワラゴキブリ,
右上:コヒゲジロハサミムシ, 右下:コガタコシビロダンゴムシ)

海鳥は数百から数十万羽に及ぶ大規模な集団営巣地を形成するため、一羽一羽が掘った巣穴は全体として繁殖地の陸上生態系に大きな影響を発揮するはずです。ところが、これまで海鳥の営巣に伴う環境形成作用が注目されることはほとんどありませんでした。本研究は世界で初めて海鳥巣穴内の節足動物共生系を網羅的に明らかにし、巣穴形成による海鳥の生態系エンジニアとしての機能にスポットライトを当てた事例です。
穴を掘ったり、樹木に穴をあけたり、枝を集めたりして鳥類は『巣』という構造物を新たに創出します。鳥類は営巣を通じ生態系エンジニアとして重要な機能を担っていると考えられますが、現状、それを実証する研究はほとんど進んでいません。今後は海鳥巣穴内の温湿度環境の測定や巣材から出現した節足動物の食性分析を行い、営巣というプロセスが果たす機能について実証的なデータを収集していきたいと考えています。

 

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