君はハリオアマツバメの針を見たか?まだの人は上野に急げ! ~「特別展 鳥」のご紹介

平岡考(山階鳥類研究所)

国立科学博物館(以下「科博」)で開催中の「特別展 鳥」(以下「鳥展」)は、多くの方が訪れているようです。私も出かけてとても面白く、参考になったので、鳥好きの仲間に参考になるかなと、軽い気持ちで、適当に撮影した写真をつけて個人的にFacebookで紹介したところ、それを見た広報委員の某氏から、同じようなものでよいので鳥学通信に書いてくれないかという依頼をいただきました。改めて自分の文章を読み返してみて、いやしくも日本鳥学会の公式のメディアのひとつである鳥学通信で載せられる場所としては、編集後記しかなさそうなレベルと思われましたが(とはいっても鳥学通信に編集後記はないみたいですが)、せっかくのお声がけですので、あまり気張らずに、適宜直した文章をお送りすることにします。

鳥展の入口

冒頭の、鳥の進化と鳥とはどんな生き物かを示した展示(第一章「鳥類の起源と初期進化」)は、鳥の教科書には必ず書かれている内容が最新の研究でアップデートして説明してあり、ちょっと難しく感じるかもしれませんが、鳥学会会員として、ざっとでもよいので勉強しておかれるとよい内容だと思います。特に、鳥学会会員の皆さんの中にも、地域の鳥のサークルなどでリーダーをおつとめの方もいらっしゃることと思います。そういう方には参考になる情報満載だろうと思います。

そのあとは、DNAの研究(ゲノム解析)の成果にもとづいた分類に沿って、グループごとの展示が多数の剥製標本でされていて見応えがあります(第2章「多様性サークル」、第3章「走鳥類のなかま」~第7章「小鳥のなかま」)。ここで示された目と科の分類は、その多くは日本鳥学会の鳥類目録でいうと、2012年の改訂第7版に反映されていたものですので、必ずしもほかほかのホットニュースということでもないですが、まだまだ多くの方にとってびっくりな内容だろうと思いますし、鳥学会の目録は日本産鳥類だけしか掲載されていませんので、鳥類全体を見渡して類縁関係を説明している今回の展示はやはり改めて見る価値があると思います。

たとえば、カイツブリ科とフラミンゴ科は形態がこんなに違わなければ、ひとまとめの目にされてもよい程とか、昔は全蹼足といって、4本の趾(あしゆび)の間全部にみずかきがあることでひとまとまりと考えられていたペリカン目が、今や、ネッタイチョウ科だけのネッタイチョウ目と、カツオドリ科、グンカンドリ科、ウ科、ヘビウ科からなるカツオドリ目、そして、ペリカン科に、昔はコウノトリ目にいた、全蹼足の特徴のないサギ科、トキ科、ハシビロコウ科、シュモクドリ科をあわせたペリカン目の3つに分かれてしまい、一方、昔のコウノトリ目からは、サギ科、トキ科、ハシビロコウ科、シュモクドリ科が脱退して今はコウノトリ科だけになってしまったとか、おそらく多くの方にとってへええという内容なのじゃないかと思います(白状しますと、私は2000年代の初めに、全蹼足の鳥が複数のグループに分かれてしまうなんて、DNAの研究はまだまだだなと、形態の分類研究者はひややかに見ていますといった趣旨の解説を書いたことがあります)。

カツオドリ目の展示(森さやか 撮影)

上に述べた展示の合間に、大きめのスペースを使ったトピックとして「特集」が5つと、コンパクトなスペースを使ったトピック「鳥のひみつ」が23あり、いずれも標本や映像を使って解説されています。「特集」のテーマは「絶滅」「翼」「ペンギン大集合」「猛禽大集合」「美しいフウチョウ」です。そして「鳥のひみつ」では、「卵の大きさ」「新しく認められた日本固有種」「カッコウの托卵で宿主は滅びないのか」「都心緑地での大型猛禽類の繁殖と都市の生態系」「なわばりを張る損とトク」「日本列島は鳥の種多様性の起源地!?」など、生態から進化、分類に至るさまざまなテーマが取り上げられています。

「卵の大きさ」ではたとえばキーウィの卵が親鳥の体の大きさに比較してびっくりするほど大きいことが示されており、「新しく認められた日本固有種」では、昨年9月に日本鳥類目録の改訂第8で独立種に扱われることになったキジ、オリイヤマガラ、ホントウアカヒゲ、リュウキュウキビタキ、オガサワラカワラヒワの5種が標本を使って紹介されています。「日本列島は鳥の種多様性の起源地!?」では、ユーラシア全体に広く分布するカケスが、分子系統分析の結果、奄美群島のルリカケスから種分化し、日本を起源に大陸に分布を広げたことが示唆されていることが説明されています。びっくりなのはこのカケスの例は特殊というわけではないらしいことで、DNA分析を進めてみると、日本起源と考えられる種が多数いることがわかったそうです。「鳥のひみつ」にはイラストレーターのぬまがさワタリさんの、ちょっと脱力な(失礼!)漫画が添えられており、多くのお客さんが読んでいました。堅苦しくなりがちな展示を親しみやすくする効果が上がっていたと思います。

カケスの本剥製(森さやか 撮影)

こういった展覧会では、巨大な展示品があると展示のシンボルになります。科博で昨年開催された特別展「昆虫MANIAC」ほどではないにせよ、鳥も巨大なものがいないので、展示を企画された方はどんなものを目玉にしようか、苦慮なさったと思います。鳥展では、「史上最大の飛べる鳥」という、ペラゴルニス・サンデルシの生体復元がこの目玉に当たるのでしょう。 ペラゴルニスは、顎の骨に歯のような偽歯という突起をもち、全体の形態はミズナギドリ類を思わせる鳥で、ペラゴルニス類全体としては新生代の暁新世から更新世まで汎世界的に分布していました。2000年代に入ってからの骨学形質にもとづく分岐分析の結果、キジカモ類に属するという仮説が提唱されており、これによればミズナギドリ類との類似は収斂進化によるものということになっているそうです。会場の天井から吊り下げられた、翼開長7mの立派な生体復元と、それをただの空想ではなくて、現状の知見による、根拠ある復元にするためにどんなことをしたかの解説が、パネルと動画で見られます。生体復元を見ての私の個人的な感想としては、翼角から肩までが連続した弧を成しているように見え、それは翼角から肩をつなぐ翼膜(patagium)の表現として理解できなくはないとしても、翼のこの部分はもう少しはっきりと肘の関節があることがわかるように作って、上腕と前腕というふたつの直線的な構造の組み合わせでできていることを表現したほうが、いっそうリアルな感じになったのじゃないかと思いました。

ペラゴルニスの生体復元

最後になりましたが、忘れてはならないのは600点以上という、主に剥製を中心とした鳥類標本の、実物のもつインパクトでしょう。タイトルに書いたように、バードウォッチャーや鳥類研究者は多くても、ハリオアマツバメの尾の「針」をまじまじと見たことのある人は、たくさんはいないはずです。同じような趣向で言えば、ケアシノスリの足の「毛」(跗蹠の羽毛)も見なくちゃいけません。そのほか、思いつくままに標本を順に挙げてゆけば、日本のヤンバルクイナによく似ていて、フィリピンやセレベス島などに棲む近縁のムナオビクイナ、幼鳥の翼に爪があって、シソチョウはこんなだったのではと言われることもあるけれど、類縁関係があるわけではない、南米産で一目一科一種のツメバケイ、堂々たる大きさで、日本でも記録があるので日本の野外で見る可能性があるわけだけど、これが日本の野外にいたらどんな感じだろうと想像してしまうノガン、ニューギニアの毒のある鳥ズグロモリモズなどきりがありません。

ご存知のように剥製は、「でき」や保存状態によって見栄えがいろいろなのはある程度我慢しなければいけないですし、特に600点という数を集めると、たしかにちょっと残念なものもあることは否定できませんが、もちろん素晴らしい標本もたくさんあります。会場のいちばんはじめ、特集「絶滅」の先頭をかざるキタタキは、日本では100年以上前に絶滅しており、朝鮮半島でも減少していて、私自身は状態のよい標本に出会った記憶がないので、素敵な状態の標本が出ていて驚きました。また、南極の海に棲む全身純白のミズナギドリ類、ユキドリの剥製が2点出ていますが、すばらしいできで、ほれぼれしました。目にとまった標本のうちごくわずかを挙げましたが、600点の標本のどれが印象に残るかは、見る方によって千差万別でしょうから、皆さんがそれぞれ楽しんで見ていただけることと思います。

メインの第1会場から階段と廊下を通ってゆく第2会場は、第8章「鳥たちとともに」の展示で、足環を装着して渡りや寿命について調査する鳥類標識調査、特別協賛のサントリーホールディングスの愛鳥活動の紹介や、学校が所有している鳥類標本の廃棄をせずに保存していただけるように呼びかける展示などがあります。第2会場につながる廊下では、特別協賛のキヤノンによる啓発活動のカードが配布されており、また後援団体として、日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会、山階鳥類研究所とあわせて、日本鳥学会のポスターが展示されています。

後援団体のポスター

見応えのある展示で熱心な人は2回行かれる方もいらっしゃるようです。また見てきたあと、買ってきた図録で勉強しますとおっしゃっている知り合いもいました。終了間際になってだいぶ混雑してきているようですが、まだ見に行かれてない方は時間を見つけて見にゆかれてはいかがでしょうか?(そうそう、ショップでは、本展の図録が購入できるのはもちろんですが、鳥学会の鳥類目録改訂第8版も販売してくださっているそうです。)3月15日から3か月は名古屋で少しだけ規模を縮小した巡回展が見られるとのことです。

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