畑山優香(北海道大学大学院)
鳥のように大空を飛んでみたい!鳥好きに限らず、多くの人が一度は抱く願いでしょう。かく言う私もその一人です。「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」というタイトルを見た時、これならば空を飛ぶ気分を少しだけ味わえるかもしれない、という考えが浮かびました。この他愛のない思いが一番の参加動機だったのですが、鳥たちの見ている景色に想いを馳せつつ、研究現場でのドローンとAIの活用に触れ、充実した時間を過ごすことができました。
講習会は午前と午後の二部構成でした。午前中には室内での操縦体験と野外での模擬調査見学があり、午後からは研究現場でのドローン活用についての講義を拝聴しました。
午前中の操縦体験では、参加者が多かったにもかかわらず、実機を扱う機会を一人一回ずつ確保していただきました。自分の操作でドローンが宙に浮いた時の感覚は忘れがたく、終了後にドローンの価格を検索してしまうほど刺激的でした(写真1)。それに続く野外での模擬調査では、会場となった酪農学園大学構内の池にマガモとマガンのデコイを浮かべ、それを上空からドローンで撮影する工程を見学しました。調査用ドローン(写真2)は子どもが四つん這いになったほどのサイズがあるように感じられ、迫力ある飛行音にも驚きました。また、ドローンは地上のモニターと同期しており、頭上の機体から送られる映像を確認できるようになっていました。映像を見ていると、鳥たちが見下ろしている世界を垣間見た気分になりました。
午後の講義では、ドローンの強みである航空写真の撮影能力が、水鳥のカウント調査で発揮されることを学びました。水辺に集まる群れを上空から撮影し、航空写真を専用のAIで解析することで個体数を計測できるのだそうです。また、撮影データは生息数調査だけでなく、羽数カウントのプログラム精度の向上にも活用されているとのことでした。講義の途中では、午前の模擬調査の映像や過去の研究データから作成された航空写真を使い、AI解析の工程も体験させていただきました。
一日の講習を通して印象的だったのは、ドローンとAIによる解析と、人の目によるカウント調査が、互いを補い合う手法であるという点です。現段階では、経験豊富な調査員によるカウントが最も正確で信頼されている手法であるそうですが、湖の中心部など、目視では確認しにくい場所にも群れが形成されることがあります。そのような場合、ドローンとAIが心強いサポートツールになり得るのだそうです。人の目の精緻さに驚くと同時に、AIとの共存可能性が見出される分野があることに明るさを感じました。
また、航空写真のAI解析を体験し、高密度な群れが写った画像から一羽一羽を正確に検知する一方で(写真3、4)、水面の木の葉を鳥と誤認識する場合もある結果を見て、プログラム開発の難しさがうかがえました。近年のAIの発達を前にすると、「人の能力など無駄になるのではないか」と無力感に苛まれることもあります。しかし、万能に見えるAIの裏にあるものは、開発者の知恵と意思と努力なのでしょう。今後、AIを前に無力感を覚える機会は増えるかもしれませんが、AIを動かし育てるのはやはり人の力であることを忘れないでいようと思います。
ドローン操縦の基本や活用を凝縮して学ぶ機会をいただいたことは、鳥や野生動物の研究に関わる学生として、得がたい経験でした。今の私の日常にはドローンを扱う機会はほとんどありません。けれども、過去に得た知識や体験が、思いもよらぬ形で役立つ…人生には、そんな「伏線回収」のような瞬間が時々訪れると信じています。これからも、鳥や動物に関わる進路を目指し続けたいです。最後に、操縦体験と講義を担当してくださった酪農学園大学の小川健太先生、小野貴司先生と、鳥の学校の企画・運営の関係者の皆様に御礼申し上げます。




