日本鳥学会誌74巻2号 注目論文(エディターズチョイス)のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻2号の注目論文をお知らせします。

著者: 猿舘 聡太郎, 雲野 明, 松井 晋
タイトル: クマゲラの冬期における生立木の採餌木選択と採餌場適地推定
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.223

日本で唯一の大型キツツキ類であるクマゲラは、本州では幻の鳥として存続が危ぶまれていますが、北海道では広く見られ、札幌のような大都市であっても、その近郊の野幌森林公園などでは観察できる比較的ポピュラーな鳥です。本論文の著者である猿舘さんたちは、札幌のクマゲラの冬期における採餌環境を特定するため、周囲の山々13箇所、計100キロ近くを踏査し、食痕である立木に掘られた大きな穴を探す調査を行いました。
その結果、クマゲラは、低地の森林にある落葉針葉樹のカラマツと落葉広葉樹のシラカンバの大径木を好むことを発見しました。このことは、常緑針葉樹のトドマツ林を好むと考えられてきた、これまでの傾向とは異なり、北海道内でも地域差があることを示唆しています。
さらに、カラマツが北海道では人工林として戦後広く造成されたことに注目し、クマゲラの食痕を生物多様性の高さを表す指標とすることで、ゾーニング管理に役立つ可能性を提言された点は、時代のニーズをよく捉えた本研究の”ウリ”ですね!

それでは以下、猿舘さんからいただいた解説文です。

北海道では1950年代から70年代にかけて、低標高地域を中心に天然林の伐採が進み、その多くがトドマツや本州から導入されたカラマツの人工林へと転換されました。こうした森林環境の変遷を経た北海道には、国の天然記念物であり絶滅危惧種に指定されているクマゲラが生息しており、その姿は都市に隣接する森林でも観察されています。しかし、都市近郊の人工林を含む現在の森林において、クマゲラがどのような場所を採餌に利用しているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。本研究では、札幌市に生息するクマゲラを対象に、冬期に生きた木の樹幹を掘って採食した痕跡(採餌痕)が残る樹木に着目し、採餌木の特徴や周辺環境を詳細に調査しました。

山歩きが好きだったことも功を奏し、札幌市の南西部に整備された総延長100kmに迫る登山道を景色や植生を楽しみつつ、指導教員や研究室の仲間の支えにも助けられながら踏査することができました。クマゲラの採餌痕をたどりながら調査や解析を進めるうちに、北海道の森林がどのような歴史を経て現在の姿に至ったのかが次第に見えてきました。採餌木は、森林がどのように変化してきたのかを物語る手がかりとなり、まるでクマゲラが、森林の歩んできた歴史と今を教えてくれている、そんな感覚を覚えました。
本論文が、クマゲラの生息環境の理解と保全、そして木材利用との調和を考えるうえで、少しでも参考になれば幸いです。

(猿舘 聡太郎)

写真1 冬期にカラマツの樹幹で採餌するクマゲラ

 

写真2 採餌中のクマゲラとそのおこぼれを狙うヤマゲラ

 

写真3 夏期に地上部の枯死木で採餌するクマゲラ

 

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