2022年度内田奨学賞を受賞して

藤岡健人

この度は、2022年度内田奨学賞をいただけたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた共著者の方々や、査読や選考に携わったすべての方々に、この場をお借りして感謝申し上げます。

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網走大会で綿貫会長から賞状を頂く様子

研究紹介

都市は自然が少ない環境です。そのような中で、人は公園などに残された自然に触れることにより、さまざまな恩恵を受けています。たとえば、四季を感じるといった精神的恩恵や、血圧降下などの肉体的恩恵を受けています。また、児童の自然観を育成し、環境教育にも効果があります。世界的に生物多様性が減少するなか、都市の面積は拡大しており、都市においてどのように自然環境を維持するかは重要な問題です。

一方で、都市に動植物が生息することにより、動植物と人との間に軋轢が生じることもあります。その1つとして、カラス類による電柱への営巣があります。カラス類が電柱に営巣すると、停電を引き起こすことがあり、電力会社は、停電を未然に防ぐために、多大なコストをかけて見回りをし、巣を撤去しています。しかし、電気事故の発生は減少しておらず、むしろ巣の撤去数は増加傾向にあります。今後、人口が減少していくなか、少ないコストで、電力インフラをいかに保守していくかは重要な社会的課題です。

そこで私は、都市部で問題となっているカラス類と人間生活との軋轢解消を目的として、次の研究を行いました。まず、電力会社が保有する電柱へのカラス類の営巣記録を提供いただいて、北海道における営巣リスクの高い環境要素の抽出と、撤去費用の推定をしました。次に、函館市において、カラス類はどのような場所にある電柱に営巣しているのかを明らかにしました。

北海道において、カラス類がどのような地域の電柱に営巣しやすいかを明らかにするために、各事業所の撤去巣数に対して、次の6つの変数を解析に用いました:人口、気温、海岸線の長さ、農地面積、年、事業所。一般化線型混合モデルにより解析した結果、人口が多く、気温が高く、海岸線の長さが長い地域において、撤去巣数が多いことが明らかになりました。また、北海道全体で、撤去にかかる人件費は、年間約4000万円であると推定しました。

次に、函館市において、カラス類が営巣しやすい電柱を調べるために、都市緑地との関係に着目しました。なぜなら、カラス類は公園などの都市緑地に好んで営巣をするので、都市緑地があることで、その近くの電柱には営巣しない可能性があるからです。そこで、実際に営巣されたことのある電柱と、その電柱までの都市緑地の距離を調べ、都市緑地の存在が、周辺の電柱への営巣を抑える効果を持つかどうかを解析しました。その結果、カラス類の巣があった電柱は、都市緑地から離れていたことが明らかになりました。

以上の結果から、次のような提言ができると考えています。都市緑地にあるカラスの巣を撤去すると、なわばりの防衛効果がなくなり、周辺の電柱への営巣を助長する可能性があるため、巣を残しておく方が良いかもしれません。しかし、都市緑地にカラス類の巣があると、人が襲われるリスクもあります。そこで、巣を撤去する場合は、人への攻撃性の高いハシブトガラスの巣を優先的に撤去するという選択肢があります。また、撤去により周辺の電柱への営巣を助長する可能性が高まることを、電力会社と共有することが有効だと考えます。

当初の予定では、野外調査も行い研究の信頼性を高める予定でしたが、コロナ禍によってそれが叶いませんでした。修士課程を修了し、現在は札幌市で中学校の理科教員をしていますが、今後も鳥類学とのつながりを続けたいと考えています。そのために、身近に学ぶことができる鳥類学を生徒たちに教え、鳥好き、鳥類学好きの生徒を増やしていきたいと考えています。最近では、「藤岡といえばカラス」という認識が広まっていたり、私に野鳥クイズを挑んでくる生徒が出てきたりしました。ゆくゆくは、鳥学会の大会で生徒たちに発表させて、学問に触れる機会をつくってあげたいと考えています。

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