日本鳥学会誌74巻2号 注目論文(エディターズチョイス)のお知らせ

日本鳥学会誌74巻2号 注目論文(エディターズチョイス)のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻2号の注目論文をお知らせします。

著者: 猿舘 聡太郎, 雲野 明, 松井 晋
タイトル: クマゲラの冬期における生立木の採餌木選択と採餌場適地推定
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.223

日本で唯一の大型キツツキ類であるクマゲラは、本州では幻の鳥として存続が危ぶまれていますが、北海道では広く見られ、札幌のような大都市であっても、その近郊の野幌森林公園などでは観察できる比較的ポピュラーな鳥です。本論文の著者である猿舘さんたちは、札幌のクマゲラの冬期における採餌環境を特定するため、周囲の山々13箇所、計100キロ近くを踏査し、食痕である立木に掘られた大きな穴を探す調査を行いました。
その結果、クマゲラは、低地の森林にある落葉針葉樹のカラマツと落葉広葉樹のシラカンバの大径木を好むことを発見しました。このことは、常緑針葉樹のトドマツ林を好むと考えられてきた、これまでの傾向とは異なり、北海道内でも地域差があることを示唆しています。
さらに、カラマツが北海道では人工林として戦後広く造成されたことに注目し、クマゲラの食痕を生物多様性の高さを表す指標とすることで、ゾーニング管理に役立つ可能性を提言された点は、時代のニーズをよく捉えた本研究の”ウリ”ですね!

それでは以下、猿舘さんからいただいた解説文です。

北海道では1950年代から70年代にかけて、低標高地域を中心に天然林の伐採が進み、その多くがトドマツや本州から導入されたカラマツの人工林へと転換されました。こうした森林環境の変遷を経た北海道には、国の天然記念物であり絶滅危惧種に指定されているクマゲラが生息しており、その姿は都市に隣接する森林でも観察されています。しかし、都市近郊の人工林を含む現在の森林において、クマゲラがどのような場所を採餌に利用しているのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。本研究では、札幌市に生息するクマゲラを対象に、冬期に生きた木の樹幹を掘って採食した痕跡(採餌痕)が残る樹木に着目し、採餌木の特徴や周辺環境を詳細に調査しました。

山歩きが好きだったことも功を奏し、札幌市の南西部に整備された総延長100kmに迫る登山道を景色や植生を楽しみつつ、指導教員や研究室の仲間の支えにも助けられながら踏査することができました。クマゲラの採餌痕をたどりながら調査や解析を進めるうちに、北海道の森林がどのような歴史を経て現在の姿に至ったのかが次第に見えてきました。採餌木は、森林がどのように変化してきたのかを物語る手がかりとなり、まるでクマゲラが、森林の歩んできた歴史と今を教えてくれている、そんな感覚を覚えました。
本論文が、クマゲラの生息環境の理解と保全、そして木材利用との調和を考えるうえで、少しでも参考になれば幸いです。

(猿舘 聡太郎)

写真1 冬期にカラマツの樹幹で採餌するクマゲラ

 

写真2 採餌中のクマゲラとそのおこぼれを狙うヤマゲラ

 

写真3 夏期に地上部の枯死木で採餌するクマゲラ

 

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Ornithological Science 24巻2号が公開中です

Ornithological Science 24巻2号が公開中です

Ornithological Science編集委員長 上野裕介

Ornithological Scienceの最新号が公開中です。
次号は1月末発行、Open Accessの試験運用が始まります。

The latest issue of Ornithological Science has been available. The next issue is scheduled for release toward the end of January, and a trial of Open Access will begin.

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REVIEW ARTICLE: KURODA AWARD
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Movement ecology of Columbiformes maintaining long-distance dispersal
ability in island habitats
Haruko ANDO
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_173/_article/-char/ja

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ORIGINAL ARTICLE
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Do long-term changes in wing length indicate changes in migration
distances of North Eurasian Passerines?
László BOZÓ, Yury ANISIMOV, Tibor CSÖRGŐ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_189/_article/-char/ja

Streaked Shearwater Calonectris leucomelas rearing chicks in the
central Sea of Japan did not switch diet at the 2013/2014 regime
shift.
Chamitha DE ALWIS, Ken YODA, Yutaka WATANUKI, Akinori TAKAHASHI,
Kenichi WATANABE, Satoshi IMURA, Maki YAMAMOTO
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_199/_article/-char/ja

Genetic diversity of the Japanese captive population of Crested Ibis
Nipponia nippon estimated from pedigree analysis
Shiori KUBOTA, Shigeaki ISHII, Takahisa YAMADA, Toshie SUGIYAMA, Yukio
TANIGUCHI, Yoshinori KANEKO, Tetsuro NOMURA, Hiroaki IWAISAKI
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_215/_article/-char/ja

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SHORT COMMUNICATION
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No remarkable effect of blood mercury on corticosterone levels in
Black-tailed Gulls
Yasuaki NIIZUMA, Takushi TERADA
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_225/_article/-char/ja

Nestling-age dependent parental care strategy of Lesser Kestrel Falco
naumanni in Mongolia
Onolragchaa GANBOLD, Urangoo PUREVSUREN, Rentsen OYUNBAT, Joon-Woo
LEE, Otgontsetseg KHUDERCHULUUN, Ganchimeg J. WINGARD
https://www.jstage.jst.go.jp/article/osj/24/2/24_229/_article/-char/ja

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鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

鳥の学校第16回テーマ別講習会:鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編を受講して

植田晴貴(日本獣医生命科学大学)

 日本鳥学会2025年大会における鳥の学校は、「鳥類研究のためのドローン講座2 画像解析編」でした。私自身ドローンを用いた研究を行っているわけではありませんが、ドローンを用いた鳥類研究に興味があり、実際に操縦も行うとのことでしたので参加させていただきました。
 酪農学園大学でドローンを用いた研究をされている小川先生、小野先生が本講習会を担当されており、初めに簡単にドローンの操縦方法を座学にて教えていただきました。その後体育館へ移動し、実際に飛行体験をさせていただきました。飛行実習として、実際に飛ばしてデコイのカモを撮影しました。私自身ドローンの操縦は今まで行ったことがなく、ドローンの発進や移動など、操縦に苦戦しました。特に、目視での位置と画面上のドローンの位置が全然一致しておらず、デコイの撮影に苦労したことが印象に残っています。将来ドローンを操縦する際は、屋外で飛ばす前に室内練習やドローンスクールなどを用いて、確実な操縦技術を身に着けてからと思いました。
 体育館での飛行体験後、屋外の池でデモンストレーション飛行を行っていただきました。屋外でのデモ飛行では、2種類のドローンを用いて5つのデコイを撮影しました。撮影は25m、50m、75m、100m、125mの高さから行い、125mではドローンが豆粒程度の大きさで、目視での確認はとても難しかったことが印象に残っています。
 屋外での撮影後、座学及び画像解析を行いました。座学では、ドローンを用いた研究を紹介いただきました。送電線における鳥の巣の発見(Dong et al. 2022)や海鳥のコロニーのカウント(Hondgson et al. 2016)など、人が行うには難しい研究が紹介されており、今後ドローンを用いた研究が広がっていくであろうと感じました。画像解析ではArcGIS Proを用いて、マップの作成を行い、個体数カウントはGoose123というシステムを用いました。Goose123は、ドローン画像からAIを用いて水鳥を自動カウントするシステムであり、本講習会の講師である小川先生が開発したシステムであるとご紹介いただきました。実際にデモ飛行で撮影した画像をカウントした結果227羽いると表示されました。カウントされている物を確認すると、池に浮いていた葉やゴミ、光の反射などをカウントしていることが判明しました。小川先生によると、解像度があまりにも良い場合や撮影状況によりマガン以外をカウントしてしまうことがあるため、Goose123にディープラーニングで学習させることでより精度を高く、カウントを行えるようになると教えていただきました。
 最後になりますが、この度はドローンの操縦及び画像解析という貴重な機会をご提供いただき、企画・運営をしてくださったみなさまに感謝申し上げます。また、操縦体験や座学の資料だけでなく、講習会終了後の質問にも快くご回答いただきました講師の方々にも感謝申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:ドローン体験で撮影したカモのデコイ

 

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第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

第16回鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

畑山優香(北海道大学大学院)

 鳥のように大空を飛んでみたい!鳥好きに限らず、多くの人が一度は抱く願いでしょう。かく言う私もその一人です。「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」というタイトルを見た時、これならば空を飛ぶ気分を少しだけ味わえるかもしれない、という考えが浮かびました。この他愛のない思いが一番の参加動機だったのですが、鳥たちの見ている景色に想いを馳せつつ、研究現場でのドローンとAIの活用に触れ、充実した時間を過ごすことができました。
 講習会は午前と午後の二部構成でした。午前中には室内での操縦体験と野外での模擬調査見学があり、午後からは研究現場でのドローン活用についての講義を拝聴しました。
 午前中の操縦体験では、参加者が多かったにもかかわらず、実機を扱う機会を一人一回ずつ確保していただきました。自分の操作でドローンが宙に浮いた時の感覚は忘れがたく、終了後にドローンの価格を検索してしまうほど刺激的でした(写真1)。それに続く野外での模擬調査では、会場となった酪農学園大学構内の池にマガモとマガンのデコイを浮かべ、それを上空からドローンで撮影する工程を見学しました。調査用ドローン(写真2)は子どもが四つん這いになったほどのサイズがあるように感じられ、迫力ある飛行音にも驚きました。また、ドローンは地上のモニターと同期しており、頭上の機体から送られる映像を確認できるようになっていました。映像を見ていると、鳥たちが見下ろしている世界を垣間見た気分になりました。
 午後の講義では、ドローンの強みである航空写真の撮影能力が、水鳥のカウント調査で発揮されることを学びました。水辺に集まる群れを上空から撮影し、航空写真を専用のAIで解析することで個体数を計測できるのだそうです。また、撮影データは生息数調査だけでなく、羽数カウントのプログラム精度の向上にも活用されているとのことでした。講義の途中では、午前の模擬調査の映像や過去の研究データから作成された航空写真を使い、AI解析の工程も体験させていただきました。
 一日の講習を通して印象的だったのは、ドローンとAIによる解析と、人の目によるカウント調査が、互いを補い合う手法であるという点です。現段階では、経験豊富な調査員によるカウントが最も正確で信頼されている手法であるそうですが、湖の中心部など、目視では確認しにくい場所にも群れが形成されることがあります。そのような場合、ドローンとAIが心強いサポートツールになり得るのだそうです。人の目の精緻さに驚くと同時に、AIとの共存可能性が見出される分野があることに明るさを感じました。
 また、航空写真のAI解析を体験し、高密度な群れが写った画像から一羽一羽を正確に検知する一方で(写真3、4)、水面の木の葉を鳥と誤認識する場合もある結果を見て、プログラム開発の難しさがうかがえました。近年のAIの発達を前にすると、「人の能力など無駄になるのではないか」と無力感に苛まれることもあります。しかし、万能に見えるAIの裏にあるものは、開発者の知恵と意思と努力なのでしょう。今後、AIを前に無力感を覚える機会は増えるかもしれませんが、AIを動かし育てるのはやはり人の力であることを忘れないでいようと思います。
 ドローン操縦の基本や活用を凝縮して学ぶ機会をいただいたことは、鳥や野生動物の研究に関わる学生として、得がたい経験でした。今の私の日常にはドローンを扱う機会はほとんどありません。けれども、過去に得た知識や体験が、思いもよらぬ形で役立つ…人生には、そんな「伏線回収」のような瞬間が時々訪れると信じています。これからも、鳥や動物に関わる進路を目指し続けたいです。最後に、操縦体験と講義を担当してくださった酪農学園大学の小川健太先生、小野貴司先生と、鳥の学校の企画・運営の関係者の皆様に御礼申し上げます。

 

写真1:ドローン体験する著者

 

写真2:屋外での撮影に使用したドローン

 

写真3:画像解析する著者

 

写真4:黄色い点が検知されたマガン
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鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

鳥の学校(第16回テーマ別講習会) 「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座2 画像解析編」報告

企画委員 鳥の学校担当
鳥取大学 鳥由来感染症グローバルヘルス研究センター
森口紗千子

 鳥の学校では、学会内外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講習を毎年実施している。第16回は、北海道札幌市で開催された2025年度大会初日の9月12日に、江別市に位置する酪農学園大学で行われた。ドローンをテーマとした鳥の学校は、北海道網走市で開催された2022年度大会に続き2回目である。講師は、前回と同じ酪農学園大学の小川健太氏に加え、同じく酪農学園大学の小野貴司氏に依頼した。前回はドローンの飛行体験と座学が中心であったが、今回は、ドローンの飛行体験に加え、ドローンで撮影したガンカモ類の画像から個体数をカウントする画像解析の実習である。当日は天気にも恵まれ、ドローン日和であった。
 午前中はドローンの飛行体験である。体育館で講師からマンツーマンで指導を受けながら、参加者全員がドローンを操縦して離陸、決まったルートの移動、ドローンのカメラによるカモのデコイの撮影、着陸までを体験した。他の参加者たちは、タブレットの操縦シミュレーションでトレーニングをしながら順番を待っていたが、よい事前練習になったようである。その後は、さらに大きなドローンを用いて、屋外の池にガンカモ類のデコイを浮かべ、講師がドローンで撮影するデモ飛行を見学した。
 午後はパソコンでの画像解析実習である。ドローンで撮影されたマガンのねぐらの画像をArcGIS Proに取り込み、画像をつなぎ合わせる作業や、マガンをカウントするために開発された解析ソフトGoose123で自動カウントする作業を体験した。参加者のカウント結果は共有され、それぞれの解析結果を見比べることもできた。
 事後アンケートによると、全員がドローンの操作ができた、GISの基本的な使い方や、画像解析の基本的な流れが手を動かしながら追えたのは勉強になったなど、参加者の90%以上が大変満足や満足と回答された。今回もワクワクするような講習をご用意いただいた講師陣と酪農学園大学のスタッフの方々、そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に深くお礼申し上げる。
 鳥の学校は、今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である。鳥の学校の案内は、日本鳥学会誌の大会案内および大会ホームページに掲載する。

 

写真1:ドローン実習

 

写真2:ドローンの操縦シミュレーション

 

写真3:屋外でのドローンのデモ飛行

 

写真4:画像解析実習

 

 

 

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第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会事務局
作山宗樹

今年の11月に岩手県盛岡市で、日本鳥学会津戸基金の助成を受けて開催する公開シンポジウム「鳥を調べ、鳥に学ぶ」をご紹介させて頂きます。

鳥類の生態や行動、進化などを調べる際に、鳥類を捕獲・標識して初めて分かることがたくさんあります。今回北東北で初となる日本鳥類標識協会の全国大会開催を契機として、鳥類の生態研究を通じて、鳥を調べる面白さや興味深さをお伝えする場を用意しました。多くの一般の方々にご参加いただき、演者の方々には調査研究を広く分かりやすくお話いただきます。

できるだけ多くの方々に足を運んでもらうため、会場は盛岡駅に隣接する県営の300人収容可能な会議場としました。会場が駅に接している利便性から、県内はもちろん、近隣県の生態学・野鳥・自然観察に関わる複数の団体に後援をお願いし、広く宣伝頂いております。
なお、本講演企画は地元や隣県などの日本鳥類標識協会会員および日本野鳥の会もりおか会員によるボランティアで運営されます。翌11月9日に行われる標識協会会員向けの一般口頭発表会や標識協会総会とは切り離した形で行います。

開催概要およびプログラム

1.開催日時 2025年11月8日(土)13:50~16:30(13:20開場)

2.会場 いわて県民情報交流センター(アイーナ) 804会議場
(住所:〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅西通1丁目7番1号)

3.主催 第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会

4.入場料、申し込み方法および定員
 入場無料、事前申し込み不要、定員300名

5.講演者および講演タイトル
・三上かつら氏(NPO法人バードリサーチ)
  下北半島のイスカ―その形態と生態-
・成田章氏(ウミネコ繁殖地蕪島を守る会(青森県立八戸聾学校))
  1966年から2024年までの標識調査からわかるウミネコの年齢や移動について
・菅澤颯人氏(岩手大学獣医学部)
  鳥についてる変な虫:シラミバエの生態と病原体保有状況について
・高橋雅雄氏(岩手県立博物館)
  個体標識から分かったオオセッカや草原棲小鳥類の生態

6.後援団体
青森自然誌研究会/秋田自然史研究会/岩手県立博物館/岩手生態学ネットワーク/
環境省東北地方環境事務所/公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団/
自然観察指導員ネットワーク岩手/東北鳥類研究所/
特定非営利活動法人おおせっからんど/日本野鳥の会青森県支部/
日本野鳥の会秋田県支部/日本野鳥の会北上支部/日本野鳥の会弘前支部/
日本野鳥の会もりおか/日本野鳥の会宮城県支部/日本野鳥の会宮古支部

7.シンポジウム特設webサイト
https://birdbanding-assn.jp/J04_convention/2025/2025taikaisympo.htm

本シンポジウムは日本鳥学会津戸基金の助成を受けて実施します。

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ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

企画委員会 本多里奈

2016年の創設以来、毎年多くの方にご応募いただいているポスター賞。これまで、ポスター賞は30歳以下の若手会員を対象にしていましたが、昨今の研究情勢を鑑み、より多くの方の研究を奨励することを目的に、2025年度大会からポスター賞の参加資格を変更し、賞を増設することにいたしました。今回は、ポスター賞がどう変わったか、ポスター賞に応募する上で何を意識すればよいかを紹介します。

★参加資格:応募条件が緩和され、より多くのキャリア初期の研究者が応募可能となりました!
大会年の4月1日時点で、以下のいずれかの条件に当てはまる方がポスター賞に応募できます。
・30歳以下である
・博士号未取得で、学部学生、大学院生、研究生のいずれかとして大学に所属している
・博士号取得後3年以内である
昨年度までの条件ではポスター賞の対象になりづらかった社会人学生や再進学の方も応募が可能になっています。

★賞の増設:受賞のチャンスが倍になりました!
昨年度は「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で受賞者は各1名でしたが、今年から受賞者は各部門最大2名(最優秀賞・優秀賞)となります。

今回の変更を受けて、初めてポスター賞に応募する方もいるのではないでしょうか。ここで、ポスター賞の審査方法について見ていきましょう。ポスター賞は、毎年各部門数名の審査員が手分けして全ての応募発表に目を通しています。通常、一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」をもとに受賞者候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを聞いて、一次審査と同じ審査項目に加えて「プレゼンテーションのわかりやすさ及び簡潔さ」にも注目して審査を行います。プレゼンテーションで、時間をかけてとりくんできた研究を全て伝えたい!という気持ちはとてもよく分かります。しかし、全てを伝えようとするとどうしても冗長になりがちです。説明の時間も長くなり、限りある審査時間の中で、審査員があなたの発表を最後まで聞ききれないという事態にもなりかねません。発表の際は、「研究の意義、方法、結果、考察、今後の展望」という研究のエッセンスを5分程度にまとめて話してみましょう。審査員だけでなく、より多くの人に発表を聞いてもらえることにも繋がります。

さて、応募資格の変更と賞の増設により、応募者が例年よりも増加することが予想されます。このような状況で、公正な審査を円滑に行うために、みなさんに気を付けてほしいことがあります。それは、申し込みです。まず、応募部門がご自身の研究にマッチしていなければ、正しく評価してもらうことはできません。また、申し込み時に不備があれば、そもそもポスター賞に応募できなくなる可能性もあります。私はそそっかしい質で、慌てているときにとんでもない凡ミスをしてしまうことが多々あります。みなさんにはそのようなことがないように、落ち着いて申し込みをしていただければと思います。そのときに一緒に意識してほしいことは、「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。講演要旨作成時には、是非以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ornithology.jp/newsletter/articles/633/

みなさんの情熱が詰まった研究を楽しみにしています。それでは、たくさんのご応募をお待ちしております!

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日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 吉川徹朗

タイトル: 植物の種子散布者としての鳥類:鳥類-植物間の相互作用が駆動する植物の生態, 進化動態

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.1

私が吉川さんと初めてお話ししたのは、たしか15年ほど前の大会時の懇親会?だったように思います。植物生態学の分野で世界的に有名な菊沢先生の指導を受けながら、植物の専門家として鳥を見るというお話を聞かせてもらい、鳥屋さんがちょっと植物をかじったのとは異なる、重厚な研究が展開される日を近い将来目にするのだろうと感じたことを、今も覚えています。
多くの方が感じていたでしょう、この予感はやはり的中し、2019年度の黒田賞に選ばれた吉川さんが、本総説という形で、みごと"結実”させてくれたことを、長く鳥学会に関わってきた一人として、とても嬉しく感じています。
本総説は、非常に幅広い視点からまとめられた内容で、どこを切り取っても大変勉強になるのですが、特に私がオススメしたいのは、海外誌であればレビュー論文のPerspectivesに相当する"課題と展望”です。様々なテクノロジーが進む中でも、研究の根幹をなす自然史知見を最重要に考えられてきた吉川さんの姿勢がひしひしと伝わってきます。
それでは以下、吉川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただき、ありがとうございます。この総説は鳥類による種子散布に関する知見をまとめたものです。種子散布は動物・植物の双方の関わり合いを介して植物の空間移動がもたらされる魅力的な現象ですが、和文の新しい教科書や解説書が乏しい状況でした。黒田賞の受賞の総説を書くにあたって考えたのは、種子散布の基本から最新研究まで、その全体像を見渡すための手引きとなるものが書けたら、ということです。そんな気負いが仇となって、完成に大変時間がかかってしまいましたが、鳥類研究者だけでなく、植物生態に興味を持つ人にも読んでもらえるものになったのではないかと思います。昨年出版された「タネまく動物 体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」(小池伸介・北村俊平編集、文一総合出版)も、日本の多くの種子散布研究者がさまざまなトピックを紹介する書籍で、この分野の入門に最適です。併せて読んで、種子散布研究の道しるべとして活用してもらえたら、とても嬉しく思います。

(吉川徹朗)

写真1 ヘクソカズラの液果を食べるシチトウメジロ(写真:服部正道氏)

 

写真2 スイカズラの液果

 

写真3 シラカシの堅果

 

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2025年度プロ・ナトゥーラ・ファンド助成募集のご案内

プロ・ナトゥーラ・ファンド助成からのお知らせです。
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プロ・ナトゥーラ・ファンド助成では、国内外の自然環境の保全に資する調査・研究、および市民活動に対し助成を行っています。
今年度も、以下の通り募集を行います。小規模団体が申請しやすい国内活動助成地域型市民活動枠や、最長3年間の助成が可能な継続申請専用の国内長期研究・活動助成を新設いたしました。

是非、ご応募をご検討いただけますと幸いです。

◆募集期間:2025年6月2日(月)~7月10日(木)18:00

◆助成対象カテゴリー

A.国内研究助成・・・日本国内における自然保護の基礎となる調査・研究

B.国内活動助成・・・日本国内における自然保護のための保全・普及・啓発活動

(新)国内活動助成地域型市民活動枠・・・地域に根差した団体による自然保護のための保全・普及・啓発活動

C.海外助成・・・開発途上地域における自然保護のための調査・研究、および教育・普及・啓発活動

D.特定テーマ助成・・・「シカ類による自然環境への影響・被害、対策等に関する生態系保全のための研究・活動」(テーマは毎年変わります)

E.(新)国内長期研究・活動助成・・・採択されたことのあるプロジェクトのうち、長期的な視点で継続することが必要だと思われる研究・活動

◆応募資格:3人以上のグループ

◆助成期間:2025年10月1日から1~3年間(カテゴリーにより異なる)

◆助成金額:50~200万円(カテゴリーにより異なる)

◆募集要項:https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:839454fb-6b98-5d22-928c-f44a7818b949

◆応募方法

https://www.pronaturajapan.com/foundation/pronatura_fund.htmlをご確認ください。

◆問い合わせ先:office@pronaturajapan.com

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(2025年5月23日 事務局)

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2024年度日本鳥学会津戸基金助成シンポジウム開催報告

風間美穂(きしわだ自然資料館)

 

日本鳥学会津戸基金シンポジウム「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ! 」が2024年12月7日に開催されました。多くの方にご参加いただきありがとうございました。

「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」

開催目的:
都市近郊の海である大阪湾は、長年の埋め立てなどにより自然海岸が少なく、また、海に近づける場所が限られているため、自然観察を行う地域住民から「近いようで遠い海」と称されることもある。しかし、研究者や地域のバードウォッチャー、日本野鳥の会大阪支部や地域の自然史博物館によって、大阪湾内では多様な鳥類が記録されており、また、大阪湾と別の海域を行き来する鳥類も確認されている。
今回は、近いようで遠い海である、大阪湾の自然環境を、鳥の視点から考えるきっかけとするとともに、鳥類研究の最前線を学ぶ機会とする。また、翌12月8日は、岸和田漁港や阪南2区埋立地、木材コンビナートで見られる鳥の観察会を行い、実際の大阪湾の環境とそこで見られる鳥類を確認する。

開催:シンポジウム:2024年12月7日(土)
観察会:2024年12月8日(日)
会 場:岸和田市立公民館(12月7日)
阪南2区人工干潟・木材コンビナート・岸和田漁港(12月8日)
参加者数:44名(12月7日)、12名(12月8日)、合計 56名

主 催:岸和田市教育委員会郷土文化課 きしわだ自然資料館
担 当:きしわだ自然資料館 風間 美穂(日本鳥学会会員)
協 力:日本鳥学会(津戸基金)、船の科学館海の学びミュージアムサポート、合同会社 結creation

開催内容・要旨
第1部
大阪湾の海鳥を見よ(日本野鳥の会大阪支部長 納家仁氏)
瀬戸内海の東端に位置し、渡り性の水鳥の飛来コースのひとつとなっている大阪湾は外洋に面していないこと、又、府域には自然の海岸がほとんど残っていないことなど、海鳥が観察できる場所も限られる。外洋性の鳥の飛来は極めてまれであり、台風などによっての迷行記録が主で、保護されたり、落鳥するケースが多い。5~6月のハシボソミズナギドリや11月のオオミズナギドリの幼鳥の観察などの機会がまれにある程度である。今回は、主に大阪湾岸で見られるカモやカモメ、アジサシの仲間なども海鳥に含めて、合計41種を画像で紹介した。2023年9月に泉佐野市で救護したセンカクアホウドリの話題、大阪湾の海上での鳥類調査の結果や日本野鳥の会が取り組んでいる海洋プラスチックごみの問題、日本野鳥の会大阪支部が取り組んでいる大阪湾岸で干潟や湿地を取り戻す活動に触れ、岸和田貯木場を新たな干潟造成の候補地と考えていること、ネイチャーポジティブや30by30などにより生物多様性の損失を食い止め回復させることが大きな課題であることを紹介した。

目で追えない時はロガーで見よ(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員 平田和彦氏)
鳥の行動や生態を研究するうえで、直接じっくり観察することが最も大切なのは、今も昔も変わらない。しかし、どうしても目で追えないこともある。例えば、海鳥の潜水行動や、渡り鳥の移動を観察し続けるのは困難である。そこで役立つのがバイオロギングの技術である。研究の目的に応じて、位置情報や水圧や温度などを記録できるデータロガーを鳥類に装着して、個体レベルの行動を連続的に記録することができる。本講演では、バイオロギングの利点と欠点について概説したうえで、GPSデータロガーを用いて世界で初めてウミウの渡りを追跡した2羽の例を紹介した。このうち1羽は、本シンポジウムの会場からほど近い大阪湾を通過した。これまで大阪湾ではウミウは少ないと思っていた多くの参加者とこの新知見を共有する機会を持てたことで、これからは注意深く観察する人が増え、正確な飛来状況が解明されることが期待された。

ウミウも見よ・新海鳥ハンドブック増補改訂版も見よ(科学イラストレーター・新海鳥ハンドブック著者 箕輪義隆氏)
一般的にウミウは岩礁海岸、カワウは内陸の河川や湖沼、内湾を主な生息環境としており、千葉県では太平洋側の岩礁海岸にウミウ、東京湾沿岸にカワウが多く生息する。しかし、両種はしばしば同所的に見られ、カワウが優占する東京湾にも少数のウミウが渡来する。東京湾で見られるウミウの個体数は近年増加傾向にあり、特に湾奥部では普通に見られるようになってきた。また、2024年には人工物を利用した複数の集団塒が湾奥部で確認されている。
ウミウとカワウの生息状況を把握するためには正確な識別が不可欠であるが、両種の姿形はよく似ているため、混同されることも多い。また、遠距離や逆光などの悪条件では識別が一層難しくなる。2024年に出版された「新海鳥ハンドブック増補改訂版」には両種の識別点が詳述されているので、観察の際にはぜひ活用して頂きたい。

大阪湾の人工干潟・阪南2区人工干潟の鳥も見よ(きしわだ自然資料館 風間美穂)
阪南2区人工干潟は,大阪府岸和田市の沖合約1kmにある埋立地「阪南2区」内に造成された人工干潟(北干潟1ha,南干潟5.4ha)で, 2004年5月から毎月1回,ラインセンサス法およびスポットセンサス法による鳥類調査を継続して行っている.
調査では,2004年5月から2024年2月までの約20年間に30科89種の鳥類が確認され,2005年度から2023年度(2024年2月)までの期間に確認した鳥類はのべ60,622個体である. 近年は,公園で確認される鳥類が新たに確認されているが,これは干潟近隣の緑化がすすんでいるからと考えられる. その一方で,シギおよびチドリ類の飛来種数は覆砂事業が行われた2017年をピークに減少している.2023年夏は2008年以来15年ぶりとなるコアジサシの繁殖が確認され,2羽のヒナが巣立った.阪南2区人工干潟は小規模な干潟ではあるが,鳥たちの生息場所あるいは繁殖場所として利用されている.

第2部 質疑応答・シンポジウム
シンポジウムでは、大阪湾内ではあまり見られないとされているウミウについての質問や知見が多く出された。長年大阪の鳥を見ている方からは、大阪湾南部にある「友ヶ島」では、ウミウがよく見られるなどの情報提供があった。また、近年の大阪湾の埋め立て事業等の開発が鳥におよぼす影響なども話し合われた。


12月8日(日)海の鳥の観察会
午前9時より、マイクロバス1台をチャーターして、岸和田市周辺の大阪湾の海岸線の鳥を観察。人工干潟のある阪南2区ではスズガモの群れが見られると予測したものの、見られなかったが、カンムリカイツブリやセグロカモメ、また、ミサゴが魚をとり、食べている下で落ちた肉片を食べようと待ち構えるハシボソガラスなどが確認できた。そのほか、埋め立て中の土地から真水が噴き出しているのも確認。岸和田市の古老によると、埋め立て前の岸和田の海岸線は遠浅で、海の中を泳ぐと時々水が噴き出しているところがあり、そこでは貝類が豊富に見られたので、漁師は場所を把握し、保護していたとのこと。埋め立て事業が行われている現在でもなお、そのような場所があるのだと実感した。
次に、大阪府内最大の漁獲高を誇る岸和田漁港の船だまりでは、オオセグロカモメなどのカモメ類を確認のほか、オオバンなども見ることができた。
最後に、現在、埋め立てが予定されている、木材コンビナートに行くと、ハマシギの大群やダイゼンなどを確認することができた。埋め立て事業が推進されている大阪湾岸の現状を参加者には知ってもらえたと思う。

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