海鳥は現在,急速に個体数が減少しており,世界の海鳥個体数の約19%をモニタリングしたデータの解析から,1950-2010年の60年間で全個体数の約7割が減少したと推定されている(Paleczny et al. 2015).IUCNのレッドリストでは,全世界の海鳥362種のうち絶滅のおそれのある種は31%の113種(CR 19種,EN 36種,VU 58種)にも及ぶ.中でも大型で卓越した飛翔力をもつアルバトロス類は鳥類の分類群のうち絶滅リスクが高いグループの一つで,全22種のうち15種(68%)が絶滅危惧種で,準絶滅危惧種(NT 6種)を含めると95%にもなる. 2019年5月,ACAP(The Agreement on the Conservation of Albatrosses and Petrels:ミズナギドリ目鳥類の保全に関する国際協定)は,本協定が調印された日にちなんで,6月19日を「世界アルバトロスデー」と定めて,世界のミズナギドリ目鳥類が直面している危機的な状況と保全活動の緊急性を呼びかける活動を開始した. 日本では,長谷川 博氏の呼びかけに賛同した6団体(NPO法人OWS,(公財)日本野鳥の会,(公財)山階鳥類研究所,(一社)バードライフ・インターナショナル東京,NPO法人リトルターン・プロジェクト,NPO法人小笠原自然文化研究所)が,2020年以降,アルバトロス類を含む日本の絶滅危惧海鳥類の現状と保全について普及啓発活動を進めている.その一環として,本集会では,4名の話題提供によって,アルバトロス類の保全活動の現状と課題を共有し,課題の解決に向けた議論を行うことを目的に開催した.
引用文献 Paleczny M, Hammill E, Karpouzi V. & Pauly D (2015) Population Trend of the World’s Monitored Seabirds, 1950-2010. PLoS ONE DOI:10(6): e0129342.
doi:10.1371/journal.pone.0129342.1371/journal.pone.0129342.
総合討論では、出水市のツル類の餌付けが大量死の引き金となったのではないか、根室でもワシ類が観光目的で餌付けされているため、禁止できないのかということが話題の中心でした。出水市におけるツル類の大量死の前年に、イスラエルで発生したHPAIによる10,000羽ともいわれるクロヅルの大量死も、ツル類が餌付けされているフラ湖で発生しました(Lublin et al. 2023)。フラ湖で越冬するクロヅルの個体数は約50,000羽なので、越冬個体群の約20%が死亡したことになります(Pekarsky et al. 2021)。餌付けは過度に群れを集中させ、HPAIなどの感染症まん延のリスクを高めます。希少鳥類が大量に集まるほどの餌付けは避けるべきですが、出水市のツル類の餌付けは、観光目的だけでなく、周辺の農地における農業被害を防ぐ役割もあると考えられており、長年中止できなかった経緯もあります。一方で産・官・民・学の連携により、毎日ツル類を監視し、迅速に死亡鳥や衰弱鳥を回収し、ねぐら水の検査を定期的に実施するなど、ツル類の生息地を維持し、カラス類やトビをはじめとする腐肉食性の鳥類等への感染拡大を防止するとともに、多くのシーズンで周辺に散在する養鶏場でのHPAI発生を抑制してきたことも事実です。大量死が発生したシーズンに出水市のツル類から検出されたHPAIVの特徴として、ツルからツルへと感染が広がりやすかった可能性も指摘されています(Okuya 2023)。そして、同時期に出水市とその周辺地域の養鶏場で続発したHPAIのウイルス株は、当時出水市のツル類で大流行していたウイルス株とは異なっていました(高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム 2023)。
カモメ類
趣旨説明で紹介したとおり、近年世界中でHPAIによる野生鳥類の大量死が発生しています。被害を受けている種は、越冬期のガン類やツル類だけでなく、真夏の海鳥の集団繁殖地や海獣類にまで拡大しています。大きな被害が報告されているのは、海鳥類ではカツオドリ類、トウゾクカモメ類、ウ類、アジサシ類、ペンギン類、ペリカン類、ウミスズメ類、海獣類ではオタリアやゾウアザラシの仲間など、多様な種の数百~数万単位での大量死が発生しています(CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds 2023)。大量死が発生した海鳥には、カツオドリ類、ウ類、アジサシ類、ウミスズメ類など、日本に生息する分類群も含まれています。また、大量死の報告が少ないカモメ類は、カモ類と同様にHPAIに感染してもほとんど症状を示さず、遠くまでHPAIVを運び、他の海鳥類に感染を広げていると考えられています(Hill et al. 2022)。しかし、日本における海鳥類の鳥インフルエンザウイルス全般に関する研究事例は、ユリカモメなどごくわずかです(Ushine et al. 2023)。加えて、日本に生息する海鳥類の集団繁殖地の多くは無人島です。海鳥類を調査研究する鳥類学者が気づかなければ、HPAIによる被害があったのかどうかもわかりません。国内で繁殖する海鳥類の感染状況を明らかにするためには、海鳥類の調査に携わるみなさんに、対象種を注意深く観察し、調査していただくことが大切になります。また、カモメ類をはじめとする海鳥類の抗体検査を実施し、鳥インフルエンザウイルス全般がどの程度浸潤しているのか調査することも大切です。ご理解とご検討をお願い申し上げます。